ジーモとランドルフ。4
午後の授業は魔法学や経営学と、
リアムとクラスが被る授業3科目だったせいか、非常に息苦しかったわ。
だって、いつもは離れて座るくせに今日に限って右隣をキープ。
授業中は心配しなくても、私普通よ!
何もしないわっ。
ちなみに左隣はロイド。
イケメン2人に挟まれて授業受けたのに、ちっともときめかなかった。
彼等が動く度に、ある意味ドキドキしてたけどね。
おかげで放課後までが長かった。
倍ぐらいは勉強した気分。
もうヘトヘト。
「エリザベス様。生徒会室に行かれるなら、私もご一緒して良いですか」
「もちろんですわ(ついに入って下さるのかしら? もしくは殿下にご用事が?)」
―――コンコン
「失礼致します」
うーんと、ランドルフは…まだ来てないみたいね。
「あれぇ、シルヴィア嬢だぁ。
珍しいねー、会長に用? 会長達はまだだよー。
あ、ロイドが何かやっちゃった? 」
え、まって。
口元でティーカップ両手持ちしながら、会計さんが私を見てくるんですけど。
やだ、鼻血出そう。
「ねー、聞いてるぅ? 」
「あ、はい。聞いてます。今日はランドルフ様にお聞きしたい事がありまして(お宅のロイドは私でなく、エリザベスにやらかしましたよ)」
「ランドルフに? へー、じゃお菓子食べながら待ってると良いよ」
ランドルフに? と言いながら、コテンと首を傾げる仕草 最高!
ごちそうさまです。もう、胸がいっぱいだわ。
入口で悶えて固まる私をよそに、会計さんは「これ全部食べて良いよー」と言って、テーブルの上にどんどんお菓子を重ねていく。
マジか。すごいな。
「あの、こんなに……」
「シルヴィア様、お菓子は全て、ユースルン様がお持ちになられたものですから、遠慮なさらなくて大丈夫ですわよ」
これ全部ですか。
この部屋のどこにしまってたの。
わー、有名店の焼き菓子がたくさん。
「はい、お茶。このケーキにすごく合うんだよー」
「あ、ありがとうございます」
お茶と一緒にケーキまで出てきたわ。
生菓子どうやって保存してたの。
食堂の厨房まで行けば冷蔵庫もどきがあるけど、奥から出してきたわよね。
うん。ケーキ美味しいけど、前世に比べるとやっぱりなあー。
そういえばアレの生産の目処もついたし、
製菓に手を出すのも悪くないかも。
おっ、このお茶とっても美味しい。
お茶自体も美味しいけど、ケーキとの相性が抜群だわっ。
「どう? 美味しい? 」
「ええ。特に このお茶が。どちらのお茶ですの? 」
「でしょー、美味しく食べる為には、お茶も重要なんだぁ。
それはねぇ、ヴェルトハイム領の紅茶にユースルン領の紅茶を混ぜたんだよー」
産地のブレンドですって⁉︎
まさか、この世界の貴族からそんな言葉が聞けるとはっ!
「まあっ、ではユースルン様がお作りに? 」
「うん。でも混ぜるのは邪道だって、ロイドと生徒会のみんなくらいしか飲んでくれないけどねー」
勿体ない!
何て勿体ない事をっ。
彼ならフレーバーティーもあっという間に作れそうな逸材だというのに!
「こんなに美味しいのに、飲まないだなんておかしいですわっ。ユースルン様、まだ他にも種類がありましたら分けて下さいませんか? 」
「……そっかぁ。うん、あるよー。全部あげるー」
「ありがとうございます!
今度ぜひ我が領の新作もお持ち致しますわ!」
身近にこんな才能が転がっているなんて、思わぬ収穫だわ。
「今あるのは、これで全部だよぉ。
それから、ジルベルトって呼んで? ユースルンだとロイドと紛らわしいから。ね、お願い」
き、カメラー!
誰かカメラを持ってきなさい!早く!
あざといなんてレベルじゃないっ、
私を殺しにかかってるわ!
