ジーモとランドルフ。10
どゆこと?
リアムに無事、ハーブティーを渡して二度寝して起きたら……ランドルフが居るんだけど。
昨日帰ったと思ったんだけど、私の記憶違いで実は泊まってたのかしら。
「すまない、シルヴィア嬢。
何の知らせもなく、非常識で申し訳ないんだが、お邪魔させてもらった」
私が言うのも おかしいけど、本当に非常識ですね。はい。
「ランドルフ様、朝食はもうお召し上がりに? 」
「あ、いや、まだなんだ。
少し食欲がなくて」
スチュワートの問いに気まずそうに答えて、すぐ下を向いてしまった。
すき焼き3回もおかわりするからよ。
……と、言いたいところだけど、心ここに有らずって感じだわ。
「では、お庭を散歩されてはいかがですか。
朝の庭は格別ですのよ。落ち着かれたら、ガゼボで一服されたら良いわ」
「では、私がご案内致します」
「リアム、お願いね。
ランドルフ様、また後ほど」
ゆっくり朝ごはん食べるつもりだったけど、仕方ないわね。
トマスには申し訳ないけど、すぐ食べられるものに替えてもらおう。
ローレヌ家に乗り込む時期を早めた方が良さそうね。
そろそろ、ラカンスター家が養子探しを始める頃だし、あまり長引かせても良くないはず。
「我が家の庭は気に入って頂けまして? 」
「ああ。噂には聞いていたが、本当に見事だな」
「ありがとうございます。嬉しいですわ。
それで、どうされましたか」
「昨日、兄の様子が変だと言っただろう。
だから今朝、少し話してみようと思ったんだが――――逆効果になってしまった」
「まあ、お兄様は何と? 」
「……兄は私の事が嫌いらしい。それに、――いや、何でもない」
言いたくない事もあるか、私他人だし。
お父様に頼んで、ちょっと調べてもらう?
んー、でも何て言おう。
「お嬢様、ランドルフ様。そろそろお時間です」
「分かったわ。ランドルフ様、お好きな時間だけ居て下さって構いません。学園には私からお伝えしますわ」
「…いや、大丈夫だ。ありがとう、私も行くよ。
一緒にはマズいから、先に出てくれ」
「そうですか? あまりご無理はなされないで下さいね」
考えるのも面倒だし、スチュワートに上手いことやってもらおう。うん、それが良い。
頼むなら早いに越した事はない。うん。
――――――――――――
――――――
―――
ヴェルトハイム領内、中心部から少し離れた質素な料理屋に男が2人。
1人は、執事服をまとい静かに紅茶を飲む。
1人は、室内にも関わらず、黒いマントのフードを深く被り、表情が見えない。
「お久しぶりですね、スチュワートさん」
「ええ。
至急、ジーモ・フォン・ローレヌとグラビエル子爵家の身辺調査を頼みたい」
「それは誰の依頼ですか?
ヴェルトハイム家が貴族を調べるだなんて、怪しいですね」
スチュワートは無言でテーブルに小袋を置いた。
「……前金、にしては多いですが。
ハァ、我々は善良な情報屋ですよ? 危ない仕事はしたくないんですげど」
「別に危険な事ではありません。
当家のお姫様が知りたがっているものでして。
……お願い事なんて2年ぶりくらいでしょうか。
ですから、学園からお戻りになるまでに」
「まさか、お姫様に頼まれた事が嬉しくて、夕方までに報告しろ、なんて言いませんよね」
「だからこうやって前金をお支払いしているのです。
内容によっては、3倍出しても宜しいですよ」
「子供のママゴトに大金を……。
公爵家ってのは、すごいですねぇ」
「いえ、このお金は旦那様からでも、お嬢様からでもありません」
「スチュワートさん、あんた」
「もちろん私のお金でございます。
元々使う事もありませんし、お嬢様の為ならいくらでも」
「ヤベーな、おっさん。
つか公爵家に子爵家って、どう考えても無理だ。1週間は必要ですよ。
それにバレたら、ソッチも危ないだろ。どんなに害のない内容だったとしても」
「私はそれも含めてお支払いすると申しているんです。
誰にも悟られる事なく、お嬢様が帰宅される前までに完遂させて下さい。
まあ、時間もない事ですし、百歩譲って報告はお嬢様に直接でも宜しいですよ」
呆れるフードの男を残し、スチュワートは店を出た。
すると、店の客が一斉に男に寄って来た。
「頭、どうするんです。無茶っすよ!」
「やー、本当にな。でも前金置いてっちゃったしなー」
男はフードを外し、頬杖をついて周りを見やる。
「誰にやってもらうかなー」
―――ザッ
一斉に客は男から距離を取り、目を逸らす。
1人の青年を除いては。
「ん、なんだ、アラタだけか。
お前は偉いなぁ、周りの大人はすぐ逃げたってのに。
よし! 骨は拾ってやるからやってみろ! 」
逃げたと言われたにも関わらず、安堵の表情を浮かべる客達は、「さすがアラタだ」と口々に褒め称える。
「だが、1人は危ないな。
アルマ、メル、お前達アラタの補佐な」
「「え゛」」
「まーまー、アラタはお前達の弟みたいなもんだろうっ。
手伝ってやれ」
「「まだ死にたくないっす!
調査対象にバレたらアウト。この調査時間なら依頼主に報告しても、内容がなくてアウトに決まってますー‼︎ 」」
アラタと呼ばれた青年は、サクサクと身支度を済ませ、先程までの一般的な平民の格好から、小綺麗な行商人の格好に着替えた。
「え、アラタ、その格好って。え、マジ?
潜入するとかじゃなくて、堂々と入ってくつもり⁉︎ 」
「時間がないから仕方ない。ほらメル姉もアルマも準備して、とりあえず ちょい田舎から出て来た、宝石類を扱う行商人って丁で行くから」
「ねえ、嘘だよね。行くのやめよう、断ろうよ、この依頼。頭っ! 何とか言って下さい!」
「頼んだぞっ! お前ら!」
「「頭っ‼︎ あっ、待てアラタっ‼︎ 」」
騒ぐ彼等を放置し、店の倉庫にある馬車を表へ移動させ、青年は馬小屋へ向かった。
―――ヒヒン
「仕事だ、コバルト。
上手くイケば、あの悪役令嬢に会えるかもしれない」
―――グルっ?
「ああ、何でもないよ。コッチの話。
でも何で悪役令嬢が攻略対象の兄を調べるんだ?(ボソッ)」
お読み頂き有難うございます!
次回は2話投稿予定です。
ちょこっと、大事なあの人も出ますので、少々お待ち下さいませ。羊




