神と呼ばれた存在
地下の奥深く。
バケモノたちから逃げ回っていた少女は、巨大な機体を目にした。
「やっと、見つけた。」
人類の危機を救ったといわれている、神。
そう呼ばれた物と同じ造形をした存在が、そこにあった。
「ここに入れば良いのね。」
伝説の通りであれば、バケモノたちを倒せる力を持っているはず。
少女は急いで乗り込んだ。
どうすれば操縦できるだろうかと試行錯誤してみたが、まったく動く気配がない。
こんなところにあったのだ。とっくに壊れた物かもしれない。
もはやこれまでかと両腕を叩きつけた瞬間、光が点る。
「何者だ。」
音声に驚き、少女は視界が明るくなった操縦席を見渡した。
「わ、私はリエル。もしかしてあなた、話せるの?」
「それがどうした。早く降りろ。」
「待って!今、そこまでバケモノたちが来てるの。お願い助けて。一緒に戦って。」
少女は神に祈っていた。
どうか自分を助けて欲しい、救ってほしい。まだ生かして欲しい。
しかし、機械音声は無情に言い放つ。
「その命令は受け付けられない。」
「どうして?あなたは、人類を救うために生まれた神様なんでしょう?」
「お前は、何か勘違いをしているようだな。」
「勘違い?」
「私は、人類など救わない。」
それに救いを求めるのは、あまりに検討違いだった。
「人類を撲滅すること。それが私に与えられた使命だ。」
想定外の返答に、リエルは絶句する。
祖の間にもバケモノたちに追いつかれてしまい、周囲を囲まれる。
「お前の存在は不快だ。直ちに出ていくがいい。」
バケモノたちは容赦なくリリアのいる機体へと襲い掛かっていく。
機体はそれをうっとうしそうに振り払いながら、早く降りてくれないものかと苛立った。
機体が勝手に動き出したものだから、リエルは悲鳴をあげる。
「お前を追ってきた奴等か。さっさと出ていけ。私まで巻き添えに...いや、違うな。」
「えっ!?な、何が。」
「操縦席への攻撃が少なすぎる。狙いは私か?」
リエルにはよくわからなかったが、どうやら相手は中にリエルが入っていることに気づいていないらしい。
単純に、この機体そのものを襲っているのだ。
「何故だ。何故、私が狙われる。」
「何にしてもこのままじゃヤバイよ。戦わなくちゃ。」
「わかっている!だがこの数を相手にするのは。」
「一人で無理なら二人でやりましょう、そのための操縦席なんでしょ。」
「人と同じに数えるなっ。」
制御装置しきものを握りしめ、リアルはまっすぐに目を見開いた。
「あなただって、ここで朽ちるのは嫌でしょう!?」
「…チッ。やるしかないか。」
嫌々ながらも、機体は操縦席との繋がりを発動させた。
リエルは全身に痛みを感じながらも、なんとか意識を保つ。
「私にはまだ、やりたいことがあるんだから!」
ここで負けてはいられないと、リエルは機体に全てを委ねる。
彼女との繋がりを通したことで、機体は倍以上の力を得たらしい。
あっという間にバケモノたちを凪ぎ払い、なんとか一悶着を終えることができた。
「操縦者の有無で、これほどまでに違うか。」
「知らなかったの?」
「私に実践経験はないからな。しかしこうなると、私が目覚めたのは操縦者がいたからか?」
冷静に状況を判断しようとする機体の話を聞きながら、リエルは静かに息を呑んでいた。
あれほどの力があるのならば。
「ねぇ、一緒に来てよ。」
「何?」
「私、いろんなところへ行ってみたいの。広い世界へ飛び出して、知らないものをたくさん見ていきたいんだ。」
それは機体にとっても悪くない提案だった。
出番もなく仕舞われていたその機体は、世界を知らない。
ここに残ったとしても何も変わらないし、またいつバケモノに狙われるかもわからない。
外に出て、満足に動くためには操縦者が必要なのだ。
しかしどうも理解できない。
「お前が求めていたのは神だろう。私は人類を葬るための兵器だと知ったのに、信用するつもりなのか。一度戦っただけだというのに。」
「それでもいいの。」
彼女が求めていたのは、今の世の中を生きていくための力であり、共に旅する仲間でもあった。
相手を選んでいる時間などない。
ようやく求めていたものに出会えたのだから、手放したくはなかった。
「私が生きるためには、あなたが必要なんだ。」
リエルの言葉を不思議に感じながらも、機体は彼女を受け入れる。
それは二人の利害と目的が一致した共生関係の始まりだった。