デート(熊)
小学生以来のジェットコースターは、思ったより迫力があり、隣に座る沢木のようにはしゃぐ余裕はなかった。降りた後も脱力感がすごく、足に力が入らなかった。
「まさか…こんなにすごいなんて。いやあ、びっくりした。」
息も絶え絶えの俺の背中を摩りながら、沢木は大はしゃぎである。
「気持ちよかったー!石田君、大丈夫?気持ち悪くない?」
沢木は俺を気遣ってくれたが、心配してくれている割には目がキラキラしている。
「ちょっと休憩してから次の乗り物に行こうね。」
そう言いながらも、沢木の目は早く次の乗り物に乗りたくてたまらないといった目をしていた。
どうせ次の乗り物も長時間並ぶのだろう。それならば待つ時間を休憩に充てればよい。
「休憩は大丈夫です。行きましょう!次の乗り物が待ってますよ。」
俺の言葉に、沢木は満面の笑みを見せた。
結局、俺たち二人は丸一日かけて絶叫系全ての乗り物を制覇した。おそらく今日の来場者で、ここまで堪能できたのはほんの一握りしかいないはずだ。
「楽しかったね、石田君。」
沢木は疲れた表情を見せず、最後まで楽しんでいた。
空も薄暗くなってきたところで、園内は皆そろそろ帰ろうかという雰囲気に包まれていた。
「どうしますか?沢木さん。」
俺は沢木の手を握った。
沢木は顔を赤くしながら俺の手を握り返してくる。
「帰ろうか。遅くなっちゃうし。」
沢木の表情は満足していた。
もちろん俺にとっても満足のいくデートだった。初めてにしては上出来ではないだろうか。乗り物の力に頼ったところは否定できないが、今までには経験したことがないほど楽しかった。
「帰りも安全運転で送り届けます。」
沢木は小さく頷き、俺の体にぴったりと身を寄せた。
今日一日で乗ったどのジェットコースターよりも心臓がバクバクした。
帰りの車の中で、沢木は園内の売店で買ったお土産の袋を開け出した。
「これ…。」
そういうと沢木は熊のぬいぐるみのキーホルダーを差し出す。
沢木のバッグについていたものと一緒だった。この熊はあの遊園地のマスコットだったのだ。園内を歩いていて気付いたのだが、あえて口には出さなかった。
「もし良かったらお揃いで持っていたいなって…。石田君に買ったの。」
その熊のぬいぐるみは、沢木のバッグについているものとは違い、毛並みがふさふさしていた。沢木の熊はだいぶ前に買ったものだというのが一目瞭然だ。
「ありがとうございます。ずっと大事にします。」
俺はそう言ったものの、内心は複雑であった。
園内のマスコットの熊を目にして、沢木が以前この遊園地に来ていた事が分かってから、バッグで揺れる熊のぬいぐるみを真っ直ぐ見れなかった。
前に誰と来たのだろうか。それが心に引っかかっていた。
そして毛並みがボロボロになるまで大事に持ち続けているのは、どういう事なのか。
次々と邪推する自分にうんざりしたが、これも初めての体験なのだ。いわゆる嫉妬というやつである。




