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お庭の散策

ミリアさん視点です






~~暖かな日の午後~~




「ミリア、暇ですわね」




 それまで読書をなされていたお嬢様が唐突にそんな事を仰いました。


 えと、どうしましょう……。


 でも、専属侍女たるわたしはすぐに何かお嬢様が納得するお返事をしなければなりません!

 ですので咄嗟に――


「ではお庭の散策へ出掛けましょう」


 ――と提案してみました。

 幸い今日は穏やかに晴れた行楽日和ですので丁度良さそうです。



 ちなみにお庭と言いましてもさすがは公爵家、なんとお庭に小川や池があるのは当たり前、それどころか広大なお庭には丘や森までありますので四季折々飽きること無く素晴らしい景色を堪能出来ます。

 当然お庭は公爵家お抱えの騎士団や傭兵団が警備してるので一般の方や危険な生き物も居ないので安心です。



「そうね。 ではそう致しましょう」


「それではすぐに準備してまいります」


 良かった、お庭の散策じゃダメって言われたら他の事なんてパッとは思い付かないですから助かりました。

 よし、じゃあ準備してくる振りしつつお嬢様ががっかりしない様に今の見所がどこかお庭番の方々に聞いてきましょう。


 あ、お庭番というのは公爵家のお庭を手入れする庭師や猟師や木こりなどの方々が所属する部署のお名前です。

 大きなお庭なので人数も凄く一杯います。




◆◇◆◇◆




 と言う訳で急いで、とはいえお屋敷の中を走る訳には行きませんので早足で使用人用の食堂兼休憩室へ来ました。

 お嬢様のお部屋からだとかなり遠いから来るだけで時間掛っちゃったので焦りだしてしまいます。



 えーと、お庭番の方は何方かいらっしゃらないかな?

 ここに居なかったらお庭番の方の作業所まで行かなければならないのですが、そこはさらに遠い場所にあるのでお嬢様を長らくお待たせする事になってしまうので行く時間がありません。

 お昼時では無いのですが、お仕事の都合なのか良くずれた時間にお食事しているのを見掛けるので運が良ければ居るはずです。


 ん~……あ、幸いな事にお二人ほど休憩して居る方々がいらっしゃるのを見つけられました。


 よかったぁ。



「こんにちは、リーリンさんフルリさん。 お休みの所すみませんがお聞きしたい事があるのですけど少しだけお時間宜しいでしょうか?」


 と、食後のお茶を飲んでまったりしているお二人に話しかけます。

 リーリンさんは確か猟師の方で、フルリさんは木こりさんだったはず、違う部署なのでうろ覚えですけど……。

 お二人とも四十代後半のベテランさんですので頼りになるはずです。


「お~、アイちゃんどうしたん?」

「ええよええよ、遠慮しなさんなって」


 二人とも皺の深くなって来た顔でニッコリと満面の笑顔でお受けして下さいました。 ありがたいです。


 あ、ご年配の方々はわたしの事を『アイちゃん』と呼ばれる方が多いのです。



「ありがとう御座います。 お嬢様がお暇だと仰るのでお庭の散策へお連れする事にしたのですけど、お手軽に行ける場所で今の見所はありませんか?」



「この時間からか……移動手段によるなぁ。 馬でなら少し離れた所にある丘が今は一面花畑になってて最高だよ」


 と、推定猟師のリーリンさんが教えてくれましたけど……馬……ですか……。


 実はお嬢様は淑女の嗜みとして乗馬も問題なく出来るのですけれど……。

 何を隠そう、わたし、幼少の頃に馬に蹴られそうになった事がありまして、以来馬は怖くて近寄れません。

 だって一歩間違えば死んでましたもん。

 馬車に乗る位なら平気なんですけど、でもやっぱり怖いので御者は出来ないんですよね。


「丘は心惹かれますけど、わたし馬はちょっと……」


 一面花畑という丘は凄く興味引かれますけれど、無理だとお伝えします。


 うぅぅ、わたしが馬に乗れればお嬢様と素敵そうな丘を見に行けたのにぃ! 残念です。

 馬怖いけど、乗馬……出来る様に頑張って見ましょうか。


 うん、それが良いですね。


 よし……じゃあ明日……明日から頑張ります。




「だば馬車で森の西池さ行って水鳥でもみるのがええでないかい?」


 推定木こりのフルリさんが今度は馬車で行ける場所を教えてくれます。


 水鳥かぁ……うん、良いかもしれないです。

 よし、そこにしましょう!


「では今日は森の西池に行ってみる事にします。 お二人とも教えて頂いてありがとう御座います。 ちなみにそこって、うりぼうは居ますか?」


「いんにゃ、いねよ。 うりぼうが居るっつぅこたぁ猪が居るっつ事だでそんな事だば大問題だどよ。 そもそもうりぼうの時期じゃねぇ」


 そっか、うりぼう……居ないのかぁ。



 もう一度お二人にお礼を言ってからわたしは急いで残りの準備に回ります。

 ちなみに場所は公爵家お抱えの馬車の御者さんへ伝えればそれだけで連れて行って貰えるので詳しく聞く必要はありません。


 なので馬車の手配をすれば良いのですが、それは連絡係のメイドさんへ言伝を頼めば大丈夫です。

 それと公爵家の敷地内ではあるのですけど、一応手配する護衛の方も同じ様に言伝を頼めば問題ありません。


 お嬢様の部屋へ帰りがてらその二つの言伝を近場に居た連絡係さんへお願いしてわたしはお嬢様の元へ急いで戻ります。

 お待たせする訳にはまりしませんからね! あぁ、忙しいです。





~~馬車の中にて~~





「ミリア、庭と言っても何処へ向かうのかしら?」


 いつものドレスより少し動きやすさを重視した軽めのドレスにお召し替えしたお嬢様が、それでも手放さずに持って来た愛用のふさふさ扇をパタンっと畳みながら尋ねて来ました。


「はい、マーシャ様。 今の時期は森の西池に水鳥が居るので見に行きましょう」


 なのでわたしはさも元々そこへ向かうのが決まっていたかの様に淀みなく答えます。


「へぇ、鳥ですのね。 他には何かいないのかしら?」


 やっぱお嬢様もそこが気になるのですね!

 言わなくても良いのならそれに越したことは無いと思いましたが、こうなってしまってはちゃんと確認しておいた残念な事実をお伝えしなければなりませんね。


 そう意を決してわたしは口を開きます。


「お嬢様、申し上げ難いのですが……残念ながら、うりぼうは居ないそうです…………」


 うつむき、申し訳なさで一杯にそうお伝えしました。



「………………ん、ん? そう (んー、わたくしは別にうりぼうの事を聞いた訳では……)」



 たっぷり数拍は間を開けて、それでもお嬢様は言葉少なにお返事して下さいました。

 やはり凄く残念がっている様子に、わたしもご期待に応えられなかった不甲斐なさを感じてしまいます。



 次はもっとご期待に添える場所をご提案出来る様にしておかなければ!







~~その後~~







 到着した西池は、森の少し開けた場所にあるそれ程大きくは無い池ではありましたが綺麗な色をした鳥が何種類も居てお嬢様ともどもわたしも楽しめました。

 また機会があれば散策へ出掛けたいものです。




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森のエルフは過保護さん
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