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 金髪の美少女は店長をしばらく抱きしめていたが「そういえば初めて会うので自己紹介をしましょう」と言いだした。店長は死にそうな声で絞るように、俺は軽く自己紹介を済ませた。


 彼女はビーニャ・グルド・ロマーノフ・ザキヤマと言い、聖翼王タイチコフの第一王妃であるルクレの2番目の娘で、現在19歳だそうだ。店長がこの世界に戻った1か月後に生まれた正真正銘の娘であるとの事。


 なぜ初対面のビーニャが店長を父親であるタイチコフ・ザキヤマとわかったかというと「背中から生えている純白の翼が何よりも証拠ですし、親子だからなんとなくわかりました」と自信満々に言っていた。なぜ、根拠も無いのに自信満々なのかは謎である。


 父親である『聖翼王タイチコフ』の数々の冒険譚を聞き育った彼女は父親に憧れ転移魔法でこの世界にきたらしい。


 彼女の目的は『日本』に戻った父親を探し、一緒に住むこと。


 腰まで伸びる金髪に、吸い込まれるような碧眼の瞳、グラビアアイドル顔負けの豊かな容姿。全てにおいて完璧な調和がとれていて非常に美しい。後光が差すかのごとく滲み出るカリスマ性を持っており、優しく、落ち着いた口調でこれまでの事を話す姿は、まさに天性の王女様というべき存在感を放っていた。


 そんな彼女が母親達との回想を話しているが、なぜか怒っている。ぷんぷんと怒る姿もいちいち上品で麗しかった。

 

「お母さまったら酷いんですのよ!『タイチコフの事は忘れなさい』の一点張りで話も聞いてくれず、魔王だった第二王妃のルール叔母様も『ヤツを連れ帰ってきたって子供ガキが増えるだけだから面倒なんだよ!』って怒られたんですのよ!酷いと思いません?」


 店長は「ハハハ……」と乾いた笑いをあげながら脂汗をダラダラ流していた。

 あまりにも挙動不審だったので詳しく聞いてみることにした。



 聖翼王タイチコフ・ザキヤマの冒険譚には後日談がある。



 主要国統一を果たした彼の国は魔族、亜人、人間など人種や宗教など関係なく国民として受け入れる巨大で多民族な覇権国家として繁栄を謳歌していた。


 特に王であるタイチコフは、もともと持っている自身の力に加え、強大な国家権力を背景とした地位まで確立し、言ってみれば好き放題にできる立場を手に入れたのだ。


 そんな『タイチコフ』に気に入られれば将来の地位は約束されたものである。その影響力はすさまじく、ご寵愛を狙った魔族娘、獣耳娘、エルフ娘……さまざまなタイプの属性や性格の高貴な美女たちが王に群がってきたのだ。店長の言葉を借りれば「典型的なハーレムゲーって感じ。目の前で無数の女の子が僕を取り合ってるんだよ?まさにパラダイスだったよ」という事だったらしい。


 そして、彼は暴走する。


 子孫繁栄という大義名分のもと、次々に婚姻やハーレムの形成を行ったのだ。


「だって、この世界の時はそんな余裕なかったし、王様なのにいつまでも右手が恋人っておかしいじゃん?……色んな美女たちが僕に結婚してくれー!って迫ってきてビックリしたけど嬉しかったからできる限り応えてあげたんだよ!今にして思えば断れば良かったのかもしれないけど」


 店長は悪びれる様子もなくそう言った。


 その成り行きに任せた結果が、王后12人。妾112人。その他ハーレム要員198人という膨大な数の女性と関係を持ったのだった。


 5年間で生まれた正統な子供は15人。婚外子は109人。寝る間を惜しんで子作りを励んでいたらしく、その子孫繁栄ぶりに国民からは『聖翼王』ならぬ『性欲王』と揶揄されるほど呆れられていた。


 しかし、悲劇はそこで終わらなかった。


「いや~、あの時はホント人生最大のモテ期だったなぁ~。暴飲暴食がたたって、腹は出てくるし、頭は剥げてくるし、今にして思えば結構酷い姿だったと思うのに、モテにモテまくっていたよ~」


 店長はあっけらかんと語る。

 この鈍感力こそ店長のすごいところであり、困るところでもある。


 普通に考えればモテるとかそういう次元の話ではないことが明白である。


 強大な権力を持った王様が色を好むと噂があればどうなるだろうか?取り入りたい人たちはこぞって女性を差し出すだろう。すなわち、そういう政治的都合でひっきりなしに『そうゆう類の話』が舞い込んできたのだ。少々腹が出ようが、頭が禿げようがどうでもいい事なのだ。


