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―― また だ また 一緒 ――
しばらく進んだT字路で、僕は左へ曲がった。佐田さんは右へ曲がらなきゃいけないみたいだけど、左へ曲がった。
「もうすぐだから、いいですよ」
「すぐならいいじゃん」
佐田さんの人の良さには言い返す言葉もない。だけど、僕としては、いち早く一人になりたかったんだけど……。そもそも僕は桾さん以外の女の子と話すのはやはり苦手なのだ。桾さんはほら、同じ部活だし。佐田さんは小、中学が同じだったからなんとなく大丈夫だけど、あくまでなんとなく。
「あ、着きました」
やっと家に着き、思わず息をつく。佐田さんにはその意図がわからなかったのか、「家に帰るだけで疲れなさんな!」と言った。
「傘、ありがとうございました」
「いいよいいよ。それじゃあ、またね!」
彼女は傘を持つ手をぶんぶん振った。いやぁ、パワフル。
僕も手を振り返し、彼女の姿が見えなくなるまで見送った。
「さて」
僕はドアを開け、ただいまを唱えた。中からおかえりが返ってくる。
佐田さんの意味深発言を忘れたわけじゃないけど、いちいち考えたって仕方ないし、そもそも何を考えればいいのかわからないから、その日はいつもと同じサイクルを経て寝た。翌日もサイクルに従って七時半に学校へ向かう。学校にはそれで四五分頃につくのだが、いつも誰もいない。学校なのに誰もいないっていうのが面白い。そこでぼーとしてるのが好きだったりして。
雨は上がり、空は晴れではなく曇り。
自転車を漕ぎながら、佐田さんが昨日言っていたことを思い出した。
『思慕されてんだからさぁ』
本当に佐田さんは何が言いたかったんだろう?
やっぱり良くわからない。だって思慕って辞書引くと、どうにも僕には無関係そうな意味が出てたんだもん。
学校につき、教室で一人ぼーとしている時間は、それほどなかった。僕が教室に着いて鞄から教科書を出しているあいだに、佐田さんがやって来た。いつもより早い。
僕と佐田さんの席はわりと近く、佐田さんは僕に話し掛けてきた。
「今日さ、これから図書委員の仕事の手伝いがあるんだけど、予定より早く来ちゃったんだよ!」
「図書委員の仕事の手伝い?」
「そうそう、高須ちゃんも一緒だよ! 来てるかな、高須ちゃん? ちょっと見て来ようかな」
そう言って佐田さんは隣のクラスへ行った。だけどすぐに戻ってきた。どうやらいなかったらしい。
「まあ、まだ時間あるし。でさ、郷原くんは昨日のことちゃんと考えたかい?」
「……えっと」
やっぱりその話しをするのか……。
「考えたって……桾さんは同じ写真部の仲間ですよ」
「そうじゃなくてさぁ」
佐田さんは腕を組んで苦笑する。
「まあ、いいや、もう」
佐田さんは溜息をつく。「郷原くんだもんね」なんて言われる。
「酷いですね」
「君のセリフじゃないと思う!」
…………。
「君、君君君! じゃあ、ちゃんと聞いてね!」
声を潜め、でも意気込んで、さらには顔を近付けて言う。……怖いし恥ずかしい。
「君はとある女の子に好意を持たれてるんだよ」
「……はい?」
「以上! あとは郷原くん、よーく考えましょう! あっと、時間来た!」
言うだけ言って佐田さんは教室を去ろうとした。だが廊下へと向かおうとしてすぐに立ち止まった。怪訝に思って佐田さん越しの向こうを見ると、教室の入り口に桾さんが立っていた。というか、とおり掛かったときに覗き込んだという感じだ。
「高須ちゃん! おはよう!」
佐田さんは桾さんに近付き挨拶を交わした。桾さんは訥々と挨拶を返した。それから佐田さんは桾さんを連れて図書室ヘ向かった。去る際に、桾さんが物憂げに僕を一瞥した。
二人が去ってから、桾さんと挨拶をし忘れたことに気付いた。




