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異世界仲間

 謎の女性を休憩室で寝かし毛布を掛けたあと、彼女が起きたら説明できるように店長を残して俺だけすぐにレジに戻った。


「こんにちは~」


 「ピンポン♪」と誰かが入ってきた音と声が聞こえたので、その方向を向く。そこには制服を着た二人組の警察官が笑いながら近づいてきた。


 当然の事である。ここは法治国家であるから異常な騒ぎがあればソレを生業とする人たちが来る国なのだ。


『そんな国に魔物が出ること自体どうかしてるよなぁ』


 そんなことを思いながらにこやかに対応して、店長に報告するために休憩室に行った。


 休憩室の扉を開けるとあまり見たくない光景が目に飛び込んできた。


 そこには、上半身裸になったまま胡坐をかき、羽を生やしたまま例のソシャゲに熱中している店長が居た。


 色白で中年太りのおなかをズボンにのっけてる上に、「ふおぉぉお!」とか言いながらスマホをペタペタとアグレッシブに動かして熱中している。その姿はまさしく変態だった。奥で美少女が寝ているので、知らない人が見たら犯罪の決定的瞬間と勘違いされるであろう光景だった。


かなり頭の痛くなる光景であり何も言わず帰ろうかと思ったが、警察の人達が待っているのでそれはできない。恐る恐る店長の肩を叩き、事情を説明した。


「え~……今は、ちょっと困るなぁ~。実はね」


どうやら話を要約すると、生やした羽を元に戻すには時間がかかるらしい。


 身振り手振りを交えた説明は非常にわかりづらかったが、そういうわけもあって上半身裸なのだと理解した。『だからって……そんな姿でゲームしなくてもよくない?』と喉まで言葉が出かかったがなんとか我慢した。


「でも……お店どうするんです?警察の人の対応してたらレジに誰もいないですよ?」


「そんなの臨時休業でいいよ。警察も来てるし、非常事態なんだし」


 そう言って店長はそこらへんに落ちていた適当な大きさの段ボールに『りんじきゅーぎょー』と汚い字で書いて、渡してきた。


「よろしく!ユウちゃん!」


 満面の笑みで俺は面倒なパシリに任命された。仕方なく、俺は入り口に段ボールを掲げて……なんとも釈然としない思いを抱きながら、一人で警察の人に説明などの対応をした。


『しかし……この警察官の人も、なんとも慣れてるなぁ』


 隠してもしょうがないので女の子の事以外、正直に説明した。目玉型の蝙蝠にいたっては説明がしずらいってもんじゃなかったので、恥ずかしかったが絵にかいて説明した。


 しかし、普通の人だったらキョトンとする場面ではあるが、目の前にいる警察官の二人組は『ああ、またか』みたいな顔つきで特徴などを詳しく聞いてきた。その状況に少しだけ驚いた。


『……この日本でも頻繁に魔物が出没してるって事かぁ?』


 そう考えればこの警察官の対応も納得がいく。なんとも信じたくない事ではあるがそういう反応だった。

 30分ぐらい話をして、警察官の人たちは帰っていった。



 店は休みになったのでお客さんの心配は無くなったが、コンビニの仕事はそれだけではない。賞味期限が近い廃棄の弁当などの残務処理を急いでこなす。いつまで休みにするかは店長次第だが、朝までで賞味期限が切れるやつは廃棄すべきだろう。粛々と作業をこなしながら、別の事を考える。


「……終わったら、店長に話を聞かないと」


 あの時、確かに言っていた。

 店長は昔、異世界で冒険していたと。


『しかし、あの武器とかどうやってこの世界に持ってきたんだろう?その話を聞けば……もしかしたら、異世界に行く方法も、なにかわかるかもしれない!』


 店長の装備は明らかにこの世界ではありえないほどファンタジーな物で魔法的な強い力も感じた。どう考えても異世界の物であり、瞬時に持ってきたというのであれば、異世界に行く方法の手がかりになる事に間違いはない。 