 無節操に際限なく増える血筋は将来の混乱しか生まない。その上、関係者達の身分保障の費用や諸問題も深刻だった。店長はかなり言葉を濁していたが、もはや個人ではどうにも対応できないレベルまで膨れ上がっており、国家問題として各担当大臣が頭を悩ますレベルだった。


 だから、危機感を感じた王妃たちは共闘し対策をした。


「ホントに酷いんだよ~!みんなで寄ってたかって引っ叩かれたり、縛られたり……しまいには、てっ!貞操帯なんかもつけられたりぃ~」


 嗚咽を漏らしながら涙を流し、店長は語った。

 呆れてしまって言葉が出なかった。


 しかし、知恵を出し合い様々な対策を打ち出したが、本人の性格的な問題から残念ながら効果が表れなかった。


 こうなると、残された方法は一つしかない。


 それは、元凶であるタイチコフを消す事だった。


 しかし、万の軍勢すら容易く屠るチート能力を持つ聖翼王を暗殺することは不可能に近い。だから、王妃たちは転移魔法を発動させて元の世界に強制送還させる事にしたのだ。


 ビーニャが生まれる1か月前。その作戦は決行され、タイチコフは元の世界に強制送還され、『崎山 太一』に戻った。こうして聖翼王タイチコフの冒険譚は内ゲバという形で幕を閉じたのだった。





 俺はさっきまで、同志と思い喜んでいたのを非常に後悔し頭を抱えた。だから蔑むように店長を見つめた。


 そんな店長も思うところがあるのか頭を掻きながら反省するように語りだした。


「僕もあの一件以来、反省してね……そういう色恋沙汰は二度としないって誓ってるんだよ」


「でも、店長。たしか、恋愛シュミレーションゲームしてましたよね?それに例のスマホゲームも恋愛要素っぽい感じがあったような……」


「現実には居ない二次元はべ・つ!……それに!『ラブます。』はプロデューサーだから!応援する立場だからぁ!」


 立ち上がり、力強く否定をする店長の顔は大まじめだった。


 俺は頭を抱えそれ以上何も言わなかった。今更ながら『やっぱり残念な人だ』とため息が出そうになった。


『娘はこんな父親をどう思うのだろうか?』


 恐る恐るビーニャを見る。


 そこには自信満々に腕を組み、うんうんと何かを理解したように頷く姿があった。その姿だけでも驚いたのに、その上で彼女の口から放たれる言葉に耳を疑った。


「……禁欲の誓いを立てて、過去の過ちを悔い改めたというわけですね?それに、“にじげん”や“ぷろでゅーさー”という単語はよくわかりませんが、人を応援したいという熱い気持ちは時として、他者から見れば色恋を想像させる場面です。相手が女性であれば、なおさら勘違いされやすでしょう……なるほど、理解しました」


「はぁ?」


 思わず素っ頓狂な声を出してしまった。どこをどう聞いたらそういう風に理解できるのだろうか?


「でも、その誓いはもう必要ありません……私はお母さま達のお父さまへの無理解を常々不思議に思っていたのです。強い子孫をより多く残すことこそが国の繁栄につながるのではないかと……現に、私も含め、大英雄タイチコフの子孫には、強力な生まれ持っての特殊スキルや、魔法適正などが最低一つは持っています。これは神がゴンドワナにタイチコフの子孫を多く残すようにとの啓示でしょう。お母さま達はどう思っていようとも、私はお父さまを信じます!」


 波風を立てないように静観を貫いたが、心の中で『おいおい……なんてこった。この娘はあっち側の人間だったか。……蛙の子は蛙ってことか』と残念に思った。


 とんでもないビーニャの発言が続く。


「さあ!お父さま!過去の贖罪は済みました!もっと子孫繁栄に努めましょう!」


「いや……実は、あの一件以来、生身の若い女性がトラウマになっちゃって近寄れないっていうのもある。近くにいるだけでも震えが止まらないの。話したりスキンシップするなんて恐ろしくて固まっちゃう!」


『なるほど。このコンビニに若い女性のバイトがいないのも、さっきからビーニャが触ったり、抱きついたりしたら死にそうな顔で固まってたのもそういう理由があったからなのか。というか、それだったら禁欲なんて誓わなくていいんじゃないの?触れられないんだし。というか、もう贖罪とか関係なくね?』


