転生者仲間と正体。3
「お茶の準備が出来ております。サンルームへどうぞ」
お屋敷というより、ちょっとしたお城って感じ。
せっかくだから優雅な気持ちで、お茶を楽しみたいところだけど、サクッと出立しなきゃ間に合わないわ。
今度もう一回お邪魔させてもらおう。
あ、めっちゃ美味しい。その焼き菓子も美味しそう。お店だけ聞いておくか。
絶対、この空間でまたお茶を飲んでやるわ。
「そうですわ、私達この後用事があるのですが、一緒に行かれませんか? ねえ、エリオット様」
「そうだね、一緒にどうだい(今、一気に飲み干したよね)」
「我々もいいのか?(シルヴィア嬢、そんなに喉が渇いてたのか)」
「(あのアレンにして、この妹アリだな)」
「もちろんですわ! 時間もありませんし、早く参りましょう。さっ、お早く」
自分から、遊びに行かせろとせがんでおいて、出されたお茶を味わいもせず、令息2人を馬車に押し込むという、人間性を疑われる行為をしたのだけど。
エリオットだって共犯だから許されるよね。きっと。
だって上手く連れ出す理由が、思い浮かばなかったんだもの。
ちなみに馬車は私、エリオット、リアム、ミルラ様と、ランドルフ、ジーモ、ライアン様に分かれてる。
まあ、外の景色を見れば、ジーモは行き先に勘付くでしょうけど。
着いた途端に逃げられないよう、ライアン様にはしっかりマークをお願いした。
「ココは……シルヴィア嬢、どういう事か説明してもらえるか(兄上の実母の家じゃないか)」
「実は、新事業を考えておりまして、どうしてもグラビエル卿の協力が必要ですの。
ですから、本日はそのお願いに参りました」
「ヴェルトハイム家の事業に、何故 私や弟まで同席させる必要がある。不愉快だ。帰らせてもらおう」
「あら、宜しいんですか?
私なら、貴方様の望みを叶えて差し上げられますのに」
「何の話だ」
「私、サラ夫人のお気持ち分かりますわ。
ですが、とあるご令嬢に同情もしております。
だからチャンスを差し上げようかと」
「貴様っ」
あれ、気丈に振る舞おうとしたら、何だか偉そうになってしまった。
そりゃー怒るわな。
「おー、これはこれは!
お待ちしておりました。シルヴィア嬢……と、でっ、殿下っ! 殿下もお人が悪いっ、いらっしゃるなら仰って頂ければ……」
門の前でゴチャゴチャしていたら、痺れを切らせた子爵が自ら迎えに来てくれたみたい。
うん、王子が混ざってたらビビるよね。ご愁傷様です。
「いや、今日あくまで僕達はシルヴィアの付添いだからね。
子爵も楽にしてくれ」
「さ、左様でございますか。
はて…僕達?
――これはこれは。何故、ローレヌ公爵家のご子息が2人も揃っておいでかな。
ランドルフ殿なら殿下のご学友と聞くから、分からないでもないが…君は……そうでないだろう? 」
「ちっ」
「おや、仮にも公爵家の者ともあろう男が、ずいぶんと下品ではないか。
いつ家を追い出されるかも分からない者と、当主の私。
態度は気を付けた方が良いのでは? 」
この絶妙にイラッと来る感じ、ゲーム初っ端でヤられる三下の様だわ。
言ってる事、全部正論だけど!
「グラビエル卿、本日は貴重なお時間を頂き、誠に有難うございます。
子供である私のお話を聞いて下さるなんて、とてもお優しいのですね。
私、感動しておりますのっ! 」
いかがかしら!
