魅惑の香り、その名もカレー。6
「お嬢様っ」
「あらマリエラ。ニーナもどうかした?」
「お昼のまかない先程いただきました!」
そう。いったい何の報告なの?
「「カレー、とおっっても美味しかったです!」」
夜のまかないに出す予定って聞いたけど、お昼にしたんだ。
「それは良かったわっ。料理人達が朝から頑張ってくれたの。
それで何味を食べたの?」
「私はミノタウロスちゅうからで、ニーナはオークをいただきました。一緒に食べたメイド達で違うのを選んで、シェアしたんですよ〜♪ 」
ふむ、甘口・中辛・辛口を浸透させるのが先か。
シェアかー、JKのノリだな。
「どの味が好きだった?あと苦手な味はあった?」
ちなみに。朝食より早く10種類も味見させられた私は、ミノタウロス辛口とプールプレ辛口が好みだった。特にミノタウロスのポテンシャルの高さ!
旨味もさる事ながら、フィレ肉の様に柔らかく解ける繊維。お肉の味の濃さもすごかったわ。
就職祝いに食べた、あか牛のフィレ肉に似ている気がする。
結局カレーの味が勝つから知らんけど。
「やっぱり、ミノタウロスちゅうからですかねー!
プレちゅうからもサラッと食べられました。
全部美味しかったですけど、からくちは得意不得意があるかもしれません」
「……そう。辛口は難しいのね。
ありがとう、参考になったわ。また感想きかせてね?」
辛口……イチオシだったのに。ぐすん。
いいもん。大人の味なんだもん。
トマスは辛口が好きって言ってくれたもんっ。
もうちょっと辛口のレベル下げようかしら。
中辛と辛口の中間ぐらい。
―――バァンッ Part2
「お邪魔するわよっ!
………辛口に入れるレッドチリの量減らすわ。
飴色オニョンお願い出来る?」
―――バァンッ Part3
「お邪魔するわよっ!
飴色オニョンお願い出来るかしら?」
―――バァンッ Part4
「お邪魔するわよっ!
あっ、もう用意してある?ありがとう」
―――バァンッ Part5
「お邪魔するわよっ!
どうもありがとう」
カレー作り6日目。
「やった、ついにやったわっ!
10人中9.5人は認める美味しさよ!
毎日毎日、朝から晩までカレー。やっと解放されるっ」
トマスなんて香辛料の調合しすぎて、ずっとカレーの香り纏わせてるのよ?
私だって、ワンスプーンとはいえ何種類も朝6時から食べ続けて(朝・昼・夕食は別)胃がやられたかと思ったわ。
何度スチュワートに胃薬分けてもらおうと思ったか。
でも今日でおさらばよ。
調整を重ねた3種のカレー。
エントリーNo.1 不動の人気ミノタウロス中辛
エントリーNo.2 癖になる魅力ミノタウロス辛口
エントリーNo.3 家庭的な安心感プレ中辛
今日の夕食はコレらから選んでもらう。
私は十分だからカレー以外にしてもらった。
ついでにお兄様は2日前に宿舎に戻られたわ。
可愛がって下さるから少し寂しいけど、学業を休ませてしまってはお兄様に悪いもの。
カレーも食べて頂きたかったのだけど……
「お待たせ致しました。
自信のカレー3種です。1番エリオット様にふさわしい味をお選び下さいませ」
「待っていたよ、シルヴィア!
前回よりも香りがまた一段と上がっているね」
「私も待ち遠しかったわ。
食べられなかったアレンがかわいそう、ふふっ」
「「これはっ――、なんて美味しいんだ(美味しいの)!」」
「この癖になる辛さと香り!毎日でも食べたいくらいだ!」
毎日は飽きますわよ、お父様。私カレーの香り、今ムリですもの。
「刺激の中にある、この優しい味わい。病みつきになるわぁっ」
うっとり顔のお母様も素敵です。ぐっじょぶ。
「では。決まりましたでしょうか?」
「ああ、私は決まった」
「あら旦那様もう決まったの?
シルヴィーもうちょっと待って、うーんそうねぇ」
お母様、一生懸命選ぶ姿も可愛らしいですわ。ぐへ。
「決めたわ。大丈夫よ」
「ありがとうございます。
それでは、お父様から」
「ミノタウロス中辛だな。私としては辛口を推したいところだが、殿下には刺激が強すぎるかもしれない」
辛口派1人入りましたー!ウェルカム!
エリオット様には中辛、と。
「私もミノタウロス中辛が良いと思いますわ。
個人としてはプレの優しい味わいが好きだったのですが、特別感という点でミノタウロスに分があります」
やっぱり王道が1番ってことね。
「ありがとうございます!