 俺は納得したように静かに頷いた。


「過去の呪縛が足枷となり、未だに苦しんでおられるのですね?それなのに……私ったらうれしさのあまり気軽に触れるなんて……ごめんなさい」


 少しだけ涙を浮かべ俯くビーニャ。

 娘の涙に、いそいで近寄る父。


「そういうつもりで言ったわけじゃないんだ!……すまない。情けない父親で」


 ビーニャが店長の手を取って見つめる。

 店長は一瞬だけ体をビクつかせたが、我慢しながらぎこちない笑顔を見せた。


「うれしい……遠い異世界のお父さまは……やはり、私の理想通りの優しいパパ!」


 ビーニャは涙を流しながら抱きついた。

 店長は顔を真っ青にしながら耐えていた。


『普通は感動の再開シーンなのに……何とも、残念な感じだな』


 二人の光景を俺は非常に白けた感じで眺めていた。


 彼女のその周りの見えなさや、思い込んだらどんな悪評でも良いように考えてしまう感じは本当に親子だなぁと思う。


 外から見えるところは全て完璧であるが故に非常に残念な性格であった。


☆  ☆  ☆


 しばらくして、話題は魔物の話になった。


「まさか、この世界にキュクロプスバットが居るなんて思いもよりませんでしたわ」


 シュンとうな垂れて語るビーニャ。


「あの魔物……知ってるんですか?」


 ビーニャはキョトンとした顔をして「……ええ。それがどうしたんですの?」と呟いた。

 俺は店長に詰め寄る。


「店長!知ってるんだったら言ってくださいよ!」


 店長は「う~ん」と腕を組みながら考え込み、絞り出すように答えた。


「正直……覚えてない」


「え~!?」


「しょうがないですわ。偵察によく使われる下級モンスターで、一般兵士でも屠れる程度の存在ですもの……かの大英雄タイチコフがそんな魔物いちいち覚えているはずがありませんわ!」


「な……なるほど。で、どこで襲われたかわかる?」


「こちらに転移してきてすぐでしたから……場所まではよくわかりませんけど……とっても大きな池がある公園のような場所でしたわ。池の真ん中には島があるぐらい大きな池です」


「島がある大きな池?」


「たぶん……水神公園だよ。ほら、あの陸上競技場の隣にある公園」


「わかった!よく人が走ってる所ですよね?一周4キロぐらいある広い公園」


「そうそう」


 ビーニャは申し訳なさそうに俯きながら説明する。


「魔物は少なくとも3体は居ました。転移した直後、何かを探すようにウロウロしてたのが見えたので、すぐに隠れたんですけど……見つかってしまって。戦えない私はなすすべなく囚われの身になってしまったんですの」


「……でも、殺されなくて良かったですね。こうして無事に父親とも会えたのだから」


「確かにそう思うけど……ホント不思議だよね」


「なにがです?」


「いや、なんで生け捕りなんてめんどくさいことしたんだろう?」


「何か理由がある……と?」


「だってそうでしょ?抵抗したのだったら別だけど、無抵抗の人だよ?動画とかで見る魔物の感覚だったら、理由がなければ殺すでしょ?」


「う~ん。たしかに」


 店長のいう事は理にかなっており、非常に納得できる答えだった。


 俺たちはしばらくあーでもない、こーでもない、と話してみたが、結局は堂々巡りで明確な答えにはたどり着けなかった。


「……ところで、ユウくん。もう勤務時間だいぶ過ぎちゃってるけど大丈夫?」


「え!?あっ!すいません……もう、朝の6時か」


 いつの間にか、小窓からは朝日が漏れて、チュンチュンと小鳥の囀りが忙しなく聞こえていた。


「じゃあ、僕は帰ります。えっと……大丈夫ですか?」


 店長は若い女性が苦手であり、触られたりすると顔が真っ青になって死にそうになるらしいから一応確認する。


「えっ?何が?……ヒグゥッ!!」


 店長が何のことか気付かずキョトンとしてると、後ろからビーニャが店長に抱きついてきた。豚が絞め殺されたかのような声で店長は喘ぎ、口元には泡を吹きかけていた。


 ビーニャはそんなことお構いなしに、上品に笑いながら語る。


「ご心配痛み入ります。わたくしならお父さまもいるので大丈夫です!ごゆっくりお休みください」


『そうじゃないんだけど……まあ、家族の問題だから。頑張って。店長』


 店長はピクピクと泡を吹いて痙攣を起こして、気絶していたが無視して家に帰ることにした。


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