宝貝少女の能力の秘密
第4話の投稿となりますが、
実験的に12時に投稿してみます。
余裕があれば17時に第5話の投稿もしようと思います。
ご一読いただければ幸いにございます!
管仲に行商を手伝わないか? という誘いを貰った俺と風花は、詳しい話を聞くため、近くの飯屋に場所を移していた。
払いはもちろん、貴族な鮑叔さんの奢りである。
風花が、じとっとした目でコチラを見ている。
美味い飯を食わせるという約束を、反故にされたからだ。
だって仕方ないじゃないか。
この時代の飯がこんなに不味いなんて、予想できるわけないだろう?
中華料理だぜ、中華料理!
美味い飯の代名詞みたいなものだから、俺も安請け合いしていたわけだけど、まさかこんなに不味いとは……。
いや、不味ってのは言いすぎか。普通だな、普通!
【川魚と野菜の煮込み】
味付けは塩のみ!
良く言えばシンプル。素材の味を活かした系だな。
だけど、こう……なんていうの? 先入観があるじゃない? 中華料理に対するさ。
強火で豪快に調理されて、辛かったり甘かったりと、メリハリがあるガツンとした味付けの旨い料理、っていう(俺の勝手な)イメージからかけ離れ過ぎているんだよなぁ。
だが、奢ってもらって不満そうな顔はできないから、俺も風花も美味しそうな表情を作って食べていた。
テーブルの下で、俺の脛がガシガシ蹴られているように思えるけれど、多分気のせいに違いない。
「どうだ。美味いだろう? 寂れた住民区の飯屋だけど、斉水※で揚がった魚を使っている、中々にいい店なんだ。僕が見つけたんだぜ?」
(※斉水:魯国に流れる川の名前)
「あ、はい。魚と野菜の出汁が良く出ていて、自然の味が上手に活かされていると思います」
鮑叔が自慢げに言うので、笑顔で応える……うん、嘘は言っていない。
「ほほぅ。風英殿は、料理にも造詣が深いようですね?」
管仲の目がキラリと光る。
「そ、そうですね。病で外に出られませんでしたので、たまに料理場を冷やかしていましたから」
「魯国は、文化的に発展した国です。料理の水準も高いのでしょうね?」
「いえ、兄はいつも変な料理ばかり作っていました。魯の伝統的な料理は作れないと思います」
ナイスフォローだ風花!
実は俺は料理が得意な方ではあるけれど、この時代の料理のことを質問されても答えようがないのだ。
「例えばどんな料理を作っていたのですか?」
おっと、管仲の質問が止まらないぞ。俺の料理の腕を聞いて、どうしよっていうんだ?
しかたない。ここは当たり障りのない回答をしておくかね。
「まぁ普通に……焼いたり揚げたり? あ、個人的には蒸し料理が好きですね。しつこくなくて美味いですし、余り手を掛けずに作れますから」
「焼く? 揚げる? 蒸す? 【揚げる】というのが分かりませんが、それにしても随分と挑戦的ですね……」
え? それってチャレンジングなん??
これが珍しかったら、もう【煮る】しか残ってないじゃん。
この時代の料理関係の常識について、あとで風花に聞いておかないとだな……。
教えてくれるかは分からんし、この時代の飯が美味くないことを知らなかったようだから、そもそも知らないのかもしれないけれど。
風花って、もしかしたら【何でも知っている】ってわけじゃなくて【何でも情報を引き出せる】だけなのかもしれないな。
だから意識的に情報を引き出さない限り、素の知識レベルはそんなに高くないのだろう。
まぁそれでも、俺なんかよりは随分マシなんだろうけどさ。
「そ、それはともかくですね。本当に俺たちを行商の仲間に入れてくれるんですか? 管仲さんたちにメリットがあるようには思えないんですけど……」
「そんなことはありません。私は風英殿の突飛な発想に、大いに価値を見出しているのです」
突飛な発想? ああ、変な服をデザインしていたっていう、風花が創った【設定】ね。
あと料理の件も追加されてんのか?
「発展を、現状の延長線上に求めることは、実は限界があります。着想の時点で視野が狭くなっているのです。発展とは、時に現状を破壊して生まれるものだと、私は考えます。その点で、風英殿の突飛で破壊的な発想は、実に面白いのです。きっと我々の商売にも、良い影響を与えてくれるでしょう」
「それは買い被りすぎってものですよ」
「さて、どうでしょうか……。例えそうであったとしても、それは私に見る目がなかったと言うだけの話です。風英殿が気を張る必要はありませんよ?」
「そう言っていただけると、多少気が楽になりますね」
「ええ、是非、気楽に検討してみてください」
「お給金は頂けるのでしょうか?」
ナイス風花!
