アブナイ オバケヤシキ…
―――お化け屋敷…
―――それは、毎年巡ってくる夏の風物詩…。
―――でも、例えお化け屋敷だとしても注意が必要だ…
―――一歩間違えば……貴方も…
―――どん底の恐怖を味わい、生きて帰れないかもしれない…
それは、私、千陰 香蘭が中学二年の時の事だった。
とある、夏休み…
友達と来ていた祭りがそろそろ終りに近づいていた時のこと…
食べ物の屋台やゲーム、射的などに混じって、偶然、奇妙な屋台を見つけたことから始まった。
いや、屋台と言うよりは、そこだけ真っ黒なオーラがまとわりついている不気味な建物だった…
建物の入口に掛けられている看板には『お化け屋敷』と書かれている。
これも、この祭りの出し物なのだろうか…?
そう、考えていると友達が急にある事を言い出す…
「ねぇ、香蘭。ちょっとここに入ってみない?」
「えー!イヤだよ。凄く怖そうじゃん。」
心霊物が、とても苦手な私は絶対ダメと反対する。
「良いじゃん。ちょっとだけだから入ろうよ。」
今度は、無理やり引っ張って私をお化け屋敷の前に連れ出した。
なんだか、とても嫌な感じをしたが手を掴まれてしまっていては逃げようにも逃げられない……
私は、ため息をつきながら凄く後悔していた。
「どうして、こんな事になっちゃったんだろう…」
そんな事を言ってもどうにもならず…
私のこんな小さな独り言を聴いているのか、いないのか…
友達は、お化け屋敷の扉の前にいた男の老人に話しかけた。
長く伸びた顎のヒゲも髪も真っ白で、ボロボロの服を来ていて何だか不気味なお爺さんだ。
「ねぇ、お爺さん。私達、このお化け屋敷に入りたいんですけど…」
友人のその言葉に老人は、何故か口をニヤッと曲げ、もの凄く気持ち悪い笑みを零す…
「ほう、お客さんとは珍しいな。お嬢ちゃん達2人だけかい?」
「そうですけど」
「本当に入るのかい?本当に凄く怖い思いをするかもしれないよ?」
「でも、怖くなかったらお化け屋敷じゃないですよね?」
友達がそう言うと「確かにそうだね」とお爺さんは、白い歯を見せてケタケタと笑った。
やっぱり、不気味だ…
「良いだろう。そこまで言うのならこの先を入っていきなさい。ただし、一つだけ注意しなければならない事がある。」
「注意しなければならない事?」
「そう。これを守らないと君達が一番困った事になってしまう」
「それって何なんですか?」
友達が聞くと、お爺さんはヒヒヒ…と気味悪く笑う…
「それはね。もし君達に何かが起こっても私は補償出来ないという事だよ」
そう忠告をするとおじいさんは、ゆっくりと入口を開ける。
でも、私はどうしてもこの先が怖くて仕方がなかった…
―――何かが起こっても……
それは、まるでこれから何か恐ろしい事が起こると予想している様な言い方だ。
どうしても、不安要素にしかならなかった。
「やっぱり、やめようよ。怖いよ」
私は、必死で…何とか入るのをやめさせようと声を発した。
だが、その声さえも震えている。
「大丈夫だよ。たかがお化け屋敷なんだし」
その、たかがお化け屋敷が怖いんです!
私は、そう反論しようと思ったが、友達はさっさと扉の奥に入っていってしまう。
さっきまで、掴まれていた手はいつの間にか離れていて一人だけポツンと取り残されてしまっていた。
その時の私にとって友人に置いていかれていまう事がどれだけの恐怖だったか…今になってはもう分かることはない…
いや、もしかしたらこの先にあった恐怖の方が強くて、この時の恐怖はかき消されてしまっていたのかもしれない…
「ちょ、ちょっと待ってよー。置いてかないで!」
いずれにしても、私は、この時今までの人生で最悪な日を過ごすことになった。
―――それからしばらくして、私達は真っ直ぐな暗い道を歩いていく。
入る時、ライトなどを渡されていなかった私達は携帯の僅かな光を頼りに進んで行く。
怖いものが嫌いな私は、ずっと友達の腕に絡んで引っ付いていた。
「ちょっと、そんなにくっ付いてたら歩きにくいよ。香蘭」
友達は、苦笑いしながらも恐る恐る歩く私の歩調に合わせて歩いてくれていた。
しかし、その時…
オジョウチャン…マッテヨ…
オネェチャン…イッショニアソボウ…?
