傭兵団へ行ってみます
メイドのミリアさん視点です。
わたし、前回お嬢様と街に行ったときに思いました。
『もっと気軽に街に行けたら良いのになぁ』とね。
お嬢様が街へ行くには護衛が必要なんですけど、護衛して下さる騎士さん達は多忙なんです。
現状だと騎士団へ何日か前にお願いしておかないと予定が組めないので出掛けられないのです。
不便ですよね。
そこでわたし考えました。
騎士団がダメなら傭兵団へ行けば良いじゃない、とね。
と言う訳でわたし、傭兵団へ行ってみます。
必要になった時に突然行って依頼するよりも先に渡りをつけておいた方が良さそうですからね。
ただ、以前も言った様に傭兵団の方は荒っぽい方が多いのです。
出来ればお近づきになりたく無かったのですが……でも、あの方々も公爵家の関係者なんですからきっと大丈夫なはず。
大丈夫なはず!
◆◇◆◇◆
ところで、傭兵団の詰め所の場所なんですけど、これも騎士団と同じで本邸と同じ敷地内にあります。
ただ騎士団とは正反対の場所になっているのです。
いぜんこちらで働くにあたって受けた説明によりますと、本邸を守る為にあえてそう言う配置になっているとお聞きしました。
なんと言っても、ルール地方って帝国と接して居る地域ですしね。
最前線の地方なんです。
実感はありませんけど……。
だってわたし、帝国の方なんて一度も見掛けた事無いんですもの。
……もう戦争なんて終わりにしちゃえば良いのに。
で、この傭兵団の詰め所なんですけど、ここは塀で区切られていて本邸とは自由に行き来が出来ない様になっています。
傭兵ってほとんどの方が平民ですし、やっぱり公爵様的には自由に行き来出来ちゃうと問題なんでしょうかね?
むー、貴族社会の闇を感じます。
そんなこんなで、途中の門を通って傭兵さんの詰め所へ到着です。
うぅぅ、やっぱり柄が悪そうな人達が一杯居ます……。
怖い。
えーと……受付は何処なのでしょうか?
きょろきょろと見回して見ますがそれっぽい窓口もカウンターも見当たりません。
困りました。
う~ん、どうしましょう。
その辺の方へお聞きしてみましょうか。
でも怖そうな方しかいらっしゃらないんですよね……。
そんな風に悩んでいたわたしへ不意に背後から声が掛けられます。
「よう、どうした? なんか用かよ」
わひゃぁぁ!
突然後ろから声を掛けられて驚きました。
しかも振り返ってみればさらにびっくりな事に顔に大きな傷があるすっごく怖面な方がこっちを睨んでいらっしゃいました。
危うく悲鳴を上げそうになっちゃいました!
あぶないあぶない……。
でもこれはチャンスです。
受付の場所をお聞きしましょう。
そう思い、わたしはどっきんどっきん言って暴れる心臓を何とかなだめつつ、努めて冷静な声でお返事します。
「いいえ、違います。 あの受つけ――」
「ばっかおめぇ、そんな厳ついツラで話しかけたらメイドがびびっちまうじゃねぇか! で、どうしたってぇ?」
せっかくわたしが勇気を振り絞って喋り出したのに、近くにいらっしゃったこれまた怖面で筋肉質な方に遮られてしまいました。
ぅぅ、怖いです。
でももう一度頑張ってみます。
いつのまにか握りしめてしまっていた手を開いて力を抜いて……よし。
「その、こちらの責任者の方に――」
「おうおう、どうしたどうした! なんかあったのか? おお? こいつぁ本邸のメイドじゃねえかよ。 何しに来たよ?」
あぅぅぅ、ひどいです。
今度も一言すら喋らせて頂けないうちにまた別の方に遮られてしまいました……。
もう限界です。
諦めて帰りましょうか……。
そう思った時でした。
建物の中から若い女の人が颯爽と現れてわたしを取り囲んでる方々へ怒鳴ります。
「あんた達何やってんのよ! 女脅して遊んでんじゃないよ!」
そう言いながらわたしと周りの方々の間に割り込んで庇って下さいます。
格好良いです。
そのままその方は『ついて来な!』と言ってわたしの手を引いて建物の中へ連れてきて下さいました。
助かりました。
実は怖くて足が震えてしまっていて動きだせなかったんですよね。
ふ~。
「悪かったね。 奴らも悪気は無かったと思うから許してやってよ」
静かな部屋へ入ると、少しぶっきらぼうな態度で助けて下さった女性は話しかけて来ました。
こんな態度はわたしが上級メイドになってからは初めての経験です。
以前はわたしが男爵家の出と言うことでそう言う事も頻繁にありましたけど、昇格したらパッタリと無くなりました。
ちょっとだけ懐かしい気もして来ますね。
「はい、大丈夫です。 問題ありません」
そうお答えします。
実際何かされたわけでもありませんし、ただ用件を聞いて下さっただけですものね。
そのわりにわたしの話を聞いて下さいませんでしたけど……。
「そっか。 それで、こんな所へあんたみたいな箱入り娘が何の用だい?」
問題無いと言ったわたしの言葉を聞いて、女性は少し安心した様子でそう仰いました。
やはり同僚さんの事が心配だったのですね。
「はい、少々依頼したい事が御座いまして、傭兵団の責任者の方にお会いしたくこちらへ参らせて頂いたのです」
「ふーん、そっか。 おーけー、ここで待ってて。 お頭を連れてきてやるよ」
女性はそう仰るとスタスタと部屋から出て行ってしまいました。
面倒見が良い方なんでしょうか。
ありがたいです。
◆◇◆◇◆
しばらく待つと女性が壮年の男性を連れて来て下さいました。
中肉中背のあまり特徴の無いお方です。
この方がお頭さんなのでしょうか?