それ、俺も気になってた。
「そうですね。我々が提供するのは、まずは衣食住。そして、出資です。それを原資に、貴方達が主体的に動いた結果として利益が生まれた場合、その内の1割をお渡ししましょう」
ふむ。悪い話ではないのかな?
そもそも得体の知れない、素寒貧な俺たちに、出資をしてくれるというだけで、随分と有難い話なのだ。
1割ってのは、結構厳しいけど……衣食住を保証してくれるって話だしな。
でも、利益が上がらなかったら? その場合はどうなるのだろう?
「もし赤字を出してしまったら?」
「もちろん、貴方たちが作ってしまった負債は、そのまま負債として、貴方たちに負っていただきます。ですが、無慈悲に取り立てるような真似はいたしませんよ」
ま、そうなるよな。
リスクがあるからこそ、それを回避するためにも、必死になれるということもある。
管仲さんてば、うまい具合に飴と鞭を使ってくるね。
管仲側にリスクが無いようにみえるけど、実はそうでもない。
俺たちが赤字を出したとき、俺たちからその負債を回収できるとは限らないからだ。というか、現状、一文無しの俺たちから回収するのは、限りなく不可能に近い。
奴隷とかとして、俺たちを売ってしまえば、回収は可能かもしれないけれど、多分、管仲さんも鮑叔さんも、それはしないと思う。
「承知しました。是非お手伝いさせてください!」
今日はもう遅いということで、飯屋の近くにあった宿に泊まらせてもらうことになった。
宿代は、管仲と鮑叔に対する負債にはならない。衣食住を保証して貰っているからね。
「しかし、なーんもない部屋だな」
「そうじゃのぉ」
「この時代の宿って、これが普通なのか?」
部屋としての体はとられているのだけれど、これはもう、只の四角い空間でしか無い。寝具が用意されているだけだ。もちろん、トイレやお風呂なんてありはしなかった。
ちなみに、兄妹設定の俺と風花は、同じ部屋をあてがわれていた。
「……そうじゃの。多分、そんなものじゃろ」
多分? なによ? その曖昧な回答。
「お前さー。実は、なんでも知ってるってわけじゃないだろう?」
「そ、そんなことは無いのじゃ!」
「ふーん。そんじゃ、周王朝だっけか? そこの王様は誰よ?」
「BC707年じゃから……えっと、桓王じゃな!」
「そんじゃ、魯国の王様は?」
「諸侯なので、厳密にはいえば王様ではないのじゃが、魯を治めているのは……桓公じゃな」
「ふーん。そういや、ここの宿代って幾らくらいなん?」
「そんなことは知ら……教えんのじゃ!」
「じゃあ、この時代の通貨は?」
「……青銅貨幣……じゃの。(小声)多分」
(多分、つったなコイツ)
「いや、そういうんじゃなくてさ、俺が聞きたいのは通貨の【単位】だよ。 元? 円? まさか、$ってわけじゃないよな?」
「お、教えんのじゃ! 妾は、なんでも教えてくれる便利アイテムじゃないと、言ったはずじゃぞ!」
「なんでだよ? それは俺が楽しすぎると、女媧様的につまらなくなるからって話だろ? 通貨単位を知ったところで、別に大した影響はなくないか?」
「む! ぐぬぬ……」
やっぱり、コイツ、情報が偏っている気がするんだよな。
本当に教えられないって場合もあるのだろうけど、【知らないことは知らない】って線も濃厚だと思う。
なんだか、妙に悔しそうにしてるし。
「分かった。まぁ無理に追求はしないさ。でもさ、頼むからこれだけは教えてくれないかな? いや、如何にお前が優秀な宝貝であったとしても、流石にこれは知らないかもしれないが……」
「ふふん! 妾は何でも知っているのじゃぞ! 言ってみるがよい」
「そんじゃ頼む。【ピカチ○ウのオムライス】の作り方は?」
「簡単じゃ! まず、ピーマンと玉ねぎと、ソーセージをみじん切りにするのじゃ。次に人参を500Wのレンジで40秒~50秒……(以下略)」
「はいっ! そこまで!!」
「はえ?」
山勘だったんだけど、こりゃあ、どうやらビンゴだな。
【ピカチ○ウのオムライス】は、某レシピサイトで人気のキャラ飯だ。
手慰みで何度か作ったことがあるから、作り方は記憶していたんだよね。
可怪しいと思ってたんだよ。
そもそもJOKAPEDIAの生みの親である女媧様からして、全知全能の神ってわけじゃないっぽかったんだ。
孔廟大成殿で張り込んで、拉致しても問題ない(大ありだけどな!)人間を探していたこと自体がまず、全知全能感がまるで無い。
そんなん、ちょちょいと条件に合致する人間を、神様のデータベースやらからでも検索して、手元にシュッと呼び寄せりゃいい話なんだよ。
全知全能の前半部分、【全知】ってのは【この世のあらゆることを知っている】ってことだろう?
