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ある商家での何気ない会話

ハンスさん視点で一話書くつもりだったのですが、何故かハンスさんのお父様の視点になったでござる。








~~まだ朝も早いとき~~





「おいハンス、いま良いか? ちょっとこっち来い」



 公爵家へと納品する品物の検品や準備を従業員共々忙しなくしている息子を呼び出す。



「なんだ親父? 今わりと忙しいんだけどな」


「まあそう言うな。 お前、最近やけに張り切って公爵家へ納品に行ってるって言うじゃねえか、なんかあんのか?」




「ああ、まあ、たいした意味はねえけどよ。 なんせ、あそこはうちの生命線だろ? それなら下っ端に任せねぇでちゃんとした者が行った方が良いだろってだけだよ」


「ほーん、口を開けばやれめんどくせぇだのすきに生きさせろだの言ってたお前がなぁ。 ずいぶんご立派な事言うじゃねぇか」



 元々うちには長男のハンスに限らず何人も子供は居るから無理にでも長男に継がせる必要も無かったんだが、それに娘も居るから最悪は婿って手もあるしな。

 それでもハンスは兄弟の中で一番商売が上手いから期待はしている。

 だが、余り乗り気じゃなかった様に見えたこいつがある日を境に急にやる気を出しやがった。



 良い事ではあるんだが――



「だろ? まあ安心して任せとけって」



 ――こいつぁ怪しい。



「そうか。 じゃあもう一つ話があるんだが、こないだお前が作らせたあのブタ柄のレターセットの話なんだがな、ありゃなんだ? 全く売れねぇぞ」



 ある日急にお抱えの職人に『ブタ柄が流行る!』とごり押しして作らせやがったレターセット、ほんと全然売れねぇ……。

 何故か凄く喜んで買ってってくれるお客さんも居ない事も無いが、儲けるにはほど遠い。

 大方これも急にハンスの馬鹿がやる気を出した事と関係してるに違いない。



「あー……まあ……なんだ……。 ありゃ思った以上に売れないな。 正直失敗だった。 すまねぇ」


「気にすんな、商売やってりゃたまにゃそう言う事もあるわな。 ミスから学びゃ良い」


「分ってる、同じミスはしねぇよ。 俺も赤出す気は無かったんだ」



 怪しい。



 普段素直に謝る様な奴じゃ無い癖にいやに素直に謝りやがった。

 と言ってもまあ大体調べはついてるんだが、言い逃れ出来ない様にちょいと引っかけてっみるか。



「…………でだ、結局の所お前が公爵家へ行くのはよ」


「ん?」


「女だろ?」


「ぶっふぉ! は、はぁ!? 何のでそうなる!?」



「分かり易すぎるんだよお前は。 暫く前に人手が足りなくて無理矢理お前に納品に行かせた事があったろ? そん時に惚れたんだろう」



 ちょいと不意を突いてやっただけこれか……我が子ながらこんなんで商談が勤まるのか不安になる。

 まあ商談の時はちゃんと出来ているのは知ってるのだが……そう考えると、それだけ今通い詰めている相手にべた惚れしてると言う事かもしれんな。



「ほ、惚れ!? そんなんじゃねぇって!」



「で、誰なんだ?」



 一応、事前に一緒に行ってる従業員の話から何人かの目星は付けてあるんだが、本人から聞ければそれに越したことは無いからな。


 納品に行った折、何かを買いに何度も頻繁に来ている相手で適齢期の女性は五人。


 三人はメイド、一人が騎士見習い、残る一人がお庭番とか言う所の少女らしい。


 メイドと騎士見習いは当然下級貴族の次女や三女と言った生まれの者だろう。

 お庭番の子は仕事内容的に考えてたぶん平民だな。



 メイドは洗濯係が一人、連絡係が一人、裏方清掃係が一人らしい。

 まあまだ若い子達だから端役なのは仕方無い事だろう。

 その三役だと連絡係が頭一つ抜けてはいるが、とは言え公爵家のメイドに求めるレベルは非常に高いからまだ若い段階で本邸に勤められていると言うだけでも有能な子達だとうかがい知れる。



 騎士見習いにしてもそうだ。

 公爵家お抱えの騎士は敵国と接していると言う土地柄的に非常に精強だ。

 西部のお飾り騎士団と違って実力が無ければ見習いにすらなれない。

 そんな騎士団へ女の身で入団が許されているんだ、よほど才能があるに違いない。



 唯一いちばん能力的にハードルが低いのがお庭番であろう。

 ここは長年の経験が物を言う仕事柄、今現在の能力が優れているからと雇われている訳では無いだろう。

 だが、こことて確かな身元が保証されて居なければ雇われる訳も無いのでそう言う意味では安心だ。




 ふむ、そう考えるとお庭番の子が一番何とかなりそうだが……さてさて、我が愚息はいったい誰狙いなんだろうか。




「いや……あー……その……んー」


「諦めろ、お前が最近あれやこれや手を伸ばして変な物買い集めてる事だってばれてんだ。 言っちまえ」


「マジかよ! ちっ、しょうがねえなぁ……。 分ったよ。 アイアリスさん……ミュリアナ・アイアリスさんだよ!」



 ふむ、アイアリス嬢か……アイアリス……アイアリス!?



「お前、まさかそれって最近上級メイドになったお方のことか!?」


「ああ、その人だ」



 いやいやいや、いくら何でもそれは無理だろう!

 公爵家の上級メイドだぞ?

 それもただの公爵家じゃない、リーンスルール公爵家の上級メイドだ。


 はっきり言ってこの家の上級メイドは下手な貴族なら顎で使える程の地位がある、そんな相手だ。


 しかもアイアリス嬢はその地位に最年少でなった前代未聞のお方だ。

 五十年に一人の天才だと言う噂まである。


 才能だけではなれず、美貌だけでもなれず、その二つを持ってしても尚なれない。


 才と美を持つのは当たり前、さらにそこに天賦の運まで持って初めて成れる、そう言う立場なんだ。




 確かに報告には上級メイドも毎回卸に行った際には何か小物を買い物に来ていると報告はあったが……そりゃあただ単に上級職が気軽に町に出れないからって気晴らしに来てるだけだろう。

 実際買っていってる物は主人への手土産だったりちょっとした雑貨だったりだしな。




「………………そうか。 ま、次があるさ」



「なんでダメな事前提なんだよ! ひでぇ、今に見てろよ!」




 ………………うむ、まあ、憧れるのは自由だからな。

 若者はいつだって高嶺の花を望む物だ。





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森のエルフは過保護さん
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