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久岩神社へ遊びに行ったら帰りは遅くなるだろうから、帰りの仕度はしていくことにした。
僕らは市内に住んでいるから、通学方法は自転車を採っている。だけど、なんとなく、僕らは自転車に乗らずにそれを押して森へ向かった。辺りには野原と田んぼが広がり、右の果てにのびている住宅街の上に、色彩の元が浮かんでいる。
「本当に久し振りね、神社へ行くの」
「そうだね。桾さんが写真部へ入るって決めたとき以来だね」
桾さんは頷く。目を細めて頷く仕草は、疑いを知らない子供みたいで愛くるしかった。
彼女が写真部に入ったのは、高校一年生の夏休み前。これから僕らが向かう森の中にある、小さな神社の境内でのこと。
一年生のころ、桾さんは極端に人との付き合いを避けていた。休み時間、彼女はいつだって一人だった。部活にも入っていないらしく、彼女が一日のうちで声を発したのは、多分、朝の出欠のときと授業で指されたときぐらい。それがやたらと目についた。クラスの女子の中心人物になっていた佐田さんが、そんな桾さんを心配して話し掛けている場面を時々見掛けた。だけど、いつも桾さんは顔を強張らせ、眼をおろおろ震わせていた。
そんな桾さんと初めて話したのが神社だった。
六月の初め頃、僕は学校近くの森へ写真を撮りに行った。いつも窓から見えていた森に興味があった。冒険心とも言うのかな? とにかく一人で森へ出かけて行った。
森の入り口は車道からさりげなく延びている横道で、軽自動車ならば辛うじて一台とおれそうな古道だ。
木々のトンネルを潜りながら、僕は目に留まった花や景色を撮った。カメラは部活に置いてあるデジタルカメラなので、いくら無駄な写真を撮ってもすぐに消せる。だから気兼ねなく撮った。
森へ入って五分ぐらいすると、左手に開けた場所が現れた。とはいえ、頭上は柯葉が幾層にも重なり、日の光を芒とさせている。そこには汚れて赤なのか黒なのかよくわからない色をした鳥居が立っていた。そこは境内で、境内中に雑草が茂り、石畳や石塀が所々欠けていた。鳥居の先には遠めにもおんぼろな社が建っていて、その社は石垣で一段高い位置にあった。その石垣に設けられた石の階段に体育座りをしている女の子がいて、それが高須桾さんだった。
膝に顔を埋めていたから誰だかわからなかった。見ず知らずの人と関わるのも面倒だから、気付かれる前に去ろうと思って踵を返した。だけど、境内に独り言が微かに響いていることに気付いて、足を止めた。何を言っているのかわからなかった。
しばらくなんともなしに無言で見ていると、視線に気付いたのか空間の異変に気付いたのか、今まで顔を伏せていた桾さんが顔を上げた。そこで僕らは互いの存在を認めた。クラス、というか学校自体から孤立しているクラスメイトだと気付いた僕は話し掛けていた。なんて話し掛けたかな? 「高須さんですか?」、なんて聞いたと思う、多分? 良く覚えてないや。
どんなことを僕が言ったのかは覚えていないけど、彼女がどんな風であったかは覚えている。最初、彼女は僕のことを不審者に迫られているような呈を示した。さりげなくも何も、かなりわびしかった。それでも気を取り直して「どうしたの?」と聞いたら、「私に関わらないでください」って言った。急に立ち上がって帰る準備をして、今みたいに自転車を押し、僕の横を早歩きでとおり抜けて行った。反射的に「またね」って挨拶すると、桾さんは一度立ち止まり、目を見開いて僕を見た。睨めっこが三秒ぐらい続くと、彼女はぎこちなく一礼して帰って行った。
それから時々、僕が森へ写真撮影しに行くと、これまた時々体育座りをしている桾さんに会った。その度に話し掛けてたから、きっと鬱陶しがられてたと思う。だけど、そのうちちゃんと話せるようになった。夏休みに入る一週間ぐらい前の日に、やっぱり偶然神社で会って、「写真部に入っても、いいですか?」と彼女は言った。同級生が一人もいなかったから、嬉しかった。すぐに桾さんを連れて部室に戻って、呆気に取られている先輩たちに桾さんを紹介した。
部活でも、当初は先輩たちとうまく話せていなかったけど、そのうち平気になっていた。
でも、クラスでは無言だった。ただ、佐田さんとはなんとか話せるようになってた。僕も佐田さんとならなんとか話せていたし、桾さんとは、気付けば男子女子とか意識なしの友達感覚で接しられた。




