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12の奇跡はアニマが導くっ!!     ~拾った猫が美少女に変身する奇跡~  作者: Local
第三章~まだまだ夏は終わらせない、恋の熱波が押し寄せますっ!!~
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Episode-32.史上最大の敵、お散歩

遅くなり、大変申し訳ありません

 




 "南極の氷が全て溶ける"、と言われたら。


 一体貴方は、どんな事を連想するのだろう。





 水位が上がり、元々あった筈の島国が水没してしまう、やら。


 はたまた、南極に済む動物達の住処がなくなってしまう、やら。



 十中八九、様々な"惨事"を思い浮かべるだろう。事が事故に、そこから"メリット"を見出だすことは常人には難しい。

 しかし、着眼点が広い、又は科学者であるならば、そういった答えに辿り着かないことも無い筈だ。



 とどのつまり、この手の問題は答えが一つに定まらない。つまり十人十色、問われた人数の分だけ答えが出てくるーーーー道徳よりの底が深い問題。


 どの答えも広く深く、そして正しいため、いずれか一つ、なんて数学的な思想が要らない。


 問題の重さからは釣り合わない程の答えの単純さ。もし神様が願いを叶えてくれるなら、普段の課題もこのような問題ばかりにして頂きたいものだ。



 ………雑談は、さておき。





 帰路に着く頭でふと考え付いたこの問題にて、神城かみしろ達也たつやが得た答えはーーーー





『………んふふ………パフェ、美味しかったなぁ………』


「………ぐっ、なんて蕩けた笑顔をしやがる………いつもの無表情はどこに行ったんだよっ、素直に怒れねぇじゃねぇか畜生ぉ………」



 南極の『氷』でも、梟の獣神、ウルの『氷』のように冷たいポーカーフェイスでも、一度溶けてしまったら大変なことになる、という事だった。



 普段のお堅い表情からは想像も出来ないほど表情が緩みまくり、挙げ句の果てには、頭から飛び出たアホ毛を器用にも犬の尻尾の如くブンブンと振り回す始末。


 バイト先とは違うファミレスで奢ってやった苺パフェ一つだけでこれだけの反応。

 後もう一つ、パンケーキやら何やらを食べさせていたら、これより締まりのない顔を見せてくれるのだろうか。


 それはそれで興味が出てくる。


 この氷を溶かせるのが他でもない自分自身と考えたらーーーー尚の事。


 こんな彼女なら、何時までも見ていられるーーーー



『………えへへ、苺が一つ、苺が二つぅ………』


「………前言撤回、やっぱ見てらんねぇ………甘い物への異常な愛、もう別人と言った方が良いんじゃねぇか?」


『………何を言うの、私はあの魅力に取り憑かれた、被害者なんだよ………あんな美味しいものを生み出した人は、紛れもない天才………発想力は獣神のそれを遥かにーーーーハッ、もしかして、獣神がっ………!?』


「それは120%無いから安心しろ」


『………120って、それ限界超えとるがなー………あははぁ………』

 


