表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: くぬぎ
2/86

青天の霹靂

 午後1時。今朝沢木が言っていた企画発表の会議が始まった。

オフィスの片隅にある小さな会議室で、部署の面々が難しい顔をして沢木の新商品のプレゼンを聞いている。

「今回の企画商品は、ターゲットを10代後半に絞りました。高校生や大学生でも手が出る価格にし、それでいて少し背伸びできるような化粧品を作りたいと考えています。」

 俺の部署は会社の中でも収益の根幹部とも言える化粧品部門である。こんな顔の男が化粧品部門というのだから、おかしな話である。沢木はひと月ほど前に部長直々に新商品の立ち上げ企画を任されていた。彼女は仕事においても他から一目置かれる存在なのだ。

 そんなことを考えている間も、沢木のプレゼンは先に進んでいく。いつも他の社員がプレゼンする際にはいちいち口をはさむ部長も、無言で沢木のプレゼンに耳を傾けていた。というよりも、うっとりと沢木を眺めていたという方が表現としては正しいのかもしれない。

「現段階での問題として生産ラインの確保が挙げられます。当社下請けの工場は、主力であるブランドに押さえられていますので、上層部の方々がそれらの生産量を削ってまでこの新企画商品に力を入れてくれるとは考えにくいので…。」

 沢木はプレゼン終盤になって急に消極的な発言をした。頑張ったと胸を張って言っていた企画である。会議室にいる全員が沢木をちらりと見ながら、何かしら思案している風を装っている。

「コンセプトとしては良いんじゃないかな。実際この世代の客層はわが社では不要と考えている。ここに切り込んだのは斬新であるとは思うが…。」

 そう言うと部長は黙ってしまった。おそらく部長はフォローを入れようとしたのだろう。しかしいざ言葉にしてみると、この企画がわが社にとって、そしてこの部署にとってもかなりの冒険になるのではないかと自らの言葉できづいてしまったのだ。

「高橋女史はきついっすね。」

 俺の隣の席に座っている村田が呟いた。俺より一年後輩で容姿端麗のチャラい男である。甘え上手で先輩女子社員に仕事を手伝ってもらえるよう、おねだりするのががこいつの仕事だ。この村田が呟いた高橋女史というのが、この企画の大きな障害となる。

 わが社の化粧品部門における生産ラインはすべてこの女帝高橋にすべて握られている。自分の気に食わないものは絶対商品化させない。化粧品部門がこの女帝に握られているのだから、わが社の収益の大部分を握られていると言ってもいい。

「逆に言うと高橋女史を頷かせれば、事はスムーズに運ぶってことっすよね。」

村田は誇らしげに語りだした。

「村田君、高橋取締役と言いなさい。あとその若者言葉なんとかならんか、友達じゃないんだから。」

「はーい…。」

 部長の正論に皆笑いを堪えている。しかし村田は自分が笑いを取ったと勘違いし、しょげるどころかますます勢いづいてしまった。

「高橋取締役のおかげでうちの商品おばさん臭いってイメージありありじゃないですか。いい機会なんで若者向けに方向転換した方がいいと思うんですよね。」

 こういうときに能天気は無敵である。これまでにも幾度となく方向転換は叫ばれてきた。しかし社長夫人でもある女帝高橋がその度に立ちはだかってきたのである。たしかに熟年層の化粧品売上は硬い。似たような商品を新商品として発表すれば手堅い売上は維持できる。問題は彼女が自分の意見以外信じない点だ。

「で、この企画を考えたということは、何かしら高橋取締役を説得できる算段でもあるんじゃないのかね?」

 部長の一言で皆が一斉に沢木へ視線を送った。

「この企画を高橋取締役に直接持っていくつもりです。」

 一同は何かしらの奇策が沢木の口から出るのではないかと期待していたのだろう。皆一様にがっかりした表情へと変わってしまった。そこへ沢木が続けた。

「私だけで行っても多分駄目なので、石田君と一緒に高橋取締役の説得に伺おうと思っています。」

 俺は唖然とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