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once upon a time

さ、サーセン(震え


それは古い、古い御伽噺


その世界に生まれれば誰もが知るような、そんな物語


世界が終わろうとするその日のこと


五人の英雄が世界を滅ぼさんとする巨大な獣を打ち倒すまでの話



とある者は、一本のロングソードと、カイトシールドを手に取り、



ある者は数多の武器をその腕で振るい、



ある者は紳士帽とともに炎を統べ、



ある者は魔法を使い、



ある者は巨大な鎚を担ぎ、



またある者はこの世ならざる奇跡を起こした



幾度とない攻防の末


やがて、獣が一際大きく鳴いた時


ようやく獣は地に伏し、倒れた



真面目な者、陽気な者、荒くれ者や、丁寧な物腰に、最果ての聖女とその御付き。


この世を背負うようにして立ち向かった彼らの最後を知る者はしかし、誰もいなかった。



















◇◆◇◆◇◆◇



















数えきれない年月が立った。

神代はとうに終わり、護られた世界には魔物や人、亜人など様々な種族が繁栄した。

巨大な大陸が一つと、水を挟んでそれよりいくらか小さい大陸がいくつか。

それがこの世界、『リアンス』だった。


そんな世界の一番大きな大陸『アルテ』。

その王国が位置する中央から南東、大陸の端の森に走る影が一つ。


「っは、っは、っは」


背はあまり高くなく伸ばした茶髪が可憐な少女は、ひどく焦っているように見えた。


別段モンスターに追われているだとか、盗賊の姿が背後に見えるようなことはなかった。

傍から見れば普段大人しい彼女がなぜ急いでいるかはわからないだろう。


「どこ?どこにあるの?」


首を左右に振り、何かを探す少女。

彼女が探しているのは、一軒の家だった。

それも、存在するかすらわからないような。


「ない・・・どこにも、ない・・・」


足を止め、思わず項垂れる。

休んでいる間はない。しかし村から森まで、また、森の中でもずっと走り通しだったのだ。

特別体を鍛えていたわけでもない彼女にしては、むしろここまでよく持ったと褒められるべきだろう。


「お母さん・・・」


下を向いた目から涙が溢れてくる。

泣いている暇はない。そんなことはわかっている。

わかっているのに、涙は止められなかった。


(探さなきゃ)


懸命に上を見上げた時、少女の目に映ったのは青空・・・

ではなく木々の間から天へ昇っていく煙だった。

それも火を放ったような黒煙ではなく、灰色の煙。

少女は一瞬躊躇(ためら)ったが、涙を腕で拭って駆け出した。











◇◆◇◆◇◆◇












全面木製の暗い部屋で、男が一人。

分厚い本やら何やらで散らかった机に向かっていた。

両手の間からは淡い光が漏れており、それはどこか幻想的だった。


「もう少し、慎重にいけ・・・慎重に」


自分に言い聞かせるように呟く彼の手からは両の手の間にある魔法陣へと光の筋が伸びており、そこから光が漏れてきているようだった。


「よし。あとは、」


ちら、と。

隣にある紙を確認した時だった。


「ん?お、おお、これは不味いな・・・」


己の頬が引き攣る間隔を覚えながら、男は呟いた。


「しかもこの反応は・・・」


どうやら目を少し離した間に、光の配分を間違えてしまったようだ。

男がどうしたものかと悩むうちに、光はどんどん強くなっていく。

やがて直視できるかも怪しくなってきた時に、光が中心で凝縮した。


「あ、やば―――」


閃光が迸ったその直後、身体の芯まで響くような振動が男を襲う。


「うおぁ!」


椅子から転げて本棚にぶつかるや、数冊の本が落ちてきて頭に直撃した。


「・・・またやったよ」


ゆっくりと顔の上で開いた本をどけて、うんざりした顔で男―――レイン・グリッグスは呟いた。


「さっき、のは・・・光量からして式の暴走か。まあ、今回は、まだ、被害が少なかったな」


煙に咳き込みながらレインは呻く。

少ないとは言っても机の向かいにあったカーテン越しに窓を割ったらしく、発生した煙が逃げていた。

ぶつぶつと暴発に関しての考察を呟きながら立ち上がり、本を元に戻そうとしたその時だった。

扉が内壁にぶつかった大きな音が隣の部屋で響いたのをレインは感じた。


「お客とは珍しい、何年振りだ?」


風で扉が開いたのならそのほうがいいと思いながら隣の部屋へ続く扉を開けばそこには―――――


「・・・どちらさまで?」


――息を切らした少女が。


「あの、・・・助けてください!」


その言葉を聞くと、レインは少し顔を顰めながら呻くように言った。


「・・・俺でよければ」

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