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12の奇跡はアニマが導くっ!!     ~拾った猫が美少女に変身する奇跡~  作者: Local
第三章~まだまだ夏は終わらせない、恋の熱波が押し寄せますっ!!~
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Episode-34.知将と恥将

大変遅くなってしまい、申し訳ありませんでした

 






「………いやぁ、やっぱ美兎の作るご飯は最高っスねぇ!」


『………味付けが、完璧………』


「そ、そんなに褒めないでよ、照れちゃうでしょ………」


「本当だな、その歳にして四十、五十お袋の味が出せている………心なしか佇まいにも」


「も、もうっ、照れちゃうってーーーーーえ? マミ姉さんのそれって、褒めてるの? 貶してるの?」


「ほ、褒めてる以外にないっスよ、だから徐に脛当てを付けるのを止めて! ほ、ほらっ、ココ姉ちゃんでさえも大人しく食べてんだから…………って、アンタどんだけ詰め込んでるんスか!? もっと落ち着いて食べてくださいっス!!」


「むぅ、あいぃあいぃ、ふまふひてふいほうあっいあっあ」


「何て言ってっか全然わかんねぇから、とりあえず飲み込んでから話して下さい!!」




 ーーーーー御覧の通り、今日の神城家の食卓は限りになく『騒』の一文字に近づいており、今までの孤独で静かなテーブルとは程遠いものとなっている。




 常に誰かをからかわないと気が済まないマミウル、そのからかいを全て真に受けるみゅう


 何もかもにツッコみ、疲れる道へと首を突っ込むこうたと、何もかもを気にせず、淡々と食べ続けるココ




 賑やか、というよりは騒がしすぎる。テーブルマナーの点に置いては行儀が悪い事この上無いのだが。


 これまで、 たった一人のこの家の"主"が受けてきた定めを思えば、これもの許容の範囲に収まる。



 それほどまでに孤独を強いられ、孤独と共に生きてきた彼の過去を聞き、獣神達の食事はすっかり今の形に落ち着いていた。



「………ったく、マミ姉ちゃん達が来てから、ツッコみしか満足に出来てないような気がするんスけど………」


『………へぇ、嫌だったんだ………てっきり、好きだからやってるのかと………』


 

 相変わらずの無表情で首だけを傾げるウル。


 ポーカー勝負ならば常人には勝ち目のないこの少女に、唯一勝機がある知将のマミが話を膨らませた。



「そこに達也たつやとツッコミしか出来ない可哀想な狐がいるんだから、貴方ももっとボケて良いんだぞ?」


「んぐっ!?………ごくっ、っ、マミっ、てめぇっ!!」


「はっはは………まぁ、そうしたいっちゃ、そうしたいんスけど………」



 狗太は力を無くしたように弱々しく呟くと、大皿を囲む食卓の一角をチラリと盗み見る。




 そこには、五月蝿すぎるほど賑わうこのテーブルの中で恐ろしいほど静かに、 何の会話もないまま箸を口に運ぶ者が、"二人"ーーーーー






「………その為には、あのお二方を仲直りさせないと、いけなさそうっス………」






 ーーーーー互いの顔を見ないよう椅子を背中合わせの状態で箸を動かす、桜と達也の姿があった。






 それぞれの顔に張り付けた、不機嫌そうな膨れっ面。


 テーブルが常に体の横にあるという、明らかに食べ辛そうな体制でも音を上げず食べ続ける、シュールな光景。


 わざわざ気を使って席を近くしたというのに、隣同士とは思えないほど高く築かれた越えられない壁。




 そんな彼らと彼らの間に隔てられた視えない壁を交互に見つめ、狗太は更に深い溜め息を吐き出した。




 住宅街のど真ん中での悪口(褒め言葉もあった)を叫び合った達也とさくらは、あれから5分、10分、15分と希に見る長期戦となり。


 初めは腹を抱えながら観察していた狗太も3分程過ぎた辺りからその不穏さを悟り出し、隣で笑い続けるマミとウルの間で一人、嫌な予感を必死に払拭しようとしていた。


 しかし、予感は"嫌な予感"ほどなんとやら。


 虫の知らせならぬ『犬の知らせ』は見事的中し、こうした食事中はおろか、喧嘩を無理矢理収めさせた帰り道でさえも喋ることはなく、無言の喧嘩を突き通す頑固っぷりを発揮していた。




