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八百万が祭る お堂の中はお宝満載  作者: 東東
【第四章】お堂を巡って乱回転
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「ふふふっ・・・、へへっ、あっ、はははっ!」


 ・・・反射的に、芦と井雲、二人の腰が同時に浮いた。おまけに心持ち、身体が仰け反るように避けている。勿論、対象は突如、先ほどの比ではない笑い声を上げ始めた宇江樹だ。顔を両手で覆い、俯いてしまったので、表情は窺えない。

 しかし最初は含み笑いというか、まだ多少抑え気味の笑いだったのが、途中、何かおかしな方向への転換を図ってしまったらしく、最後には良く分からない大声で笑ったのだから、腰ぐらい浮くし、身体ぐらい仰け反るだろう。

 飛び退かなかっただけまだマシなほど、芦達の動揺は数秒にして頂点を極めてしまっている。無理もないが。

 もしその笑いがその後も継続されていたら、まず間違いなく、芦達は戦線離脱を図っていただろう。

 保身以外は脳裏から何もなくなり、強いて残るとすればみーさんをどうするかが最後の良心として残る程度で、精神に異常をきたしてしまったらしい善良な人間を救ってやろうなんて良識は見知らぬ宇宙の彼方に放り出してしまうに違いなかった。

 しかし幸いにも、笑い声は一度吹き出しただけで、それ以降、噴出する事態は起きなかった。代わりに数秒間の沈黙がその場に落ちて・・・、ふいに何か悪い魔法が解けたかのように、きっぱりとした仕草で宇江樹が顔を上げたのだ。


「突然、すみませんでした」

「・・・いや、べつに・・・、うん、な?」

「落ち着いてくれさえしたら、俺達としては・・・、な?」

「そうそう、全然、だし・・・」

「まぁ、混乱する気持ちは分かるし・・・」

「なんか、混乱って言うか、ここまできたら笑っていい気がして・・・、でもいきなり大声上げられてもって感じですよね。煩くして、本当にすみませんでした。もう、大丈夫です。大丈夫ですっていうか・・・、ふへへっ」

「おいっ!」

「ちょっ! 全然大丈夫じゃなくねっ?」

「あ、いや、大丈夫です。なんか、もう、どうしようもないなって思っちゃったら、色々吹っ切れちゃったような気がして、そうしたらなんか、おかしくなってきちゃって・・・」

「・・・とりあえず、もう一回お茶飲んで、一旦落ち着こう。な?」


 芦達を恐怖のどん底にまで突き落としたあの笑い声は収まったものの、どうやら宇江樹は完全なる情緒不安定と化しているらしい。大丈夫と何度も自分に言い聞かすような台詞を吐くのだが、そうかと思えばまた微妙な笑い声を時折洩らしているのだから、とても大丈夫だと思えない。

 それでもう一度お茶を勧め、どうにか一息入れさせて・・・、その間に芦達もまた、一息入れる。一息、というより・・・、今後どうするべきかを視線で話し合っただけだが。

 しかしその話し合いはあまり意味がなかったらしい。何故ならようやく本当に落ち着きを取り戻した宇江樹は、すぐさま思い出し、察したからだ。

 意味が分からないと思っていた、自分の父親達の行動の意味を。その為、芦達の視線での話し合いが決着を見るより先に、宇江樹が自分の父親達の暴挙について口火を切るのが早いのは当然の流れだった。


「・・・あの、今更ながら・・・、改めて、すみません」

「え?」

「僕が話しに来たことって、つまり・・・、この子・・・、いや、この方? あのっ、とにかく、こちらの方のお堂を強奪しようとしているって、そういう計画なんですよね?」

「あー・・・、たぶん、ってか、間違いなくそうだと思う」

「お堂をって言うより、みーさんをって感じなのかなぁ・・・? つーか、未だに良く分からないんだけど、あの人達って、なんで神様連れて行こうとしているの? 自分達の神様、いるんじゃないの? 宗教でしょ? あれ」

