ミリアの微笑み
ミリアさん視点です
~~とある日~~
今日もわたしは出入りの商人であるハンスさんの元へ足を運びます。
ハンスさんには何かと意地悪をされて思う所が無くも無いのですけど、それ以上にわたしの気に入りそうな物を持って来てくれる素晴らしい人でもあるので結局毎週ハンスさんのいらっしゃる時には顔を出してしまうのですよね。
そう言えば、ハンスさんの商店はかなり立派なお店だったはずですけど、ただ商品を納品するだけの事になんで毎回跡取りである若様がわざわざ来るのでしょうか。
わたしがお屋敷に勤め始めた頃は雇い人が納品に来てた気がするのですが……もしかしてお店、暇なのですかね?
それはさておき、今日も何か良い物あると良いなぁ。
「ハンスさん、こんにちは。 何か珍しい物が無いか見に来ました」
「おお、これはこれはアイアリス様! 本日もまるで女神様の様に輝いていらっしゃいますね。 今度ご一緒にお茶など…………おほん、失礼、少し焦りました」
どうして焦るとお茶に誘う事になるのでしょうか?
良く分りませんがいつも通りの軽い褒め言葉にむしろイラッとします。
ですがここはぐっと堪えて商品を見せて貰いましょう。
「えー、では今日は北方の国で作られたこちらのガラス細工など如何でしょうか? ご存じかと思いますが北方の国は冬は雪で閉ざされてしまい家から出る事もままなりませんのでちょっとした工芸品が発達しているのです」
へ~、北方の国ってそんなに凄く雪が降るんですね。
わたし、雪って降った数日後には無くなっちゃう儚い物だと思ってました。
「そうですね。 北の雪は積もる物ですからね」
初めて知りましたがついついいつもみたいに知ったかぶりしちゃいます。
「さすがはアイアリス様、博識でいらっしゃいますね。 で、今回は試しと言う事で実用品では無く小さな置物を仕入れて見ました、どうでしょうか?」
そう言ってハンスさんが並べたのは手の平に載せられるサイズの小動物を象った置物でした。
ふぅ、何とか知ったかぶりはばれなかった様ですね。
でも……なんですかなんですか!
この置物すっごく可愛いじゃないですか!?
赤や青など様々な色ガラスで作られたそれは非常に愛らしくて素敵です。
表情には出しませんが、ついついテンションが上がってしまいます。
「なかなか素敵ですね。 これは猫でこっちは犬ですかね。 馬や熊なんかもあるんですね(でも、ブタちゃんは……無いんだ……)」
そうなんです、ブタちゃんが無いのです!
それだけがすっごく不満なんですけど、まあお嬢様は犬や猫が好きだったはずですので良いとしましょう。
「ありがとう御座います。 そう言って頂けると当方としましても嬉しいかぎりです。 まだ王都でも珍しい物ですのでお話の種にも宜しいかと思いますよ」
おお、それは良い事を聞きました。
と言う訳で全部買い取ってお部屋に飾りましょう。
お茶会の時とかにさり気なくお客様に見える様に飾るのも良いですね。
「そうなのですか、では全部頂きます。 今日も面白い物をありがとう御座いました。 また来週も期待していますね」
余り笑わないわたしですがいつも素晴らしい物を持って来て下さるハンスさんへ、日頃の感謝を込めて少しだけ微笑みながらお礼を伝え、わたしは手に入れた置物を大事に胸に抱えてお嬢様の元へ急ぐのでした。
その際チラッと見たハンスさんが、まるで鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をして固まっていましたけど、それが何だか少し失礼な様な、残念な様な、そんな不思議な気がして“もにょっ”とした感覚を胸に覚えます。
むー、慣れない事はしない方が良いみたいですね。
今後はハンスさんの前では笑わない事にしましょう!
……まあそれはそれとして。
とにかくこの素敵な置物を早くお嬢様にお見せしなければ♪
大失敗ハンスさん。




