伏犠が放った刺客 女忍・銀影
12時の更新に続き、定時である17時も変わらずの更新となります。
かなりファンタジックな話の展開となります。
お付き合い頂けると幸いです。
「誰だ。お前は!? 一体どこから入ってきた!?」
この部屋には入り口は1つだけで、窓はない。
俺は入り口を向いていたのだから、誰かが入ってきたとしたら、流石に気づく。
しかも、その見知らぬ女は、俺の後ろに立っているのだ。横を素通りされて、気づかない訳がない。
「風見 英人、そして女媧様の宝貝よ……貴様ら……人の歴史を変えるつもりか!」
俺たちを指差し、ババーンという効果音(鳴ってない)と共に、ポーズを決める女がそこにいた。
セリフもそうだが、見た目からして、コイツがこの時代の存在でないことは一目瞭然だった。
そんで多分、人間じゃない。
露出度の高い、特撮ヒーローものみたいなスーツ(ウルトラマンみたいなタイツ型じゃなくて、装甲型のやつね)を着ているのだが、胸の谷間は守られていない。
これはスーツのデザインもさることながら、本人の事情が起因しているところが大きい。
デカイのだ。お胸様が。そう、宝パイだ。
銀髪ポニーテールで、出るところは出ている細身の綺麗系美人。
年齢は、20歳前後くらい。身長は165センチってとこかね?
くそっ! だめだ……。
この女の一部分から、目線を外すことが出来ねぇ……。
なんて危険な女なんだっ……。
「おい! 風見 英人よ……さっきから貴様、一体どこを見ている!」
「(至宝のおっぱい。略して)宝パイに決まっている!」
「な、なにぃ!? 貴様……どうして拙者が宝貝だと気付いたのだ?」
ぱおぺいじゃない、ぱおぱいだ!
ああ、うん。
この女が、宝貝だということは、なんとなく気付いていたけどね。
漂う雰囲気が、風花と似ていたしな。
「フッ……。気付かれてしまったのであれば、仕方がない。拙者は銀影と申す。至高なる三皇神が筆頭……伏羲様により造られた宝貝であるっ!」
うわぁ……。忍者っぽいっポーズを決めだしたわ。なんか痛い子っぽい。
てっきり風花が俺に寝返ったから、女媧様が送り込んで来たのかと思ったのだが……。
誰やねん? 伏犠って。
「伏犠様が三皇の筆頭じゃと? なーにを寝惚けたことを言っておるのじゃ? 筆頭は女媧様に決まっておろうが!」
「フッ……。女媧様の兄たる伏犠様が筆頭であることが道理というものだ。そんなことも分からんのか、【JOKAPEDIA】よ!」
へぇー。伏犠ってのは女媧様の兄ちゃんなのか。
兄妹仲はあんまり良くないっぽいけど。
「JOKAPEDIAではない。妾は風花じゃ!」
「主から与えられた名を捨てた、ということか……。まぁ所詮貴様は、女媧様の指輪から造られたにすぎぬ、程度の低い欠陥品よ。物の道理を理解できぬのも、無理からぬ事……か」
「なんじゃとぉ!? 妾を愚弄する気か!」
風花が激昂する。
まぁまぁ、落ち着けって。
しかし、風花って女媧様の指輪から造られていたのか。
宝貝ってのは、何かをベースにして造られるものなんかね?
「風花、少し落ち着けって。時に銀影さんよ。そういうアンタは、何から造られたんだ?」
「拙者か? フッ……仕方がない、教えてやろう。聞いて驚け! 拙者は、伏犠様が大切にコレクションされている、フィギュアから造られた、至上なる宝貝なのであーる!」
「お、おう……そうか」
なによ? 伏犠様ってフィギュアとか集めてんのかよ。親近感湧くわ!
でも指輪とフィギュアなら、指輪の方が上じゃねぇの?