この空気が読めないぶりっ子令嬢っぷり。
完璧に場の雰囲気をぶち壊してやったわ。
「ハハ、何を仰る。
シルヴィア嬢の会頭としての手腕は、王都でも有名ですよ。
そんなお方が未来の王妃とは。楽しみですねぇ」
出しゃばりなお前に王妃は務まらないって、素直に言えば良いのに。
嫌らしい。
「まあ、嬉しいですわ! 」
「ホォ、そして可愛らしくていらっしゃる。
殿下が羨ましいものですなぁ!(フン、才女と名高い公爵令嬢がどんな奴かと構えていたが、所詮子供だな。この程度の嫌味も分からぬとは)」
中へどうぞと完全に、エリオットをメインにして喋り始めた。別に良いけどね。実際偉いし。
それにしても、ローレヌ家に比べると月と鼈だけど、グラビエル家もなかなか立派ね。
少し落ちぶれた伯爵家よりは潤ってそう。
…この門からお屋敷までの無駄な距離、どうにかならないかしら。せめて植物いっぱい植えるとかさ。
よく分からん石像が並んでるから恐いわ。
あ、ローレヌ家はね、門からの距離が遠くて、玄関まで馬車で行ったの。だったら、もっと近くに家建てろよって思ったよね。アレは。気軽にお出かけも出来ないじゃない。
「さて、応接間に色々とご用意しておりますので、お話の前にいかがですかな」
「(おーい、私はこっちだぞー)素敵ですわっ。ねえ、エリオット様」
「うん、そうだね(笑顔すぎてコワイよ、シルヴィア)」
「素敵なおもてなしのお礼に、私からのお土産もぜひ受け取って下さいませ」
何だかムカつくから、色々言葉を選ぼうと用意して来たのだけど、ストレートでいっか。
だって私、お子様だもん。
爆弾投下は潔くが吉よ。
「お土産ですか。何でしょう(土産ねぇ。ヴェルトハイムと言えば紅茶だが、それは王都で買える。一体何を持ってきたのやら)」
「ええ。私、情報通の友人がおりましてね。
少し、小耳に挟んだものですから。きっとグラビエル卿のお役に立てると思いまして」
「――ホゥ(私の役に立つだと? 舐めてくれたものだ)」
「ご息女のテレサ様、具合が宜しくないんですってね」
―――カチャン
おお、驚いてるわね、ジーモ。
カップは静かに置かないと。
「(まさかっ!――いや、違うっ? どういう事だ。何故ジーモまで驚いている! では誰だ? 誰がこの子供に入知恵を!)」
「まあ、ごめんなさい。私ったら配慮が足りませんでしたわ。
グラビエル卿が一番お苦しいでしょうに。
ですが、大丈夫です! 私、薬をお持ちしましたの」
「な、何か誤解をなされているのではありませんか。
テレサは元気ですが」
「お元気だなんて……そうですわね。グラビエル卿を持ってすれば教会の者を喚ぶ事など、簡単なはず。きっと何度も施術を受けているのでしょう。
それでも治らないだなんて、信じたくありませんわよね」
困るわよね。お金さえ払えば、なんとかなるのに、邪魔だったから何もしなかったんだもの。
それを、こんな風に言われたら、肯定しても否定してもボロが出ちゃう。
エリオットの前で、どうやって切り抜けるつもりか見ものだわ。
「ですから、テレサは病気などしておりません。
いったいどこから、そんな嘘が広まったのか。
シルヴィア嬢のお気持ちだけ頂いておきます」
「そうですか…ですが、心配ですわ。
テレサ様にお会い出来ますか? それとも、やはり体調が」
「本当に誤解ですよ。それに今はグラビエル領に居りまして、本邸には居ないんですよ」
「デタラメをっ!(治療も何もせず、母さんを放置しているくせにっ)」
「な、何だね、失敬な。全くローレヌ家の人間は、礼儀も習っていないのか(誰の差し金なんだ。コイツがシルヴィア嬢に頼んだとしても、利がない。では、誰の命で動いているんだ)」
どうせ、私のバックに誰がいるかグルグル考えているんでしょうね。
無駄な事を。
KYぶりっ子でトドメを刺すとしますか。
「そんなはずありませんわ。だって、テレサ様がコチラにいらっしゃるか、先程メイドの方にお聞きしましたもの(大嘘)
エリオット様も、聞いてらっしゃいましたよね? 」
「ああ、僕もそう聞いた。
もちろん、子爵にも事情がお有りだろう。
だけど、僕の婚約者は子爵とご令嬢をとても案じていてね。
一目会えれば安心するだろうから、会わせてやって欲しい」
「そっ、れは」
善意だから無碍にするなという、新手の脅迫をしたエリオットによって、子爵は折れざるを得なくなった。
渋々、案内された部屋には、骨張った女性がベッドで寝ていた。
堪らず、といった感じでジーモが駆け寄る。
痩せこけた頬に手を伸ばそうとして、引っ込めた。
声を出さずに駆け寄ったのも、触れる事なく下でギュッと握られた拳も、彼が貴族だからそうさせたのか、あるいは、大人だからなのか。
別に隠す必要なんてないのに。ランドルフのためかしら。
生きづらい事やってるわね。
影の様に控えていたリアムからポーションを受け取り、スタスタと令嬢に近付く。
「ジーモ様、邪魔ですわ」
―――ズポ
「「「あ゛っ⁈ 」」」
苦しそうに呼吸する彼女の口に、ポーションの瓶をぶち込みました。ええ。
大人が揃いも揃って、辛気臭い事しているからイケナイのよ。
「シ、シルヴィア? 何を」
「何って、お土産ですわ。これで一安心ですわね!
良かったです。グラビエル卿!
――あ、飲み終わったみたいですね」
「ひっ人殺しー!」
「あら、失礼なメイドさんですこと」
お読み頂き有難うございます!
あと数話でランドルフとジーモのお話が終わります。
次回も宜しくお願い致します。羊