「それ、俺も不思議に思ってたんだけど・・・、大体、お狐様なんでしょ? まぁ、本人がそう呼ばれてるってだけかもだけど・・・、でも狐なのに蛇神様って有り得なくない?」

「名前からして何かを迷走している感じだよな。ってか、マジ、あそこの宗教って神様、なに?」

「・・・あの、それが良く分からないんです」

「良く分からないって・・・」

「いえ、確かに父は信者で、しかもかなり重度の信者ですけど、でも僕自身は信者ではないのでそこまで詳しいわけじゃなくって・・・。ただ勧誘は受けているので、概要は知っているってだけなんです。でもこうなってみると、ちょっと不思議な気もします。確かに神様の話って、聞いたことないんですよね」

「宗教なのに?」

「埋け火を授かっているって話と、埋け火はどういうものかっていう話は出てくるんですけど、その授けてくれる神様の具体的な話は聞いたことがないんです。今までそういう存在を信じてなかったから、逆にどうしてって気持ちにもならなかったんですけど・・・、変、ですよね? なんか、凄い今更なんですけど」

「変・・・、だと俺は思うけど・・・」

「俺も宗教詳しくないけど、変だと思う。・・・なぁ、もしかして、だからなのかな?」

「だからって、なに?」

「いや、神様がまだ決まってないとか、もしくはいないとか・・・、それでみーさんに目をつけたとか・・・」

「そっ、それ、有り得そうだけど・・・、有りなの? だって普通、神様ありきで宗教って始まるモンじゃないの? それなのに後から神様探すって・・・」

「いえ、でも状況的に、そうだとしか思えないですっ! 大体、親がガッツリ関わっている僕が言うのもなんですけど、あの宗教、可笑しいですよ! 宗教だから理解不能とかじゃなくて、もう宗教として可笑しいっていうか・・・、あぁっ、でも、ってことはやっぱりこの方が・・・、あの、みーさん、ですよね? みーさんが、みーさんとみーさんのお家が、お堂が、みーさんが・・・!」

「みぃ?」

「ホント、真面目になんてお詫びしたら良いのか・・・!」

「いや、ちょっとまた落ち着こうよ・・・」

「ほら、お茶お茶」

「みぃー・・・」


 真面目な人間というのは、思い詰めると一直線に突き進むものだ。たとえその先が自分を追いつめる道だとしても、走らずにはいられないらしい。

 心配していた自分の親がとんでもないことに首を突っ込もうとしているらしいと確信するやいなや、物凄い責任を感じてしまったらしく、何度もみーさんの名前を呼んで続きが何も言えなくなっている宇江樹の様に、自分の呼び名を何度も連呼されたみーさんが何事かと目を丸くして反応する。

 夢中だったテレビ画面から目を離し、身体全体で振り返って宇江樹を見上げる瞳は相変わらず無垢だ。たとえ異形の姿でも、その瞳の清らかさが損なわれることはない。

 最初とは違い、事情を聞いて、自分の父親が迷惑をかけたことをまで知ってしまった宇江樹にしてみれば、異形の現実なんてすっぱり忘れ、ただひたすらにその無垢な輝きに申し訳なさと使命感が沸き上がってくるばかりだ。


「・・・ごめん、ごめんね? 本当に・・・、ごめんなさい」

「みぃ・・・?」

「こっ、こんな小さいのに・・・、神様だって、こんな小さいうちにあんな怖い人達に追いかけ回されたら怖いよね・・・? 芦さん達が匿ってくれたから良かったものの・・・、こんな小さい子、お家に住めなくするなんて・・・、おまけにお家まで持って行かれるなんて・・・」

