王都は出会いがいっぱい? 1
今日はエリオットと王都散策。
ベーヴェルン王国は王都を中心に、円状に領土が広がっていく。
王都を囲うように隣接するのが、四大公爵領だ。
とりわけ、ヴェルトハイム領はその中でも珍しく、
領主の屋敷が王都との境に建っている。城壁はあるものの、県境ギリギリのイメージ。
ハッキリ言って、自領に買い物に行くより、王都の方が近い。
「お嬢様ーっ、殿下がいらっしゃいましたよー!」
「分かった、今行くわー」
近いとはいえ、頻繁に行けるわけではないから
実はすごく楽しみにしていた。
2週連続ショッピングって初めてかも!
ビルクは元気かしら。お米入荷してると良いなー。
「お待たせしました。エリオット様」
「いや。もう出かけられる?」
「もちろんです!
あと、私の同行者にマリエラとトマスを連れて行っても良いですか?」
「「ごきげんよう。殿下」」
断られるとは思ってないから、2人も私服に着替えさせておいた。
マリエラって私服だと全然雰囲気変わるわ。
いつもお団子にしている髪を下ろしてる関係もあるだろうけど、普通の可愛い16歳に見える。
制服姿の方が、ちょっぴり大人っぽい。
「構わないけど、トマス……だっけ。
彼は誰? 見た事ないけど」
あら、王子様。
ウチの可愛いマリエラよりも、
トマスの方に興味があるって言うの?
たしか28歳だったかしら……
うーん、若く見えるからギリギリ20歳に見えない事もなくはない、、、無理だな。23かな。
子供からすると、ずいぶん大人だと思うんだけど。
エリオットが18になる頃には、37か。
―――悪くないわね。
なんせ美形だから!
「彼は我が家の料理長ですわ。
カレーも彼が中心に手伝ってくれましたのよ?
私だけでは絶対出来ませんでしたわ!
料理の天才ですの!(こんなもんで良いかしら。トマス、後で感謝してくれて良いのよ♪ )」
「ふーん。優秀なんだね。
料理長がデートについて来る必要性を全く感じないけど」
「「ヒィっ」」
・・・どうしよう、ミスったっぽい。
機嫌悪くなっちゃった。
褒め方がヘタだった?
「お、お嬢様。私はまた今度に………」
「え?トマス来ないの?(しょんぼり)」
「あ、いや」
「また今度っていつ行くつもり?
だったら今日行った方が二度手間にならないよね。
ね? 料理長」
「ま、全く殿下の仰る通りで。ぜひご一緒させて頂きたいです!」
めっちゃ顔引きつってますやん。
ふむ。一緒に行くのは良いけど、トマスと私が出かけるのは嫌だと。
ふぅん? ニヤニヤ
でもトマスが萎縮してるから、まだエリオットの一方通行ね。応援するわ!
「シルヴィア、変な勘違いしてない?
悪寒がしたんだけど……」
「いいえ? 別に考えてませんわよ。腐腐」
「シルヴィア?」
そんな目で見ないで下さいませ。
邪魔は致しませんわ。
「(殿下めっちゃコエー。お嬢様もデートって先に言ってくれたら、ついてこうなんて思いもしなかったのに。報・連・相 大事だぞー。
完全にお邪魔虫だよ。殿下の目に書いてあるよ)」
そんなこんなで王都の高級ブティック街へ。
ちなみにエリオットの馬車だと目立つから、ウチの馬車にしてもらった。
それでも目立つんだけどね。
旅行雑誌で見た、パリのサントノレ通りに似てる!
とても趣を感じる街並みだわっ。
ブティック街って、宝飾品やテイラーのイメージが強いけど、化粧品はどうしてるのかしら?
そういえば、家であんまり化粧品見た事ないかも。
お母様がお粉と口紅を使ってるところは何度か見たから、ないわけではないのよね?きっと。
基礎化粧品とかってあるのかな。
アロマオイル作ろうと思ってたから、
ついでに化粧水とか作ろうかしら。
エッセンシャルオイルとフローラルウォーターで簡単に作れるよね。
保湿力はいったん度外視にして。
「シルヴィア、着いたよ。」
わぁっ!
立派なお家!………え、お店なの。敷居高くない?
「「「ようこそ、いらっしゃいました!
殿下、シルヴィア様」」」
「まあっ」
初めて入ったお店なのに、名前知られてる!
私ってば有名人はーとっ(棒読み)
店員さんがビシッと1列に並んでお出迎え。
……他のお客様は?
「彼女に似合うドレスを作ってくれ。
1着は、今つけているサファイアの髪留めに合うものにしてくれ。
あとは、普段着とお茶会用のドレスを2着ずつ。
いつ頃出来る?」
え、え、ナニコレ。
誰か説明プリーズ。
「もちろん総力を挙げて最優先致しますが、
針子全員入れても普段着で最短2週間、ドレス1着で2ヶ月……いえ、1ヶ月半でしょうか」
オーダーメイド2週間はすごいよ。
休みなくなるんじゃない?
大丈夫かしら。
「そうか。出来ればもう少し早く欲しかったが、仕方ない。それで頼む」
「かしこまりましたっ‼︎
それではシルヴィア様、奥の方で採寸を」
「え、あのエリオット様?
