王都は出会いがいっぱい? 2
「ビルク、居るー?」
「はーい、どちら様で……おー!シルヴィー」
好きな所で良いというお言葉に甘えて、
目的の1つでもあった例のお店へ。
私用だし、エリオットまで連れて来なくても良かったんだけど、せっかくだから。
「先週ぶりね。ベイ穀は入荷した?」
今日も変わらず、ワイルドイケメンですね。
ごちそうさまです。
「ああ。マジでベイ穀のために来たんだな。
食い意地張ってんなー、お前」
ビルクには分かるまい、私のお米への渇望が。
「おっ、そっちの少年は初めましてだな。
今日は、シルヴィーの兄貴居ないのか?」
「ええ。お兄様は学校よ。
エリオット様、彼はココの店主の息子でビルク」
「初めまして。シルヴィアの婚約者のエリオットです。
呼び捨てだなんて、ずいぶんと仲が良いんですね」
こっっわーい。
さっきまでの機嫌の良さはどこに?
調味料系のお店はお気に召さないのかしら。
もしくは店内がお世辞にも綺麗とは言えないから?
単純に接客態度とか……
でも大丈夫、ココは宝の山よ!
きっと満足出来るわ。
「あ゛〜、安心しろ。坊ちゃん。
1回会っただけだ。名前はそう呼べって言われたから呼んだだけで、仲も何もない」
何故かディスられた感。
事実だけど地味に傷付くわ。
……坊ちゃんww
ビルク、貴方は大物ね。
「そうでしたか。
では呼び捨て以外でお願いします」
あれ、機嫌直ってきた。
理解不能。
「了解デス。
あー、とりあえず親父呼んでくるから待ってて」
「シルヴィア、僕は少し心配だ。
しっかりしているようで、君は隙だらけだね」
「大丈夫ですわよ?」
心配性な一面もあると、ふむ。
――――ダダダダダッ、ガタッ…ドンッ
「い、い、いらっしゃいませー! 」
大丈夫かな? ずいぶん音がしていたけど。
小ぶりなフチなし丸メガネをかけた男性が慌てたようにやって来た。
・・・どなた?
男性の後ろからは「落ち着け、親父ー!」の声。
おどおどした瞳で、こちらの様子を伺う様は、
まさに小動物。
短髪の黒髪に細い垂れ目なオジさん。すぐ書類に印鑑押しそうなタイプ。
ビルクに全く似てない!
黒髪しか被ってないじゃない。
え、お母さん? あのワイルド要素、お母さんの遺伝なのっ⁈
「「「・・・」」」
「待てって親父。
シルヴィー……じゃなかった、嬢ちゃん。
この店の店主で、俺の親父のマーク」
「ジィっ・・・。ごきげんよう、シルヴィーです。マークさん」
「 (ええっ、すごいガン見されてる。ていうか本当にお貴族様みたいじゃないか! てっきりビルクの冗談だと思っていたがなー)
マークです。前回はたくさんお買い上げ頂いたようで、ありがとうございました」
「いいえ、私も素敵な調味料に出会えて嬉しかったですわ。今日はベイ穀を頂きに来ました。
彼は、友人のエリオット様です」
「エリオット様? エリオット、はて聞いた事があるような……(ああ、そういや王子の名前がエリオット様だったな)
あ、ベイ穀はこちらで全部です。1袋5kgでご用意してます」
おおっ、私のお米様!
えーっと、1、2、3………15袋。75kgか。
たしか1合150gだから、
500合分? 屋敷に今居るのが20人くらいだから、毎日食べたら持たないわね。
「全部頂くわ。また来週入荷するの?」
「ぜっ全部ですかっ⁈
1袋2000ベルンですが」
「大銀貨3枚ね、マリエラお願い。それで入荷はするの?
あと屋敷に届けて頂けると助かるんだけど、このベイ穀。
配送料はおいくらかしら」
ベーヴェルン王国の通貨は、国の名前をとってベルン。
銅貨1枚= 100ベルン
小銀貨1枚= 1,000ベルン
大銀貨1枚= 10,000ベルン
金貨1枚= 100,000ベルン
白金貨1枚=1,000,000ベルン
コインだけって不便よね。かさばるし、重いわ。
小麦が10kgでだいたい小銀貨2枚だから、倍の値段。
一般家庭なら大打撃だけど問題ないわ。
「来週の入荷予定はありません。
ちなみにどちらにお運びすれば?」
「ヴェルトハイム邸にお願い。
次の入荷予定はいつ頃になりそう?」
「あのぅ、私の記憶が正しければ、
ヴェルトハイム邸はヴェルトハイム領内にある、
公爵邸しかなかったような気がするのですが。
他の邸宅も公爵家関係ですよね……」
「ええ、合ってますわ」
「はい⁇
ビルク、どうやら私は疲れているようだ。
住所を聞いて、届けて差し上げてくれ」
まあ、お疲れでしたの?
