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結成! コミュ症パーティー!

 済まない、わたしだ。

 迷宮ダンジョン。それは世の理から外れた世界の財産である。

 ダンジョンからは有りとあらゆる鉱物が採れ、畑が有り、水が有り、人が生きるのに必要な全てが揃っている。

 何度も何度も滅びてしまう。そんな人類への神様からのお情け(恵み)である。

 ついでに、そんな情けない人類を鍛え直す役目もあるのか、ダンジョンには魔物と呼ばれる異形の化物が蔓延っている。なんの訓練も受けていない人が入れば絶対に死ぬ。訓練してても大体死ぬ。

 そんな鬼畜仕様のダンジョンは、果たして人類を生き延びさせたいのか、滅ぼしたいのか、最早分からない。

 けれど、金銀財宝を生み出すダンジョンにロマンを見出だす者達は確かに居て、人類のライフラインの維持に多大な貢献をしている。


 人は彼等彼女等を、探索者と呼んだ。


















 L字通路の角から顔を覗かせ、道の先に居る魔物を確認する。


「うっわ。骸骨(スケルトン)だ。最悪……」


 小盾と小剣を装備する骸骨を発見し、げんなりしながら相棒へ報告する。


 勉学の成績だけならトップクラスの相棒は、可愛らしく整った顔をしかめて、舌打ちをする。


「こんなところでスケルトンとは、どうやら、私達はツイていないようだ」


 薄紅色の髪を揺らし、息を吐いて壁に背をつける相棒。瞼を閉じている事から察するに、今回の探索は諦めたらしい。


「やるだけやってみるか?」


 今回のダンジョンは迷路型で、通路は二人並べる程度だ。その関係で、俺の装備も骸骨と全く同じである。


 小剣を軽く振って提案してみるも、相棒はゆるりと首を振った。


「止めておけ、勝てたとしても刃こぼれするだけだぞ。私も、もう魔力が怪しい。二回撃てたら御の字だ」


 暗に、後一度しか魔術は使えないと告げられる。


 生物には漏れ無く魔力が宿っている。それは魔物も例外ではなく、だからこそ厄介極まりない。


 スケルトンはゾンビよりも膂力は無いが、素早い。そして硬い。


 人類は魔力を使って骨や筋肉をコーティングし、一時的にだが倍以上の腕力を引き出す事が出来る。ついでに魔物も出来る。スケルトンは耐久力に特化していた。


 スケルトンを斬るより、岩石を斬った方が楽と言える程には特化している。


「はぁ。俺も魔術を使えればな」


「そうしたら、強化する分が無くなるぞ。器用貧乏のどっち付かずになるつもりか?」


「それもそうか。次からは剣と戦棍を常備しよう。斬撃の効果が薄い相手に、毎回げんなりするのも疲れる」


「仲間を増やすか? 斬撃と打撃で分けられるぞ」


「成る程、良い案だ。メリネ、お前が勧誘しろよ」


「良いだろう。その後の連携はエルに丸投げで良いな?」


「作戦立案は任せるぞ?」


「……」


「……」


 お互いに全く同じタイミングで溜め息を吐いた。


 仲間を増やすなんて、コミュ症二人には荷が重い。勧誘出来たとしても、こうして一対一で会話する分には良いが、三人でとなると、俺も相棒も絶対に黙り込む。


 こうして俺とメリネがタッグを組んでいるのも、教師に引き合わされたからだ。


 単身でダンジョンに挑んでいた成績は良いが孤立している二人。教師は何を血迷ったか相性良く映ったようだ。


「帰るか」


「あぁ」


 後ろを警戒しながら、俺達は来た道を引き返す。


 ダンジョン探索から半年、俺達はまだ、一層も攻略出来ずにいる。


 俺とメリネが在席する探索者育成機関、王立マジシャンズアカデミーでは攻略階層が成績に加算される。


 成績が良ければ探索者に成ってから優遇されるし、別の道に進んでも融通が利く。逆を言えば、俺達はこのままだと冷遇まっしぐらという事だ。


 下っ端から成り上がれない訳ではないが、その間に同期はどんどん上に行く。距離は縮まるどころか広がるのだ。


 最低限、十層は攻略したいところである。




 ダンジョンから脱出を果たし、翌日を迎えた俺達は、攻略指導の教師に呼び出されていた。


 二人仲良くソファーに座り、対面でぴっちりスーツを着込む女教師にお小言を頂戴している。因みに、メリネと引き合わせた張本人がこの人だ。


「良いですか、二人とも? お二人はとても優秀なんですから、より良い成績を残して貰いたいんです。今の成績のままだと、小さなダンジョンにしか挑めなくなりますよ? 良いんですか?」


「命の危険が少ない、と解釈すると素晴らしく聞こえませんか? アーリー女史」


「先生と呼びなさい、エルフレルドくん」


「ふむ。命の危険が少ないのは良いが、老後の自慢にはならないな。イージーでもハードでもなくノーマルを目指す。今のところ、私達の目標は十層なのですよ、アーリー教諭」


「メリネルアさんも、先生と呼んでください」


 女教師としては、勉学や体術の成績に相応しい立場に就いて貰いたいようだ。


 メリネは確かに、魔術に精通し、かつ新たな術式を発見し公表する天才少女だ。コミュ症である点を除けば、容姿も整っており、半年前も引く手あまただった。のだが、彼女の性格と、そして能力がいけなかった。


 メリネは魔術の威力を追究している。迷路型のダンジョンに苦戦していたのも、彼女の魔術が汎用性に欠ける事が一因だった。


 スケルトンを一撃で粉砕できただろう彼女の魔術は、通路の壁や天井を崩し、間違いなく俺達を生き埋めにしていたに違いない。


 結果、昨日のダンジョンでは探索系の魔術しか使えていなかった。


 アーリー女史の小言を聞き流しながら反省していると、指導室の扉をノックする音が響いた。


「あっ、来たようですね。どうぞ、入ってください」


 がちゃりと開かれる扉から、ぴょこりと耳を揺らしながら、森を思わせる黄緑色の瞳を持つ森人族(エルフ)が入ってきた。


 思わず、メリネと顔を見合わせる。


――何故エルフ?


――かつての私とお前を思い出すな。


――あぁ、成る程。


 半年前も、メリネはこのエルフの様に指導室へとやって来た。


 今回も、そういう事なのだろう。


「彼女はトゥーネさん。訳有ってパーティーから外されてしまいましたが、お二人の足を引っ張る事はないと確信していますよ」


「……こんにちは」


 満面の笑みで彼女を紹介するアーリー女史とは対照的に、トゥーネは表情を全く動かさずにお辞儀をして見せた。


「早速ですけど、トゥーネさんをパーティーに入れて、ダンジョンの攻略に励んでください」


 両手を合わせるアーリー女史。微動だにしないトゥーネ。天井を仰ぐメリネ。


 困った事に、コミュ症仲間が一人増えてしまったようだ。

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