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12の奇跡はアニマが導くっ!!     ~拾った猫が美少女に変身する奇跡~  作者: Local
第三章~まだまだ夏は終わらせない、恋の熱波が押し寄せますっ!!~
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Episode-35.仲直り記念

 





 ………人生何が起こるか分からない。


 千変万化がどうとか、禍福は糾える縄の如しだとか、故人は現世に沢山の名言を残した。


 しかし、状況を指し示す方法が分かったとしても、それ自体の解決法は未だに暗闇の中。肝心の"事態の修復"の良い方法は見付け出されていない。


 "言葉"だけ分かってとして、なんになるーーーーーそう思った者も少なからずいるだろう。




 現に達也は、神城家のベランダにて起こった、あってはならない『間違い』を目撃されていた。


 煩悩まみれの色ボケ狸が暴走したせいで、よりにもよって、一番"見られたくない"相手にーーーーー



「………ち、違うぞ桜、これはこいつが勝手にやったことでーーーーー」



 閉めきられたガラス越しの彼女に声が届かないと分かっていても、達也の口は無意識に動く。


 そうなってしまうのも、無理はない。


 悲しみに顔中を染め上げる桜の今にも砕け散ってしまいそうな痛々しい姿を見れば、誰だって弁解を試みただろう。


 人を"一人"壊すだけでは満足しない鬼畜の所行を前に、達也はただ慌てふためくことしか出来ずにいた。



 人を弄ぶのが生き甲斐である狸少女、マミ。



 そんな彼女の策略を見抜けなかった自分自身に非が無いとは言い切れない。しかし、簡単に許せる程冷静な大人にはなれなかった。



「ーーーーーっ」



 ガラス戸の向こうで、絶望にて塞がれていた小さな口がゆっくりと動かされる。


 その震える唇から溢れ出た感情は、悲しみか、怒りか、憎しみか、あるいは呆れか。


 その真相はたった一枚のガラスに阻まれ、虚しく霧散するように、消え去った。



「お、おい、さくーーーーー」



 一も二もなく伸ばした意思を持たない手。ガラス戸の取手は掴めても、彼女が濁した真相を掴めることまでは叶わず。


 桜は手から逃れるように身を引き、拒絶するように背を向けて駆け出してしまった。




 その反動で、溢れ出たのだろうか。


 小さな、小さな"雫"が一つ、ベランダの入り口に面する部屋、"達也の部屋"の床にーーーーー





ーーーーーーーーー落ちた。





「ーーーーーッ!!」



 その涙の意味を理解するよりも早く、体が勝手に動いた。


 鬼のような形相で詰め寄り、達也が持つ有らん限りの力で和服の胸ぐらを掴む。


 達也の怒りを向けられたマミは、彼の剣幕など気にも留めず、何気ない態度で達也を迎えた。



「………ん、これは随分な礼の仕方だな。桜と向き合える機会が貰えて、そんなに嬉しかったか?」


「ーーーーー上等過ぎんぜ、色ボケ狸。テメェのしでかしてくれたこと、解らせてやろうか?」



 低く唸るような威嚇の声と共に、掴んだ服を更に強く握り締める。


 ギリギリ、と繊維の軋む音が響く中、やはり冷静さを欠くことなく、じっと達也を見詰め返した。



「だから言っただろ、私はただ君と桜の向き合う時間を提供してやっただけだ。だからこんな風に凄まれる理由はないし、むしろ感謝して欲しいくらいだぞ」


「………感謝、だとぉ?」



 ーーーーー相変わらずの減らず口。


 怒りは留まらず、収まる気配が見えない。



「良いことしてやった、ってつもりなのかよ!? だとしたら検討違いも甚だしいなぁ、オイ!」


「何故なんだ? 君たちの関係がこのまま続くようなら、この先に良い未来は待っていない。先程そう話したばかりじゃないか」

 