いや、価値観は人それぞれか……。
もしかしたらプレミア物のフィギュアをベースにしているのかも知れないし。
「はっ! 何を言うかと思えば……フィギュアじゃと? そんなものを集めて、ジメジメと宮殿に引き篭もっているから、伏犠様は存在感が無いのじゃ。女媧様を差し置いて筆頭などと……ははんっ! 全く片腹痛いわ! それにの、フィギュアより指輪の方が上じゃからな!」
「何を言うか! 伏犠様は常日頃から、しみじみと人間界を見守っているのであって、引き篭もっているわけではない! 女媧様など、面白半分に度々と人間界に介入している、邪神スレスレの存在ではないか! それにフィギュアの方が圧倒的に価値は上だぞ。そこは譲れぬ!!」
「お前らなぁ……ちょっと神様に失礼すぎやしないか? 程々にしとけよ」
「「むぅ……」」
「そんで? 銀影さんは、一体何しに来たんだ?」
「おお、そうであった。コホン。……貴様ら、人の歴史を変えるつもりか!」
俺たちを指差し、ババーンという効果音(鳴ってない)と共に、ポーズを決める女がそこにいた。というか、最初に戻った。
「いや、そんなつもりはないけど……?」
「フッ。白々しい奴だ。貴様! JOKAPEDIA……風花であったか? 此奴を利用して、歴史に介入するつもりであろう。伏犠様はそれを危惧しておられる!」
「いや、だから。そんなつもりはないってば。ちこっと小金稼いで、面白可笑しく暮らしたいだけなんだって」
「信用ならんな。大体、未来の人間を古代に送り込むなど……女媧様は一体何を考えておられるのか!」
「暇つぶしだろう? 本人そう言ってたし」
「溜息も出ぬな……はぁーーー」
めっちゃ出てますけど? 溜息。
「最早、問答無用なり。貴様らは歴史に有害だと拙者は判断した……伏犠様の御命令に従い、誅させて頂こう!」
いつの間に、どこから出したのか、銀影は手に握った鈍く光る忍者刀を振り上げた。
「御免……!」
ま、マズい!
俺は、突然に訪れた窮地から逃れようと周りを見渡してみたが、小さい部屋だ。逃げ場は何処にも見つけられなかった。
そして、銀影が刀を振り下ろそうとした瞬間。突然、彼女の身体は揺らぎを伴ってボヤけだし、淡い光りが彼女を包んだ。
「あ、あれっ!? ぬ、ぬかった! 三分経ってしもうたわぁーーー」
こうして、謎の言葉を残したまま、銀影は消えたのであった。
「な、なんだったんだよ……一体」
「ふぅむ。活動限界……みたいなものじゃろな」
「活動限界だ?」
「うむ。素材や性能によって違いはあるが、自律型の宝貝には、活動限界があるものが多いのじゃよ」
「もしかして、風花にも活動限界があるのか?」
「妾は、人間と同じように、食べ物からエネルギーを補給できるし、そもそも能力を常時発動しているわけではないからのぉ……省エネなのじゃ」
「ってことは、銀影は常時発動型の能力を所持しているってことか?」
「もしくは、素材が劣悪だったか…、性能がそもそも劣っているか、じゃな」
「ふーむ。なるほどな」
「活動限界になった宝貝は、その後どうなるんだ? 銀影の奴は消えちまったけど……」
「物理的な実体を失って、あやふやな存在になるのぉ。そうして宙を漂いながら、自然界からエネルギーをチャージするのじゃ」
「チャージが終われば、また活動できるのか?」
「無論、そうなるのぉ」
「チャージまではどのくらいかかる?」
「さて、それは分からぬのぉ。個体によって様々じゃ」
つまり、俺たちを殺そうとした銀影は、いずれまた現れるということだ。
なんとか、防御と攻撃の手段を整え無くちゃだな。
もしくは、俺たちが歴史を変えるつもりはないことを、理解してもらうか……か。
後者の方が現実的な気がするが、俺たちが歴史を変えない保証なんて、それはそれで、どこにもないといえた。
まぁ、分からないことを考えても仕方ない。
俺は銀影のことは、取り敢えず横に置いておいて、当面は商売のことを考えることにしようと決めた。
銀影のことは、彼女が再び現れた時に、対処の方向を決めようと思う。
「やあ、おはよう! 軽く何か食べに行こうか」
朝。起床して宿の外に出てみると、鮑叔が行商の荷物の整理を行っていた。
ちなみに、荷物が乗る荷車は、馬車ではなく牛車だった。
鮑叔以外にも、彼の部下らしき男たちがいたので、会釈を交わした。
いずれ、紹介し合うこともあるだろう。一応、同僚ってことになるのだろうし。
管仲は何処かに出ているようで、俺と風花、鮑叔の3人は、連れ立って飯屋に向かって歩いた。
風花が俺の腕を取って密着して来るので、とても歩きづらい。
何だコイツ? 一体何がしたいんだ??
