真実5
美也は突然席を立つと、自分の部屋に戻っていった。
「美也…」
母親が追いかけようとすると、親父が手をスッと挙げ、待ちなさいと静止した。
俺も美也を止めなかった。美也は俺に見せたいものがあると言っていた。おそらくそれを手に戻ってくるだろう。
「俺は今、会社で大きな仕事を任されてる。取締役直々のプロジェクトなんだ。」
「ほう、それはすごいな。」
親父は感心している様子だ。母親はエプロンで必死に涙を拭いながら俺の話を聞いている。
「入社してから3年は現場で奮闘してたんだけどね。その頑張りを認めてもらって、本社からお呼びがかかったんだ。」
仕事の話がこれからだというところで、美也がバタバタと階段を駆け下りてきた。
「お兄ちゃんこれ、なんだか分かる?」
美也が持ってきたのは、手紙だった。それも相当な数である。一つ一つが女の子らしい配色のデザインだ。
「これ、全部お兄ちゃん宛てのラブレター。中学校の時、みんな私にもってくるの。こっそり渡して欲しいって。」
美也の隣で母親はじっとその手紙を眺めている。
「お兄ちゃんが学校で酷い事されてたの知ってるから、みんな大っぴらに渡せなかったの。それで全部妹の私にこれを預けて行くんだよ。まあ、中には私目当ての男の子から貰う事もあったけどね。」
美也は微笑みながら続ける。
「お母さんもお父さんも私も、お兄ちゃんが自分の容姿の事を気にかけていたのは分かってた。でもどうしてなのかは分からなかった。こんなにかっこいいのに、こんなに優しいのに、どうして自分に自信が持てないんだろうって…。」
美也は再び涙が止まらなくなった。
「お兄ちゃんのおかげで助けられたこともあるんだよ。私も一応モテるから同級生の女の子から嫌がらせなんかもされてた。でもある日を境にそれがピタリとなくなったの。」
美也は確かに男子生徒にモテていた。学年が二つ下なので、同じ学校に通う限り、噂話は耳に入る。美也の同級生が、それこそ手紙を持って家の前で待ち伏せしていることも何度かあった。
だがそれによって美也が同性から嫌な思いをさせられているなど、夢にも思わなかった。家の中では常に天真爛漫。暗い様子などおくびにも出さなかったのだ。
「嫌がらせが無くなったのは、お兄ちゃんの同級生の山野先輩が、嫌がらせをしていたグループに脅しを掛けてくれたからなの。石田の妹に手を出すなって…。」
山野美保。はっきりと覚えている。うちの学年で女番長と呼ばれていた女だ。中学生にも関わらず、大人びた化粧をして度々教師に注意を受けていた。確か山野は俺をいじめていた奴と付き合ってたんじゃなかったっけ…。
「結局、山野先輩もお兄ちゃんの事が好きだったのよ。」
美也の話を聞いて、明美先生が披露してくれた推理が現実味を帯びた。
美也が次々と披露する色恋話に、両親は聞いてはいけないものを聞いてしまったという具合で、急に料理に手をつけ出した。
その後も、美也の演説は止まらなかった。俺がいかに人気があったか、そして家族が俺の為にどれだけ我慢をしてきたかなど、いろんな話を披露し続けた。
負けずに俺も、これまでの苦悩や会社での仕事の話など、思う存分吐きだした。
これだけ自分たちの子供がまくし立てるように話すのを、彼らは初めて見ただろう。
帰ってきて良かった。心の底からそう思えた。
そう思うと同時に、沢木と話がしたいと思った。仕事ではなく、それ以外の話をしたい。何でもいいから、沢木の顔が見たい。
胸の高鳴りが抑えられなくなっていた。