「俺が言ってんのは方法の話だ! お前の占いの結果なんざ信じた覚えはねぇ!!」


「"占い"、とは侵害だな。私はそんな不確定要素で物を言わない、君はそれを体感している筈だぞ」



 確かに、その通り。


 達也はこの狸に、何度も頭の中を見極められている。


 初対面の時にしかり、拷問の時にしかり、このベランダに出てきた時にしかり。様々な局面でズバリと、自らを、『神城達也』を暴いてくる。




 悔しいかな、今の自分に、マミの知力を上回る能力はーーーーー無い。



「ーーーーーっ、ぅっ………」



 達也は無意識の内に唇を噛み締める。


 そんな彼の葛藤でさえも、眼前の狸は見逃そうとしなかった。



「………今の君はとても不安定だ。桜への興味を誰よりも強く持っていながら、その彼女から遠ざかっていこうとする。

純粋な君のことだから、それはきっと、無意識の範囲内なのかもしれない。だがーーーーー」



 胸ぐらを掴む達也の手を強引に振りほどき、達也に負けないほど鋭利な睨みを浴びせる。


 大人しい垂れ目から放たれているとは思えないほどの威圧。


 それに紛れて微かに漂う憐れみを、達也は全身で感じ取り、彼女の紡ぐ言葉を待つーーーーー否、待たされた。



 口を小さく噛み締めて言葉に詰まるマミの姿を、揺れる心と共に『畏縮』させられながら。


 ただただ、ただただ『待たされた』のだ。



「ーーーーー"それ"に身を任せている内は、君に成長は無い。力も………」



 ………桜に寄せる想いも、な。



 乱れた胸元を淡々と整えながら、小さく、冷徹に言い放つ。


 達也が匿う獣神の中で最も"獣神らしい"マミ。


 血も涙もない獣神の元司令塔に狸としての本領を出されて抗える筈もなく、案の定、自身の心を簡単に暴かれ、弄ばれ、気付かぬ内に"諭されていた"。



「君は少し素直になった方が良い。真っ向から来るものに一々噛みついていたら切りがないだろう」



 たった一つのイレギュラーに体の自由を奪われ立ち尽くす達也の真横を通り抜け、マミはガラス戸の取っ手に手を掛ける。


 そのまま戸を開けて中に戻るーーーーーように思われたが、ふと何かを思い出したように此方を振り向くと、蔑むような嫌らしい笑顔を浮かべた。



「………そうそう、桜はこの家から飛び出していったようだ。場所はーーーーーおっと、桜と親しい君には言うまでも無かったかな?」



 嫌みたっぷりなアドバイスを吐き捨て、今度こそベランダを後にした。


 ガラス越しに透けて見えるマミの後ろ姿を悔し紛れに睨み付けながら、達也は拳を固く握りしめる。



「………っ、くそっ!!」



 言い方が言い方であるため素直に受け取れないが、あの貍が残していった言霊は今も頭の中で繰り返され、まとわり付いて離れない。


 自分の詰まらない、無意識なプライドが邪魔をしているのであれば。


 それが彼女を、桜を傷付けたのであれば。




「………最悪じゃねぇか、畜生っ………」




 一分でも、一秒でも早く、桜の元へ。


 そして謝る、彼女から許しを貰い、後腐れが無くなるまで何度でも、何回でも。






 ーーーーーーーーーーーー






 太陽が地平線の彼方へと沈み、黒く染まった空を月の光が鮮やかに彩る。


 夜と言えど、やはり厳しい夏の夜。つい先程我が家を出て走り出した達也の額には、既に鬱陶しく感じるほどの汗が滴り始めていた。



「………っ、はぁっ、はぁっ………!」



 蒸し暑く濁った空気を荒く吸い込み 、"目的の場所"へと全速力で向かう。


 足の回転数、無意識に跳ね上がる心臓の鼓動を感じる度に、自身の中で膨れ上がった『桜への執着』を再確認させられた。




 以前の自分のままだったら、消えた佳祐けいすけ以外の他人のために、ここまで尽くしたりはしなかったのだろうか。




 邪魔になりうる、なった物を一切合切排除して、佳祐を取り返すことばかりを考えていた自分を正当化してーーーーーそれでもどこかでそんな自分を"嫌っていた"、『不安定』な神城達也。