「随分と兄妹仲が良いんだね? 昨日はそんな感じでも無かった気がするけど?」
「私は兄が大好きですから! 管仲様と鮑叔様に拾って貰って、やっと安心してイチャつけるわけです!」
「ははは。それは僕も甲斐があったってものだね。重畳、重畳」
うーむ。やはり風花には、どこかか誤解があるようだな。
【一緒に生きていく】とは言ったけれど、これじゃぁまるで恋人だ。
でもまぁいいか。
敢えて訂正して、気分を害すのも面倒なことになりそうだし。
取り敢えず、右腕の取り憑いた【引っ付き虫】は、無視しておこう。
「鮑叔さん。曲阜には、あとどのくらい滞在するのですか?」
「今日には出る予定だよ。反物を仕入れることが出来たからね」
「魯は、反物で有名なんですか?」
「そうだね。絹糸の生産地としてよりも、織物が有名かな。魯国で作られた反物は、他国で高く売れるはずだよ」
「それじゃあ、それを売りに、他の国に行くってことですよね。次はどこに?」
「予定では、まずは曹に行こうと思っている。それからさらに西に向かって鄭に戻ろうと思っているんだ。斉水に沿って移動する感じかな」
おうふ! 音で聞いてもなんのこっちゃ分からん。
そういや、そもそも地名や地図や頭に入っていないのだから、聞いたところで分かるワケがないんだよなぁ。
ちょっと、風花に聞いてみるか。小声でね。
(なぁ風花。曹ってなんだ?)
(魯の西に位置する小国じゃな。とはいえ、春秋十二列国に数えられるほどの国じゃがな)
(周王朝の下には、どのくらいの国がぶら下がっているんだ?)
(200くらいの都市国家があるようじゃのぉ)
(そんなにあるのかよ!)
(曹よりも小さな国となると、強い国の庇護の元で、細々と存在していることが多いからのぉ。それらの都市国家は、影響下にある強国の一都市、属国と考えて問題ないじゃろな)
(そんじゃ、その春秋十二列国ってのを覚えておけば、問題ない感じか?)
(概ね、そう考えて問題ないのじゃ)
後で詳しく聞いたところによると、十二列国は【晋・斉・楚・秦・魯・宋・衛・陳・蔡・曹・鄭・燕】が、それに当たるらしい。
正直覚えられる気がしないから、毎回、風花に聞くことにしようと思った俺であった。
「鄭に【戻る】ってことは、鮑叔さんたちは鄭に住んでいるんですか? 鮑叔さんは斉国の大夫の息子さんでしたよね?」
「仮の拠点を鄭に持っているんだよ。鄭の太子忽様とご縁があってね。今の僕は、太子に半ば仕えているようなものなんだ」
(太子というのは、君主の息子のことじゃな。要するに鄭国の王子様の一人じゃ)
風花が機転を利かせて、耳打ちで教えてくれる。ええ子や。
「菅さんは、がっつり商人をしているけれど、僕は各国の調査の任を太子から命じられているんだ。あ、これはオフレコだからね? 仲間以外に言っちゃダメだよ?」
「わかりました! 絶対に口外しません」
「はは。そこまで気張らなくてもいいさ」
そうこうしているうちに飯屋に到着し、朝食をとる。
メニューは、麦を煮た粥のようなものであった。
味付けはもちろん塩味のみで、不味くはないが、決して美味くはない。
俺は、食生活の改善に早めに手を付けねばと、心に誓った。
しかし、その食生活を改善するためにも、まずは金を稼がなくては話にならないのだ。
「そういえば、風英。何か商売のアイデアは浮かんだかい? 君の突飛な発想には、管さんだけでなく、僕も期待しているんだ」
「はい。なんとなくですが、当たりはつけてあるんです」
昨晩、俺と風花は話し合って、当面の商売のネタを考えておいたのだ。
「ほほぅ。それは是非、聞かせて欲しいね。僕は出資者になるわけだからさ」
「ええ、勿論です。俺たちは【紙】を商おうと思っています」
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