 ーーーーやっぱり駄目だった、完全にスイッチが入って饒舌状態。非常に面倒臭くなってしまっている。


 アニマを用いて口一つ動かさずに喋る彼女が"饒舌"とは、これまた面白い皮肉であるが、今はそんなこと言っていられない。


 何よりも、無機質な声で慣れないツッコみをするウルを、これ以上キャラを崩壊させるウルを、黙って見てはいられない。



「………とにかく、さっさと家に帰るぞ。日も暮れそうだし、これ以上遅くなったら、またアイツらがうるさくなるからな」



 何も厄介な獣神は、目の前にいるこの少女だけではない。


 今も神城家では預かっている獣神達がわんさか、溢れんばかりのエネルギーを持て余して留守番をしているのだ。


 早く帰って監視官にならないと、彼女達が何をしでかすか分からない。

 力も知能も未知数の者を相手にするのは、文字通り、何もかもを上回らなければならなかった。



 そのプレッシャーと、今達也を苦しめている"ちょっとした事件"が、彼の心を苦しめていてーーーー



『………そうだね、一刻も早く、さくらと仲直りしないとね……』


「………っ」



 急激に重くなる肩、のし掛かる憂鬱。


 それらを解き放とうと重い溜め息を吐いたが、吐き出されるのは空気のみ、現状打破は一向にされない。



「………今日こそ避けられないようにはしたいが、な………」





 ちょっとした事件、それは、『桜との仲違い』にあった。





 ーーーーーーーーーーーー





『………ただいま………』


「………た、ただいま」



 恐る恐る玄関の扉を開け、その先で待ち受ける者の姿を確認する。


 あわよくば、いつものように桜が迎えてくれるかもしれない。まるで何事も無かったかのような


 そこにいたのは、黒い学生ブレザーに身を包んだ猫耳少女ーーーーではなく。



「ん、お疲れ様。その様子を見ると初めての休日出勤は中々堪えたみたいだな」



 ふわふわしたロングスカートにエプロンをかけ、丸い狸の耳を生やすマミが達也とウルを出迎えた。


 鍋つかみを装着しながら両手鍋を持ち運ぶ、母性に満ち溢れる"女性の美しさ"を端的に表したようなその姿は、達也が抱いた微かな希望をあっさりと打ち砕く。



 ーーーーああ、また、彼女ではなかった。



「………そんな露骨にガッカリしないくれよ。流石の私でも傷付いちゃうじゃないか」


『………そうだよ、幾らなんでも失礼、だよ………』


「………っ、わ、悪かった」



 無意識の内に顔に出てしまうほど、彼女を、桜のことを意識してしまっている。

 "感情を顔に出す"なんてこと、今までの達也からしたら有り得ない筈なのに。


 桜の存在が、彼女と顔を合わせなくなったたったの二日間が、彼を別人にまで作り替えていた。



 理由は分からない、心当たりもない。


 ただ分かっているのは、一つだけ。



 獣神三姉妹との戦争を終え、気絶する狐と狸を抱えて帰路に着いていた時。あの時から、達也にベッタリだった筈の桜の様子が一変した事、のみ。



 常に隣を歩こうとする彼女が、達也から数歩距離を置いて歩くようになり。


 撫で撫でだの、バグだの、ほっぺにちゅーだの、多種多様で厄介な注文を仕掛けてきてこなくなって。


 酷い時には達也の顔を見ただけで、全力でその場から走り去っていった事もあった。



 どれもこれも違和感と寂寥感が残る態度、ここまで撤退的に避けられると正直心が持たない。


 鍛え上げた精神力なんてものも、空白の二日間の前に儚く散り、蹂躙されてしまった。



「………何だか調子が狂うな。いつもの覇気が全く感じられないし、しおらしくて気持ち悪いし………やっぱり桜が鍵になってるのかな?」


『………絶対、そう、逆にそれ以外考えられないね。こんな見た目しといて、以外とプレイボーイ………』


「本人を前にして全く声を隠さない。お前らはお前らでブレないな」



 ーーーーいや、違う。


 彼女達がブレないんじゃない、自分がブレ過ぎているだけ。


 口から溢れ出た言葉を自分自身に跳ね返し、思わず苦笑を浮かべた。



 柄にもなく心から落ち込んでいる、情けない少年の姿を見て、無理に慰めようとしない自然な対応。


 いつも人様強引に振り回し、たった今も達也の頭の中を掻き乱す。そんな獣神が発する温もりもまた、どうしようもなく心地好い。


 片や桜を滅茶苦茶に傷付け、片や幼馴染み達を木に縛り付けた張本人であったとしても、今や同じ屋根の下で暮らす者同士。

 双方の被害者も彼女達を許していることなので、達也が出来ることと言えば、二人の頭を撫で、他の獣神達と同等に扱うこと位だった。



「………ありがとよ、変な気を使わせちまって悪いな 」


『………不味いマミ姉、達也が変な世界に目覚めてしまった………』


「目を合わせては駄目だウル、なじられて喜ぶ………どうしようもないド変態なのだから………」


「SとM両方に化ける色ボケ狸と甘い物の前では豹変する甘党梟にだけには言われなくなかったな」



 撫で撫で協会(桜とウルの二人から成る)のお墨付きを貰った達也の頭撫でを受けながら、平然と達也の精神メンタルを抉っていく二人。


 相手の中には会員が一人混ざっているというのに、とんでもない惨敗ぶりである。