「・・・いや、それはまだなんだけど」

「ってか、そもそもここに来たのはお堂に住めなくさせられたからじゃなかったろ」

「うん・・・、ってか、大分、思い込みが・・・」

「・・・まぁ、親子だから似たんじゃね?」

「似たって?」

「いや、あっちもこっちも、思い込みが激しそうだと思って」

「あぁ・・・、確かに」


 込み上げる涙を必死に堪えながら、見上げてくるみーさんの円らな瞳に語りかける宇江樹には、すぐ傍で交わされる芦と井雲の会話など耳に入らない。

 耳に入らないほど自分の世界にどっぷり嵌まっていることは危険な兆候かもしれないが、それでも芦達の会話が耳に入らないのは幸いといえば幸いだっただろう。

 怪しげな宗教に傾倒してしまった思い込みの激しい父親に似ている等と言われた日には、今の比ではないほど自分の世界に入り込み、二度と出てくる意思が持てなくなる可能性の方が高かったのだから。

 ・・・が、幸いだったのはおそらく、その時点までだった。もし状況を正確に読める人間がその場に一人でもいたならば、事態を幸いのままで止められたのかもしれない。少なくとも宇江樹にとって、最悪の中の最善に留まれた可能性はあった。

 しかし残念なことに、そこにいる人間達は良くも悪くも能力的に平凡な人間で、先の状況を読んで最善の行動を取るという賢明な動きが取れるほどの能力は保有していなかった。本当に、残念なことに。


「だっ、大丈夫だから・・・!」

「みぃ?」

「ぼっ、僕の父親が関わっているんです! それなら僕にも責任の一端があるはずだから・・・!」

「・・・いや、そんなこと、ないと思うんだけど」

「使命感とか責任感とか、強すぎな気が・・・」

「大丈夫ですっ! みーさん!」

「みぃっ」

「僕がっ、僕が・・・、」


 僕が責任を持って、馬鹿親父達からみーさんを守るんでっ!


「だからっ、だからどうか親父を、親父を許してやってください!」

「みぃ!」

「・・・え? そこまで辿り着いちゃう?」

「スゲェなぁ・・・、俺が今までの人生で会った人の中で、一番真面目な人間かも」


 突き上げるような使命感と責任感に突き動かされたらしい宇江樹は、突然の宣言と共にみーさんの小さな両手を問答無用で握り締めた。宇江樹のその行動に、みーさんの目は限界を超える大きさで見開かれる。

 果たして、みーさんが人間の言葉を理解しているのかどうかは未だに芦達には判断がついていないのだが、少なくとも宇江樹が自分を大事にしようとしている、その意志だけはみーさんも理解したのだろう。

 小さな両手をしっかり握り締められたみーさんのその紫の瞳は、次第に潤んでいった。別に力一杯握られているから痛いとかそういうネガティブな理由で潤んでいるわけではなく、宇江樹の心意気に感動して潤んでいるらしく、きらきらした瞳はきらきらした感情をそのまま伝えているように輝いている。

 流石に経験の違いなのだろう。その時点で、芦と井雲はようやくと評すタイミングではあるが、予感を抱いていた。涙まで滲ませるほどの喜びを感じているみーさんの様子に、まだはっきりと形には出来ない漠然とした予感を。

 そしてそれを形にする努力をするまでもなく、数秒後にはあっさりと目に見える形として三人の目の前にそれは現れたのだ。

 鳴り響く、携帯電話の着信音。現代では、いつだって予感は携帯電話の着信音で告げられるものらしい。半ば反射的にみーさんから右手を放し、ポケットから携帯電話を取り出す宇江樹を見ながら、芦達は自分達が抱いた予感の形を、その成就を理解する。

 二人の間で一瞬だけ交わされる視線は、酷く曖昧な感情を宿していた。哀れみと喜び、そして同情。半ば当事者となっていた宇江樹が、完全なる当事者に変わった瞬間を漠然と歓迎し、祝福し、哀れむ感情がそこにはあった。


「あ・・・、会社からだ。なんだろ?」

「そういや今日って会社は?」

「今日は有給取ったんです。うち、結構休み取りやすい雰囲気なんで・・・、でも休みに電話かけてくるほどのことって、ないと思うんですけど・・・」


 画面の表示を見ながら首を傾げる宇江樹に、事前に忠告をするべきかどうかを密かに芦達は考えたのだが、しかし忠告なくとんでもないことが起きた自分達の経験的衝撃の記憶から、静かに事態を見守ることにしてしまった。

