王都は出会いがいっぱい? 4
「おかえり。コレ本当に美味しいね。
カレーも良かったけど、このスープと穀物?は落ち着くな」
「ただいま戻りました、お父様がよろしくと。
そうでございましょう!
スープは〈味噌汁〉、穀物は〈ベイ穀〉と言いますの。私もいただきますわぁ〜っ」
んん〜っ!美味しい!
約1週間ぶりの和食。染みるわぁー。
リアム君達は、ずいぶん和気あいあいとしてるけど、
話まとまったのかな?
「彼を雇うつもり?」
「もぐもぐ――、ええ。本人さえ良ければ。
お父様にはスチュワートが許可すれば良いと言われましたわ」
「ふーん。ま、兄よりは無害そうだから良いか。
本人に聞いてみたらどう? 」
そうね。
3人に声をかけると、スチュワートは私を見て無言で頷いた。
OKが出たので、さっそくリアム君に働いてみないか聞いてみる。
「ぜひ働かせて下さい!」だって。
食い気味にオッケーくれたわ。やる気があって何より。
私としても目の保養&手足が増えて何より。
言い方は悪いけど、事実だから仕方ない。
見習いが終わったら、キッチリ働いてもらうわ。
私のヒロインウォッチングを円滑に進めるためにも!
大まかな説明が済んだところで、ビルクにマークさんの説得を頼み、彼ら兄弟には、いったん帰ってもらった。
あ、ベイ穀の定期販売はしてくれるそうです。
料理人達も乗り気だとトマスが言ってた。
しかも1人が、「カレーと合わせて食べれば美味しいのでは? 」と言い出して大騒ぎしていたらしい。
おかげでビルクは追加でご飯を炊かされたと。ありがとうございます、うん。
気付いちゃったんだ。
カレーライスの可能性に。
私しばらくカレーは食べたくないんだけどな……
マルニーさんも乗り気らしく、エリオットが屋敷に来る時は指導してくれるそうだ。
すごく有難い事だけど、それで良いのかエリオット。
貴方の執事、貴方のお世話しない宣言したわよ。
一応聞いたら、
「孫が出来たみたいだと喜んでるから、好きにさせとくよ」
だ、そうです。
ねぇ、本当に9歳なの?
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――――――
―――
手作り蒸溜器で確実なのは、鍋型の蒸し器にチューブを通す方法だけど、すぐに用意は難しい。
この世界に塩化ビニールのチューブとかってあるのかしら?
ホームセンターがあれば一発なのに。
いっそ、エッセンシャルオイルは諦めて蒸留水だけ作る? 商品は化粧水だけになっちゃうけど。
効能に分けて、肌質に合ったものを選べるようにすれば、貴族が大好きな特別感も演出できて、勝負出来るかもしれない。
用意する物は、
・寸胴鍋
・寸胴鍋にピッタリハマる漏斗(先短め)
・大きいボウルか小さい鍋
・瓶
・綺麗な水
・植物
・火と氷の魔法を長時間使える人←1番重要
まずはお庭ね。
「マリエラ、私お庭でお花摘んでくるわ。
その間に、火と氷の魔法が得意な人連れて来て欲しいの! お願い出来る? 」
「それでしたら心当たりがありますので、探して参りますね」
やったー! ありがとうございますっ。
周囲に人は居ない……わね。
「みんなっ、出て来て。お願いがあるの(コソッ)」
「なぁに〜」「なぁに〜」と、一気に精霊達が集まってくれる。
私が視える事を内緒にしているから、呼ぶ事自体が珍しい。精霊達も興味津々のようだ。
「センチフォリアローズとピオニー、ローズマリー、ティーツリー、ゼラニウム、カレンデュラがたくさん欲しいの。
これくらい、いっっぱい」
両手を広げてどれぐらい欲しいか伝えると、
にっこり笑って、すぐ散り散りになった。
次は厨房で道具借りなきゃ!
