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油を絞っていたら、また仙人が現れた

今日の更新はこの1回のみとなります。


感想等、心よりお待ちしております!

 さて、クッキングタイム開始!

 と、言いたいところだったのだが、風花(ふうか)に相談したところ、俺が作りたい料理は、今日一日だけでは作れないことが分かった。


「すいません、管仲(かんちゅう)さん。今日中に料理を完成させることは難しそうです……」

「そうですか……。随分と手間が掛かる料理なんですね?」


「料理自体は簡単なんですけどね。ただ、材料を用意するのに、どうしても時間が掛かるんですよ」

「市場に、その材料は売っていないのですか? 一体どのような材料が必要なのでしょうか?」


(あぶら)ですね」

「油……ですか? それであれば売っていたかと思うのですが」


「売っていたのは動物由来の油ですね。俺が欲しかったのは植物から造った油です」

「植物から油を造る……ですか? そういえば、胡麻(ごま)から油を造ることが出来ると聞いたことがありますね。しかし、そもそも料理に油を使うのですか? それこそ聞いたことがない」


「以前ちらっと話したかと思うのですが【揚げる】ってのをやろうと思っています」

「ああ、確かに聞きましたね。その【揚げる】という料理法に油が必要なのですね? 動物の油では出来ないのでしょうか?」


「出来なくはないです。ただ風味とかを考えると、植物油の方が良いと思いますね。それと、単純に植物油を造ってみたい! という気持ちが強いんです」

「なるほど、それは大いに同感です。新しい商材になり得るかもしれませんし、単純に楽しそうです……私も手伝わせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「もちろんですとも!」


 風花に調べてもらったところ、この時代では油を使って料理をすることは、一般的ではないらしい。

 では油を何に使っていたか? というと、主に燃料目的にであった。

 市場には、燃料としての動物油は売られていたのであったが、その目的に関わらず、植物油は全く見当たらなかった。


 例えば地中海沿岸などでは、BC(紀元前)3千年くらい、つまり、元の時代から5千年くらい前には、オリーブ油の生産が始まっていたらしく、中国でも胡麻(ごま)を原料とした植物油の製造が、古くから始まっていたらしい。

 だが、燃料として考えた場合、動物の脂肪の方が使い勝手が良いので、植物油はあまり普及していないのだと推測できた。

 固形で扱うことが出来る動物の脂肪の方が、流通面を考えれば優れているからな。


 では植物油の優位性とは何なのだろう?

 素直に、俺には良く分からん。

 【植物油の方が健康的】みたいな話もあるけれど、俺は眉唾(まゆつば)ものだと思っている。

 なんだか、商魂(しょうこん)が見え隠れしている気がするんだよね、あの(たぐい)のキャッチフレーズってさ。


 それじゃあ、なぜ俺が植物油を造りたるか? なのだけれど、単純にその方が【楽しそう】だからだ!

 無いものねだりっての? 無いものだからこそ、手に入り難いからこそ、それを使って料理がしたくなるのだよ。

 それに、植物や魚を調理するならば、植物油の方が美味しく仕上がりそうな気がするしね。

 なんとなく、だけれどさ。


「それではまず、木の実を潰しましょう!」

「「「はいっ!」」」


 俺の号令に、風花、銀影、管仲が応える。

 なんだかノリノリだな、管仲さんてば。

 もしかしたら、実験みたいなことが好きなのかもしれないな。


 日本のすり鉢みたいに、櫛目(くしめ)が付いた(はち)が欲しかったところだけれど、残念ながらそれが開発されるのはかなり先の話で、しかも日本発の道具らしいから、今回は諦めた(いずれは造ってみたいけれど)

 今回は、(わん)状の石の器と、石の棒を使って木の実を擦り潰すことにしていた。


「風英殿が、旅の道中で木の実を集めていたのは、このためだったんですね」

「そうですよ。油が多く含まれているアブラナが沢山あれば良かったんですど、そうもいかなかったので、色々な木の実や種を無闇矢鱈(むやみやたら)に集めた感じですけどね」


「ということは、アブラナを栽培すれば、油を計画的に産出できるというわけですね……。風英殿は、本当に色々な知識をお持ちでいらっしゃる……」

「いや、あははは……」


 4人掛かりで、大量の木の実を潰していく……。

 力のある銀影が活躍してくれたので、思ったよりも短時間に作業は(はかど)った。

 うーん、それでもやはり、ミキサーなりが欲しいところだな。

 太乙真人(たいいつしんじん)にでも頼んで、そんな機能の宝貝(ぱおぺえ)を作ってもらおうかなぁ……


「呼んだ? 呼んだよね? 呼んだ呼んだ♪」

「お前はオフ○スキーか!!」


 都合よく現れたのは、もちろんこの人、崑崙十二大師こんろんじゅうにだいしの一人【太乙真人】である。

 いや、ちょっと待て。

 これってむしろ、かなり都合が悪くないか……


「何処から現れた! このクソ仙人がっ!」


 ちょい待って風花!

 仙人とか言っちゃダーメ!!

 それと口調が元に戻ってまっせ?


「酷くなーい? 折角、崑崙(こんろん)山から出向いてあげたのにぃ」


 はい!

 アンタも崑崙とか言わない!