 決して宇江樹に思うところはないし、むしろ今までもずっと同情し、哀れんではいたのだが、それでも自分達が受けた衝撃を是非他の人にも受けてほしい気持ちがそこには蔓延っていたのだ。

 芦達の心にそんな非情な感情が蔓延っているとは思いもよらない宇江樹は、自然な流れで通話ボタンを押し、耳に携帯電話を押しつける。みーさんは嬉しげに輝く瞳でそんな宇江樹を見上げ、芦達は生温い笑みのようなものを浮かべ、見守っている。

 ある意味の期待すら、その笑みには篭もっている。仲間が出来た、同じ目に遭う奴が増えた、そういう後ろ方向に前向きな期待が。


「はい、・・・あ、お疲れ様です、あのっ、どうかし・・・、え? は? 何が・・・?」


 怪訝そうな顔で通話を始めた宇江樹の表情は、最初に困惑にその形を変え、それから目を見開いて驚愕を象ると、聞こえてくる全てが理解出来ないとでも言いたげに短い疑問符を連発し始めた。

 瞬きの回数は異常に増え、顔は赤と青の中間のような奇妙な色に変わり、唇からは色が失せ、異常な回数の瞬きで何度も隠される瞳はその焦点が定まらなくなり始めている。

 聞こえてくる宇江樹側の発言は、既に意味を成さない母音だけとなっていた。つまり「あ」とか「え」とかだ。

 しかしぴったり耳に押し当てているにもかかわらず、電話越しに宇江樹に何かを話している相手はよほど大声で話しているのか、言葉は聞き取れずとも、何かを大騒ぎしているのだけは芦達にも聞こえてきてしまう。

 会社を巻き込むような何かだったんだな、俺達は正社員とか会社に影響を与える立場じゃなくて良かったな・・・等という、何の救いになっているのか良く分からない慰めの心が浮かぶが、口に出すほど馬鹿でもないし、流石にそこまで非情でもないので、二人は心穏やかなまま、心の平和を完全に失っているらしい宇江樹を見守り続けた。


「・・・え? あのっ、じゃあ・・・、え? つまり、どういう・・・、いえっ、僕は全然、そんなつもりは・・・! だって、でもっ!」


 ようやく聞こえてきた母音以外の台詞はかなり切羽詰まった苦しげなものだったが、しかしそんな哀れみを誘う声を出しても事態はどうにもならないらしく、縋るような発言は、興奮しているらしい電話越しの相手に全て却下されてしまったらしい。

 そしてあまり抵抗にもなっていない抵抗を繰り返すこと、数分。

 決着は向こう側によってあっさりと下されてしまったらしく、宇江樹の「・・・お疲れ様でした」という、会社に雇用してもらっている哀れな社会人の見本のような台詞を最後に、そっと耳から離された携帯電話は役目を終え、身体の横に手と共に投げ出されてしまう。

 戦い破れた企業戦士の姿がそこにはあった。おそらく、日本で尤も数が多い敗者だろう。


「・・・売れた、そうです」

「えっと、なにが?」

「僕が提案した商品が、売れたそうです」

「へぇ・・・、そりゃ、良かったんじゃないの?」

「昇進しちゃうんじゃないの? 給料上がるとか?」


 敗北感を体中から漂わせて俯きがちに零された一言に、意外と大したことがなかったなと芦と井雲が揃って同時に抱いた感情は、二人の顔に思いっきり出ていたのだが、幸いなことに、俯き続けていた宇江樹は少々がっかりしている、人でなしな感想を抱いた二人の表情を見ないで済んだ。

 そして宇江樹が顔を上げた時には芦達からその表情が消えていた。ただ、それは芦達が表情を取り繕ったからではなく、宇江樹が顔を上げる前に口にした、正確な情報によって芦達の表情が自動的に一変したからだった。

 やはり神様のご利益というものは、芦達のようなちっぽけな人間如きが計れるようなスケールではなかったらしい。その事実を、芦達は改めて実感する羽目になる。宇江樹がもたらした、その情報によって。