快く寸胴鍋、ボウル、漏斗全て3つずつ貸してくれた。
ありがとう!今回は食べ物じゃなくてごめんね。
漏斗の先を塞ごう。本当は逆円錐の容器が欲しかったけど、ないから穴を塞ぐしかない。
方法は無理やり塞ぐスタイルよ!
新しいの買って返すから、どうか許してくれますように。
「あつめたぁ〜」「あつめたぁ〜」
宙に浮く大量の刈り取られた植物。
こんな短時間で採って来てくれるなんて!
「すっごいたくさん!ありがとう‼︎
せっかくだから、見ていってね(コソコソ)」
マリエラが来るまでに漏斗の先を
石で叩いて潰します!
方法はどうであれ、穴さえ塞がれば良いのよ。
―――ガンガンガンッ、ガンッ
ふうっ、こんなもんね。
「お嬢様、お連れしましたー!」
「ああ、ありがと…………う。ゴトッ(石が地面に落ちる音)」
「実は火の魔法が得意なニーナと、氷の魔法が得意な殿下です!」
殿下です!(殿下です、殿下です……脳内エコー中)
「―――はっ、エリオット様、何故こちらに?」
「お茶しに」
ちょっと来すぎじゃないかい?
お茶しにって気軽すぎます。
そして昨日も思ったけど、何故王子が雑用しようとするのを止めない。
むしろ進んでさせるマリエラは何なの。
怖いもの知らずかっ。
怒られるの私なんだからねー!
「そうですか。でしたらお茶はお部屋です。私は作業しますので、後ほど」
「氷の魔法が必要なんだろう?
手伝うよ。お茶はその後で良い」
「3時間程かかりますし、疲れますが宜しいですか?
文句言われても困りますわよ」
コキ使ったなんてチクられたら、どうしよう。
本人がやると言うのでお願いする事にした。
氷だけじゃなくて、水もイケるそうなのでお願いする。
薪を3ヶ所に焼べてニーナに火を調整してもらう。
ごくごく弱火。
それぞれに寸胴鍋を置いて、1種類ごとに植物を入れる。1回目はセンチフォリアローズ、ティーツリー、ローズマリー。
ひたひたになるくらいに、エリオットに水を出してもらって、その上にボウル。
先を潰した漏斗は怪我しないように、熱で滑らかにくっ付けてもらった。
溶接の真似事が出来るなんて便利。
コレを隙間が出来ないように、お鍋にハメて上から大量の氷で冷やす。
溶けたら凍らして冷やすを繰り返す事、1時間。
火傷に気を付けて、漏斗を外すとフワッと良い香りがっ。
うん、上手く出来たわ。
水蒸気が落ちてボウルの中に溜まった液体が、
蒸留水。いわゆるフラワーウォーターとハーブウォーターね。
コレを瓶に移し替えて、残りのピオニー、ゼラニウム、カレンデュラも同じ要領で1時間。
500mlくらいは、それぞれ作れたかな。
「お疲れ様です。完成ですわ!
エリオット様、ニーナ、ありがとうございます!
マリエラも手伝ってくれてありがとう!」
「単純な作業だったから楽だったよ。
それにしても、とても良い香りだ。
何に使うんだい?」
楽だったと、サラッと言うエリオットは化け物だと思います。
ニーナは苦笑いしてるわ。
お礼に1番に化粧水あげるからね!
本当にありがとう、ニーナ。
「お肌を整える化粧水ですわ」
「「肌をっ⁉︎ 」」
メイド2人は、さすがの食い付きね。
安心なさい。もちろんマリエラにもあげるわ。
7歳の私じゃ、効果分からないだろうし。
「へえ、良く分からないけど、やっぱり面白い物を作るね。シルヴィアは」
「いずれエリオット様も分かる時が来ますわ。
これから女性の必需品になっていくんですもの!」
余談だが、ちょびっとずつ精霊達に蒸留水をあげたら喜ばれた。
美味しかったみたい。
じゃ、撤収。
片付けて仕上げよう。
今度はお茶を飲みながら、70mlサイズの小瓶に移し替え。
各種7本ずつ、うち半分はアルガンオイルをほんの少し混ぜた。
「化粧水の出来上がりよ!