「またせたな。 俺が傭兵共を預かってる団長だ。 ま、こいつらは頭と呼ぶがな。 で、何の用だ?」
やっぱりお頭さんで間違い無いみたいですね。
わたし、正直言いますともっと体中傷だらけで筋骨隆々のお方を想像しておりました。
予想外ですがご挨拶と用件をお伝えしましょう。
「はじめまして、わたしはアイアリスと申します。 さっそくですが本日伺ったご用件なのですけど、わたしの主が出掛ける際に必要になる護衛の件でご相談したい事があり、本日こちらへ参らせて頂きました」
やっと本題にまで辿り付きました。
ここまで来るのに何度挫けそうになった事か……。
でも用件を言えました。
後は交渉あるのみです。
「ま、そんなこったろうと思ったよ。 それ以外にメイドがここに来る理由もねぇしな」
と言う事は逆に言えばわたし以外のメイドも来ていると言う事ですか。
やっぱり護衛の依頼先が騎士団だけでは問題なんですね。
「先日お嬢様がお出掛けしようとした際に色々と不都合が発覚したものでして、次回の為にその辺りを改善したいのです」
「あ? もしかしてお前、騎士団なんぞに護衛頼んだのか? ばっか、あんな脳筋でお堅い連中に頼んでどうすんだよ。 遊びに出掛けてんのに周りに何人も厳つい騎士が張り付いてちゃ気分わりぃだろ? ちったぁご主人様の事も考えてやれよ」
と、団長さんが残念な方を見る目でわたしを見ながら仰りました。
あれ……もしかしてわたし、呆れられてるのですか?
解せません……。
でもなんだかここまで強気に言われてしまうとお頭さんの仰ってる事が正論な気がして来ちゃいます。
う~ん?
「ま、その点うちは良いぜ? ちゃんと護衛には女を付けっし、それなりに馴染む服装もするしよ。 護衛対象に不快な思いなんぞさせねぇよ」
おー、女性が護衛に付いて下さるんですね。
たしかにその方が緊張しなくて良いかもしれません。
「つーわけでこいつを専属につけてやんよ。 腕は保証するぜ」
そう言ってお頭さんは後ろに控えていたわたしを助けてくれた女性を指さします。
専属ですか。
傭兵団にはそう言った制度があるのですね。
「ありがとう御座います。 えーと、わたしはミュリアナ・アイアリスです。 これから宜しくお願いします」
専属に付いて下さるのでしたらちゃんと自己紹介しませんとね。
「ああ、うちはリースってんだ、よろしくね。 で、ミュリアナさん、アンタのご主人様ってのは誰なの?」
あ、そこまだ言ってませんでしたね。
「わたしの主はマーシリア様です。 大変お優しい方ですので安心して下さい」
と、わたしは本心からお伝えしました。
ですが――
「マジか……優しいなんて話……一度たりとも聞いた事ないって……。 お頭……嵌めたね?」
「はは、まぁ頑張れや」
――と、軽口を言い合っております。
なんでしょう……面白くありません。
……まあ良いです。
お嬢様と接していればすぐにでもお優しいと言うのが本当の事だとわかるでしょう。
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それから今後の事を数件取り決めて、その日は解散する事になりました。
護衛の事、依頼の仕方、他にも色々です。
あと、わたしが一人で出掛ける時も護衛して頂けるとの事で凄くありがたいです。
これで街に買い物に出掛けられます。
ふー、疲れました。
なんにしても本日の目的を果たせましたのでよかったです。
でも、次回からはお嬢様のご要望にすぐにお答え出来るようになりました。
わたし、頑張りました!
さあ、後は早く帰ってお部屋のお掃除をして、お嬢様のおかえりをお待ちしましょう。
頑張るぞー! おー!