つまり、女媧様は拉致る対象を【探さなければ見つけられなかった】のだから、すでに【全知】ではありえない。
そんな女媧様が造った宝貝であるJOKAPEDIAもまた、【全知】ではありえない。
それに、女媧様は、JOKAPEDIAを、ささっと片手間に造ったみたいだったし、そこまで高性能だとは思えないんだよな。
で、だから俺は、こんな山勘を張ってみたわけだ……。
「風花、お前さ。インターネットに繋がっているんだろう?」
「な、なななな、何を言うのじゃ! 妾はぐー○る先生になんか繋がっていないのじゃ!」
あ、語るに落ちてら。
グー○ルを起点にして、ネット検索しているってわけね。
要するにJOKAPEDIAはネット検索専用端末ってわけか。
「そっか、そっか。お前ってば、ネット検索端末だったんだな」
「ぬおぉぉぉ。ぬかったのじゃぁーーー」
風花は頭を抱えて蹲ってしまった。
なんだか少し、心が痛い。
仕方ない、ちょっと持ち上げておくか。
「でも、それって凄いよな! 2700年以上も未来のネットワークに繋がっているってことだもんな! さすが宝貝! さすが風花さん!!」
「そ、そうじゃろ? ふふん! 妾は、やっぱり凄いのじゃ!!」
あ、簡単に機嫌が直った。やっぱりチョロいな。
まぁ、実際のところ、俺も本心から、ちゃんと凄いって思ってるけどさ。
「そんじゃ、ちっと、腹割って話そうか、風花」
「なんじゃ……改まって。どうにも気持ち悪いのぉ」
「き、きもっ!? いや、まぁいい。いいか? 俺たちは古代中国にタイムスリップしている。そうだよな?」
「わかりきったことを……。それがどうしたというのじゃ?」
「まぁ聞け」
これからの話は、今後の俺たちにとって、とても重要な話なのだ。
「恐らく、かなり過酷であろう時代で俺たちは生きていかなくちゃならない」
「妾たち? ……ふむ、まぁそうも言えるかもしれんの」
「そのためには、お前の凄い力に頼らなくちゃ、話にならないと思うんだよ」
「ふふん。妾は凄い力を持っておるからの!」
「ああ、そうだ。だけど、お前は過度な情報を俺に与えちゃならないんだよな?」
「無論じゃ、女媧様からそう命じられているからの」
「それだよ!」
「どれじゃ?」
「それってさ、違反したら、なにかペナルティとかがあるのか?」
「はて? そういえば、そんな話は聞いていないのぉ……」
いよっしゃ!
あんな短時間で造られた宝貝だ。罰則プログラムが組み込まれていなくても不自然じゃないと思っていたんだ。
「俺はさ、お前をパートナーだと思っている。これからここで一緒に生きていくんだしさ」
「……」
「女媧様は、お前の生みの親かもしれないけど、パートナーじゃない。女媧様はきっと、お前のことを子供だとは思っていないんじゃないかと、正直思っている。俺はお前を、ちゃんと守ってやりたいし、お前と一緒に生きていきたいと思っているんだ」
「……」
「だから、お前の力を貸してくれないか? これからの俺たちの未来のために!」
「……なんだか、プロポーズみたいなのじゃ///」
風花は頬を染めて俯いてしまった……。
あっれぇぇぇ???
「わ、わかったのじゃ。妾も……風花も、これからずっと……お前と一緒に生きていきたいのじゃ」
「そ、そうか。嬉しいよ……。あ、ありがとう?」
ま……これでいいのか?
結果オーライ……なのか?
そうして、俺が、もう後に引けないであろう未来を手に入れたとき、ソレは音も無く、何の前触れもなく、突然に現れたのだ。
「そんなこと許されるわけ無いだろう!!」
声がした方を見ると、見覚えのない女が一人、毅然とそこに立っていた。