 いきさつを省みれば、やはり思うところが底を尽きない。


 特に思うのは、『ペットは飼い主に似る』なんて言い回しがあるけれど、あながち間違えではない、こと。



『………ずっとあんな調子だね………いつまでやるつもりなんだろ………』


「あの二人のことだから、とことんやるだろう………まぁ、もっとも、喧嘩してくれてた方が達也を誘惑しやすいから、大歓迎だけどな」



 頬に手を当て達也に熱い視線を送る『恐れを知らない』マミ、そんな彼女に狗太は真っ青に染まった恐怖丸出しの顔で語りかけた。



「………そ、それは止めといた方が良いかもしれないっスね~………や、約一名、殺しかねない視線を浴びせてる人がいるっス………」


「………あ」



 言われてマミがその方を見れば、なるほど、確かにとんでもない闇を帯びた眼力を此方に向けてきていた。


 そんなことをしたらただではおかない、と言わんばかりの怒りと、若干の喧嘩の鬱憤が混じっている桜の睨みは中々に凄みが効いている。


 下手したら、天昇山で対峙していた時よりも怨念が籠っているかもしれなかった。



 女は強し、それが"強い想いを秘めた"者だったら尚更。


 しかし、どんな強大な力をでもそれをいなし、化かせる狸。それもまた『マミ』の特権だった。



「いつもなら絶対に向けない視線を………やっぱり仲直りさせるしかないっスね、桜の安全のためにも」


「………へぇ、此方の、『周りの声』に気付ける余裕はあるのかーーーーーふ、うふふっ………」



 マミが突然漏らした妖艶な含み笑いを聞いた途端ーーーーー狗太の体に異常な寒気が迸る。




 今まで幾度となく聞いてきた、小さく響く笑い声。




 この声、この声が聞こえた時は、人を超越した怖いものなしの獣神、狗太であっても、尻尾を逆立て戦慄する他無く。




 無論、狗太の隣に座る美兎、そのまた隣に座るウルもわなわなと震えて事の重大さを噛み締めていた。







 獣神きょうだいの中でも抜きん出た頭脳を持つ策士、マミが"嬉しそうに笑う"時はーーーーー









「………さて、どうやって弄ぼうかな?」


 







 ーーーーー新しい『玩具』を、見付けた時。








 ーーーーーーーーーーーー






 神城家の三階には、道路に面する広めのベランダが設置されている。

 

 夜風に当たりたくなった時や、年に一度の花火大会を眺める時などに使えば最高の一時が約束されるような、申し分のない造り。


 家に置いてやっていふ獣神達もこのベランダを非常に気に入っており、暇が出来る度にベランダへ赴き、穏やかに日向ぼっこなりをして時間を潰しているくらいだった。




 しかし、今宵このベランダで行われようとしているのは決してそんな穏やかな事では、なく。




「………という訳で達也、私と楽しくお喋りしよう」


「何が"楽しく"だ。人の体を椅子に括り付けておいて、どの口が言ってんだよ」



 マミによる第二回目の"尋問"、もとい『拷問』。



 穏やかどころか辛く、苦しく、激しい、といった嫌悪感を抱く三要素を兼ね備えたものだった。




 リビングに置いてあった椅子と共に、一瞬にして縄でぐるぐる巻きにされた後、お得意の転送術式テレポートを用いてベランダへと運ばれた時は流石の達也でも驚きを隠せなかった。


