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伏犠(ふっき)にムカついたので、様付をやめた

本日は、18時のこの1回の更新のみとなります。


伏犠(ふっき)が放った刺客である女忍・銀影さんが再び登場します。

 それから3日ほどは、(そう)国の都である陶丘(とうきゅう)で過ごすことになった。

 鮑叔(ほうしゅく)の調査の仕事と、管仲(かんちゅう)(あきな)いの仕事が片付くのに、大体そのくらい掛かるらしい。


 その間に、紙の試作品をさらに20枚、管仲に買い取って貰っていた。

 今回も、その紙は管仲が私的に使うということで、高額で販売する期間の予想市場価格である【1枚1両(5000円)】が売却価格となり、合計20両(10万円)を頂戴している。

 私的に使う場合は市場価格で、販売委託の場合は(おろし)価格で、と管仲はそのあたり、たとえ自分が損になったとしても、しっかり線引するタイプのようである。


 これで、この前買い取って貰った分と合わせて、所持金は12万5千円になった。

 俺たちと管仲・鮑叔は、ある種で対等な関係になったので、今後は衣食住が保証されないことになっている。

 自分の食い扶持(ぶち)を自分で稼がなくてはならなくなったのだから、どうしたって残金にシビアになってくる。


英人(ひでと)よ。お金の方は大丈夫かの?」


 風花(ふうか)も俺と同じ気持ちだったらしく、巾着(きんちゃく)の中の青銅貨を眺めながら、心配そうに言った。


「陶丘から、(てい)(みやこ)新鄭(しんてい)までは、15日くらい掛かるらしいから、食費を二人で1日2千円くらいに抑えたとして……3万円くらいを考えておきたいな。基本は野宿する事になるはずだけど、3日くらいは途中の人里で宿を取るだろうことを考えれば、プラスで3万円は準備すべきだと思う」

「合計6万円じゃの。すでに、ここ3日の宿代で3万円ほど消費しているから、残金は締めて3万5千円ってところじゃ。なんとも心許ないのぉ」

「だけど、これ以上管仲さんに紙を買ってもらうってのも……なぁ?」


 確かに残金が心許ない。

 だけど、これ以上管仲さんに紙を売りつけるのも、頼りすぎているような気がして、なんか嫌なんだよなぁ。

 どうすんべか?


 そんなことを考えていたら、突然、俺の後ろに気配を感じた。

 ちなみに今いる場所は、出入り口が一つしか無い宿の部屋であり、俺はその出入り口の扉の方を向いている。

 デジャブだな、デジャブ。


銀影(ぎんかげ)、再び参上!」


 音もなく出現したのは、女媧(じょか)様の兄である伏犠(ふっき)様が放った刺客、宝貝(ぱおぺえ)人間の女忍【銀影】さんだ。

 伏犠様は、俺たちが歴史を変えてしまいかねないことを危惧(きぐ)しておられるらしく、それを阻止する目的で銀影をこの時代に送ってきた、というわけである。

 あ、そういや既に、歴史を少し変えちゃったかも。


風見英人(かざみひでと)、そしてJOKAPEDIA(女媧様の玩具)よ……久しぶりだな!」

「よぉ。久しぶり」

(わらわ)の名は、風花だと言っておろうが!」


 銀影のこちらでの活動限界時間は、およそ3分間らしいことが既に分かっている。

 能力を常時発動してるタイプの宝貝は、エネルギー消費が激しいらしく、備蓄エネルギーが枯渇(こかつ)すると、物理的な実体を失ってあやふやな存在となり、自然界を(ただよ)いながらエネルギーをチャージする必要があるそうだ。


「この前の登場からかなりの日数が経っているよな? 随分とエネルギーのチャージに時間が掛かったみたいだな?」

「良いチャージスポットが見つからなくてなぁ……。って、そんな無駄話をしている場合ではないわ! 貴様ら、歴史を変えるよな愚行(ぐこう)はしていないだろうな?」


 うん?

 問答無用で斬りかかってこないな。

 もう一度、俺たちのことを見極めてくれるつもりかな?

 死にたくないし、その方が有り難いやね。


「別に……。多分、恐らく、してないけど?」

「おおそうか、それは結構! 拙者も忠告した甲斐があるってものだ」


「……」

「……」


「で?」

「うむ……。拙者はこのあと、どうすれば良いのだろうか?」

「知らねぇよ!」


 なんなのコイツ。

 俺の監視が目的らしいから、調査が終わったのなら帰ればいいのに。


「帰れば?」

「拙者。帰る場所などありはせぬ」

「え? そうなのか?」

「どうせ3分程しか活動できぬからな。家を持つ意味もなかろうよ」


 まぁ確かにそうか。

 ほとんどの時間をエネルギーチャージに使うわけだし、現世で実体化している時間なんて僅かしかないのだ。

 そう考えると、なんだか少し可哀想にも思えてくるな。


「銀影さんは、能力常時発動型の宝貝なんだよな?」

「風花に聞いたのか? 別に隠すつもりもないし、バレているだろうからな。肯定だ」


「どんな能力か聞いてもいいかな?」

「ぬ? そうだな。おいそれと、他者に公開するものではないのだが、教えた方が貴様らに対する抑止力にもなるかもしれん。拙者は、オンタイムで伏犠様と通信できるのだ。拙者の見聞きするものは、常に伏犠様に送信されているのだぞ」


 それは……すごいのか?

 女媧(じょか)様は、過去を観察できるって言っていたけれど、伏犠(ふっき)様はできないのかな?


