動き出した物語。2
(ヒロイン視点)
いつもと変わらない食卓。
庭の畑で採れた野菜と領民にもらったうさぎ。
豪華ではないけど、こうして家族とお腹いっぱい食べられて幸せ。
今日はトマトが少し多く収穫出来たから、明日孤児院に持って行こう。
きっと喜んでくれるわ!
それから、この間買った本。今朝やっと読み終えたの。
これも子供たちにあげよう!
「ソフィア、君に弟が出来るんだ。どうだろうか」
メイドのトゥメが果物を切り分けている時、お父様が言った。
「本当に⁉︎ でもお母様は……」
「違うんだ。分家の子を迎えようと思う。
もう手続きも済んでいるから、来月の頭には会えるんじゃないかな」
「嬉しいわっ!
ずっと弟妹が欲しかったの!
その子がウチを継いでくれるのね」
今まで、お父様は婿をとって領主にすると言ってきた。
だけど領地は小さいし、若い人材は大きな町に出てしまうから、平均年齢も高い。
正直ラカンスターに婿入りしても旨みがなくて……。
商家や平民だったら、話は違うかもしれないけど。
爵位が手に入るから。
「そのつもりだよ。
でもソフィアが継ぎたくなったら、言いなさい」
「私、難しい事は考えられないから大丈夫よ。
それに、お嫁さんになるのが夢なの。
優しい旦那様がいいわ。貧乏だってかまわない!
私を1番に愛してくれる人っ」
「ハハッ、お前はいつもそれだな。
お父様が見つけてやれれば良いんだが」
「心配しないで。
運命で結ばれていれば、必ず巡り逢えるわ」
だって、夢で会っているもの。
5才の頃から、毎月のようにみる夢。
いったい貴方は誰なの?
でも、きっと会えるって確信しているわ。
誕生日を迎える毎に鮮明になっていく彼。
夢の中の貴方も一緒に成長している。
同い年くらいかしら。
「まったく、純粋すぎるのも考えものだな」
大丈夫よ、お父様。
誰からも祝福される夫婦になるわ!
「それでお父様。
弟の名前は何というの? 」
「ジョシュアだ。
11才だから、1つ下だね」
ジョシュア。
どんな子かしら?
可愛い系? それともカッコいい?
雰囲気がある子かもしれないわ。
「ねぇ、その子が来る前に王都に行きたいわ。
彼を迎える準備をするの!
ウチでは、華やかなお菓子はないし……特別な何かをあげたいわ」
「おお、それは良い。
だけど、お父様はしばらく忙しいし。
1人でも行けるかい?
危険な目に遭うかもしれないぞ」
王都には、ちょうど中間にある宿場町に1泊して馬車で2日。
子供が行くには遠いけど、道のりは平坦だから大丈夫かな?
「トゥメを連れて行ってもいい? 」
「もちろんだ。だが心配だな。護衛を雇おうか」
ダメよ!
護衛代で王都の服が買えるわ。
ジョシュアのプレゼントがなくなっちゃう。
「町の人に王都に行く人がいないか、聞いてみる。
もしいたら、その人について行くわ」
「うーん、まあそれなら。
だが、子供や女性だけではいけないよ」
「分かってる」
―――――――――――
――――――
―――
「わあっ!
王都に来るのは、1年ぶりかしら?」
素敵だわ。
綺麗な石造りの建物に、デザインされた石畳。
人々の憩いの場には、大きな噴水!
いつ見ても輝いてる!
「トゥメ! まずは何か食べましょ!
あの屋台のお肉、美味しそうよ」
串に刺されたお肉からは、香ばしい香りが漂っている。
思わず、すぐにかぶりついちゃった。
「(ぱくっ)ん〜っ! 美味しいわっ! 」
「カッカッカ! そうかい!
いい食べっぷりだね。よしもう1本オマケでやろう」
「いいんですか? 」
「ああ。可愛い嬢ちゃんになら、儲けもんさ! 」
「ありがとうっ!
また必ず買いに来ますねっ」
「おう、待ってるよー! 」
やった、オマケしてもらっちゃった。
ん〜っ! 何本でも食べれちゃいそう。
「お嬢様、お口についてますよ。
今からブティック通りに行くのですから、キチンとしないと」
えっうそ。恥ずかしい!