『異世界に行ければ……エルに、会える!』


 その閃きに興奮し、通常の3倍のスピードで仕事をこなした。

 だいたい10分ですべてをこなして、店の電気を消して、休憩室に急いだ。


☆  ☆  ☆


 異世界ゴンドワナ。一つの超大陸の中で、魔族の国々と亜人の国々と人間の国々が日々覇権を争い戦争をくり広げる世界だった。


 23年前、この世界で両親を相次いで亡くした崎山ざきやま 太一たいちは、ホームレスとして日々を過ごし、死にかけたとき、異世界ゴンドワナの人間の国の一つに召喚された。


 そこから、太一の冒険譚は始まる。


 異世界で生まれ変わった崎山ざきやま 太一たいちことタイチコフ ザキヤマは召喚ボーナスとも呼ぶべきチート能力のおかげで、破竹の勢いで国の王様まで成り上がり、周辺の国々を次々と駆逐し、併合していった。そして1年後。魔族、亜人、人間の全ての主要国を併合した覇権国の王様まで上り詰めたということだった。


 ちなみに、背中から生えている白い翼から『聖翼王せいよくおう』の二つ名で呼ばれていたらしい。当時は今と違ってスリムだったのでモテていたと自慢した。


 俺は「へ~」と感心したが、店長は急に遠い目をして複雑そうな顔つきをした。


「……最後のほうは、ホント大変だった。この世界に戻ったときはホッとしたよ。」


「?……なにかあったんですか?」


「まあ……いろいろあったさ。初の種族統一国家の王だからね?今にして思えば、当時の僕は若かったんだなぁって反省してるよ」


「はぁ……」


 プライベートなことで心を深く傷つけたのだと思い聞かないことにした。


 国家を形成し、お互い戦争するぐらいプライドが高い種族たちを統一し、超国家作るなんて純然たる武力以上に、よほどの崇高な理念とカリスマ性がなければできないことだ。その王様だから政治的なキナ臭い事なんて日常茶飯事だったであろうと容易に想像できる。


『たぶん……親友とか近しい人を暗殺されたとか色々とあったのではないか?』


 ある意味、勇者として事をなしてすっきりと冒険を終えた俺なんかは良かったのかもしれないと思える口ぶりだった。


『冒険の中で仲間が傷ついたりたときなんか気に病んだもんなぁ』


 パーティメンバーに恵まれたので俺の場合は亡くなるということ事はなかったが、魔王ガルエンに殺された冒険者や人間はゴマンといた。多くの犠牲を払った上でたまたま異世界を救うことができたにすぎない。店長も同じような経験をしたのだろうと思う。


『きっと……禿げたり、太ってしまった原因も心の傷があるからだろう』


 ストレスで抜け毛が増えたり、過食をしてしまうということはあり得る話で、先ほどの異世界での激務を考えれば大きな心因的外傷トラウマを負ってしまい、結果としてこういう体型になってしまったと考えても不思議ではない。


 現在、過去をフラッシュバックして大量の寝汗と共に起きるということを繰り返しているので気持ちはわかるような気がした。



 だから、店長に秘密を打ち明ける決意をした。



 このコンビニで働き始めて2カ月。中年太りのオタクで気持ち悪いお金持ちという印象しかもっていなかったが、話を聞いて、同じ異世界で戦ってきた同志とわかり、親近感がわいたからだ。


