2500文字で書いてるんだけど、少なく感じるのは一種の病だろうか?
攻略指導室から辞して、アカデミーの食堂へと向かう。
幾つものダンジョンを抱えるアカデミーの土地は広大だが、校舎が存在する以上、多くの人と活動範囲が被る。決して多くはない知り合いに手を振りながら移動し、食堂へ到着した。
昼時の食堂は騒々しい。食器の擦れる音や、多くの生徒達の談笑が耳朶を響かせる。
適当に空いていたところへと座り、俺とメリネはあからさまに脱力した。
「あー。やーっと解放されたー」
「何か甘味を口にして気分を切り替えたいところだ」
「クレープでも買いに行くか?」
「どちらかと言えばパフェを食べたいな。チョコバナナだと尚良い」
「そういえばそろそろ新作の時期か」
「朝一で行くぞ。財布の用意は良いな?」
「問題ない。上から頼んでも十分にある」
良し、と頷く俺達へ注がれる好機な視線。それの発生源はトゥーネだった。
長耳をピコピコ揺らしながら、驚いた様に瞠目している。
「……どうした?」
テーブルの下で行ったじゃんけんに負けて、仕方無く訊いてみる。メリネは涼しげにメニュー表など確認しているから憎らしい。
「……授業中と、雰囲気が違くて、驚いた」
穏やかで、物静かな受け答え、と言えば聞こえは良い。が、探索者としては些かテンポが遅かった。
「だとさメリネ。引かれてるぞ?」
「私ではなくエルだろ? 模擬戦で教官を降した時の事を言っているんだよ、彼女は」
「本気で来いと言われたから本気で行ったまでだ。メリネの方こそ、教師を泣かせていたじゃないか」
「余りにも検討違いな解釈をしていたものでな。思わず一つ一つ指摘してしまっただけだ。後から新米だと知って悪く思ったさ。もう少し加減するべきだった」
「両方の、事」
「「……」」
思わず押し黙る俺達。罵り合いは慣れすぎて最早じゃれあいの域に達しているから、途中で割り込まれるとどう返せば良いのか分からず困る。尤も、罵り合いまで発展する前に割り込まれた訳だが。
困っているのはメリネも同様らしく、態とらしくメニュー表なんかに視線を落としていた。
くそっ。それを俺にも寄越せ!
「はぁ。確かに、授業時と平時で印象は変わるだろうな。恐らく、トゥーネの見た俺達は学ぶ意識が強かった頃の筈だ」
真面目な学生をしていたのは二年前まで。後は興味の有る授業にしか顔を見せず、残りの時間はひたすら自分を高める為に使っていた。
積極的だった頃と比べれば、驚くのは無理もない。
「それはそうと、トゥーネはまだ授業を受けているのか?」
ダンジョンの探索が許されてから、授業は自由参加型と、完全予約制へと変わる。
自由参加型は復習の意味合いが強く、下の学年と混ざって授業を受ける。完全予約制は探索中、自分に足りない物が見えた生徒向けの制度だ。壁に当たった生徒が、教師に相談する構図、と言えば分かりやすいか。
「基礎のところを、ちょっと」
「そうか。おいメリネ、そろそろ交代してくれ。限界が近い」
「おいおい、私よりもエルの方がまだまともに交流出来ているんだ。もう少し頑張れ」
「なら気分転換にトイレに行かせろ。戻ってきたら引き継いでやる」
「早くしろよ? でなければ彼女の心が折れてしまう」
「早いか遅いかは膀胱に聞いてくれ」
その後の会話をメリネへと任せ、尿意に促されるがままに席を立ち、彼女等に背を向けて早足に歩き出す。
「ではトゥーネ、私から一つ言いたい。おっとり穏やかなのは良いが、もっとテンポ良く話してくれ。端から聞いているとストレスが溜まって仕方がない」
「……気を付けます」
メリネは攻撃的なマジレッサーである。
トゥーネが泣き出す前に戻ってこれる事を祈ろう。
祈りは通じなかった。
トイレから戻り、現場を目撃した俺は、思わず踵を返してしまう。
「何処へ行く? 早くこの状況をなんとかしてくれ」
若干辟易した様子で、メリネに引き留められた。
嫌々振り返り、もう一度トゥーネの様子を観察する。
「ぐすっ……ぐすっ……」
マジ泣きである。
鼻水を垂らし、顔を俯けてのマジ泣きである。
「お前さぁ、初対面の相手泣かすの何回目だよ」
「間違いなく二桁は越えている。そして分かった事が一つ。私は相談相手に向かないようだ」
「頭がトチ狂わない限り向いてるとは思わないから安心しろ」
メリネはセラピストとして不適材だ。受容だ共感だのをする前に、現実的な返しが出てしまう質である。
相談者が一番言われたくない事を的確に突く。それがメリネだ。
「それで? トイレに行ってる数分で何をどうすれば泣かせられるんだ?」
「それなんだが、エルフレルド。森人族の強みはなんだったかな」
「人間よりも魔力が桁違いに膨大である。それに伴い、世の理を書き換える魔法が使用可能。んで?」
魔術は魔法を根本的に別物だ。
この世の事象を論理的に起こすのが魔術ならば、魔法は世の理を好きに書き換える事が出来てしまう。
有り得ない事象を引き起こせる。具体例を挙げると、水中で火を生み出せるのだ。しかも、ちゃんと熱い。
「トゥーネは大半の魔力を喪失しているらしくてな。魔法を使えないんだ」
「致命的だなー」
「驚きが少ない、つまらん」
「ダンジョン探索の許可が下りて半年。森人族がパーティーから追い出される要因として考えられる物を挙げよ。そう言われて何が思い浮かぶ?」
「エル、私はお前のそういうところが好きだ。いちいち解説せずに済む」
「メリネ、俺はお前のそういうところが嫌いだ。言わなくても良い事を言うなよ」
オブラートを覚えてくれ。それか遠回しな言い方を学んでくれよ。
「まっ、トゥーネが森人族として欠陥品だという事は、最初から察しがついていたさ」
「っ……」
「なぁ、エル。お前は今、私よりも酷い事を言ったぞ? 見てみろ、水気が増したぞ」
「自身を惨めだと思ったんだろ。膨大な魔力が森人族の自慢だ。それが無くなったんだからな」
メソメソしているトゥーネを無視して話を締め括り、腹の虫が鳴ったので腰を持ち上げた。
「エル」
「日替り定食か?」
「あぁ、頼む」
「あいよ」と応えて、食券を買いに販売機に向かう。良い感じに人が少なくなっていて、スムーズに買えた。時折販売機の前で雑談する輩が居て、殺意を覚えてしまう。さっさと買え、そして退け。
「おばちゃん、日替り定食二つと肉うどん一つ」
因みに、うどんには七味唐辛子を振り掛ける派である。
単体戦力<越えられない壁<物量。
これがダンジョンの基本だと思ってる。