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五話目


「お嬢様、こちらなど如何でしょうか」


「…………それはなんですの?」


 わたしが差し出したコーヒーを見てお嬢様が怪訝なお顔をします。


「はい、こちらはコーヒーと言うお茶の一種だそうです。 南部出身の者に分けて頂きました。 つい最近試験的に取り寄せたばかりの舶来品だそうですよ」


「そう。 それで、それは美味しいのかしら?」


 …………あれ?

 美味しいかですか!?


 そう言えば美味しい物を探してるって言ってましたね……完全に忘れてました。

 珍しい物が手に入ったからって持って来ちゃいましたがこれは宜しくないかもしれないです。


 とりあえず適当に言い逃れしてみましょう。


「…………南部貴族の間では非常に高い評価を受けているそうです」


 ユミリ先輩は別に評判が良いとか美味しいとか全然言ってなかった気がしますが……大丈夫かな?


「わたくしはあなたに美味しいか聞いているのだけれど?」


 う……やっぱりダメそうです。

 言い訳が思い付きません。

 しょうがない、ここは一つ強引に押し切ってみましょう。


「わたしの様な下々の者よりお嬢様の方がファーミナ様の味覚に近いと思います。 ですのでお嬢様、まずはご自分でお飲みになって頂いた方が宜しいと存じます」


 …………だ、ダメかな? ダメですよね?

 と言うか、よくよく考えると今の発言ってすっごくお嬢様に対して失礼ですね。

 これでお嬢様が怒ってわたしの実家にまで被害が及んでしまったらどうしましょう。


 と、危惧したのも束の間、怒るかと思いきや意外にもお嬢様は素直に言う事を聞いてくれました。



「そう、それなら仕方無いですわね。 では頂こうかしら」


 カップを手に取りこくっと一口。


「んん! っっけほっけほっ……な、何よこれ!? 毒ね! あなたわたくしに毒を盛ったのね!?」


 カシャンッとカップを乱暴に置いて今度こそお嬢様が烈火の如く怒り出しました。

 でもちゃんと飲み込んでるのはさすがです。

 わたしの時は思わず吹き出してしまいましたよ。


「いえ、違います。 コーヒーとはこう言う味の飲み物なので御座います」


 努めて冷静な声と顔で言い切ります。

 でもわたしだってまともに飲んだ事無いので本来の味なんて知らないんですけどね。


「嘘じゃ無いでしょうね!? ……まあ良いわ」


 なんとかお嬢様のお怒りを受けずに済んだ様です。

 良かった。


「で、本当にこれは南部の“上級”貴族達の間で流行っているのね?」


「はい、非常に人気が高いと聞き及んでおります」


 間髪入れずに答えちゃいましたが……あれれ、そう言えば先輩って“上級”貴族と言ってましたっけ?

 流行ってるとも言ってなかった気もしますが…… ま、まあ良いでしょう。


 南部貴族の間で話題になっている事に違いはありませんものね。


「ふぅん、そうなのね。 でもこの不味さではねぇ」


「お嬢様、今なら流行の先取りと言う一点だけで見てもポイントは高いかと思われます」


 コーヒ-以外にめぼしい物も見つけていませんし、ちょっと押してみます。


「確かにそうね。 次のお茶会で出して見るのも手ですわね」


 よし、良い感じにお嬢様の心が傾き出しました。


「貴方、コーヒーの美味しい飲み方を見つけて下さらないかしら?」


 ほぁ!

 なんて事でしょう。

 無理難題すぎる事を事も無げに命じられてしまいました。


「かしこまりました」


 さてどうしましょうか……。



◆◇◆◇◆



 また使用人用の食堂兼休憩室で頬杖ついて考えこみます。



 美味しく飲む方法ですか……悩ましい所です。



 とりあえず基本的な事からやってみましょうか。


 まずは入れ方を色々変えて試すと言う事で、お湯の温度を変えてみたり豆の挽き方や加減を変えてみたりしてみます。

 うぅ、結局何しても苦くて渋くて酸っぱいです。

 こんな飲み物が美味しくなる方法なんてあるんでしょうか……。



 め、めげずに次行ってみましょう。

 とりあえず苦いのを消す為に砂糖を入れて見る事にします。

 あら、これは意外といけますよ!

 ではジャムならどうでしょうか?

 ……いまいち美味しくありませんね。

 さらにあれやこれやと混ぜて飲んでみましたが、不味い事になりました。

 これは非常に不味いです。



 あ、いえ、コーヒーが不味いと言う訳では無く(コーヒーも不味いんですけどね)何を隠そうわたしの胃が不味いのです。

 最近何かと心労が祟って胃に来てた所に今回のコーヒー大量摂取です。

 どうにもこの飲み物は胃に優しく無い様でかなり来ます。


 さっきからわたしは猛烈な胃痛、それに胸焼けと吐き気に襲われております。


 きりきりきり、うっぷ……こ、これは本格的に不味いです。

 と、とにかく急いでお手洗いへ……。


 ま、まずい…………無理……ま、まにあわ…………◎△$♪×¥●&%#!?