これはいったい……ちょっとまっ、どうなってるんですのーーっ‼︎ 」
あっという間に採寸を終え、テーラーを後にした。
要望やデザインについて聞かれた気がするけど覚えてない。
そして――――
「うん、コレなんて似合うんじゃないかな。
シルヴィア、つけてみて」
現在、これまた立派な宝飾店に居ます。
もちろん他にお客様は居ません。
店員さんが持ってきた、ネックレスや髪留めをひたすら試着させられている。
お人形になった気分だわ。
もう好きにしてくれ。
「じゃあ、さっきのダイヤのオペラネックレスと、サファイアのチョーカー、あと店主のオススメのプリンセスネックレス。髪留めはコレと……アレかな」
「かしこまりました。では後ほどヴェルトハイム公爵邸にお持ち致します」
「ああ、頼むよ。
さっ、次に行く前にお茶でもしようか」
まだ行くんですか。
私疲れましたわ。主に精神と胃が。
途中で計算するのやめましたけど、王都の小さな家ぐらいは買えそうですわね。
見返りは何ですの。
何もなくってよ。
噴水広場が見えるレストランでぶどうジュースを飲む。
生き返るーぅ
「フフッ、美味しい?
違う味の頼もうか」
お迎えに来た時が嘘みたいにご機嫌でらっしゃいますね。ええ。
私にもその元気を分けておくれ。
「……りんごが良いです」
「分かった」
「エリオット様、ずいぶんお買い物されましたけど、何かありましたの?」
理由もなしに高額な物ばかり受け取れないわ、嬉しさよりも恐怖が勝る。
エリオットに似合うアクセサリーを選ぶ約束したけど、いくらの物を返せば良いの。
マルニーさんにこっそり聞こうかな。
「そう? 僕としてはもう少しプレゼントしたかったんだけど、事前に公爵があまり買い与えないでくれって言ってきたからな。程々にしておいた」
お父様は分かってらっしゃったんですね。
こうなる事が、、、
でもお父様、彼は少し、いやだいぶ頭がイカれておいでだから、もっとハッキリ言うべきでしたわね。
おかげで娘の胃がキリキリ痛みます。
「それでもかなり多かったと思いますけど……
まあいいですわ。ありがとうございます。
少し休憩してエリオット様のアクセサリーを選びに行きましょう」
これでもかと時間をかけて選んでやろう。
私の疲れを味わうがいい。
と、思ってたけど疲れが吹っ飛びました。
人を着飾らせるって楽しい!
素材が良いだけに、どんなヘンテコなデザインでも似合って見える。
「エリオット様、こちらもつけて下さいませ!」
何が良いか分からないから、ブローチとカフリンクス(*1)にしようと思う。
ブローチはカメオかチェーンか……
カメオだと儚げ美少年だし、ゲーマーとしては王子のチェーンブローチって外せないのよね。
悩むー!
カフリンクスは瞳の色と同じ、ラピスラズリがはめ込まれたデザインで良いのを見つけた。
「んーっ、やっぱりアレもつけて下さいませ」
似合いすぎて決まらないわ!
いっそ1番高い物を持って来てと言うべき⁈
「クスッ、決まりそう?」
楽しそうね、私は楽しさを超えて悩んでるのにっ。
こんなに似合っているのに、どうして選ばなきゃいけないの?
ちょっと、オーラと顔面偏差値を下げてきて下さらないかしら。
「まだですわ!困りましたわ……あら?店員さん、アチラも持って来て下さる?」
ジーザス! 視界にまた似合いそうなデザインが入ってしまったぁっ。
くっ、こうなったら全部試して―――
「クスクス。シルヴィア、迷ってるのはどれ?」
エリオット、貴方は彼女の買い物にも待てるタイプの人間なのね。
ポイント高いわよ、ヒロインちゃんに宣伝してあげるわ!
「今つけてるチェーンブローチと、ダイヤのチェーンブローチ。カメオのブローチですの。
ラピスラズリのカフリンクスは決めましたわ」
「そっか、似合う?」
「それはもうっ!
だから選べなくて困ってるんですのよ?」
「店主、彼女が言った物を全部もらおう。
後で城に届けてくれ」
え゛っ、ご自分で買われるの?
私がプレゼントするんじゃなく?
「エリオット様! 私がプレゼント致しますわ!」
「そんな事させるわけないだろう。
選んでくれただけで、とても嬉しいよ」
イケメーンっ‼︎
3割マシで輝いて見える。
後光が差してるわっ、眩しい。
「で、ではせめて、カフリンクスを。
私の瞳とお揃いの髪留めを下さったお礼ですわ。
コレには、エリオット様の瞳とお揃いのラピスラズリがはめ込まれてますの」
ん、何だか言ってて恥ずかしい。
少女漫画か、私は。
「ありがとう///
じゃあお願いするよ」
「ええ。マリエラ、お願い」
「かしこまりました、お嬢様(はーっ、私まで照れちゃいますぅ! これぞ青春ですわっ)」
やめい、そのニヤニヤ顔。
早くお会計してきてちょうだい。
「カフリンクスだけつけて行っても構わないか?」
「もちろんでございます」
わお、さっそく つけてくれるらしい。
末恐ろしい子。
「お似合いですわ」
「ありがとう、シルヴィア。
次はどうする?」
「それでしたら――――」
*1;カフリンクス。日本では、カフス・カフスボタンとも呼ばれる