持って帰りたい。家に持って帰る。そうしよう。
「ジルベルト様、三食昼寝付きで――」
「――何をしているのかな。シルヴィア」
違うんです。
魔が差したんです。
今日はリアムにもエリオットにも怒られてばかりだわ。
ゔぅっ。
「こほん。ごきげんよう。エリオット様、ランドルフ様」
「あ、遅かったねー。でも残念。今日は会長じゃなくてランドルフに用があるんだって」
「へー」
言ってる事は間違ってないけど、今じゃなくて良かったかな。タイミングってやつがね、あるんですよ。
「あー、私に用事とは何かな。シルヴィア嬢(エリオットの視線が)」
「先日はお店までありがとうございました。
夫人が予約して下さった事が、どこからか広まったようでして、まだ発表前だというのに問い合わせが殺到しておりますの」
「いや、こちらこそ。
そうか、一役買えたのなら、母も喜ぶ」
「まあっ、嬉しいですわ。
……それで、お土産は渡して下さいました? 」
「ああ。兄にはちゃんと渡したよ」
「そうですか、ありがとうございます」
ちゃんと渡してくれたんだ。
じゃあ、どうしてそんな晴れない顔をしているのかしら。
* * * * * *
(ランドルフ視点)
やはりシルヴィア嬢は何か知っているのだろうか。
いや、ただ単純に渡したか確認したかっただけかもしれない。
けれど、彼女と兄さんに接点はあるのか?
アレン殿と兄は親しいが、妹のシルヴィア嬢まで?
兄さんはずっと王都だし、アレン殿も中等部ずっとから宿舎だ。
彼女と関われるタイミングは無いように思えるが。
もし知っているのであれば、全て話す事で状況は変わるだろうか。
自分より年下の、それも友人の婚約者である令嬢に頼んで良い事なのか?
無駄にプレッシャーを与えるだけになりかねない。
そもそも我が家の内情を子供とはいえ、話して良いものか。
「……シルヴィア、今日はトマスの料理が食べたい」
「はい? 」
突然何を言い出すんだ。エリオットは。
彼女も困惑しているではないか。
いくら婚約者だからと言って、一国の王子が簡単に臣下の家で食事など――――
「最近食べられていなかったからな。
ランドルフもどうだ」
「おい」
「最近って、3日前も食べにいらしたじゃありませんか。
まあでもランドルフ様もいらっしゃるのであれば、おもてなしせねばなりませんね(まさかエリオットに貸しを作るとは)」
3日前も食べたのか⁈
護衛達は何をしているんだ。
「ミルラ」
「かしこまりました。リアムにも伝えて参ります」
まて、何故そんなにスムーズなんだ。
止めなくて良いのか。
「そういう事だ。君は僕の馬車に乗れば良い。ローレヌ家には連絡しておく」
「ランドルフ様、珍しい料理はお好きですか。
あと苦手な食材がありましたら教えて下さいますか」
実は、シルヴィア嬢もおかしな令嬢なんだろうか。
* * * * * *
(ローレヌ家 メイド視点)
「ジーモ様、おかえりなさいませ」
「ああ。ランドルフは? 」
「ランドルフ様は、ヴェルトハイム邸でお食事を」
「へえ」
「あの、お食事はっ」
「要らない」
ローレヌ家の女主人である奥様が体調を崩されてから2年。
つい先日光が差した。
少しずつ、お部屋から出るようになり、お食事も毎食摂られるようになられた。
だというのに、今度はジーモ様だなんて。
それに、嫌な予感がする。
あんなに冷たい瞳をされたジーモ様を見た事があったかしら。
奥様と上手くいっていないのは、誰もが知る事実。
だけど、ランドルフ様とジーモ様の間にも溝が生まれている気がする。
ジーモ様は一体何をそんなに思い詰めていらっしゃるのかしら。
「ハンナ、ちょっとおつかい行って来てくれない」
「メイド長、かしこまりました……」
「どうしたの? 」
「あ、いえ。ジーモ様が危ういと言うか、消えてしまいそうだと言うか」
「シッ。私達は使用人として、由緒あるローレヌ家に勤めているの。無駄な私情や憶測は要らないわ」
「……申し訳ありません。行って参ります」
え〜っと、靴を取りに行けばいいのね。
「失礼、ローレヌ家の方とお見受けします」
「どなたですか」
「私、グラビエル家の使用人ミレーと申します。
こちらをジーモ様に届けて頂けないでしょうか」
手紙?
他家の使用人が使用人づてに渡すなんて、普通じゃない。
怪しいなんてもんじゃないわ。
どうしよう、警備呼ぶにも人が居ないし。
「それでしたら、然るべき手続きを取って当家にお持ち下さい」
「ミレーと言って下されば分かります。
必ずジーモ様にお渡し下さいませ」
「えっ、ちょっと!」
ええ〜。どうすんのよ、コレ。