それは悪いことをしました。
住所は合ってますよ、たぶん。
「・・・本当のお貴族様だったんだな。
身なりが良いとは思ったが、接しやすかったから
てっきり商家のお嬢さんかと(やっちまった)」
急にビルクの態度が塩らしい。
気にしなくて良いのに。
ワイルド萌えを返して。
「私も言わないでいて、ごめんなさい。
マークさんにも謝っておいて。
でも、今まで通りに接してくれると嬉しいわ」
「ん〜〜、まあ、シルヴィアお嬢様が良いってんなら、そうすっけど。
で、知りたくない気もするけど、エリオット様はどちらのエリオット?」
ビルクにお嬢様って呼ばれるとこそばゆいわ。
「どちらのって。この国に決まってるじゃない。
エリオット殿下よ?」
「うんうん、やっぱそうだよなぁ。
(終わった、我が家は終わりだ。すまん親父、一緒に不敬罪で捕まってくれ)」
なんか悟ったような顔してるけど、
そんな顔もするんだ。
それより! 定期的にベイ穀 手に入れたいし、
優先的に販売してくれないかしら。
「定期契約とかは可能なの?マークさんに聞いといてくれないかしら。
もちろん買い叩いたりしないわ、約束する。
屋敷に届けた時に返事聞かせて」
「りょーかい。
じゃ、後で行くわ。気ぃつけて帰れよ(あっ、ヤベ)」
―――ぽんぽん
ふおぉーーーっ‼︎‼︎‼︎
あっあたま、頭ぽんぽんされたー!
少女漫画みたい!妄想が3D化したのかしらっ!
ぐふふっ。
今日は良い夢見れそうね。
「シルヴィア、用は済んだだろう。帰るよ」
エリオットにグイグイ引っ張られ、お店を後にする。
デジャブ。
空気と化していたマリエラ、トマス、マルニーさん、ミルラ様、ライアン様は、それぞれ苦笑するか呆れるかで微妙な顔をしていた。
あの………普通に歩きたいです。
――――――――――――
――――――
―――
「エリオット様、本日はありがとうございました。
今度は私が、ヴェルトハイム領をご案内致しますわ」
「うん。こちらこそ、ありがとう。楽しみにしてるよ。
ところで、さっきの男……食材が届くまで待ってても良いかな」
ははーん、ベイ穀が食べたいのね。
仕方ない、炊く準備を致しましょう!
はじめちょろちょろなかぱっぱ。
やった事ないけどね!炊飯器スイッチオンだから。
火加減どうしよう?
ビルクにやってもらうか。それが良い。
ハッ、待つ間にお味噌汁を作れば良いのでは?
「もちろん構いませんわ。
私ちょっと急用が。
スチュワート!エリオット様をおもてなしして!
私厨房行ってくるー!」
ポワロー(ネギ)のお味噌汁なら、すぐ作れるわ。
だしは、カツオと昆布の合わせだしでシンプルに!
「殿下、お嬢様、おかえりなさいませ。
さっ、殿下はコチラへ。
トマス、お嬢様を頼みましたよ」
「マルニー、僕は置いていかれたのか?」
「…………………………恐らく」
* * * * * * *
「・・・兄さん、本当にヴェルトハイム公爵邸で合ってるの? 」
門の少し手前で、10歳前後の男の子が確かめる。
兄と呼ばれた黒髪の青年は、死んだ目をして頷いた。
「ああ、残念ながら合ってるよ。
いいか、小さい女の子は無害だ。
だが、他の人間は分からないから、失礼のないように。首が飛ぶかもしれねー」
「僕、帰って良いかな?」
「仕事だ。諦めろリアム。
だいたいお前、将来執事になりたいんだろ?
公爵家の本物が見れるんだ。喜べ」
青年は男の子をリアムと呼び。
ニカっと笑いながら、頭をワシャワシャとかき回した。
「やめてよ、兄さん!
ボサボサの頭じゃ、執事さんに会えないよ!」
「お貴族様じゃなくて、執事の方なのな。
うん、そういうヤツだよ、お前は。
おし、行くぞ。
すみませーん!ベイ穀届けに参りましたー!」