魅惑の香り、その名もカレー。4
久しぶりの日本食に感激し、思わずプロポーズしてしまった私は、お兄様とトマスに引きずられて帰って来ました。ええ。
もちろん醤油・鰹節・味噌・乾燥昆布は買った。
お米もといベイ穀は、食べさせてもらった分で最後だったらしい。
来週入荷予定だから、また行かなきゃ。
楽しみではあるけど、あのお店が心配。
日本食の味なんて馴染みがないだろうし、お客も私達以外居なかった。
まさか潰れたりしないわよね。
あんなイケメンを錆びさせるのは、私の魂が許さないわ。
どうにかしてあげたいし、定期的に(顔を)拝ませて欲しい。
「返事が届いたよ、ほら」
昼食後、お兄様がお手紙と箱を届けてくれた。
私宛じゃないけど、読んで良いのかしら。
「ありがとうございます、お兄様」
書き出しは、お兄様に対しての文句から始まった。
―――やあ、アレン。朝っぱらから起こしてくれて有難う。俺が休みの日は昼まで寝るって知ってるよね。
せっかくの休日を台無しにした埋め合わせは必ずするように。
さて、お前の大好きな妹ちゃんからの手紙についてだけど、7歳なのに良く書かれていてビックリしたよ。
まさかあのお土産に興味を持つなんてねー、
さすが君の妹と言うべきか……。
あれは、インデニア国の平民向けの薬で、よく女性や、年配の男性が飲むやつだ。
他にも効能別に似たような薬はあるが、手持ちはそれしかない。
商店は知らんが、里帰りした時にでも買ってきてやろう。
追伸;手紙と一緒に預けたのは妹ちゃんへのプレゼントだ。よろしく伝えてくれ。
あと、今度紹介するように。
それじゃあ土産よろしく。―――
すっっごく、仲が良いのね。
平民の方だと聞いていたけど。
前世では全く興味なかったけど、こんなに顔が良いんだもの。アリかもしれない。ふふ……フ腐腐。
さて箱の中身は……と。
「――――!」
「何が入ってるんだ?」
瓶詰めされた香辛料、じゃなかったインデニアのお薬がいっぱい!
8種類も!
1個1個 慎重に蓋を開けて、香りを確かめる。
これは、、頂いたターメリックね。あっ、この香りは胡椒……クミンもある!
赤色の粗めの粉は、、唐辛子!レッドチリGET!
茶色、、シナモンっ。もしかして……コリアンダー!やったー!揃ったわ!
カルダモンまである。
これは何かしら?ラベルにはスターアニスと書かれているけど…………あっ、八角?
もうっ、なんて素敵なプレゼントなの!
「お兄様っ‼︎ 私、とても嬉しいですわ!
ルームメイトの方に何かお礼のプレゼントを贈りたいのですが。あと、埋め合わせもしっかりして差し上げて下さいませ」
「シルヴィー、君は本当に良い子だね。
こんなヤツの事は気にしなくて良い。今度テキトーに何かあげとくから。(あんな柄の悪いヤツにシルヴィーが興味を持ったら大変だ)」
「まあっ。ではお願いしますわ!でもせめて、カレーだけは届けてあげて下さい。彼には食べる権利がありますから。(お兄様ったら、プレゼントは自分だけが贈りたいのねっ。腐腐、あら?だんだん思考が毒されてきたかも)」
――――バァンッ
「トマスっ!揃いましたわ。
さっそくカレーを作りましょうっ!」
「「「あっ、お嬢様いらっしゃい!」」」
「皆さんお邪魔しますね。
少し火を貸してちょうだい。」
「「「どうぞ‼︎ 」」」
なんだか歓迎されているようね。有難いわ。
「「「(むさ苦しい調理場に天使が来た〜)」」」
「使う粉はこの4種類。あとは今朝言った通りの材料よ」
「んー、粉の分量は作りながら探るしかないですね。とりあえず、始めましょうか」
まずはオニョンのみじん切り。
ぐすっ、涙が。
隣で涼しい顔して刻んでるわ、トマスめっ!
次はプレを大きめのひと口サイズにカット。
アイユ(ニンニク)とジャンジャンブル(生姜)はすり下ろして準備完了!
「まずは鍋に油をひいて、みじん切りにしたオニョンを飴色になるまで炒めるの」
「飴色……焦がすって事ですか?」
「なるべく焦がさないように、じっくり炒めるの。
大変だけど、美味しくなるのよ?見てて」
炒め続けること20分。疲れたっ。
その間、トマスと手の空いた料理人が何人か面白そうに見ていた。次はやってもらうからね。
「すごい!オニョンがこんな色に。味もコクと甘みが増してますね!」
そうでしょう、そうでしょう。
ここでピューレ状にしたトマト、アイユ、ジャンジャンブルを投入。
「うん、煮詰まってきたわね。
パウダーを入れてみるから、味見よろしく」
1番大事なところよね!
ターメリックパウダー、レッドチリパウダー、クミンパウダー、最後にコリアンダーパウダー、塩。
クミンとコリアンダーは若干多めにしてみた。
おぉっ!カレーよ、カレーだわっ!この香り!
厨房中から視線を感じる。そうでしょ?刺激的な香りでしょう?
味見、、、うん、美味しい!
「トマス、どう?」
「これはっ――! すごいですよ!お嬢様!
刺激的だけど癖になる香り、まさか粉がこんなに美味しくなるなんて‼︎ 」
うふ。やっぱりどの世界でもカレーは最高ね!
じゃんじゃんいくわよ。
ひと口大に切ったプレを入れて軽く火が通ったら、水を入れて煮込むだけ。
30分後。
「完成よ」
あー、食欲をそそる香り。
夕食があるから、お腹が張らないように小皿に盛る。
ではさっそく。
んん〜〜っ!美味しい!
目分量で香辛料入れちゃったけど、中辛ぐらいの辛さかな。次は辛口も食べたい。
「はい、トマスも食べて」
「―――っ!ソース状の時点で美味かったけど、プレが入ると全然違いますね。
ウチのお嬢様は天才だ!あ、おかわり下さい。」
「「「料理長!まだ僕(俺)は食べてません!」」」
「………食うのか?」
「「「当たり前ですっ!」」」
お父様達の味見分も欲しいし、足りるかしら?
「足りるか分からないから、おかわりはなしね」
「え〜っ、手伝ったのは俺ですよ。お嬢様ぁ」
ごめんなさい、トマス。
あのギラついた目には勝てないの。
あなたの部下、ちょっと恐いわ。
「結局この香辛料ってのは、何なんです?
インデニアの食材なんですよね」
「お薬よ」
「え?」
「だから、インデニアのお薬よ。コレは」
「まじか」