まずはニーナ、どれが良い?
好きな香りで選んでも良いし、肌悩みがあれば聞くわ」
何を隠そう、前世はBAだった。
棲み分けくらいなら簡単に紹介出来るのよ?
「ええっ⁈ 私が頂いても宜しいんですか?」
「ニーナが頑張ってくれたんだもの。当然よ」
「ありがとうございます!お嬢様!
……では、ニキビに効くのを」
ニキビね。特に乾燥するわけではないみたいだから、アルガンオイルなしの、ティーツリーが良いわ。
ニーナには、ノーマルティーツリー、と。
「マリエラはどうする?」
「私は肌荒れと乾燥が」
うーん、ローズ、いやカレンデュラの方が炎症には良いから……
マリエラには、オイルありカレンデュラ。
お母様には抗酸化力の高いローズウォーターね。
キメも整うし、プレゼントには1番華やかな香りよね。
「エリオット様もお持ち帰りになりますか?
あまり必要はないかと思いますが」
「んー悩みはないんだけど。
あ、最近よく外に出るから日焼けしたかな?」
今日も2時間半、外でバリバリ作業しましたもんね。
ええ、私のせいです。
申し訳ありません。肌が赤くなりませんように。
「では、ピオニーを。消炎効果と美白効果があります」
顔を洗った後につける事、痒みや炎症を起こした場合は、すぐに洗い流して使用を中止する事、冷暗所で保管し、5日で使い切る事を説明し、
さっそく今晩から使ってもらうようにお願いした。
私は特に悩みないから好きな香りのローズマリー!
余った化粧水はマリエラに預け、メイド達に使ってもらう。
5日後。
うん、やっぱり使うと肌の調子が良いかも。
マシュマロ肌がぷるんぷるんっ。
そして朝から女性陣にモテモテよ。
「シルヴィー!あの化粧水のおかげで、昨日のお茶会凄く褒められたわ。
それでね、今朝なくなってしまったから、新しいのをもらえないかしら?」
「後で作りますわ、お母様」
「「「あっ!お嬢様ーーっ!化粧水なくなっちゃいましたっ‼︎ 」」」」
後でつく……以下略
「シルヴィア!何をしたんだ?
最近やけに王妃様や宰相が化粧水がどうたらとうるさいんだが」
「お父様、それは私も分かりません」
ナニソレ、コワイ
「やあ、シルヴィア。5日ぶり。
母上が化粧水が欲しいって言うんだけど、もらえないかな?」
何故普通にお茶を飲んでるの、いつの間に来たの。
何で誰も知らせないの、本当に。
もう殿下として扱われてないんじゃない?
「またお嬢様の近所のお友達が来た」レベルよ。
ていうか、母上って、お前か。
さっきのお父様が言ってたのは。
宰相はどっから来たの。
「分かりました。作りますから手伝って下さいませ。量は倍作りますからね、覚悟して下さい」
「もちろんだ。お土産もある、寸胴鍋3つと漏斗3つ、ボウルに瓶。全部、母上からだ」
・・・もう何も言うまい。
「お嬢様、彼が来ましたよ」
およ、もう来たの?
待ってたわ、私の癒し&瓶詰め係!
「シルヴィアお嬢様‼︎ 今日から住み込みでお世話になる事になりました。
これからよろしくお願い致します‼︎ 」
「よろしく、リアム」
ブクマ&評価有難うございます!
作中の蒸溜にかかる時間や量は嘘です。
造りや素材、大きさが全く違いますが、
参考にさせて頂いたのは、
『HARIO ハーブウォーターメーカー』です。
耐熱ガラス素材で、小さいキャンドルで温めます。
1回2時間で20-40mlの蒸溜水がとれるそうです。羊