 うっうっうっ、メイドにあるまじき失態をおかしました。

 泣けてきます。


 もう終りにしたいですが、そうも行かないでしょう。


 まだ美味しい飲み方を見つけられておりませんので続けなければいけないのです……。



 うーん、でも、全部出してかなりスッキリしたとはいえ胃のダメージはかなりのもの。

 ここは一度何か胃に優しい物を飲んで安静にするとしましょう。


 胃に優しい胃に優しい……トマトジュースあたりかな?

 安くて美味しくて胃に優しい良い物なのですが、残念ながら今は時期じゃ無いので手に入りづらいですね。



 別の物を考えましょう。


 他に今の時期でも手に入りやすくて胃に良い物と言うと……あ、牛乳がありますね。

 牛乳も非常に胃に良いですからコレを飲みましょう。



 さっそく牛乳を温めて~、砂糖を入れてっと~、ホットミルク完成です。


 ふ~~、落ち着く味ですねぇ。

 おいしいです。



 あれ?

 牛乳+砂糖=美味しい。

 コーヒー+砂糖=そこそこいける。

 コーヒー=胃に悪い。

 牛乳=胃に優しい。


 これって全部混ぜたら美味しくて胃にも厳しくない飲み物になるんじゃないでしょうか!?


 ダメで元々、とりあえずやってみる事にしましょう。



 あれ? あれあれあれれ? これ、良いんじゃ無いでしょうか!

 これ、いける気がします。


 と言うか、むしろ美味しいです!


 良いです良いです!

 これ行けます!


 やったぁ、美味しい飲み方発見ですよぅ!


 …………失礼、とりみだしました。



 よしよし、今度こそお嬢様も納得してくれるでしょう。

 さっそくお出ししてみます。



◆◇◆◇◆



「お嬢様、こちらの試飲をお願い致します」


 わたしは意気揚々とコーヒー牛乳をお渡しします。

 でもなんだか反応がかんばしくありません。

 前回お出ししたコーヒーの不味さが尾を引いてるのでしょうか。


「大丈夫です。 今回は美味しく仕上がっております」


「本当ですの? 今度不味かったら気の長いわたくしでもさすがに一言言わせてもらいますわよ」


 あれ、気が長い……、お嬢様って気が長かったんでしたっけ?


「なんですの? 何か異論がありそうですわね」


「いえ、滅相も御座いません! それに大丈夫です。 絶対に美味しくお飲み頂けますから」


「そ」


 危ない危ない、お嬢様は妙な所で勘が良いんだから困りものです。

 でもやっとお嬢様がコーヒー牛乳を手にとって下さいました。


 コクっと控えめに一口。


「あら、本当に美味しいんですのね。 驚きましたわ」


 よーし!

 わたしはお褒めの言葉を聞いた瞬間、ついついお嬢様から見えない位置で小さくガッツポーズをしてしまいます。

 これでこそ頑張った甲斐があるってものですもん。



「うふふ、貴方、素晴らしいですわ。 これでわたくしもやっとお茶会で勝てそうですわね」


 うんうん、お嬢様に喜んで頂けたみたいでわたしも嬉しいです。

 こう言う事こそがメイド冥利に尽きるってもんですもの♪

 やっとわたしもメイドの喜びが味わえましたよ。


 嬉しい、鼻歌でも歌っちゃおっと。 心の中でですけどね。


 ふ~ふふ~ん♪ ふふふ~ん♪ っと………………ん?


 ……あれ、お嬢様は今なんて?

 『これでわたくしもやっとお茶会で勝てそうですわね』

 と仰った気がしますよ……。


 あれあれ、それってもしかすると。


「お嬢様、つかぬ事をお伺いしますが、今までの戦績は如何ほどでしょうか」



「…………ゼロ勝五敗、ですの」


「…………」


 どうしましょう、ついつい聞いてしまいましたが返す言葉が思い付きません。

 さっきまで上機嫌だったお嬢様もすっかり面白く無さそうになってしまいました。


「ですのでわたくしのメイドである貴方にお願いするわ。 わたくし、今度こそ勝ちたいんですの!」


 お嬢様は真っ直ぐにわたしの目を見てそう仰りました。

 そんな視線からわたしは目をそらせずに…………いえ、逸らす事なんてせずに言い切ります!


「お任せ下さい。 わたしが必ずお嬢様に勝利をお約束致します!」


「ええ、ええ! 頼りにしていますわよ! お願いね」


 言ってやりました。

 わたし言い切ってやりましたよ!

 なんの根拠も自信も無いけれど、お嬢様の頼みとあらば何なりと叶えて見せましょう!



 って………………………やばいです。

 まずいです。

 無理、どうしよう。

 全然出来る気がしないです。

 助けて誰か!


 ……ぁぁ、胃が痛い……。



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森のエルフは過保護さん
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