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後ろ指を指されても、別に  作者: チゴロ
6/20

なわとびをしよう

「はい、号令。」

 ニシオの決め台詞のあと、日直のあいさつで授業が終わる。これから20分にわたる業間休みが始まる。

 前日まで一週間に渡って降り続いていた雨がようやく上がり、窓から見える空は久々の晴れ模様である。

 外で遊べず、体がムズがゆくなっていた近衛にとっては待ちに待った業間休みである。

 外で何しようかなと考えていると後ろから声をかけられた。

「近衛ちゃん。なにか考えごと?」

 振り返ると学級委員の小菅さんだった。

「考え事っていうか、外で何しようかなって。」

 小菅さんは眉毛が太い。なので話をしているとついつい眉毛に目がいってしまう。

「久々に外で遊べるしね。何も思いつかないなら縄跳びしようよ。」

「うん、いいよ。」

 隣の机を強引にどかすと、内側のフックに引っかかっている縄跳びをむしり取るように掴む。握る場所には消えかかった西尾の文字。担任のニシオが子供の頃使っていたものを借りているのだ。

 小菅さんは自分の席に戻ると、いかにも上手に跳べそうなかっこいい縄跳びを持ってきた。持ち手も薄汚れたニシオのお下がりとは大違いである。

「中庭いこ!」

 教室を出て階段を降りると、校庭ではなく、中庭へ向かった。中庭には縄跳び用の跳ね板があって、これで跳ぶと地面よりよく跳ねるので上手に跳べるようになるのだ。

 近衛が二重跳びに挑戦する。何回かは跳べるのだが、すぐ疲れてしまって回数が増えていかない。隣の小菅さんはというと、ふわりと浮くように何十回も二重跳びができている。

「ねえ。どうやったらそんなに上手にできるの?」

「えっとねえ。足は曲げないで、手首をくるくるっと回すだけでやればできるようになるよ。」

 だいぶ難しいことを言うなあと近衛は思ったが、とにかくやってみようと足を曲げず、手首をくるっとしてみた。

 何やらぎこちないロボットのような動きになってしまい、上手くできない。

「前のよりずっといいよ。何回かやれば近衛ちゃんなら出来るよ。」

 そんなものかともう一度挑戦すると、背後でパキッと何かが折れる音がした。

 なんだろうと振り返ると、いつの間にか同じクラスの大浦が枝を持って立っていた。

「ん?」

 首を傾げる大浦。

「いや、別に。」

 なんなのかとは思ったが、縄跳びの練習に戻る。

 縄を回し始めると、また背後でパキッと音がした。視界の隅を何かが飛んでいった。

 振り返るとまた、大浦が立っていて

「な、に?」

 と首を傾げている。細い目はぱちりと開いて、白い肌が少し赤みがかっている。

 大浦のことだから、何かしているなと思った近衛は、ブルートレインとかいうすんごい技をしている小菅にちょっと後ろを見ておいてと囁くと、また二重跳びを始めた。

 二回ほど二重跳びをして、そろそろかなとタイミングを図って、二重跳びをしたままくるりと半回転をした。すると細長い枝をこちらへ伸ばして縄へ引っ掛けようとしているように見えた。

「さっきから変な音するの、大浦のせいでしょ。小菅さんも見てたでしょ?」

「あ、見損ねちゃった。」

 やってしまいましたなあと脳天気な小菅。

 大浦はというと

「なに、か?」

 と案の定すっとぼけ。

「んんんんんん!」

 絶対に現行犯で捕まえてやると固い決意をして前を向く。もう二重跳びの練習なんてものはとうに忘れて、振り返りやすいように前跳びを始めた。

 後ろに神経をとがらせる。草がすれる音。靴が小石を踏む音。縄が地面をこする音。たくさんの音に紛れて服がこすれる音が混じってきた。ここだと近衛が前跳びをしながら体をひねり、後ろを振り返るとタイミングよく枝を振り下ろす大浦と目が合った。そのまま枝が縄にあたり、脆い枝が甲高い音を立てて折れた。破片が近衛の頬をかすめて飛んで行った。

 完全に勝ち誇り、満面の笑みを浮かべる近衛。見つかってしまったと視線を泳がせる大浦。そんなことお構いなしに三重跳びに挑戦し、失敗する小菅。

「覚悟しろ。」

「あ、。」

 目を見開いた大浦に、近衛の跳び蹴りとお下がりの縄跳びが飛んでいく。

「あらー。」

 小菅は、その光景をただ、じっくりと眺めていた。

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