「太乙真人よ。懲りもせず、また、お館様を弟子に勧誘しに来おったのか? ご苦労なことであるな」


 銀影……お前もか……。


「仙人……? 崑崙……? 太乙真人……ですと? どういうことか、教えていただけますか? 風英殿」


 管仲さんの鋭い目線が俺に突き刺さる。


 ほらぁー面倒なことになっちゃったじゃんか!

 ほんと、太乙真人って空気が読めないんだな!!

 一般人の管仲がいるのに、突然現れちゃ駄目だろうに……。


「あっれぇー。もしかして普通の人がいたの? (うらない)仙境(せんきょう)関係者しかいないって出たのにぃ。おっかしいなぁ……」


 太乙真人が周りをキョロキョロ見渡して、管仲のところで目線を止めた。

 管仲も、涼しい顔でそれを見返すあたり、肝が座ってら。


「……民衆に伝わる幾つかの伝奇(でんき)に、崑崙山の仙人・太乙真人という名は存在しますが、まさか……貴方がその本人だと? 仙人など、それこそ想像の産物でしかないはず……」

「お、君ってば物知りだねぇ。本来は簡単に正体は明かせないんだけど、風英君の仲間なら別にいいかぁ。んん……? ところで、君の名前はなーにかなぁ?」


「私は姓を管、名を夷吾(いご)、字を(ちゅう)と申します」

「管仲さんね。生まれはどこだい?」


「潁上……」

「潁上ねぇ……()王の(ゆかり)の地か。あの辺は傑物(けつぶつ)が生まれるというからねぇ。君もそうなのかな?」


「さて……。傑物であれば、商人に身を(やつ)すようなこともありますまい」

「ふーん。君は商人さんなのかぁ」

「ええ。いかにも」


 軽いリズムで交わされる会話であったが、どんどん空気が重くなっている感じがした。

 しかし、太乙真人は、管仲の何処に興味を持ったというのだろう?

 管仲にも仙骨(せんこつ)があるってことなのか?

 だけど、仙人は人間界を監視していて、仙骨を持った人間は放置しないって話だったから、管仲がそうである可能性は低いはずだ。

 あ、でも、太乙真人をみる限り、案外、仙骨の持ち主の把握漏れが多かったとしても納得できちゃうよなぁー


「んー。(わし)、今日は帰る」

「「「はぁ!?」」」


 俺と風花と銀影の声がシンクロした。

 なんぼなんでも、勝手すぎるだろ!


「なんか、この人気持ちが悪いしぃ」


 太乙真人は、管仲を指さして、顔をしかめた。

 いやいや、管仲は結構なイケメンだぞ?

 管仲の方を見てみると、突然の中傷に怒りもせず、困った顔で俺の方を見ている。

 ほんと、よく出来た人だよ。管仲さんは。


 流石に怒るべき場面だと思って、俺の先生(管仲)を中傷したことに文句を言おうとしたのだが、太乙真人は既に煙となって消えてしまっていた。


「……一体何だったんだ?」

「クソ仙人のことなど、理解しようとすることが無駄です」

拙者(せっしゃ)も風花に同意だ」


 風花の口調が戻っていることは幸いだが、これで俺たちが仙人の関係者ってことが管仲にバレてしまったなぁ。

 どうすんべか?


「不思議な人……でしたね?」


 おっと、それで済ますか管仲さん!?

 いいのか? 乗っかっちゃうよ?


「えっと……まぁ、変わった人だというのは間違いないですね」

「何故か懐かしい感じがしました。会ったことは無いと思うのですが……。仙人だとおっしゃっていましたが?」


「あー。なんか、そう自称してますね。俺も会うのは2回目なので、真偽のほどは判らないんですけどね……」

「煙となって消えましたから。仙人か奇術師か……いずれにせよ、常人では無いでしょう。ですが、悪人には見えませんでした」


「そう見えましたか?」

「ええ、直感ですが。それに風英殿も警戒をされていなかった様子。少なくとも敵ではない。そういうことなのでしょう?」


「俺はそうだと思っていますけど……管仲さんは、それで良いんですか?」

「構いません。風英殿のことは信じています。ふふ。可笑(おか)しいですね。私はあまり、直感で事を判ずる性質では無いはずなのですが……風英殿に会ってから、どうにも調子が狂ってしまっている」


「なんかスンマセン……」

「いえいえ。不思議と悪い気はしておりませんし、自分に新たな発見が出来たようで嬉しいんですよ。ささ、邪魔が入ってしまいましたが、油造りを再開いたしましょう」


 管仲は何事も無かったように、木の実潰しを再開しだした。

 それ以上、俺たちに何かを聞くつもりはないらしい。


 頭の切れる管仲さんのことだ。

 会話の流れで、俺たちが仙人の世界に関わりがあることは分かっているのだろう。

 だけど、管仲はそれを追求しない。

 つまり、俺たちを本当に信じてくれているのだ。

 恐らく、いつかそれを話してくれるだろうことも含めて、俺たちを信じてくれているのだ。


 ――その信頼には応えなくてはならないな


 そう思うあたり、俺も随分と管仲のことが好きらしい。

 とりあえず、管仲を『気持ち悪い』と言いやがった太乙真人は、今度会ったら殴ることにしとく!

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