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後ろ指を指されても、別に  作者: チゴロ
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如何せん興味がなかったわけで

 暇だ。暇で暇で分かんない。

 時間は国語、単元はモチモチの木。豆太の情けなさを読み解く時間なのだが、近衛にはさっぱり興味がない。豆太がせっちんに行けない理由を考えて、何になるというのだ。

 仕方なしにといった顔で、ニシオの書くへったくそな黒板の文字をノートに書き写す。以前、ノートを書かずにいたらお説教の上、宿題が5倍になったので、書かざるをえないのだ。ニシオの文字に一歩も引けを取らないへったくそな文字が、裏紙をホッチキスで止めただけの国語のノートに記されていく。

「豆太が、せっちんの度に、じさまを起こしてくる姿を見て、じさまは何を思っただろう?」

 そんなの、じさまに聞いてみないとわかるわけないじゃないか。と思ったが、発言はしない。しても仕方がない。

 近衛が隣の席の飯田くんを見ると、ニシオの話を聞いてうなずいたり、発表をしたり、積極的に授業に参加している。ノートの文字も近衛が見習うべき程整っていて、色まで付けている。そんな隣の飯田くんが、ニシオのへったくそな文字をノートに書き写し始めた。一文字一文字、とめ・はね・はらい。きっちりと学んだ通りに書く姿を見た近衛は、しばらくじっと眺めた後、急に消しゴムを机にこすりはじめた。落とし物の丸まった消しゴムはあっという間に大量の消しかすを生産し、その消しかすを近衛はかき集めてこね回し始めた。こねていくとだんだんひとまとまりになっていく。1分もしないうちに練りけしが完成した。丸めて出来上がった練りけしを満足そうに見つめる近衛。

 隣の席でノートを丁寧にとっている飯田くんをまたじっと見つめる。飯田くんは集中していて近衛の視線に気づかない。数秒後、黒板を見ようと視線をノートから外した一瞬をついて、近衛は指先にくっつけた練りけしを飯田くんが次に書くであろうマス目にべったりと張り付けた。それに気づかずに視線を戻しながら文字を書き始めた飯田くんの鉛筆の先は、練りけしの沼を突破できず、思わぬ引っ掛かりに動揺したせいか、悲しく乾いた音をたてて折れてしまった。

 飯田くんが何事かと近衛のほうを見ると、最高の笑みが返ってきた。あまりに上手く行ったせいで喜びに堪えないのである。

 何をやっているのだこの人はと動揺を隠せない飯田くん。意味もなく両手の人差し指をくるくる回す近衛。

 はあ、とため息をひとつつくと、飯田くんはノートにへばりついた練りけしをはがし、筆箱の中から新しい鉛筆を取り出した。

 調子に乗った近衛は再び練りけしを製造すると、飯田くんの頬にぺたりとくっつけた。しっかりとくっついたので近衛は大満足。意味もなく飯田くんにグッジョブをする。近衛の行動を全くもって理解できない飯田くんは眉間にしわを寄せ、大いに悩んだ挙句、とりあえず近衛を無視することにした。


 その後は、消しかすを投げつけようと、わき腹をつつこうと相手をしてくれず、次第に機嫌が悪くなる近衛。それならばと、消しゴムをものすごい速さで机にこすりつけ大量に消しかすを用意すると、それを丸めて巨大な練りけしを作った。近衛は手のひらに練りけしを乗せると片眼を閉じ、慎重に飯田くんの顔に照準を合わせる。なんとなく隣で何かをやっていることに気づいている飯田くんだが、気にせず黒板を写すことに集中する。落ち着いて照準を合わせ、人差し指を思い切りはじく。爪が練りけしの中心をとらえ会心の当たり。そのまま飯田君の顔に向けて飛んでいくかと思われた。しかし飯田くんと近衛との間に不意に国語の教科書が現れた。教科書に当たった練りけしはそのまま本来行くはずであった飯田くんとは真反対の近衛のほうへ飛んでくる。完全に不意を打たれた近衛はその練りけしをよけることができず、おでこに命中した。

「うえっ!」

 思わず変な声が出てしまった近衛。教科書を持つ手を見ると腕毛が。それに太い。そのまま腕を視線で駆け上がっていくと、3年3組担任ニシオのでかい顔が近衛の真上にあった。陰になっていて顔が薄暗いがとりあえずゴリラのようだと近衛は思った。

「あ。」

 間の抜けた声を出す近衛。これは非常によくないことになってしまったと察した。

 ニシオのこれまたでかい鼻が大きく息を吸いこむ。

「                                  !!!!!!!」

 唾が飛び散るすさまじいお説教。早口すぎて何を言ってるのかわからない。

 近衛の宿題は今度はどれほどの量になるのか、長い長いお説教がはて何分続くのか、一体ニシオは何と言っているのか。じさまの心中を考える時間から、クラスの皆が今後の展開について想像力を働かせる時間へと変わった。豆太のせっちんのことなど、一瞬で記憶の隅に追いやられた。

 お説教の原因をつくった近衛はというと、すさまじい声量と鬼のような形相にただ恐れをなし、ズボンを握りしめて涙を流している。

「泣くなら最初からやるんじゃねえ!」

 ようやく聞き取れたニシオの言葉は、そんな一言だった。

 説教が終わり、近衛に宿題10倍が言い渡されたのはこの20分後である。

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