「伏犠様は、過去を観察することが出来ないのか?」

「む。確かにその通りだが、(あるじ)のことを低く見られるのは我慢ならぬ。神にも得手不得手があるというだけで、決して主が劣っているわけではない」


「ってことは、伏犠様もまた、女媧様に出来ないことが出来ると?」

「そういうことだ。例えば女媧様には、拙者と同じ能力を持った宝貝など、恐らく作ることはできぬだろうな」


「へぇ、銀影さんの能力って、何気に凄いんだな?」

「時を超えるということは、本来そういうことだ」


「そりゃそうだよな。あれ? ってことは、今なら伏犠さんと話せるってことか?」

「拙者を介して……にはなるが、結論、出来るぞ」


 おおー。そりゃ凄い。

 3分間しか活動できないってのも頷けるわ。


「伏犠様、はじめまして! 風見英人(かざみひでと)です。以後、お見知りおきを」


 せっかくだから挨拶しておこう。

 取り敢えず、拱手(こうしゅ)しながら、銀影に向かってて自己紹介してみた。

 勝手に挨拶を始めた俺に、銀影は苦々しい顔をしていたが、どうやら付き合ってくれるみたいだ。


「伏犠様の言である、心して聞けぃ」


 突然、銀影の目は色を失い、白に染まる。

 まるで傀儡(くぐつ)人形のようなぎこちない動きとなった銀影は、俺に対して拱手して頭を下げると、言葉を発した。

 その声は、銀影の声ではありえない、優しくも威厳のある、男の声であった。


(丁寧な挨拶痛み入る。(それがし)は伏犠。この度は愚妹(ぐまい)が大変なことをしてしまい、お詫びの言葉もない)


 おっと、伏犠様は存外に常識人みたいだぞ。


「まぁ、そうですね。もう運命として受け入れいるので、そこら辺は大丈夫です。伏犠様の力でも、俺を元の時代に戻すことは出来ないんですよね?」


(ああ、出来ぬ。残念ながら(それがし)の知る限り、出来る者は……いない)


 ですよね。

 出来る人がいるなら、そもそも刺客なんて送る必要は無いのだ。そいつに頼んで、俺を元の時代に戻せばよいだけだ。

 それで歴史の改変問題は解決するからな。


「俺が歴史を変えちまうんじゃないかって心配しているみたいですけど、もし、俺がそれを仕出かした場合はどうするんです? この前、銀影さんに殺されそうになったんですけど」


(答え難いことを聞くな? 済まないが【君の予想通りだ】とだけ、言わせていただこうか)


 あ、やっぱり殺されるのね。


「この前は【風花(宝貝)を使って、ちょっと小金を稼いで楽しく暮らしたい】という程度で殺されそうになったんですけど……ちょっと酷くないですか?」


(早い内に、愚妹が起こした面倒の片を付けたい、という気持ちが()いてしまったのだ。許せ)


「ってことは、その程度なら、以降は許容範囲と考えて良いんですかね?」


(こう言葉を交わしてしまった以上、知らぬ者として無下(むげ)に扱うこともできんからな。だが、甘い判定をするつもりは、(それがし)には無いと思って欲しい)


 情に厚いのか薄いのか、よく分からんなこの(ひと)


「でもアレですね。銀影さんじゃ、俺の監視なんて出来ないんじゃないですか? 数十日に3分間しか見張れないんじゃ、意味ないでしょ?」


(そのように(それがし)も思っていたところだ。急いで作った宝貝だからな。欠陥品だったということだ。既に代替品の制作に取り掛かっている。完成すれば、いずれ君の前に相見(あいまみ)えよう……楽しみにしているが良い)


 全然楽しみじゃねぇよ。

 なんか藪蛇(やぶへび)だったなぁ……。


「それじゃあ、銀影さんのことはどうするのですか?」


(なぜそのようなことに興味を持つ?)


「いや、まぁ。伏犠さんの言葉を借りれば【言葉を交わしてしまった以上】、なんとなく気になる。ってところですかね」


(言っている意味が分からんな。銀影は宝貝だ。神でも仙人でも道士でも、人間ですらない。(ただ)の道具にすぎない。(それがし)からの命令が無くなれば、目的を失い、いずれ自我が崩壊するか、どこぞの仙人が興味を持って、回収にでも来るだろう)


「なんだか酷いっすね」


(それがし)が造った道具だ。君にどうこう言われる筋合いはないな)


「そっすね」


(それでは、君が懸命な判断の(もと)、そちらでの人生を歩むことを期待している。さらばだ)


「……ども」


 なんか気に食わねぇな。

 伏犠は、そこはかとなく敵認定することにしよう。

 もう、様付けしてやんね!


「いや、ハハ。なんともつまらないものを見せてしまったな。すまぬ」


 目の色を取り戻した銀影が、俺に頭を下げてきた。


「銀影さんは、それでいいのか?」

「……拙者は伏犠様の道具だからな。捨てられても文句は言えぬよ。役立たずなことは事実だからな」


「聞き分けの良いこと言ってんじゃねぇよ。だったら銀影さん、お前はなんで泣いてんだよ?」

「せ、拙者が泣く……? 何を言って……。あれ?」


 銀影は、自分の目を手の甲で(ぬぐ)って、初めてその存在に気付いたようであった。


 恐らく銀影は、傀儡(くぐつ)状態になっている時でも、自意識を保っていられるのだろう。

 彼女の目の涙は、なにも今この時に流れたものではなかった。

 伏犠が銀影を欠陥品と呼んだ時、彼女を不要だと断じた時、すでにその目には涙が(あふ)れていたのだ。


 自我があり、心無い言葉に傷つき……まして、(あるじ)(おもんばか)って『つまらないものを見せてしまった』と俺に頭を下げるコイツのどこが道具だ!?


 ――いいさ。いらねぇって言うんだったら、俺が貰ってやる!

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