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集中力を切らさないように、右腕に一個、左腕に二個、両足に二つずつに胴体を覆うように四つ。

展開した魔法陣に魔力を込めていく。

やがて、周囲の音や部屋にある物全てを感じなくなっていく。

目の前の患者と、自分の二人だけ。

そうしてしばらく、不意に、何かがつながる様な感覚があった。

ほどく様に幾重にも重なっていた魔法陣を慎重に魔法陣を霧散させていく。


彼女の顔は幾分か、表情が和らいだように見える。


魔法陣から色が失われていくと、レインは手を止めて考え始めた。


これは病などではなく、呪いだ。

科学が例外地域を除いて発達せず、魔法力学が進行し続けるこの世界においてその技術を知るものは少ない。

となれば、古い時代からの技術の継承・・・あるいはそこから生き続け(・・・・)ているか。


『・・・ィ・・ァ・・・!』


やけに騒がしい外に、レインは思考を中断させて部屋を出た。






◇◆◇◆◇






「だから何度も言ってますけど、無理なものは無理です」


「無理、無理ねぇ・・・」


家の外へ出て見れば、頭頂部のみを覆うヘルメットに鋼の胸当て。中途半端な腕鎧を着けた三人の兵士達が村人に詰め寄っていた。


「この人数が普通に暮らせてるんだ。もう少し余裕があるんじゃないのか?」


「勘弁してくれ!何度持っていけば気が済むんだ!」


悲痛に嘆く村人に、


「何度ったって、この村に余裕があるのは事実だろう?」


一人が譲る気なし、といった様子で返す。

すると、別の兵士も


「普段お前らを護ってやってるのは誰だと思ってる?」


「そうだ。俺たちだって慈善事業じゃないんだよ」


まくし立てる兵士たちを横目に、レインは隣の村人に問いかけた。


「あれは?」


「・・・ああやって、税だと言って色んなものを徴収していくんだ。食糧や、酷いときには何人か連れて行かれた」


「なんでああやって?」


「さあな」


苦々しげに言ったのは何度も行われているからなのか。

気付けばあの少女が近くに寄ってきていた。


「・・・どうか、したかい?」


少女の顔を覗き込むと、その顔は怒りに歪み顔を顰めていた――――


―――などということはなく、その顔は、ただ悲しんでいるように見えた。


「・・・・」


その顔を見て、レインは不思議そうな顔をした。戸惑うような、何かを思い出そうとしているかのような。

そうして少しの間考えるようにした後、もう一度、ゆっくりと疑問の声を投げた。


「お嬢ちゃん。どうか、したのかい?」


その問いかけに少女は答えず、首を少し振ると俯いてしまった。

レインはそれを見て押し黙り、前へ歩きだした。

まっすぐに兵士の元へと進んでいく。

そして、一人の兵士の前に立つと口を開いた。


「あんたら、どこの国の?」


「あん?なんだ貴様は」


レインは問いかけに答えない。

それどころか睨みつけてくる兵士に怯まずに、もう一度繰り返す。


「あんたら、どこの国の兵士なんだ?」


すると、一人が怪訝そうな顔をしながら答えた。


「俺たちはグルダ小国の者だ」


グルダ小国・・・レインの古い記憶が正しければ大陸一の王国から南下したところ、この村から北にある王国傘下の二国のうちのひとつだったはずだ。


「そのグルダ小国がなぜ離れた村に税の集金を?」


北にあるとは言ってもその距離は遠く、馬車で一日や二日で辿りつけるような距離ではなかったはずだ。

そんな距離にある場所への集金など、レインにはどうしても不自然に感じられた。


「お前にそんなことを話す義理はない」


苛立っているように早口になる兵に、レインは答えた。


「・・・それが、そうもいかないんだなぁ」


ふう、とため息をつくと軽い調子で、相手をからかうようにレインは続けた。


「私はこれでも魔術師でして、今しがた依頼を受けてこの村にやってきたのです。そして依頼は達成した。ならばしかるべき報酬をというのは理解できる話でしょう?」


「それがどうした」


「邪魔なんだよなぁ、あんたら。わけのわからん税を取りたてるくらいならその辺を走ってモンスターを狩ってる方がよっぽど役立つだろうよ」


「なんだと!」


激昂しかける兵士に、対するレインはひどく落ち着いた調子で答えた。


「現にあんたら、ここのとこ何回も来ているそうじゃないか。それも人まで連れ去って行ってる」


おかしいよなぁ、低い声でレインは言った。


「この村は税をちゃんと納めてる。それはさっきの会話でわかる。だが人まで連れていくってのはどういうことだ?」


レインがひと睨みしてやればに兵士は怯む。


「だ、だからお前に言うことなどないと言って」


そこまで言って、兵士の言葉は途切れた。

レインから見て正面、その後方100メートル程後ろに兵士の姿があった。


「な・・・」


見れば、周囲の人間全員が目を見開いて驚いていた。


「貴様、何をしたぁ!」


残った二人の兵士が剣を抜いた。

そのまま切りかかってくるのを、レインはため息をついて見ていた。

そして剣が触れるか触れないかのところで腕を小さく振るうと、先程まで見えていた兵士の姿がなかった。

今度は後ろに移動した兵士のさらにその向こうにその姿があった。


「な、なにを・・・」


状況をよく理解できていないらしい若い兵士の呟きに返す。


「わかんない人達だなぁ。俺はなんで人が連れて行かれてるのかを知りたいんだ」


あんたはそれだけ答えればいい、そう言ったレインを兵士は怯えの混じった目で見返した。


「待て、待ってくれ。俺は見ての通り若い。だからこの部隊でも下っ端で、ほとんど何も知らないんだ」


ふう、とため息をつく。兵士を見るレインの目は期待外れだとでも言うように興味を失っていた。

そのまま無造作に腕を振るえば、先の二人ともども、兵士たちの姿はもうそこにはなかった。

どうしたものかと頭を掻いて、そのままレインはこの後のことを考え始めた。

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