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  ―― …… …… ――


 ――……なん、だ?

 なんだか、やかましい。

「……どこだ、ここ」

 どうやら床のようなところでうつ伏せになっているようだ。埃っぽい。

「……っつ!」

 起き上がろうとしたとき左の米噛みに激痛が走った。手で触れてみると腫れていることがわかった。しかも手が濡れた。心地良くない感触でこれが血であることがなんとなくわかった。

「後頭部、殴られたような気がしたけど……」

 痛むのは米噛みだけではなかった。左耳の横が地味に疼く。触れてみると腫れている。血は出てないみたいだ。米噛みが痛むのは、倒れたときに石段にぶつけたりしたのかもしれない。

「って、そんなことより」

 見える限りの周囲を見回した。だが、暗すぎて全くここがどこであるのかわからない。床に触れてみると、木であることがわかった。ただ、フローリングにしては荒いようだけど。

 どうやら小屋みたいところらしい。天井付近で雨がしきりに屋根を打つ音がする。それがうるさかった。

 ふらつきながら立ち上がり、さっきは見えなかった背後も見た。微かに明かりが漏れていた。といっても明かりといえるほどのものではなかった。黒の中に少し薄い黒が格子状に無数開いていた。

 近付いて確認しようと数歩進んだとき、何かがその前に横たわっていることに気付いた。

 ――なんだろう。明かりがあれば……あっ。

 明かりはある。僕はポケットへ手を突っ込み、携帯電話を取り出した。開くと液晶の明かりが芒と光る。カメラ機能を立ち上げ、ライト機能をオンにする。電話の背に強い明かり点いた。その明かりで照らす。

「桾さん……!」

 倒れていたのは桾さんだった。目を閉じ、仰向けに倒れている。

 駆け寄り助け起こした。桾さんの体はだらんとしていたが、温もりはあるし呼吸もしていた。ライトで照らしても外傷は見当たらなかった。

「良かった……」

 安堵の息が出た。

「……郷原、くん」

 桾さんの呼び声。彼女の顔を見ると、うっすらと目を開けている。

「桾さん、大丈夫? 何をされた? どこか痛む?」

「平気。それより、郷原くん、来て、くれたんだ」

 弱々しく桾さんははにかんだ。

「そりゃあ、だって――とにかく、無事で良かった……」

 本当に、良かった。だって、佐田さんが――佐田さん!?

「そうだ、佐田さん!」

「佐田さん?」

 僕は桾さんを助け起こした。携帯電話のライトが点いている方を上に向けて床に置き、桾さんの表情が見えるようにした。こんな状況なら当たり前だけど、桾さんは憔悴しているようだった。

「桾さん、佐田さんはどこですか? 桾さんは佐田さんにここへ連れてこられたんだよね?」

「えっ……」

 なぜか、数学の難題を途方に暮れながら取り組む生徒みたいな苦悶の表情を浮かべた。

「……あれ? 佐田さんは、関係ない?」

 だとしたら、僕は電話で誰と話したんだろう? いやそれよりも、いったい誰が桾さんをこんなところに? 僕もだけど。

「まあ、いいや。それより、ここから出よう。扉だよね?」

 僕は桾さんの背後を示して言った。桾さんは横へどこうとしたが、すぐにそれをやめて顔を伏せ、右手で口元を押さえた。表情は見えないけど、苦しんでいるように思えた。

「どうしたの!?」

 咄嗟に思いついたのが毒。僕らをこんなところに連れ込んだやつが、桾さんに呑ませたりしたのか、と思った。

「ゴメン、ちょっと、気分が、悪くなって。なんでもないよ。埃っぽいところにいたせいかな? それより、ここは、開かないの。外から、鍵かなんかされてるみたいで」

 手で口元を押さえながらのため、桾さんの声はじゃっかんかわっていた。

「えーと、そうか……でも、どうしよう」

 開かないとなるとまさに八方塞。もっと小屋の中を調べてみた方がいいかな。

「ちょっとこの中、調べてみるね」

 僕は携帯電話を手に取り立ち上がった。桾さんは僅かに俯いたまま、一度頷いた。それを確認して僕は振り返り、携帯電話の灯りを小屋中に撒いた。

「えっ……なんで」

 いるはずのない、いや、いるとは初め思っていた。だけど、今はその確信が揺らいでいた。それなのに――

 光に照らされた小屋の中。ここがそんなに広くないことを知った。がらんどうとしているが、ここは社なのかもしれない。僕らの背後四、五メートル後ろには壁があった。

 そこに、佐田さんが座っていた。

 溌剌とした短髪はくしゃくしゃになり、長い手足には無気力感が満ちている。頭からは血を流し、息をしている気配はない。

「ああっ……なんで……」

 佐田さんが、死んでいる。

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