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
突然何処からか響いてきた得体の知れない声に私は長い悲鳴を上げ、友達は、出たー!!!というように驚いて声を上げた。
私は、怖さから腰を抜かして尻餅をついてしまう…
だが、そんな私の手を友達は掴んで走り出した。
「は、早く行こう!きっと、もうすぐ出口だよ!」
さっきの声で怖さが出てきたのか、友達の手も微かに震えている…
今の私が考えているのは、早くこのお化け屋敷から逃れたいということだけだった。
それからも、壁から除いている様なお化けなどが次々と出てきた。
そして、ある事に私は気づく…
「ねぇ、さっきから思ってたんだけど…」
「な、何?」
「なんか、凄くリアルなおばけじゃない?」
それを確かめるために、ちょっとだけ後ろを振り向く。
するとそこにあった物を見て私は更に恐怖を募らせた…
頭から血が滴り…全身傷だらけで脚を引きずって追いかけてくる男性の姿…
その体は、実態がある人とは思えない程透けて見えて、まるで、本物の幽霊の様に見えた…
その手には、キラリと光る刃物らしき物を握っている。
「ま、まさか本物の幽霊!?」
友達も少し振り返って、その姿を見た瞬間…
ま、まさか…と顔を引き吊らせた…
私も、は、ハハハ…と現実を見ないようにするしかなかった。
お化け屋敷で本物のお化けが出てくるなんて洒落にならない…
私達は、なるべく後ろを振り向かずに恐怖に耐え真っすぐ走り続け……
やがて、一筋の光を見つける…
「もしかして、あれが出口?」
「そ、そうなのかな…?」
「きっと、そうだよ。あそこだけ明るいし。」
「だよね。」
友達も私も安堵して、急いでいた歩みをゆっくりにした。
「はー。やっと、お化け屋敷から抜け出せるよ」
張り詰めていた息を吐き出し、緊張を解すと友達も苦笑いする。
「そうだね。入ろうって言ったの私だけど、流石に少し怖かったかな。もう、入る気はしないよ」
お互い笑いあってここを出られる…
私達はそう思っていた…
だが、直ぐにそんな希望は打ち砕かれた…
それは、出口が目の前に迫った時のこと…
―――突然、今まで空いていた筈の出口の扉がピシャンと閉まったのである。
「な、し、閉まった!?」
急いでドアに歩み寄る私達…
私は、扉の取っ手を掴み扉を開けようと引っ張る…
だが、開くことなど有りはしなかった…
「ど、どうして開かないの!?」
「う、嘘でしょ!?」
パニックになる私達…
更に、追い打ちを掛けるような出来事が起こる…
「ね、ねぇ、香蘭。」
何か開けるための物がないか、そう思い辺りを見回していた友達が恐怖に声を滲ませ言ってきた。
「な、何…?」
「あれ、本物じゃないよね…?」
「え…?」
私も後ろを振り返ると…顔を驚愕に染めた…
そこには………鎌や包丁、刀等を血の滴る手で持って私達に迫ってくる人達…
いや、身体が透けている幽霊達がいた…
「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああ…」
手が震えて…怖さから声も出ない…
逃げなきゃ…早くここから出ないと!!
だが、気持ちとは裏腹に足も動かないし、一番肝心なドアが開かないのではどうにもならない…
私は、頭で何も考えられず…最後には腰を抜かしてペタンと地面に崩れ落ちてしまった。
友人は、泣き崩れながら「ここから出して!!ここをあけてよ!!」とドアを叩き続ける…
しかし、そんな事をしてる間にも幽霊たちは近づいてきて…
とうとう、目前にまで来てしまった…
「あ、ああ………」
ゆっくりと、刃を持った手が上がってゆく…
もう…お仕舞いだ……
そう思ってぎゅっと目をつぶった。
次の瞬間にはもう私の命は無いだろう……
刃に貫かれる衝撃や痛みなどを覚悟した。
だが、いくら待ってもその痛みなどが襲って来ることは無かった。
私は、少しずつ目を開けていく。
しかし、目の前にある風景を見て目を見開いた…
「あ、あれ……?ここは…」
そこは、さっきのお化け屋敷と違う場所…
入る前にいたお祭りの出店が立ち並ぶ場所だった…
でも、さっき入った筈のお化け屋敷は、もう何処にも無い…
「あたし、どうしてここに…?まさか、夢でも見たとか…?」
ても、本当にそうだったらどんなに良かったか…
この後、私は…お化け屋敷に入る前に言われたお爺さんの忠告の『本当の意味』を知ることになる…
「きゃあああああ!!!!」
私が、状況を理解しようと整理していた時…
何処からか人の悲鳴が聞こえてきた。
一体、何が起きたのか。
私は、声がした方へ行ってみる。
そこには、人が大勢集まって何やら覗き込んでいた。
「すみません。少し通して下さい!」
何とか人混みの中を掻き分けて行くと、周囲の人達が集まっている真ん中がポッカリと空いていた。
そこには、大きくて太い木が一本…
そして…その下には…
―――足も手も首も胴体もバラバラに切断され、今にも飛び出してしまいそうな程目を開けてこちらを睨む変わり果てた友人の遺体があった…
「あ、ああ………ああああああああああああああああああああああああああああああ…」
恐怖と絶望…
もう、何もわけもわからず、一歩下がるといつの間にか走り出していた……
「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
頭が真っ白になって何処をどう走ったのか全くもって覚えていない…
しかし、気がつくと自分の家の前にいた。
私は、急いで自分の家へと入り部屋に行くとベッドの布団を頭から被る。
まだ、体が震えている…
今の私の中には怖さと後悔が入り混じっていた…
どうしてあの時引っ張ってでも止めなかったのだろうか…
あの、お爺さんが言った『何が起こっても…』…
その言葉で気づくべきだったのだ。
『例え、君達の命が無くなっても私は保証出来ないよ?』
という意味に……
その夜、私は眠れない夜を過ごした…
―――皆さんも夏になるとお化け屋敷に入る人は多いと思う…
―――だが、そんな皆さんに気をつけて欲しい…
―――たかが、お化け屋敷だと思って入ったら本当は一生出られないお化け屋敷だってあるかもしれない…
―――くれぐれも注意をして、それでも入りたいという人は覚悟を持って入ると良いと思う…
―――まぁ、そういう人はあまりいないかもしれないが……
こんにちは、わんこです(・`ω´・)
今年も夏のホラーに参加させて頂く事になりました!
ですが、しばらく『異世界王女』、『僕たちの一期一会』を投稿しておらず、楽しみになさっている方には申し訳ございません。 ペコリ(o_ _)o))
もう少ししたら投稿出来る予定ですので、もうしばらくお待ちいただけたらと思います。
よろしくお願い致しますヽ(*^ω^*)ノ