「店長!……実は……」


 そう切り出し、異世界カミオンの事、そこで『勇者ユウ』として冒険していたことを話し始めた。


☆  ☆  ☆


 話を聞いた後、店長は少し驚いた顔をしたがすぐに「はっはっは!」と笑いだして握手を求めてきた。


「な~んだ。意外と近くにいるもんだね?異世界帰りの同志は……同じ、仲間だね!」


 少しだけ照れたが、笑いながら握手をした。

 なんだか、カミオンでパーティーを組んだ時の事を思い出して嬉しかった。


「じゃあさ……もしかして、あの魔物の口から火が出たのも?」


「はい。俺が魔法を込めて石を投げたのでそのせいでしょう。カミオンでは魔法剣士として武器に魔力を込めたりしてましたから、そういう戦い方に慣れてるんです」


「やっぱり……そういえば、武器の方は?」


 店長は小首を傾げて聞いてきたので、苦笑いを浮かべながら帰ってきた時の様子を話した。店長は「なるほど……不思議な転移の仕方もあるもんだね」と残念そうに語った。


 店長は変な魔法を唱えると、空間に魔法陣浮き出てきたので迷わず手を伸ばした。


「てっ!てんちょう!?」


「これはポケットスペースっていう魔法で、いろんな物を魔法で作った亜空間にいっぱい収納できる魔法だよ。昔からここに物をため込むのが癖でね」


 店長はそういって、魔法陣から一振りの剣を取り出した。


 それは特殊鋼で作られた非常に精巧に作られた剣で、様々な細かい紋様が彫り込まれたすごく高価そうな物だった。


 店長は勢いよく差し出したので、思わず受け取ってしまった。


 持ってみてわかった事は、その剣がかなりの業物わざものであるということ。そして、かなり上位の魔法を込めて戦っても大丈夫な代物だという事だった。


「そういう事情ならしばらくはこれでも使ったらいいよ。僕の持つ聖剣には劣るけど、国で最高の魔法武器職人が丹精込めて作った強力な剣だから」


「えっ!そんな大事な物……借りて、もし壊したら」


「これぐらいの物ならいっぱい持ってるから、壊しても別にかまわないよ。あっ!でもワザと壊したら別だからね?」


「そんなこと絶対にしません!!ところで……その魔法ってもしかして異世界と繋がっています?」


「??」


 店長は不思議な顔をしてまた小首を傾げる。なので、本題である異世界に転移したいという事を話した。そうすると店長は難しい顔をして腕を組み、そして複雑な顔をしながら残念そうに口を開いた。


「ごめん……そういう事だったら、ちょっと力になれそうにない」


 説明によれば、この魔法は魔力で亜空間を形成し物を収納、保存するもので自分の魔力で維持管理するモノらしい。


「なんでか異世界から帰ってきた後も維持されてて、ホント助かっちゃったよ!コレがなかったら今頃のたれ死んでいたからねぇ」


「??」


 店長は昔を思い出すように遠い目をしながらそう話してくれた。


「だから、僕はゴンドワナでこの魔法を覚えてから全ての物をコレに入れるのが癖になってたの。それは異世界から追い出さ……うっうん!帰ってくる直前まで!莫大な個人資産や貴金属、武器、防具、道具類も全て。この意味わかる?」


 途中でなぜ咳ばらいをしたのか気になったが、よく意味が解らなかったので「よくわかりません」と聞き返した。


「言っただろ?僕はこの世界じゃ元々家なき子だったんだよ?いきなり元居た世界に返されたら困るじゃん!特に……お金とかさ」


「……たしかに」


「幸い、この中にあった貴金属の多くがこの世界でいう金と同じ物質だったから、結構高値で売れたんだ。3分の1ぐらい売っちゃったけど、まとまったお金になって、それでこの辺のアパートとかビルとかの不動産を数棟買ってとりあえずの収入源にしたの。ちなみに、このコンビニの入ってるビルとか、ユウちゃんのアパートなんかも全部僕のだから、あしからず」


「!?」


 驚きすぎて固まってしまった。


「正確には僕の会社の物って言った方が正しいかな?『株式会社ゴンドワナ』って言うんだよ。多角経営の一環でこのコンビニのフランチャイジーもしてるんだ。まあ、株式は全部僕が持ってるから僕のって言っても間違いではないけどね」


「!?!?」


『なんてこった。不思議に思っていた店長の金の流れがこんなところで解明されるとは。しかし、異世界の貴金属をこの世界で売るって、なんてことしてんだよ!でも……いいなぁ』


 自由奔放……そんな言葉がしっくりくる店長を少しだけ羨ましく思った。


「そんな感じだから、異世界と繋がってるわけじゃないんだ……ごめんね。力になれなくて」


 申し訳なさそうに店長は頭を下げた。


 そんな時、異変が起きた。


 奥で寝ていた美少女が目を開け、上体を起こしたのだ。

 俺と店長は驚き、思わず美少女を見つめる。

 美少女は美しい瞳をこちらに向けた。


 美少女は店長を見て驚く。そして、涙目になり、嬉しそうに笑った。


「…………パパーッ!」


 驚愕の単語を叫びながら美少女は店長に抱き着いた。

 店長は突然のことで驚き、顔を真っ青にして今にも死にそうな顔をしていた。

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