 食後の楽しみ"梅昆布茶"を飲みながら一息つき、リラックスしていた一時を狙い済ました計画的犯罪。


 知能と能力ちからの盛大な無駄遣い、どうやらこの狸相手では一瞬たりとも気を抜くことが出来ないらしい。



「ん、だがそうでもしないとちゃんと話を聞かないだろう? だからそれなりの処置をしただけさ」


「………とはいえ、荒縄って可笑しいだろ。こんなもん持ってんのか、お前は。ドS道まっしぐらじゃねぇか」



 荒縄もさることながら、その結び付け方も非常にえげつない。


 体を締め付ける縄の圧力からは、一寸もの希望さえ満足感に伺えなかった。



「ドS道も中々捨てたものではないぞ? 現に、今すごく楽しいからな」


「正気の沙汰とは思えねぇ………本気で言ってんのか?」


「私は至って普通だ。見てくれ、この穢れなき純粋笑顔を」


「ああ、穢れすぎて逆に清々しく純粋に見えちまうよ。俺を弄ぶのはそんなに面白いかこん畜生め」


「………ふふっ、あぁ、本当に面白い。君はーーーーー私が思った通りの反応を起こしてくれる」



 いつの間にか手に持ち出していた扇子を忙しなく動かし、それに反して口調はゆったりと嫌な静けさを帯びたまま。


 まるで"どんなもの"でも見透かせそうな程力強い垂れ目の瞳が、じっと此方を見下ろしていた。



「………思った通り、だぁ?」


「あぁ、典型的な回避型、と言えば君にもわかるかな? 自らに飛んでくる"異物"は何も考えずに本能で避けてしまう………ね」


「ーーーーーっ………」



 クスクスと笑いながら言うマミの言葉に、達也の体は小さく震え、少なからずの反応を示す。


 それもその筈、ほんの三日前、今目の前にいる狸と対峙した時に躱した"炎"や、ココを倒した後に桜から投げ掛けられた言葉達など。

 どれもこれもマミの言う『典型的な回避型』を端的に表してしまっている。


 目の前の障害だけに手一杯になる達也の悪い癖、自らが気付けなかった自らの弱さを、この狸はたった一つ二つの言動の中で簡単に暴いて見せた。



「………自覚はあったみたいだな。もし『無い』とか言い出したら、私以外のモノを見れなくしてやろうかと思ったが………どうやらその必要はないようだ」



 少し残念、と小さく本音を漏らす彼女の目には不自然なまでに煌めきがたぎり、やけに白々しく不穏な雰囲気を醸し出す。


 前科が前科であるからか、マミが言うと冗談に聞こえてこない。いつか本当にやりそうな勢いがあるのが何よりも恐ろしい。


 胸の痛みがまた一つ、小さく疼く。



「………話ってのは、そのことか」


「もしかしなくても、だな。この際だから少しその癖を正しておこうと思って」


「………そんなに酷いのか?」


「そうだな、これ以上続けるのならーーーーーもう桜とまともに会話出来なくなるかもしれない」



 ーーーーーあぁ、痛い。


 また一段と酷く、耳に、頭に、心に、痺れるような疼きが走る。


 この原因不明の痛みも、頭に巣食う鬱陶しい"もや"も、結局何も分からないままここまで来てしまった。



 何も、文字通り、何一つとして。



「………ちっ、そうかよ………」



 回避型がそんな損害を生み出しかねないとは、少し前まで、もとい数秒前まで無意識であった自分を完膚なきまでに叩きのめしてやりたい。


 できることならその亡骸を穴に埋めて捨て去ってしまいたかった。



 しかし、人間誰しも自分のことは可愛いもの。



 自分を叩きのめすやり方など思い付く筈もなく、そうなると他の"誰か"の力を借りなくてはいけないーーーーーの、だが。



「………よりにもよって、お前がその相手だとはな………」


