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後ろ指を指されても、別に  作者: チゴロ
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リコリス

 3時50分。帰りの会が終わり、学校での一日が終わる。我先にと教室を出るクラスメイトをよそに、ゆっくりと帰りの支度を始める小菅。ランドセルの中は空っぽ。引き出しから教科書とノートを半分だけ取り出し、机の上で揃える。重たい音を立てながら教科書とノートがきれいに縦にそろうとランドセルの中へしまった。残りの半分を取り出し、同じ作業をした後、ランドセルの(かぶせ)を錠前の部分に引っ掛ける。鍵は触れずとも勝手に音を立てて横にひねられる。なんで勝手に鍵が閉まるのか、いつも不思議に思う。

 机の横に引っ掛かっている給食袋の中を確認する。熱気に負けずに残った水滴のついたコップと歯ブラシがギュウギュウに詰まっていた。

 いつもずれている隣の机の整頓をし、毎日落ちている赤白帽子を机の上に乗せてあげる。窓係が閉め忘れた窓の鍵をかけ、カーテンをしばり、めっきり世話をする人が減ったメダカに餌をあげる。ここ数日は小菅が寄るだけで水面で口をパクパクとさせ、えさの要求をするようになってきた。砂のような小さいえさを一つまみ水面に撒くとすごい勢いで食の争いが始まる。

 その姿をしばらく眺めた後、ロッカーに入っている黄色い安全帽子被り、あご紐をつけ、ランドセルを背負う。気づけば周りのクラスメイトは誰もいなくなっていた。最後まで教室に残った責務として電気を消すと、廊下へ出た。いつもなら何人かが残っているはずなのに、今日に限っては誰もいない。右側通行と教わった廊下を歩き、飛び降りるなと注意された階段を下り、かかとをそろえるようにと整頓係が口を酸っぱくして言う下駄箱を抜け、日陰の玄関から日向の校庭へ一歩踏み出した。途端、視界が一気に白くなった。

 思わず日差しを手で遮る。太い眉の下の目が細くなる。一瞬で白が視界から抜けていき、その代わりに飛び込んできたのは空の色。雲一つなく、視界いっぱいに広がる群青色から小菅は視線を外せない。

 体中から汗が一気に噴き出た。空を見上げているわずかな間にも顎まで汗が滴る。ほんの少しの風が前髪を揺らし、スカートの裾をなびかせる。

 給食袋を持った右手と何も持っていない左手を上げ、思いきり背伸びをする。

「んー!」

 意味もなく息も止める。顎の先の汗が垂れて、校庭に落ちた。

「はー!」

 大きく息を吐いて全身の力を抜く。校庭に落ちた汗は一瞬で染み込み、跡形もない。

「夏かなあ!」

 そうつぶやくと、ランドセルの中で教科書がぶつかる音と給食袋の中で歯ブラシとコップが鳴らす乾いた音を(まと)って、校門へ向かって走っていった。

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