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五
―― あ また 一緒に いる ――
桾さんと別れた。彼女は駅前を右へ行き、僕は左へ向かう。
「あれっ? 郷原くんじゃないか」
自転車にまたがり直してすぐ、背後から声を掛けられた。振り返ると、黄色い傘を差して自転車に乗っている佐田さんがいた。
「ああ、佐田さん」
「ああ、じゃないよ! 君、傘は!」
自分の傘を指差しながら聞いてきた。僕は首を傾げてみせた。
「持ってないの?」
「はい」
佐田さんは溜息をついた。
「風邪引いちゃうよ」
桾さんと同じことを言った。おかしくて笑ってしまった。
「何がおかしいの?」
「桾さんも同じこと言ってたんです。だから、一緒だなぁって」
すると佐田さんも笑った。
「ほらぁ、高須ちゃんも心配したんじゃないか! 心配させちゃダメでしょう!」
その結論は良くわからないけど、桾さんに心配を掛けるのは良くないな。反省だな。
「そうですね。今度からはちゃんと家を出る前に天気予報を確認します」
「そうしなさい。で、これから君はどうするの? 百円ショップででも傘買ってくの?」
そんなつもりはないから首を振る。
「それじゃあ、どうするの?」
「濡れながら帰ります」
「ダメだよ! 私の傘に入りなさい!」
佐田さんは自分の傘をふたたび指して言う。
「悪いからいいよ」
「悪くないからそうしなさい。それに、本当は生徒会の生徒が傘差し運転はまずいから」
そういえば、傘差し運転はダメになったんだっけ?
「運転してなきゃ大丈夫になる!」
「関係ないと思う……」
「ヘーキヘーキ!」
佐田さんは僕の左肩に触れ、押した。だけど、すぐに左肩が濡れていることに気付き、「ほら、肩が冷えちゃう!」と怒る。
結局僕は佐田さんの傘に入ることになった。僕よりもじゃっかん背の高い佐田さんは、大きな傘を差して僕の頭上を雨から遮断した。なんとなく、自分が佐田さんの弟になったような気分。庇護されている感じで恥ずかしかった。
「そういえばさ、高須ちゃんは元気かい?」
歩き出して間もなく聞いてくる。僕は元気であることを伝えた。
「そう。なら良かったよ。だってほら、高須ちゃんって郷原くんとしか話してないみたいだからさ」
二年生になったものの、彼女の人見知りは直っていないらしい。まあ、性質ってそうかわるものでもないから。
それから僕らは黙り合った。だが、住宅街に差し掛かったとき、おもむろに佐田さんは口を開いた。
「ところでさ、君、女の子は大事にしなよ?」
意図がわからず佐田さんの顔を覗き込んだ。
「いきなりなんですか? 大事にって? 桾さんのことですか? 友達は大事にしてるけど」
僕がそう答えると、佐田さんは不快を覚えたように眉を吊り上げた。それから目を泳がせ、ちょっと息を吐いた。つまり呆れさせたらしい。
「そうじゃなくてさぁ、まあ、いいんだけどさぁ、思慕されてんだからさぁ」
「……?」
僕らは立ち止まっていた。辺りに人通りはないから、邪魔だけど邪魔にはならない。
「君がどうだかは知らないけど、でもさぁ、気付いてって感じだけどさぁ」
佐田さんはにっこりした。いや、にっこりされても……。
「あのう、それ、どういう意味?」
「そのままの意味よ。わからないようなら自分で考える!」
僕はなんとも答えられず、意味もなく傍にあった町内の掲示板に目を向けた。そこには夏祭りのポスターが残っていたり、何年も前から貼られている不審者注意や家出少年捜索のポスターが貼ってあったりした。いい加減取り替えろよ、と思う。これは現実逃避。
「とにかく、一度考えた方がいいよ! 考えるべき!」
そんなことを言われてもなぁ……。
「とにかく、君がそれじゃ可哀相でしょ。というより、郷原くんは鈍いから、もっと積極的になればいいのかな? なんとも言えないけどさ」
一人で思案する佐田さんに、僕は疑問符を飛ばし続けるしかなかった。
いったい、なんなんだろう?




