季節は巡って。2
華やかなプリンセスラインのドレスは、品の良い光沢を放つタフタ素材の上に、オーガンジー、チュール、プラチナの刺繍レースが贅沢に重ねられている。
「………綺麗」
試着しながら、鏡に映る自分を見て、思わず感嘆してしまった。
なんて綺麗なドレスなのかしら!
派手過ぎないから選んだけど、そんな事ないわ。
ギラギラした華やかさでなく、少し動く度にキラキラ輝く刺繍と胸元の宝石が、神秘的で幻想的なドレスにしている。
デコルテは露出の少ないチュールレースのハイネック。
まあ、子供ですからね。私。
ハイネックかボートネックの2択と言っても過言じゃない。
オフショルとか、ハートカップはまだムリ。
自慢じゃないけど、お胸がない!
これから成長するのよ。お母様も小さいわけではないし。
中1なんて、ほば小学生だから!
西洋系の顔立ちだから、平均的な日本人で言うと中3〜高1に見えてしまうけど、子供だから!
貧乳と決まったわけじゃないのよ。
ほら、アレよ。中1がボンキュッボンだったら、怖いじゃない。逆に。
肘にかけて膨らんだパフスリーブ。これもチュールレースかしら。可愛いわ。
ウエストはV字の切り替えしで、ギャザーが入ってるからスタイルも良く見えるし、パニエ1枚でも十分ボリュームが出そう。
「お嬢様っっ! とお〜っても素敵です!」
「ありがとう、マリエラ」
「さっ。殿下と奥様がお待ちです。参りましょう」
「そうね」
金額が恐ろしくて、慎重に着替え過ぎたかも。
かなり時間がかかっちゃったわ。
「お待たせしました」
「まあっ! 」
「っ! 」
「きれい…っ」
「わぁ〜! 」
一斉に注目を浴びて、少しビビったじゃない。
待たせ過ぎましたよね。ごめんなさい。
「シルヴィー、とても似合っているわ」
「本当ですか? お母様」
顔の近くで手を合わせて喜んでるお母様が、ぐぅ可愛い。
「ええっ、綺麗よ! 私の可愛い子」
「ふふ。ありがとうございますっ」
用意してくれたエリオットから、何も感想がこない。
好みじゃなかった?
ススっと彼の前まで行って、顔をのぞきこむ。
「いかがですか? 」
「え゛、あ。うん。似合ってるよ。
――天使が舞い降りたのかと思っちゃった」
「へっ? 」
素なの?
素でそれなの?
お姉さんは、君の将来が心配です。
最近はシルヴィアとOLだった時の自分がごちゃ混ぜで、大人びた中学生くらいの感じだったのに。
今、完全にOLに戻ったわ。
ときめく前に、不安に襲われちゃった。
久々に乙女ゲームのヤバさ……げふん、クサさ……げふん、げふん。
スゴさを実感したわ。
「「「(仰る通りです! 殿下‼︎ )」」」
「ドレスはこれで決まりだね。
あとは、アクセサリーと靴を決めよう」
「エリオット様、そこまではして頂かなくても…」
ドレスだけで良い。
百歩譲って靴は見繕ってもらっても、アクセサリーはダメ。
この人、自重を知らないというか、散財が過ぎるというか。
まず、卒業パーティーだからね?
主役はエリオット達であって、私はオマケなのよ?
オマケが出張っちゃ最悪でしょ。
私の好感度ダダ落ち。
「何で? 気に入らない?
違う宝石商呼ぼうか」
違う、違う、チガーウ‼︎
「いえ。やはりココにある中から選びマス」
「そう、遠慮はしなくて良いからね」
王子越しに見える、宝石商の顔がコワイ。
絶望というか、心ここに在らずというか。
貴方に全く落ち度はございません。
別のとこなんて呼ばないから。安心して。とりあえずコッチの世界に戻って来て下さい。お願いします。
靴は刺繍と合うように銀色のシンプルなもの。
ラメっぽいけど、何の素材なのかしら?
さすがにプラチナではないと思うけど。
だって金箔貼った靴とか、見た事ない。すぐ駄目になりそう。だから銀箔も然りよね。
アクセサリーは、小粒な宝石がふんだんに使われたネックレスと揺れるタイプのイヤリング。
他に比べてリーズナブルなはず!
はい、決まった。
有り難く頂戴して、お帰り頂こう。
お腹がすきました! 10分もすればお腹が悲鳴を上げちゃう。女の子としての危機です。ごはん!
「シルヴィア、髪飾も決めないと」
「(お腹すいたお腹すいたお腹すいた)下ろします」
「? 」
「髪を下ろすので飾りは大丈夫です。ありがとうございます。全て揃いました。素敵なものばかりで嬉しいです」
「(棒読み……)シルヴィア。もしかして面倒臭くなった? 」
プレゼントしてもらいながら、この態度は100%私が悪い。
それでも空腹の私に、そのウザ絡みは嫌だ。
エリオット、ごめん。お腹すいた。
「いいえ。必要なものは全て揃いましたから。
もう十分過ぎるほどですわ。あ、お片付け手伝わせますね」
「もしかして、お腹が限界なのか?
中途半端な時間に来てしまったし」
「分かってるじゃありませんかっ。あ゛間違えた。
そんな事ありませんわ」
「そうか、失礼した。
――夫人。すまないが食事をお願いしても良いだろうか。僕がお腹が空いてしまって」
ううっ。そんな目で見ないで!
「大丈夫、分かってるから。お腹すいたんだろう」的な目止めて。
僕がって何よ。私が空腹だって言ってる様なもんじゃない。
「うふふ。そうね、直ぐに用意するわ。
シルヴィーは着替えてらっしゃい。
殿下はお茶でもいかがです? 」
「ああ、そうさせてもらおう」
恥ずかしい。
くぅっ。皺になる前に脱ごう……
あれ、そういえば何か重大な事を忘れているような?
お母様や使用人達が散らばり、片付けや夕食の支度を始める。
エリオットがすれ違いざま、誰にも聞こえない小さな声で囁いた。
「僕もシルヴィアも特別な人は出来なかったね。
卒業してもよろしく、可愛い婚約者殿」
しまっっった‼︎
そうよ、卒業するんじゃない!
婚約はエリオットの中等部卒業まで。
「ぃいえ! 私は望んでいませんよ! 」
「君がやらかす度にフォローして来たのになー。
この間の教会は危なかった。骨が折れたよ。
あ、そろそろ父上に話してしまおうか。君の能力について」
卑怯だ。
というか、コーヒーの木はエリオットが手を回してくれたのか。
「え〜、それにつきましては、感謝して、ます」
「うん。では今後もよろしく」
「待って! 考えさせて下さい」
「どうして? 考えるまでもないだろう」
いや、私の場合は命の問題がっ!
「お嬢様〜? 」
「あっ。今行くわ!
エリオット様、このお話は後日」
「そうだね」
こんな大事なことを忘れてたなんて!
ポンコツにも程があるわっ‼︎
「お嬢様、殿下と何を話してらっしゃったんですか? 」
「大したことないわ。ニーナが喜ぶ様な話はないわよ」
「そうですか? 残念です〜」
本当に面白い話なんてしてないのよ、ニーナ。
むしろ、貴方の主人が重大な選択を迫られてます。
お待たせして、申し訳ありません。
来週から時間がありそうなので、進められると思います。羊
いつも誤字報告有難うございます。
助かります!泣




