深海の姫〜ブラッドの海・ブライトの海〜
短編は一作で終わるからこそ短編……なのに、恥ずかしながら続編を書かせて頂きました。
1500文字しかないので、のんびりと読んでやってください。
(※前作・ブラインドの海はこちらです【http://ncode.syosetu.com/n2924dr/】)
〜ブラッドの海〜
曙光は快晴へと変わり、そして穏やかな夕焼けの後に、沈んでいった……。
◇
老いゆく貴方を見るたびに、私の光は弱くなった。
そして貴方が消えるとともに、光は消え去った。
我が子らという残光はありつつも、私にその光は小さ過ぎた。
私のすべてを貴方が持っていた。
――何故人と私達とでは寿命が違うの?
何故私達はこのような生命に生まれ、人と平等に幸せを分けられないの?
そんな不条理は間違っている。
だから、断罪を、矯正を――。
◇
神よ!!
敬愛なる海の神よ!!!
何故我々の寿命は長いのか!!!?
何故我々は人と共に生きられないのか!!
轟くは姫の声。
切なく悲痛な魂の叫び。
“日長石”は砕かれ、荒れ狂う姫は全てを穿つ狂気の槍へと変わり果てた。
海神に怒りを!
嘆きの海に断罪と矯正を!
◇
海神の怒り、暴徒と化した海人達。
それらすべてを貫かん。
苦海を解き放て、光が全てに降り注ぐように。
破竹の勢いで攻めこめ、神といえど怯むことはない。
死中の私に力を!!!
◇
六合に広がる海神の叫び。
子らの見届けるは血に染まった海。
――また、血が――
神は死せども光は蘇らぬ。
打ち壊された海の国、赤き海に残されたのは盲目の姫とその子らのみ――。
◇
〜ブライトの海〜
唸る海は静まり返り、赤く濁った水が満たしていた。
神を失った海では種々の生物が死に始め、地上の人間達はその海を「死の海」と呼んだ。
魚達は死の海から逃れるため、その海を離れて遠く離れた海へと移っていった。
それは姫の息子、娘も例外ではなく、姫は1人残された。
目を開かぬ姫は1人考え続けた。
周りが死に染まった海では、考えるより他にすることがなかったから。
かつて、かの少年はこの海に光を齎そうとした。
その結果、姫は少年に導かれるがままに幸福を授かった。
今は違う。
彼が開いてくれた瞳を閉じ、深海の奥底に潜んで暗黒の日々を送っている。
これは違う――。
彼が私に与えてくれた想いを無為にしている――。
だから――。
目覚めよ――!
◇
白き貝殻を1つ、また1つと拾い上げ、重ねた貝はまるで翼のように。
その海で最も力を持つ彼女は時を待たずとして、この海の女神になりました。
血だまりの海を澄み渡る蒼に再生させ、海の生命が住む健やかな国を作りました。
死中の海はこうして蘇りました。
惨苦の傷跡は未だに癒えずとも、彼女はまっすぐと見開いた瞳で海の底から遠い空を仰ぎます。
2つの命が、彼女の元へやってくるのが見えました。
その子らは、かつて女神が産み育てた息子と娘でした。
再び目にした母が目に光を宿しているのを見て、2人は大いに喜びました。
息子と娘は海の底で拾った、白い、真珠にも似た石を母に渡しました。
その石の名は“月長石”、石言葉は『純粋な恋』であり、こめられた意味は『永遠の愛の証』――。
それから彼女達は海を豊かにし、魚達を呼び寄せ、海藻を育て、美しい国をもとの形に作り直しました。
女神は敬愛する人間達のために、沖に幾つもの真珠をよこしました。
恋に憂う者にこの真珠は必ず届くと伝えられ、やがて人々は「死の海」ではなく、「恋の実る海」と呼ぶようになりました。
◇
ある時、女神は再び地上に出ました。
幾歳月が流れ、久方振りに眺めた太陽はあの頃と変わらぬまま存在し、かつての少女はこの太陽に誓う。
胸の内にあるただ“1つ”の愛が、永遠に変わらぬことを……。
・解説・
1.日長石と月長石
まず、前作【ブラインドの海】では少年(姫の婿、今作では死んでからのスタート)が光を持ってきたというのは日長石です。
日長石は太陽の石であり、サンストーンとも呼ばれます。男性の象徴、そして心を温める意味があり、石言葉には『輝き』があります。
サンストーンは戦いの最中に砕け、だから姫はブチギレて全部壊してやろうとなったわけです。
月長石はムーンストーンとも呼ばれ、女性の象徴でありながら、暗闇を照らす効果があり、石言葉は本編中通り。
対照的なこの2つから様々な意図を読み取ってもらえると、作者としては嬉しい限りです。
2.数え歌
前作とは違い、めちゃくちゃわかりやすかった筈です。わからない人は知らん(笑)
全ては最後の一文にある"1"の強調のためです。1〜4、5〜9を2部構成のこの作品で分けた理由としましては、この作品が2部であるという強調と、姫の絶望部-再生部でそれぞれ分けたからです。
再生部はもう少し早めに出せればよかったのですが、タイミング計るのと、数字が入るか否かで苦しめられた結果です。申し訳ありません。
3.童話?
今回の話は童話部分が最後の方にしかありません。どういう事かというと、前半の方から「〜ました」などの俯瞰的視点ではないからです。
前作の続編ということと、最後の手前がギリギリ童話だったのでハイファンじゃなくて済みました。
いろいろ力不足で申し訳ないですが、今後ともよろしくお願いします。