デート(遊園地1)
遊園地は3連休の中日とあって、大変な賑わいだった。
駐車場をウロウロと5分程度走ると、入場ゲートから程遠い所に空きが見つかった。
「やっぱり混んでるね。大丈夫?」
沢木は不安げな表情を見せた。
「大丈夫です。沢木さんが一緒なら。」
俺が微笑むと沢木は一瞬驚いた表情を見せたが、にこりと笑い俺の手をぎゅっと握り返した。
沢木の言葉の意味に気付かないほど、俺は精神的に安定していた。おそらく人ごみを敬遠するはずの俺を気遣ってくれたに違いない。
昨日のメールでも同じような事があった。俺が遊園地に行くという沢木の提案に乗り気な返事をすると、本当にいいのかという確認メールのやり取りが3往復ほど続いたのだ。
だがもう心配はない。明美先生のところへ行ったことで、気分は晴れやかだった。
「ゲートまで延長してもいいですか?」
俺の言葉に沢木はきょとんとしている。
「その…手を繋いでいてもいいのかなって。」
沢木は顔を真っ赤にして、小さな頭をこれでもかというほど縦に振った。
「もちろん…です…。」
車を停め、沢木のバッグを取って手渡す。プライベート用のバッグだろう。普段の仕事用カバンよりも明るい色をしている。持ち手の根元には可愛らしい熊のぬいぐるみがついていた。沢木の意外な一面に、胸が高鳴った。
「石田君、ジェットコースターとか平気?」
沢木の視線は、駐車場から見える巨大なジェットコースターに向けられている。
「小学生の頃に乗ったきりなんで、分かりません。あの時は平気でしたけど。」
正直言って高いところは苦手である。ジェットコースターの何が怖いかというと、乗り込む前に上る階段が怖いのだ。わざわざ下が見えるような階段を設けてあるのは、何か意味があるのだろうか。
「そっか。私は全然平気!だから手を握っててあげるね。」
沢木は言ったそばから顔を真っ赤にする。沢木の一挙手一投足が愛らしくてたまらない。
ああ、デートとはこういうものなのか。俺はこのむず痒い感覚がたまらなった。
ゲートをくぐると家族連れやカップルなど、とにかくたくさんの人で溢れかえっていた。
「すごい人ですね。迷子にならないようにしなきゃ。」
俺は握っている沢木の手を強く握りしめた。すると沢木もそれにこたえるように強く握り返してくる。
「あれ乗りたい!」
沢木が指差した方向には、駐車場から見たものより少しスケールの小さなジェットコースターがあった。どの乗り物もそうだが、長蛇の列が出来ている。人がまさに蛇のように列をなし、小刻みに前進している。
「行きましょう。」
覚悟を決めて、列の最後尾についた。
順番を待っている間、沢木は俺の顔を不思議そうな表情で見つめる瞬間があった。何気ない会話をしていても、ふとその表情に戻る。気になったので思い切って聞くことにした。
「沢木さん。僕の顔に何かついてます?」
沢木ははっとした表情で視線を外した。
「ううん。ちょっと心配してただけ。石田君、人ごみあまり好きそうじゃないから。会社でもエレベーター使わないでしょ?だからどうなのかなって。」
沢木はやはり俺がエレベーターを使わず階段でフロアの移動をしていた事を知っていたのだ。
「大丈夫です。変に気を遣わせてしまって、すみません。」
俺の答えに沢木は安堵の表情を見せ、それ以降は不思議そうな表情を見せる事はなくなった。