ミノタウロス中辛に致しますわ」
明後日はこれで完璧!
フッフッフ、何もカレーだけを作り続けていたわけじゃないのよ?
エリオット様にプッシュするアリア姉様、アストゥリアス伯爵家についても調査はバッチリよ。
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―――
「ようこそいらっしゃいました。エリオット様」
「お出迎え嬉しいよ、シルヴィア。
今日はカレーをすごく楽しみにしてたんだ」
「まあ、そうですの?嬉しいですわ」
「うん、王宮で噂になってたんだ。
ヴェルトハイム公が毎日部下にお嬢さんのカレーの話をするって」
嬉しくなかった。
お父様ーーーー‼︎
お仕事中に何をしてらっしゃいますの!
「それは……お恥ずかしいですわ」
「クスっ、よっぽど嬉しかったんだろうね」
「おほほ……
今日はお付き添いの方々にもお召し上がり頂きたいので、ぜひ食堂の方へ」
「シルヴィア嬢、私共はお気になさらず。
お気持ちだけ有り難く頂戴致します」
さすが王子付きのガードは固いわね。
だけどダメよ。
私の未来のために、少しでも味方は多い方が良いわ。
カレーの力を思い知るが良い!
……今のセリフ、悪役っぽい気がしないでもない。
「そんな事仰らないで、マルニーさん」
「なんとっ、私の名前を覚えていて下さったんですか!」
目を見開いて感銘を受けてるっぽい、マルニーさん。
普通です。
自国の王子付き執事の名前を覚えないバカは居ないでしょう。3度目の来訪よ。
「ええ、もちろんです。
では、こう考えては頂けませんか?
私が倒れてご迷惑をおかけしたお詫び、いえお礼に。ミルラ様、ライアン様、マルニーさんには、
エリオット様と一緒に食べて欲しいの。ね?」
「マルニー、良いじゃないか。ライアン達も。
僕の婚約者からのお礼だよ?」
なんか笑顔が黒い、、、気のせいよ、シルヴィア。
「そっ、そうですね。
では、シルヴィア嬢。私共もご一緒させて頂きます」
「はい!」
「あ、僕のプレゼントつけてくれたんだね。嬉しいな」
ほうわぁーーーっ‼︎
美少年のとろける笑顔入りましたー!
目がっ、目がぁっ‼︎‼︎
誰かサングラスを、いやサングラスだと曇るわ。
やはりカメラを持って来てちょうだい!
「え、え。気付いて下さいましたの?
せっかくエリオット様から頂いたものですから、つけようと思いまして」
サファイアが鏤められた花柄デザインのバレッタ。
大量のお土産の1つだ。
「とても良く似合っているよ。
次は一緒に選びに行こう」
「でしたら私がエリオット様にお似合いになるものを選びますわ!」
これ以上、我が家に物を増やさないでっ。
「本当か? 楽しみだっ。
―――マルニー、予定を押さえて何軒か貸切にしろ。もしくは城に呼べ(小声)」
「かしこまりました。女性・男性 共に使える宝飾店に声をかけます(小声)」
さて、着いたわ。
さっそく運んで来てもらう。
クローシュ オープン!
「何だ、この香りはっ」
「さあ皆様、お召し上がり下さいませ。
私とシェフの自信作ですわ!」
「っっ!辛い……けど美味しい。繊細な辛味とコクが」
ふふん、美味しかろう。
付き添い陣は感嘆の声をもらす。
大きな声で褒めて下さっても良いのよ?
「いかがですか? お口に合いまして?」
「すごく美味しいよ、シルヴィア!
まさかたった1週間で本当に作ってしまうなんて!」
ん?
「どうやって説得させるか悩んでいたけど、これなら問題ないかもしれない。
きっとすぐに許可が下りるよ!」
ん゛?
「許可?」
「言っただろう? 婚約しても、君の好きな事をさせてあげるって」
あ゛ら゛?
きゃあっ///
・・・ちょっと。聞こえてるわよ、マリエラ。
興奮しないでちょうだい。
「きっと陛下も認めて下さりましょう。
宜しゅうございましたね、殿下」
マルニーさんっ⁈
「ああ、ありがとう。
今日は良い報告が出来るな」
流れが怪しいぞ。
「ご、ご飯も食べた事ですし、お庭を散歩しませんか? お話したい事もありますし(主にアリア姉様とかアリア姉様とかアリア姉様とか!)」
「良いね、僕もシルヴィアといっぱい話をしたかったんだ」
別に王子の笑顔が恐く見えたなんて思ってない。
本当よっ!