どこかで身だしなみを整えた方がいいかな?
王都のブティック通りは、いわゆる貴族街の近くに並ぶ、貴族向けのお店が集まっている。
今いる人で賑わうココとは違い。とにかく静かで、貴族特有の礼儀や品位にうるさい。
私は名ばかりの貴族だから、油断しないようにしなくちゃ!
お父様に恥をかかせてしまうわ。
王都で大人気だという、クッキー屋さんの1番大きな缶を買った。
あとはお洋服。
途中、オープン前の気になるカフェを見つけた。
次はジョシュアと一緒に来たいわ。そして、あのカフェで休憩するの。
「あ、このお店、素敵!
ここにしましょう? 」
目についた綺麗な洋服店。
中に入れば、高級そうな生地のお洋服がたくさん並んでいる。
すごいわ!
「いらっしゃいませ。
本日はどの様な品をお探しでしょうか」
上下で揃えられた礼服の様な服を、ピシッと着こなす店員さんに話しかけられた。
「あ、えっと。
子供用の服はありますか。
男の子なんですが」
「(ちら)……お客様、当店は完全オーダー制ですが宜しいですか? 」
「えっ」
これ全部、売り物じゃないの?
それに、店員さんの視線が冷たく感じる。
上から下まで私を一瞥すると、スッと視線を逸らしてそう言われた。
まるで私に興味がなくなったみたい。
お母様のお下がりで、1番良いものを着て来たつもりだったけど……似合ってないのかな。
「そちらのお召し物、とても良くお似合いでいらっしゃいますね」
「(褒められた)あ、ありがとうございますっ」
よかった。合ってたんだわ。
「ええ。その歴史を感じさせるドレス。とても肌に馴染んでらっしゃいます」
カアッ。
一気に顔に熱が集まるのが分かった。
綺麗な言葉で私を貶している。
「型落ちの古いドレスがお似合いだ。ここに売れるものはない」
そう言われている気がした。
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい!
私だって、ちゃんと貴族なのにっ。
どうして初対面の店員に見下されなきゃイケナイの⁈
「帰ります」
「お嬢様っ」
「ご来店ありがとうございました」
とぼとぼと道を歩く。
さっきまで、あんなに楽しかったのになぁ。
「あの店は失礼すぎます!
むしろあんな店で購入されなくて良かったです。
きっとお嬢様にピッタリなお店が見つかりますよ! 」
「トゥメ……。そうね、ありがとう。
もう少し探してみ――――きゃっ」
―――ドシンっ
近くのお店から出て来た人物と、ぶつかってしまった。
痛いっ。
こんな場所でお尻をついて転んでしまうなんて。
あっ!
クッキーが。
どうしよう、落としちゃった。
こんな事なら、言われた通りトゥメに持ってもらえば良かったな。
なんだか、ついてない。
惨めだわ。
別にお金がないわけじゃないのに。
ただ、使う必要がないから使わないだけで。
ちゃんと、服を買える金額だって持って来たのよっ?
「いたっ。
あっ、ごめんねっ! 大丈夫? 」
ぶつかった相手は、私と同じくらいの少年だった。
「ありがとう」
差し出された手を掴んで、起き上がる。
わあっ、すごい綺麗な子。
女の子みたい!
身なりも高そう。
やっぱり貴族の子供だよね。
「君、泣いてるの?
ごめん。すぐに治療させよう」
「ち、違うのっ!
少し嫌な事があって、落ち込んでただけ。
怪我もしてないわ! 」
「本当に?
でもどっちにしろ、服が駄目になっちゃったね」
駄目に?
少し汚れたけど、このくらい何ともなくない?
「私は、大丈夫。
それより、よそ見してごめんなさい」
「いや。僕の方もちゃんと見ていなかった。
そうだ! 時間ある?
服をプレゼントさせてよ! その服じゃ帰れないでしょ? 」
「そんなっ、私も悪いのに」
「いいから!
ほらおいでっ」
お読み頂き有難うございます!
ブクマ&評価嬉しいです。