 何をすれば正しくて、何をしたら間違いなのか、判らなくなっていった孤独な少年に、孤独な少女は救いの手を差し伸べてくれた。


 どうしようもないぶっきらぼうな少年たつやに、ここまでの変化を与えてくれた少女さくらのために。





 達也は足を止めることなく、走り続けた。





 見慣れた住宅街。大通りを真っ直ぐ進み、先に見えるあの角を右に曲がれば。


 目的の場所、彼女と共に何度も足を運んだ、小さな"公園"。


 その公園に設置される、年期の入ったブランコに腰掛け、夜空に浮かぶ月を仰ぎ見るーーーーー桜の姿が、そこにあった。



「………はぁっ、や、やっぱ、ここだったっ、か………」



 乱れる呼吸を整えながら、桜に向かって歩み寄る。


 アスファルトの固い道路から、公園の柔らかい土の地面へと移り変わる感触を踏みしめて、彼女の元へと向かっていく。


 その途中、猫耳ニット帽で隠された耳をぴこぴこと動かし、達也の足音に少なからず反応を見せる。が、振り向くつもりはないのか、変わらず月を見詰めていた。



 ………やはり、此方を向いてはくれないか。



 それも道理。


 桜からしてみれば、『わざわざ呼び出されてベランダに向うと、慕う主人がマミとキスをする場面に出会した』という、ベタな昼ドラマの展開に放り込まれたようなもの。


 暇さえあればテレビの前へ居座り、他の獣神きょうだいの苦情も省みず食い入るように見続けていたマミらしい策略だ。


 大方、こういった時の"ネタ"のため、人間達の上質な夢想が詰め込まれたドラマから情報を仕入れていたのだろう。



 一秒たりとも時間を無駄にしないその姿勢には、毎度のように度肝を抜かれている。


 獣神の頭脳(自称)は、伊達じゃなかった。



「………ご主人、どうしてここに………?」



 弱々しく吐き出された桜の問いには答えず、もう片方の空いているブランコへと腰かける。



 そして取り敢えず、一呼吸。


 高鳴る鼓動を、震える手を、落ち着ける為の一呼吸。



 ここから先は、HP1、残機も0、一度たりともミスは許されない崖っぷちの状態での会話になる。

 しかも、主人公たつや会話能力スキルは殆ど"ゼロ"、完全なるハンディキャップの状況下でこなさなくてはならない。


 こんな不条理、恐怖を感じない訳がなかった。


 俗に言われる『無理ゲー』にも程がある、こんなハードコアな難易度、常人ならとっくのとうにコントローラーを投げ出している。




 しかし、齢16にして"死線"とやらを二度も潜り抜けてきた神城達也に、そんな野暮な結論に行き着く理性や、常人が持つ"回避"に長けた思考なんてものは一欠片も残されていない。




 そんな彼の脳に残るのは、たった一つの覚悟だけ。

 

