新作発表会と〈祈り〉の香水。6
10分程経っただろうか、サラ夫人が瞳をパチッと開けた。
「なるほど••••••たしかに貴方の香水には特別な意味があるようね」
「母上? 」
ほんの20〜30分前より、ずっとスッキリした表情の夫人にランドルフもエリオットも瞳を見開いている。
上手くいったみたい!
あとは定期的にこの香水でデトックスしてもらって、
ジーモを止めるだけね!
これが1番難しいところだけどっ。
「そちらは、夫人のために作った香水なんです。
ですから、ぜひお持ち帰りになって下さいませ。
就寝前にひと吹きするだけでも効果が得られますよ」
「私のためにっ? ありがとう、シルヴィアさん。
毎日使わせて頂くわ」
本当は、悩みや苛立ちも吐いてくれれば1番良いけど、
彼女の立場では誰にも相談出来ないし、
内容が内容だから、愚痴だって言えないんだわ。
どうか、少しでも心が晴れますように。
―――ぽわっ
「ありがとう!シルヴィア嬢••••••っ本当に有難う。母上のためにっ」
「ずっと『シルヴィー化粧品』をご愛用して下さっているんですもの、当然ですわ。私からのお礼ですの、気になさらないで下さい」
誰も気付いていないみたいだけど、少し夫人の周りが光ったような。
まさか、〈祈り〉が発動した?
だとしたら、植物を介さなくても人に効くってこと?
誰もそんなこと教えてくれなかったけど……
直接イケるのであれば、残りの2人はアロマキーホルダー渡さずに接触を図った方が早いかも。
より確実よね。うん。
その後。
「いや〜、少しヒヤヒヤする場面もありましたが、大成功ですね!間違いなくヒットしますよっ!
不要だと仰っていた他の香水も予約して下さいましたし」
そう。普段使いとは別に、プレゼント用に全種類10点ずつ予約して下さったのだ。
つまり、宰相の妻が新作も宣伝してくれるという事。
あまり反応が良くなかったから、販売方法を考えるべきかと思ったけど、これなら大丈夫だわ。
売れないかもしれない商品が、発売前からヒットを確信出来るなんて、すごい事よね。
それほどまでに夫人のネームバリューは計り知れないもの!
「そうね。
予定通り、来月発売しましょう。
あとはお願い出来るかしら? ロベルトさん」
「ええ、もちろんです!
お任せ下さい。
あ、早く〈ハーバル〉も販売出来るように頼みますよ!会頭っ」
「分かってるわ(全てが解決したら、ノーマルバージョン用意するわよ!)」
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(ランドルフ視点)
「母上、今日はいかがでしたか? 」
新作の全てを予約して、私達は『シルヴィー化粧品』を後にした。
シルヴィア嬢が、母上のために作ったという香水。
生命力に満ちた生き生きとした瞳。
血色の良い、頬。
今までが幻の様だ。
私も香ったが、自然で良い香りだとは感じても、何故こうも変わったのか分からなかった。
しかし、事実、母上は穏やかだ。
馬車にゆられ、枷から解き放たれた顔で景色を眺めている。
毎日毎日、やつれて憔悴していく母上は今、目の前に居ない。
「そうね、楽しかったわ。
こんなに気楽に過ごせたのは、いつぶりかしら」
この間の一瞬の笑顔ではない、凛とした瞳が緩やかにカーブを描き、「楽しかった」と心から笑っている。
母上は救われたのだ、そして私も。
シルヴィア嬢に、そんな意図はなかったかもしれない。むしろ彼女は、何も知らないはずだ。
それでも私達母子は救われた。
彼女が無事、エリオットと結婚し、王妃になったその時は、誰よりも支えになると誓おう。
「「「おかえりなさいませ。奥様、坊ちゃま」」」
「奥様、夕食はいかがなさいますか」
「頂くわ」
「かしこまりました、ですが何かお食べに………っへっ⁈ 」
驚いた。あの香水は食欲まで回復させるのか!
「っっす、すぐにご用意致します!」
「ええ、とりあえず部屋に戻って着替えるわ。
出来たら呼んでちょうだい。」
「「「かしこまりましたっ‼︎ 」」」
「おかえり、ランドルフ。
なんだか騒がしいな」
「ただいま、兄さん。
母上が夕食を食べるって言うから、使用人達が驚いたみたいだ」
「………そうか。
じゃあ、僕は部屋で食べるとしよう。
その方があの人も良いだろう」
「………兄さん、それはっ!」
冷めた瞳で私を見る兄さんに、言葉が詰まる。
数秒の沈黙。
何も言えない私に呆れたのか、ため息を吐いて部屋へ行ってしまった。
父上もまだ仕事が終わらず、結局母上と2人で夕食を食べた。
「ランドルフ、美味しいわね」
ふふっと笑みを零す母上に、私はちゃんと返せたのだろうか。
「ええ、そうですね……」
シルヴィア嬢なら、もしかしたら何とかしてくれるのではないか。
そんな甘い考えだけが、ずっと頭をめぐった。
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(???視点)
「お主、最近また人間の小娘に肩入れしているようだの」
「美味い蒸留水が飲めるからじゃ。
他意はない」
他意はないだと?
よく言う。
わっちが気付かぬと思うたか。
アヤツにそっくりではないか!
姿形だけではない。魔力の質まで同じ。
まるで生写しだ!
「忘れたのか、同胞よ。
我らは繰り返しては為らぬのだ」
「……何が言いたい」
お主がこの600年、どれだけアヤツに焦がれていたか
わっちは知っておる。
だから危ういのだ。
「今度は、アレだけでは済まぬぞ」
「フン、我の知ったことか。
人間如きが何をしようが我らには関係ない。
それに、シルヴィアに同じ力はない」
「本当にそう思っておるのか?
お主も老いたな」
「何じゃと? 」
昼間、懐かしい気配を感じて、ちび共に調べさせたら案の定。
「その小娘、使えるぞ。
あの時と同じだな……死ぬぞ、ソヤツ」
「馬鹿なっ……我はちゃんと、―――っ!」
どうやら思い当たる節があった様だの。
いや、初めから気付いておったのだろう。
ただの気紛れで、人間に構うわけがない。
いくら姿形が似ようと、本質は違うのだから。
「哀しきことよ。
歴史は繰り返すのじゃ、もう時期あの子も目醒める」
お前が生きておったらどうするんだろうな、アキラよ。
お前と同じ力を持った娘が目醒めるぞ。
お前が救えなかったアヤツにそっくりな小娘がおる現世に。
ブクマ&評価有難うございます!
またまた更新が遅くなり、申し訳ありません。
今月中にもう1回更新出来るよう、頑張ります。羊