「うふふ、残念だなぁ、苦しいなぁ、悔しいなぁふふふふっ 」



 人を化かすのが何よりも楽しい、そんなことを最高の笑顔で語り、相手の行動の先読みを誰よりも得意とするこの娘。


 こんなゲス狸に力を借りたら、それこそ穴に埋められる…………否、自分から身を埋めにいくことになってしまいかねない。


 よし、さっさとここからおいとまして、梅昆布茶タイムを再開してしまおう。









 ーーーーーと、"以前"の達也なら、逃げて終わっていたのだろうか。



「………ったく、口達者はやりづれぇったらないな、本当に」



 体を締め付ける荒縄を両腕で軽く『引き千切り』、何事もなかったかのように難なく立ち上がった。


 最早今の達也には人間の生み出した拘束力は皆無に等しく、常人なら手も足も出ない荒縄も、アニマを用いた身体能力の前では蜘蛛の糸並の柔い物と全く大差無い。


 相変わらずの人間離れし過ぎた力、これを行使する"化物"の自分に慣れてしまった反面、"人"としての自分が薄れ行く気持ち悪さは変わらず抱き続けている。



「ん、せっかく用意した縄をそんな乱雑に………酷いじゃないか………」



 よよよ、とわざとらしい古風な嘘泣きをしてからかうマミ。


 その懲りない態度に、盛大に機嫌を損ねる達也。



「あの縛り甲斐がある縄を買うのにどれだけの労力を使ったものか………」


「知るか、んなもん。どうせお前のことだから、ろくでもないルートでろくでもない手に入れ方したんだろ」


「……失礼な、普通にホームセンターで買ってきたぞ。あぁ、それと、代金は君のポケットマネーを拝借したから、少し財布の中身が減ってると思うけど、気にしないでくれよ?」


「な、んだとぉ………っ」



 ーーーーーポケットマネー。


 道理でいくら数えても、札の枚数が合わない訳だ。


 自身があの豪族店長の下で、苦労して稼いできた労力。そんな愛しい彼らの無惨な行き先を知った途端、



 彼の体は既に行動を始めていた。



「………シッ!!」


「ーーーーーんぁぅっ!」



 彼女が見せた一瞬の隙。


『光悦に浸ると視線を逸らす』、そんな極々小さなマミの癖を見極め、彼女の額に強めのデコピンをお見舞いしてやった。



「ーーーっっ!!?」



 それはすこぶる小さく、単純な仕返しではあるかもしれない。


 しかし予想通り、口から飛び出た酷く情けない声は彼女の精神面に大きな損害を与え、赤く染まったその表情からは専売特許の余裕がみるみると消え去っていった。



「う、うわぁ~、クールで名が通ってるマミさんが変な声を出したぁ~。らしくないなぁ~」


「………な、なな、何をするんだいきなり! こここ、こんな辱しめ、やってて恥ずかしくないのか!?」


「ここまで盛大なブーメラン発言は聞いたことがねぇな。ついさっきまでのと天昇山での拷問を忘れたとは言わせんぞ、コラ」


「わ、私はやるのは好きだが、やられるのは如何せん得意ではないんだ………いや、心構えが出来ていれば苦痛ではないのだが、その………急に、というか………」



 先ほどまでのドS魂はすっかり消え去り、今ここには赤面する乙女だけがポツンと取り残されていた。


 もじもじと指を動かし、俯きながらごにょごにょと落ち着きなく言葉を並べる、初対面時の美兎みゅうにも似たあがり方。


 キャラ崩壊ぶりも甚だしいその姿は見ていて非常に痛々しく、非常に面白い。



「私はSとM両方言わばスイッチ的な立場にいるとは言ってもやはりどちらかと言えばSよりなわけでそうすれば必然的に受けが苦手になってしまうからそういった面で弱点を作らないようにMも嗜んでいるとは言ったもののまだ馴れてはいないんだつまり突然攻められるとーーーーー」


