はろいん
~~とある日~~
「…………と言う訳で西の端にある島国では収穫祭の事をハロウィンと言ってカボチャを崇め奉るのですよ」
と、ハンスさんが親切にも教えて下さいました。
「はい、はろいんですよね。 知ってます。 はろいん。 カボチャ祭です」
正直全くの初耳です。
まさかそんな不思議な行事がすぐ近くの国で行なわれていたとは……世界は狭い様で広いです!
でも上級メイドのわたしがそんな事も知らないとなると公爵家の恥になってしまうかもしれません。
なので知ってる振りをしておきました。
「おや、さすがはアイアリス様です! この地方でハロウィンを知ってる人なんて他国に行商へ行く商人位な物なのですが、まさか知っていらっしゃるとは!」
『おお!』と両手を広げて大げさに驚きながらハンスさんがそう言います。
「当然です。 カボチャ……を愛でる会? ……の会報に載ってました」
う……やってしまいました……。
周りの方々も知らないのなら公爵家のメイドが知らなくても恥じゃなかったのに、色々聞く事が出来るチャンスを逃したかもしれません。
失敗です。
と言うか、自分で言っておいてなんですがカボチャを愛でる会って何なんでしょうね?
絶対怪しまれてます。
「な……なんですって!? まさかアイアリス様がかの有名なカボチャを愛でる会、通称『カメ会』に入ってらっしゃるとは…………それならば知っていても不思議はありませんね。 ではこの祭の祝い方が書かれた冊子は必要無かったですね」
……あれ?
本当にそんな会があるのですね……知りませんでした。
……ま、まあ結果おーらいです。
……おっと、そんな事より重要な事を言っていましたね。
冊子、是非貰ってマーシャ様に“はろいん”なる催しを献上いたさねばなりません。
「いいえハンスさん。 せっかく冊子を持って来て頂いたのにわたしがカメ会に入っていたのですでに知っていたからとその行いを無碍にする訳にもまいりません。 わたし、仲の良いお方……友人と言っても良いハンスさんにそんな仕打ちをする様な女ではありませんよ?」
「え!?」
少し強引に話を持って行ってそのどさくさに冊子を頂こうとそう言う作戦で話を進めました所、何故かハンスさんが驚き顔で固まってしまいました。
何故でしょう……最近ハンスさんが良く止る気がします。
「ハンスさん、どうかしましたか? えっと、冊子、頂いても良いでしょうか?」
「あ……ああ! はいはい! どうぞいくらでも貰って下さい!(……びびった……それにしても、友人……友人だったのか……そうか……いつのまに……良い感じだ……)」
そう勢い良く喋りながら『今日から貴方もハロウィンマスター!』と題が入った冊子を手渡して下さいました。
ありがたいです。
ちなみに後半の小声はいまいち聞き取り辛かったのですがちょろっと聞こえた範囲だと『友人だったのか……』とか言ってたのでやっぱりハンスさん的にはわたしはただのお得意先の家の下っ端扱いなのでしょう。
確かに冊子の為とは言え少し強引に友人だと言ってしまいましたからね。
仕方ありません。
別に良いんです。
さっきまで良い気分だったのが何故か今は最低になってしまって居ますけど……
別に良いんです。
冊子も手に入った事ですし、さっそく自室へ戻って読む事にしましょう。
「ではハンスさん、今日も耳よりな情報ありがとう御座いました。 また来ますね」
そう言って別れを告げて足早に立ち去りつつ、ふとそう言えば今日は何も買ってないので貰いっぱなしだったぞ?と気が付きました。
良く無いですね。
別れ際にハンスさんが何故か焦って何かを取り出そうとしてた気もしますし。
良く無いですね。
今度何かお礼をしましょう。
何が良いかな?
お茶……お茶かな?
ティーセットを持って行って入れて差し上げれば喜んでくれるかな?
でもわたしの私用品だと良い茶器でもないですし、茶葉も庶民が買う凄く安いやつしかないんですよね……。
あ、じゃあクッキーでも焼いて一緒にお出しすれば……ってただのお得意様の家の使用人から食べ物貰っても困りますよね。
うーん、まあ今度考えましょう。
さあ、そんな事より今は冊子です。
早く読んで準備して、マーシャ様へ“はろいん祭”をお届けするぞー、おー。
◆◇◆◇◆
と言う訳でわたし『今日から貴方もハロウィンマスター!………………………(第二巻)』を読んで完璧な知識を身につけました。
………………よくよく見たら端っこの方に第二巻って書いてあったのは気にしない。
気にしない。
ようはカボチャをくり抜いて悪魔顔にしてロウソク灯せば完璧なんです。
後はくり抜いた中身でパンプキンパイを作って、合い言葉を言ってから食べれば来年も豊作になるって言うお呪いがなる、そう言うお祭りなんです。
たぶん。
開催日も書いてなかったけど、今頃の季節にやれば良いんでしょう。
たぶん。
だって……そう言うのってどっちも普通第一巻の最初の方に書いてありますもんね……。
良いんです。
この国のお祭りじゃないんですもの、楽しめれば問題無いんです。
・
・
・
・
・
って事でわたし、調理場でカボチャ貰って隅でランタン作りです。
でも、すでに作り始めて一時間経ちましたが一向に進んでません。
カボチャ……固すぎます!
近くで働いてる厨房付きのメイドには怪訝な顔で見られますし、調理師さん達からは邪魔そうな目で見られてしまって……辛いです。
ぅぅぅ。
でも、めげません。
~~二日後の夜~~
結局カボチャランタンの制作は調理師さんにお願いして作って貰っちゃいました。
凄く良い出来です。
冊子に書かれてた絵の通りです。
作ってくれたお礼にはわたしが刺繍してブタ柄を入れたハンカチを差し上げました。
わたしが刺繍を入れたハンカチだと言って渡したら喜んで下さったのに、柄の出来映えを説明した時には何だか微妙なお顔になってしまったのは何故でしょうか……。
とにかく、準備が整ったのでさっそくマーシャ様にお披露目です。
お夕食の後、湯浴みが終わってからお休みになるまでの間を狙ってお出しする事にしました。
なのでカートにランタンとパンプキンパイを載せてマーシャ様へ声を掛けます。
「マーシャ様、ハッピーはろいんです」
そう声を掛ければ驚いて下さるかと思ったのですけど、でもなんでしょう、何だか思ってたのと違う反応が返ってきました。
「あら、ミリア。 良くハロウィンなんて知ってたわね」
どうやらマーシャ様は“はろいん”を知っていらっしゃるみたいですね。
「はい、せっかくですからマーシャ様とお祝いしたくて準備させて頂きました」
「あらあら、ふふふ。 ではそうしましょう」
そう言ってマーシャ様は自らカボチャランタンの中にロウソクを灯して下さいました。
お部屋の明かりを減らして暗くすればあら素敵、悪魔顔のカボチャから漏れるオレンジ色の光に包まれて幻想的な空間に早変わりです。
「ではミリア、例のかけ声を一緒に言うわよ」
「はい、マーシャ様」
「せーのっ」
「「トリックアンドトリート《いたずらするしお菓子も貰うよ》!!」」
・
・
・
その夜は終始マーシャ様が楽しげに笑顔で過ごして下さったので、わたし的には大成功の催しでした。
良かった。
ただし、最後の最後にマーシャ様は仰いました――
「ハロウィンは先月のお祭りなのですけれど、何故今なのかしら?」
――とね。
もー、ハーンスさーん!
なんで先月の行事だって言ってくれなかったんですかー!
happyHalloween!! (・_・)




