六話目
~~数日後~~
と言うお馬鹿な安請け合いをしてからわたし、それはもう頑張りました。
お屋敷の図書室や町の図書館に行って昔のお茶会の資料を調べたり、先輩やメイド長にアドバイス貰ったり、とにかく頑張って準備しました。
数日と言う短い準備期間ではありましたが、わたし、なんとか間に合わせました。
ってこれってわたしが居なかったらお嬢様はどうやってお茶会を開くつもりだったのでしょうか?
う~ん、まあ、ならなかった事を考えても仕方ありませんか。
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とにかくそんなこんなでついにお茶会当日がやって参りました。
ソワソワソワソワしつつもお茶会の最終確認を手早く済ませていたら連絡係のメイドに“お客様が到着しました”と報告を頂きました。
よし、わたし初の大仕事です。
がんばりますよー。
と言いつつも、実はわたし、お嬢様以外の上流貴族様にお会い出来ると思ってすでに昨日から興奮しっぱなしだったりします。
ファーミナ様、どんな方なんでしょうか。
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と、言う訳でお嬢様とお客様をお茶会会場に設定した客間へご案内致しました。
それにしても、ファーミナ様がお綺麗で目が眩んでしまいます。
小さなお顔に大きな目、澄んだ青い瞳、ぷっくりした柔らかそうなピンクの唇、しかもわたしやお嬢様と違って優しそうな雰囲気です。
なにより目を惹くのは銀色に輝く珍しい御髪!
歩く度にサラッサラッと揺れる御髪はまさに我が国の宝です!
とか思ってたらファーミナ様付きのメイドさんに咳払いで警告されてしまいました…………無情です。
ファーミナ様付きのメイドさんは二十代中盤でしょうか、令嬢の専属侍女としては若い訳でも年と言う訳でも無い位ですね。
でも何だか教育ママっぽい見た目で怖いです。
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そうこうしている内にお嬢様達はお茶会を始めてしまっている様です。
危ない危ない、ちゃんとお仕事しなければ。
「ファーミナさん、今日はわたくし素晴らしい物をご用意したんですのよ」
おっと、お嬢様がさっそくコーヒーを振舞うみたいですね。
ご用意しなければ。
わたしは裏に控えているメイドにチラッと視線で合図を送りコーヒーのカートを持って来て貰います。
そこから素早く、でも音を立てない様に気をつけて用意して、お嬢様方へお配りします。
その一連の仕事をお嬢様が見て、一瞬だけですがニコッとした様な気がしました。
気のせいでしょうか。
「さあファーミナさん、遠慮なさらずにどうぞ」
「これはなんでしょうか、落ち着くよい香りですが、この黒さ……これは飲める物なのですか?」
「ええ、大丈夫ですわ。 わたくしの家の名に掛けて保証致します。 さあ、どうぞ」
ちなみに“家の名に掛ける”って凄く重要な誓いをたてる時に使う言葉です。
神・国・家・自分・それ以外、と言う順番で貴族には誓いの宣誓があります。
でも神と国は勝手に使ってはいけない事になっておりますので実質は家の誓いが一番厳しい誓いって事になります。
それをこんなお茶会で気軽に使ってしまって良いのでしょうか……。
「そこまでして頂かなくても……」
あ、ファーミナ様も同じ事を思ったみたいですね。
困った様に眉を寄せてるお顔が可愛いです。
なんて見とれたらまたファーミナ様のメイドに睨まれました……怖い。
「では頂きます。 ……んくっっふっ!? な、何なのですかこれは!!?」
ファーミナ様が危うくコーヒーを吹き出しそうになります。
ギリギリ耐えましたが危なかったです。
吹き出してたら対面にいるお嬢様に掛ってしまう所でした。
そんな事になればわたしの月収四ヶ月分はするドレスが台無しになってしまいます。
セーフです。
それにしても、お嬢様もファーミナ様も吹き出しませんでしたね。
さすが上級貴族様ですね!
「あらあら、エーリエナ家のファーミナさんともあろうお方が今南部の上級貴族の間で大流行しているコーヒーを知らないと?」
お嬢様が扇で口元を隠しながら小馬鹿にした様な事を仰ります。
「コーヒー、これがコーヒーなんですか? はじめて飲みましたが驚きですね。 ですがごめんなさい。 私には全く美味しさが分らないのですけれど」
ですがファーミナ様はさして気にした様子も見せず、コーヒーをしげしげと見つめてそう仰りました。
「そうですわね。 正直言えばわたくしもわかりませんわ。 ですがわたくしの優秀なメイドが素晴らしい飲み方を見つけましたのよ」
パチンと扇を畳みつつお嬢様がわたしの方に目配せしました。
わたしは小さく頷いてからファーミナ様の元へ別のカップをすぐさま用意してお持ちします。
言わずもがな、中身はわたしが苦労して考えたコーヒー牛乳です。
色々と配分や製法を試行錯誤してさらに美味しくなってます。
ファーミナ様はそれをおもむろに手に取ると一口、すーっと飲みました。
「あら、美味しいわ! これは良いですね!」
一口飲んですぐにぱあっと顔を輝かせてファーミナ様が喜んで下さりました。
「飲みやすいですし後味も申し分無いわ! これは国中で流行りますよ! これ、私の家でも家族やお客様にお出ししても良いかしら!?」
「ええ、もちろんですわ。 ですがその際にはわたくしのメイドが考えた飲み方だとちゃんと付け加えて下さいね」
はしゃぐファーミナ様を見て、お嬢様は人の悪そうなニヤッとした笑顔を浮かべます。
ですが扇でにやけ顔を隠しファーミナ様にそんな事を仰りました。
「それぐらいお安いご用です。 貴方、名前は?」
お嬢様との話の流れでファーミナ様が突然わたしに名前を聞いてきました。
上級貴族様に話しかけられるなんて夢みたいです!
早く答えなきゃ!
それであわよくば一言二言会話を…………!
「わたくしのメイドの名はアイアリスよ。 良い名でしょう?」
………………舞い上がってる間にお嬢様が答えちゃいました。
ぅぅ、ひどいです。
「アイアリスね。 そうねぇ、じゃあ少し略してアリス式コーヒーと言う名前で広めましょう。 これは中央でも絶対に流行るわよ!」
そう言ってファーミナ様は笑顔で残りのコーヒー牛乳をゴクゴクッと飲み干しました。
「そう。 まあ程々になさってね」
なんだか話がすっごく大きくなってる気がします。
ど、どうしましょう……この飲み方ってわたしが最初に考えついたかどうかとか全然調べて無いんですけど大丈夫でしょうか。
誰かがもう考えついててもおかしくないですし、実はこれが普通に当たり前の飲み方かもしれないんですけど!
これってもしかして何かあった時にわたしの責任になってしまうんじゃ無いでしょうか……うぅぅ、憂鬱です。
それから数刻程お嬢様方はお喋りをしてからお茶会は終わりました。
お茶会中わたしは忙しく飲み物やお菓子をお出ししたり、裏方さん達への指示とかお嬢様方が所望する無理難題をなんとかするとか、とにかく色々やらなければならない事が多くて大変で疲れました。
一度で良いからわたしもメイドさんにお世話して貰いつつ優雅にお茶会を満喫してみたいものです。
参加者としてね。
本当にうらやましいです。
何はともあれ、お茶会は無事終了です。