「なんか・・・、宮内庁の目に止まったらしくて・・・」

「くないちょう? ・・・って、なに?」

「俺が思うに・・・、天皇様とかのところだと思う・・・」

「あぁ、宮内庁・・・って、宮内庁っ?」

「おまけに偶々来日してた、他の国の王族の目にも止まったらしく・・・」

「おーぞくぅ! それっ、王様の一族ってことだよなっ?」

「あーちゃん、発言が限りなく馬鹿っぽくなってるぞ」

「いっくん! だって! だってー!」

「まぁ、そうなるよなぁ・・・、ってか、じゃあ、偉いところの御用達になるってこと?」

「・・・なんか、何かの会で使うみたいで、既に滅茶苦茶発注がきてるって・・・、あと、たぶんそこで出たら、凄い発注がくること間違いなしだし、今後もその、偉い人達の口に合うような物を考えてほしいって・・・」

「おぉ・・・、スゲェな・・・、なんか、色々スゲェな・・・」

「ってか、今更だけど、宇江樹さんの仕事って何?」

「一応、お菓子の会社の社員です。ていっても、大手のお菓子メーカーとかじゃなくて、町の小さなお菓子屋さんっていうか、地域にだけ売られてます的なお菓子屋さんで・・・、いや、そりゃ、美味しいですよ? 僕だって自分の会社の商品、信じてるし。でも高級店ってわけでもないし、素材も良い物使ってはいるけど、その地域の数軒でしか作ってないとか、そういう特殊なほど良い物使っているわけじゃないのに・・・、それ、なのに・・・」


 宇江樹はそこで言葉を失い、哀れなほど小刻みに震えだした。

 その震えは芦にも井雲にも覚えのあるもので、同情心が煽られるとともに、何だか妙にほっとした。あぁ、仲間が増えるって、こんなに心強いものなんだなと。勿論、宇江樹にはそんな芦達の感情は伝わっていない。

 その為、小刻みだった震えはやがて盛大になり、まだみーさんの手を握っていた左手も放し、床に突っ伏して叫ぶのだ。


「何でいきなり、こんな目にっ!」と。


 みーさんは宇江樹のそんな様子を嬉しそうに見つめている。おそらく、自分が与えたものに対して盛大に喜んでいると思っているのだろう。

 芦と井雲は苦悩する様がやたらと似合う宇江樹を穏やかな表情で見つめつつ、表情と同じ穏やかな口調で語り合う。お互い、何か悟りでも開いたかのように何度も小さく頷きながら。


「キミのことは僕が守るよ、なんて言われたらトキめいちゃうよなぁ」

「だな。これはもうっ、景気良くご利益奮発しちゃう、ぐらい嬉しくなっちゃっても可笑しくないな」

「そういうことなんですかっ?」

「そういうこと、そういうこと」

「まぁ、身から出たさび的な感じで」

「うそぉー!」

「みぃー」

「いやっ、そんな気を遣わなくて良いんですって! ってか、僕の親が迷惑をかけてるからって意味で言っただけなんだから!」

「みぃ?」

「あ、たぶん、みーさん、そういう細かな機微は分からんから」

「それを先に言っておいてくださいよ! 僕、親の所為で神様って存在にかなり微妙な発言しまくってたのに、今更こんなご利益、もらえないです! それこそマジ、罰が当たりますって! 乱れ打ちぐらいの勢いで当てられますって!」


 突っ伏していた顔を上げて叫ぶ宇江樹のそれは、魂の叫びに近かった。しかしみーさんは芦がのんびり呟いた通り、宇江樹の雄叫びの意味を察してはくれず、ただ楽しそうに声を上げるだけだし、芦達はといえば仲間が増えたと内心で喜んでいるだけで、宇江樹の叫びと噛み合うことはなかった。

 そしてそのまま噛み合わない時間が、本当ならば少なくとも十数分は続くはずだったのだが、またもやその時間は中断される。外部からの、音。しかも聞き覚えが有り過ぎるほどある、あの音で・・・。


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