「分かった分かった、お前の特殊アブノーマルの弁解はもう良いから、さっさと落ち着け。さっきかららしくねぇぞ、気持ち悪い」


「気持ち悪いとは失礼な!」


「ほらっ、落ち着くには座るのが一番だろうが、さっさと座れっ!」



 取り乱し、半狂乱状態になったマミを空いた椅子に無理矢理座らせる。


 座った後も一人で呪文のように弁解(らしきもの)を呟き続け、収まる気配は微塵も見せず。


 天昇山にて対峙したときの狂気じみた冷静さは見る影もない。意外な弱点を見つけたのは良いが、ここまで別人になると面白可笑しさも薄れてしまう。



 反応が極端すぎると、逆に面白味に欠ける。



 達也もまた、『ドS魂』とやらを有しているのかもしれない。



「………正気に戻るまで、そこで大人しく座ってろ。一時間もそうしてりゃ、ちっとは元に戻るだろう」



 直接手は下さずに、相手自身の頭の中で羞恥を増幅させる。



 その名もーーーーー『放置』。



 他人を貶めるのが好きなマミを、誰もいない空間に置く。


 ああ、なんて手軽く、面倒臭くない一手なのだろう。


 行き過ぎた変態も、何も出来ない状態で放って置けば一人で勝手に改心してくれる。太古の昔から、『変態は隔離』がセオリーなのである。



「………落ち着いたら話を聞かせてもらうから、それじゃあな」



 桜の話、"まともに会話が出来なくなる"、というのは気になるが、マミがこの様子だとまともな受け答えは望めない。




 ならば落ち着いてから改めて話す、これは理に叶ってる筈だ。




 ………そう、間違っちゃいない。


 俺は、神城達也は、逃げるような真似はしていないーーーーー




 半ば洗脳のように自分に言い聞かせ、項垂れる彼女の頭を軽く撫で下ろす。


 突然の感覚にびくりと体を震わせて驚いたマミも、項垂れた顔を上げようとはしなかった。


 仕方ないと溜め息を吐き、閉ざされたカーテンにより閉塞感が増しているこのベランダから出よう、と取っ手に手をかけたーーーーーその時。





 達也は、ある『違和感』を感じ取る。





 ーーーーー何故、"ベランダ"が選ばれたのだろうか。




 以前、マミと対峙した時に放たれた高度な転送術式テレポート


 牢獄から大広間へ、術式を用いて移動した推定距離は、およそ50メートル。


 四人同時に転送させた直後、それだけのことをしておきながら特に疲労の色を見せていなかった。



 これらのことから推測するに、彼女はもっと『遠距離』を移動、その気になれば、ここから10キロ以上離れた天昇山の地下施設へも行けた筈なのである。



 それなのに、彼女はそれをしなかった。


 それには、何か『特別な理由』があるのではーーーーー




 そう思い、振り向いた時にはもう既に遅く。




 マミの顔がとてもーーーーー近くにあった。




「ーーーーーっ!!」


「………そう、その顔が見たかったんだ」



 小さく、艶かしく動いたその妖艶な唇が、


 再び、達也の唇に押し当てられた。



「っ、んんっ!?」


「………んぅっ」



 心地の良い柔らかさが唇に、体中に響き渡っていく。


 またしても無理矢理奪われてしまった自らの唇。


 しかし、仮にも二度目の感触であったからか、抵抗する余裕は"辛うじて"残されていた。



「………っ、な、何しやがるっ!!」



 反射的に跳ね退き、唇を手の甲で隠しながら声を荒げる。


 思考停止に陥る余裕の無さは抜けたものの、やはり直ぐに平常には戻れないらしく、逆上せあがった頭の中は動揺と驚きで一杯一杯だった。



「………ん、何って君、言わなくてもわかるだろう。キスだよ、キス」



 こちらの頭の中など露知らず、照れたようにはにかみながら微笑むマミ。


 二度も唇を奪っておきながらこの恐ろしい落ち着きよう、何とも腹立たしい図太さに達也のこめかみは沸々と震え始める。



「………んなこと言われなくても分かってんだよ。どうしてやったか聞いてんだ」


「私はただ、欲しいものに忠実になっただけだよ」


「ふざけんな! そんな軽々しく言いやがって!」


「おいおい、ここは仮にも外なんだぞ? そんなに大声を出して、『誰に見られてるか』、分かったもんじゃあない」



 やれやれ、と肩を落としながら、マミは達也の"背後"を指差す。


 その指が示す方向に釣られて目を向けた、その先に。






 余りにも予想外、そしてーーーーー達也が感じた『違和感』の答えを指し示す人物ものの姿があった。






「ーーーーーっ、さ、桜っ!?」






 閉じていた筈のカーテンが開かれたガラス戸越し、驚愕に目を見開きながらこちらを見つめる桜。




 この世で一番、端的に愛を示してしまうキスの場面を。




 一番見られたくなかった相手に、見られてしまった。





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