死にたがりの魔王と幼女
「まおちゃんあそぼー?」
「……いやだ」
「たのしいよー?」
「……いやだ」
「うぅ、まおちゃん……ぐすっ」
「……近くで見ててやる」
「わーーーいっ!」
俺はかつて人間共から魔王と呼ばれ、恐れられていた。力もあった。世界征服なんて目じゃ無かった。
でも、世界なんて征服してどうなる。俺はそんなもの欲していない。仮に世界なんて征服してみろ。ほら、あれだ、色々面倒くさいじゃないか。だからこちらに攻撃してくる者がいれば自衛程度の反撃をしていた位で、領土を広げようとか人間を駆逐してやるなんて考えてもいなかった。
目の前に、人間の子供が手を泥だらけにして何か一生懸命作っている。こちらの視線に気がついて、アホっぽい笑みを浮かべた。
「これねー、まおちゃんにつくってるの」
なんだ、この俺様に貢ぎ物か?お返しが面倒だからやめてくれ。
「うんしょ、うんしょ……」
あの子供の名はミミというらしい。奇妙な呪文を唱えながら不気味な泥の塊をいくつも作る。
「……ミミ、それは何だ」
うひひと笑い、ミミは自慢気に答える。
「これはねぇ、まおちゃんのおともだちです!」
なるほど、ゴーレムか。悪くない。しかし手も足も無いしどうコミュニケーションとれば良いかわからんな。
「んとねー、この子がどろた、この子はどろすけ、この子はどろみなの!」
ふむ、ゴーレムに雌雄の概念はないと思っていたが今は違うのか。時代は変わったのだな。
かつての仲間は既にいない。人間から淘汰された。これは仕方がない事だ。人間だろうが魔物だろうが、世界中の全て生き物はナワバリ争いをする。我々はそのナワバリ争いに負けただけだ。自分達が暮らすだけの小さなナワバリだったんだがな。……仲間達を逃してあげられなかった事、これだけは生涯後悔し続けるだろう。全て殺されたあの時、人間共が俺を倒さなければ、自分で命を絶とうと思っていた。置いていかれるのは辛いからな。
しかし、現実は常に残酷だ。俺は倒されもせず、後を追う事も出来ず、封印された。
「まおちゃん、みて!これでまおちゃんも、おともだちいっぱい!」
いつの間にかどろた、どろすけ、どろみに顔が彫られていた。なんとも歪な形相だ。
「……そうか」
この気持ちは一体何と表現すればよいのだろうな。考えてもよく分からないから止めた。面倒だ。面倒だから、ミミの頭をわしゃわしゃ撫でてやった。またうひひと笑ってる。変な笑い方だな。
「ミミねぇ、まおちゃん だいすきっ」
左様でございますか。
何百年と封印されていた様だった。詳しくはわからん。意識はあった様な無かった様なフワフワした感じで、長いとも短いとも思わなかった。封印が解かれたと気付いた瞬間、目の前に居たのがこのミミだった。
「おにいちゃん だぁれ?」
一冊の古びた本を抱き抱え、キョトンとしたアホ面の人間の子供がいた。
「えのおにいちゃんと、いっしょだね!」
俺はこの子供を殺そうと手を伸ばした。造作もない。人間は脆いのだから。するとこてんと首を傾げて俺の顔を覗き込む。
「……かなしいの?」
首に伸ばしかけた手がピクっと止まる。
「このえの おにいちゃんも かなしそうだった……」
子供は悲しそうに俯いた。しかし、ばっと顔を上げる。
「だいじょうぶ!かなしいのはね、おなかがへってるからだよ!」
…… 何を言っているんだこいつは。馬鹿か。
「ミミのおかあさん そういってたよ、だからいっぱいたべたら げんきになれるんだよ!」
小さな手を差し出す。
「おいで!ミミのおかあさんのごはん、とってもおいしいんだよ!ミミのぶん、おにいちゃんにあげる!」
そういうと、俺が中途半端に伸ばしていた手を掴んだ。小さくてあったかい、柔らかい手だった。
ミミに連れられ、小さな家で出されたシチューという食べ物は、確かに美味く、ほんのり元気づけられた気がした。
それ以来、俺はこの村に留まっている。最初こそ驚かれたが、すんなり村人は俺を受け入れた。もともと人間に近い姿をしていたのが良かったのかもしれない。
「若いもんは大歓迎じゃ!脱少子高齢化じゃ!!」という村長のビッグな発言の為だ。まあ俺若いどころか最高齢なんだがな。村の平均年齢を強烈に引き上げてしまった事は申し訳なかった。
ミミに名前は何かと聞かれた時、「魔王と皆から呼ばれていた。」と答えた。するとまだおつむの弱いミミは「まお っていうの?じゃあまおちゃんだね!」と言った。それ以来、ミミはまおちゃん、まおちゃんと俺を呼びまくる。冗談じゃない、昔の仲間がこれを聞いたらどう思うか……。
「まおちゃん、おいしいねぇ!」
「まおちゃん、あそこいこう!」
「まおちゃん、こわいー……」
「まおちゃんのばかぁーー!!」
「まおちゃん、だいすきーーっ」
……ほんとに、冗談じゃない。
日が傾いてきた。家に帰らねば。
「……ミミ、もうそろそろ帰るぞ。ミーナが待ってる」
「ん、わかったぁー」
そういうとミミはゴーレム3兄弟にバイバイと手を振り、その場を後にした。おい、俺の友達はあそこに放置か。せめて軒下くらいに移動せさてやろうぜ。泥のゴーレムは水に弱いんだから。まったく手間がかかる奴らだ。
泥だらけの小さな手と手を繋ぐ。このどろだらけの手と服、誰が洗うと思ってるんだ。面倒なんだぞ。そう思っていると、隣から小さいお腹の音がきゅるるーと聞こえてきた。
「きょうのよるごはん、なにかなぁ?」
「……さあね。でもミーナの作る飯は全部美味いんだろ?」
「うん!そう!なんでもすきー!でもにがいのはきらーいっ」
時折考える事がある。
空気で分かる。以前より、この世界は魔法の力が弱まっている。ほとんどの人間はもう魔法の使い方なんて分かっていないんじゃないだろうか。こんな世界、ちょいと頑張れば滅せる。でも滅ぼした所でなんになる。ナワバリを分かち合う仲間はとうにいない。
この村は昔城を構えていた所からそう離れていなかった。あの連なる山脈を見ると、つい思い出してしまう。細やかながらも仲間達と楽しく過ごした、あの短い日々を。仇討ちでもいいし、遅くなったけど仲間の元へ行くのもいい。目覚めた以上、何か行動せねばならんのじゃないかと、ふと考える事があった。
「おかあさん、ただいまぁ!」
「……もどった」
だけど今は、
「ミミ、マオ君、おかえり。今日はミミが大好きなシチューだよ!」
「やったぁー!まおちゃんきいた?シチューだって!」
だけど今は、面倒だから、どっちも止めておいてやるよ。
「ミミ、これやる。ゴーレムもらったからな。そのお返しだ。……ミーナにも……」
「わ、きれいなおはなー!まおちゃん ありがとぉー!」
「まぁ、素敵。ありがとマオ君」
俺の顔が勝手にほころぶ。
……ほんと、面倒だ。
関連作品 : 「取材班は勇者の後に」http://ncode.syosetu.com/n6052dk/