 最終目標である"神城佳祐救出"後も続くであろう、偉大な師、桜との関係。それをまた、小さなプライド、小さな喧嘩何ぞで終わらせたくはない。


 この、有り得ないほど不条理で、理不尽で、非科学的でーーーーー素晴らしい世界で更に力を増した、達也の『鋼の覚悟』だけが残されていた。




 ゆっくり吸って、ゆっくりと吐く。


 大丈夫、鼓動は落ち着き、震えも消えた。


 弱かった過去、自分を知り、変わろうともがいて、強くなれた今ならいける。


 この胸にある素直な気持ちを、正直に、真っ直ぐに、言葉に乗せてーーーーー




「………悪かった!」

「………ごめんなさい!」




 ーーーーー見事に被った。




 まさか逆に謝られるとは微塵も想像していなかった達也は、目を丸くしての声の方へと目をやる。


 向いた先にいた桜は、瞼を下ろし罪悪感に暮れる罪人の如く項垂れている。


 余りの堂に入った反省ぶりに、高めた集中力がみるみると、穴の開いた風船が萎みゆくように勢いよく放出されていった。



「………な、何で謝るんだよ、お前が謝る必要なんて………」



 急いで穴を塞ぎ、残った空気を奮い立たせて話を繋いでも、迫り来る動揺までは隠し切れず。


 必死に落ち着かせた心臓がまた煩く騒ぎ出していた。



「………私だって、本当は謝りたくないんですよ?」



 拗ねたように言い返す桜の表情には、悲しみも、怒りも、憎しみも、呆れすらも無く、唯一纏う余裕が余計にこの身へ染み渡る。


 こんなにも小さい体、その中には達也を大きく上回る"大人の余裕"が惜しげもなく詰め込まれている。




【獣神はどんなことにおいても高スペック】。




 達也の獣神マニュアルに新たな項目を付け加えた当の本人は、俯いた顔を達也に向け、柔らかい微笑みを浮かべる。


 久し振りに見る、彼女の優しい笑顔ーーーーー夜空に浮かぶ月光よりも儚く、美しい輝きを放っていた。



「………でも、良く考えてみたら、分かったんです」


「………分かった?」



 鸚鵡返しで訪ねるご主人の怪訝そうな顔を見て、くすっと小さく笑声を漏らす桜。


 そんなに可笑しい顔だったのだろうか、ますます疑問が積もる達也を横目に、彼女はゆっくりと思いを吐き出していく。



「………元はと言えば、私がご主人を避けていたせいでこうなっちゃったんです。

あの時、逃げずにしっかりご主人と向き合っていれば、こんな下らない喧嘩しなくて済んだんじゃないか、って………」


「………桜………」



 そんなことない、俺の方こそ、お前を避けてーーーーー



 堰を切ったように溢れ出す後悔の気持ちが、枷を外した達也の口から語られる、その前に。


 桜が伸ばした小さな指が食い気味に、彼の想いを塞き止めた。



「………それに、ヘタレご主人にマミ姉とキスする勇気ある訳ないですもんね! 無理矢理させられた、って可能性を考えもせず………完全に私の失態でした、あはは」



 思わずブランコから崩れ落ちそうになる。


 肩の力が一気に抜け、口からは重い溜め息が溢れ出した。



「………お前、完っ全に根に持ってんだろ。俺のせいにしたいのバレバレだぞ」


「そ、そんなことないですよ、濡れ衣ですよ」


「棒読みで言われてもなぁ………」



 真面目な話はとことん真面目に話してくれる娘だった桜。ここ最近ではご覧の通り、すっかりめっきり変わってしまった。



 まるで思春期を向かえる子供を見守る父親にでもなったかのような、この寂寥感。


 純真無垢で素直なさくらが、時を重ねるに連れて攻撃的に、より繊細になったというべきか。


 両隣の幼馴染み達の父親は、これより数倍酷い感覚と戦っているのかも知れない。




 ………勝手な思い込みだとは思うけれど、同情します。麗奈と楓のーーーーーもとい、全国の父。




「とにかく、私は過剰反応しがちなうら若き乙女なので、ご主人はそういう行動を控えた方が良い、って話ですよ」


「控えろっつっても、俺特に何もしてないんだけど。アイツらが勝手に寄ってくるだけなんだけど」


「駄目です、ただでさえご主人は異性を惹き付けてしまう天然たらしなんですから。その無意識を矯正していかないと、いつまでたってもマミ姉の悪戯対象内です」


「天然たらしなんて呼ばれんのも嫌だが、それはそれ以上に困るな……… 」


「ふっ、あははっ!」



 苦渋を舐めたように顔を歪める達也を見て、桜はいつものように屈託なく笑う。


 ブランコで隣り合い、楽しげに語り合う、夜月に照らされた二つの影。


 そこには以前の彼らを凌ぐ『繋がり』が、何事にも揺るがない『絆』が、深く刻まれていた。




 ーーーーーどうやら、深く考えすぎだったらしい。




 不思議な出会いで繋がれた大切なものは、喧嘩した程度で簡単に壊れてしまうようなものではなかった。


 例えすれ違ったとしても、必ずまたどこかで繋がる。より確かなものへと進化していく。





 ならばーーーーー否、だからこそ。





「………桜………行きたいって言ってたよな?」


「えっ!………い、良いんですかっ!?」



 信じられない、とでも言うように大きく体を揺らし、紅い瞳を宝石ルビーのように眩く輝かせた。



「ああ、もともと約束もしてたしな。仲直り記念、ってことで」


「………っ、やったやったぁっ!!」



 桜はブランコから跳び降り、ひっくり返りそうな程おおはしゃぎして喜び出す。


 しんみりとした雰囲気はあっという間に、欠片も残さず吹き飛ばされてしまった。



「流石ご主人! 皆で行きましょう皆で! 白い砂浜に青い海っ、光輝く常夏のリゾートですよ!」



 その喜びは得体の知れない"海"への興味に向けられているのか、やっとの思いで和解できた達也への喜びによるものか、あるいはその両方か。


 どちらにせよ、ここまでの反応が返ってくるならば切り出した甲斐があるというものだ。



「………はしゃぎすぎだっつの………」



 この天真爛漫な笑顔に曇りを付けないためにも、今から良いプランを練らなくてはいけない。


 その上"皆"、獣神達全員となるとそれなりの資金も必要になる。こればかりは避けては通れない道、コツコツ貯めたバイト代から降ろすしかないだろう。


 痛い出費は言わずもがなだが、そんなことは問題ではなかった。






 初めての海を、素晴らしいものにしてやりたい。


 戦闘だけ、なんて血生臭い夏で終わらせない。最高の夏を作り上げるのだーーーーー







次回はいつになることやら………


なるべく早くお届けできるように頑張りますので、気長にお待ちください

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