「ちょっと、玄関で何騒いでるんスか。また煩いって苦情来るっスよ………れ、麗奈れなさん、から………っ」



 少し苛立ちを覚え、撫でていた手で二人の頬をつねっていたところにバカ犬ーーーーもとい、狗太こうたが青い顔になりながらやって来た。


 幼馴染みの一人、自分で出した麗奈の名前で青ざめるとは、羽交い締めの一件が効いたーーーー若干効きすぎていることが、一目で分かる。


 "不思議な力など何も持たない"人間が獣神を凌駕する瞬間、それを垣間見えたような気がして、人間代表としては何とも喜ばしい限りである。



『………達也、その認識には少しーーーー誤りが、ある………』


「………誤り?」



 突如、耳に引っ掛かるような言い回しをしてきたウル。


 無口なのに話上手とは、これまた皮肉なものだが、既に達也は彼女の術の中。高精度な読心術にも触れず、鸚鵡返しで訪ねる。


 しかし、口に出した当のウルは、ばつが悪そうに達也から目線を逸らし、言葉を探すように思案に暮れてしまった。


 優柔不断とは程遠い彼女にしては、やけに煮え切らない態度。

 相手の脳内に直接語りかけることが出来る彼女にとって、話しづらい内容など有って無いようなものなのに。


 不幸にもと言うべきか、幸いにもと言うべきか、ウル張りの読心術は持ち合わせていなかったため、



「………後で場所、変えて話すか?」


『………っ、うん。そうする………っ』



 彼女の核心に迫ることは、深追いせずに後で聞き出す。


 心が読める彼女のことなので、きっとエグさを極めたーーーーとてつもなく重大な話を持ってくるに違いない。


 そのため、嫌いなものは一番最後に残す癖が暴発し、自分でも引くぐらいの早さでそれに頼ってしまった。



 そんな建前だけの気遣いに感服した様子のウルが尊敬の眼差しで此方を見上げてくるが、罪悪感故にそれを直視することは出来ず、堪らず視線を逸らした。





「………………あ」





 目線の逃げ場として何となく選んだのは、二階へと続く階段。


 達也が生まれた年に、大胆にも一括払いで両親が建てた三階建ての一軒家。十六年もの年月が経ったのにも関わらず、破損を見せない物持ちの良い階段と。





 そこへ、姉の美兎みゅうの背に隠れるようにして現れるーーーー猫耳を生やした少女の姿。





「………さ、桜………」


「………っ、ご主人………」





 自らを『ご主人』と呼ぶ、透き通るような桜の声。


 待ち望んだ、待ち焦がれたその声を聴くなり。心臓が早鐘のように轟き始め、逸る気持ちが胸中を焦れったく焼き焦がす。


 早く言葉を紡ぎ、彼女と多くの話がしたい。そう考えれば考えるほど、頭の中から冷静さが消えていってしまう。



「………あ、あのなっ、桜、俺っ………」


「………ご、ご主人、すみません。ちょっと、つ、つつつ、付き合って、もらいたいんですけど………良いです、か?」



 達也の声と被せるようにして、美兎を盾にした桜が声を張り上げる。


 彼女もまた緊張にやられているのか、声が上擦り、覚束ない。美兎の背からはみ出した耳もペタンと折り畳まれ、抱える不安を明瞭に表していた。



「お、おう、何をすれば良いんだ?」


「………そのぉ………ふ、二人きりで、お散歩に行きたくて………」



 はにかむように小さく笑いながら、恐る恐ると此方の様子を伺う桜。


 つい先日までの図々しく騒がしかったあの姿は微塵も感じられず、天敵に怯える臆病な小動物のように勢いを無くしてしまっている。非常に愛らしい。



 愛らしい、が、おちおちそんな思考にも浸っていられない。



 今まで自分を避け続けていた桜が、一体どういう心境の変化が働いたのか。どうして『散歩』に行き着いたのか。


 突拍子もない言動に定評がある彼女といえど、まさかこの期に及んでも出してくるとは思わなかった。お陰で意図が全く掴めない。



「………分かった、飯の時間までなら良いぞ」



 掴めないなら、掴むために動く。


 これ以上の精神的ダメージを負わないためにも、なるべく早めの行動を心掛けなくてはならない。


 さもなければーーーー



「………冗談抜きに、壊れる………」


「………ご主人?」


「い、いや何でもない………ほら、行くならさっさと行くぞ」


「は、はいっ、ちょっと準備してきますね」


「良かったね桜ちゃん。約束通り、今日はボクと一緒にお風呂………って、いひゃいいひゃい!! なんれほっへはひっはるのぉ!?」



 姉の美兎の頬を引っ張って連れて行きながら、再び二階へと戻っていった。


 羞恥から物理的に身を守る"盾"役の代償として、愛する妹との入浴を願った姉が、皮肉にも妹の手によって引き摺られて行く。


 ………確か、こんな光景を一言で表せる、便利な言葉があったような気がする、が、いざ鎌倉という時に限って出てこない。


 何だったか、その気になれば全てをこの一言で片付けられる、そんな魔法の言葉がーーーー



「ーーーーなんか、シュール、っスね」


「それだ、魔法の言葉」


「何て言うか………それ以外の言葉じゃ言い表せないな」


『………愛故に、彼女もまた必死、なんだよね………』



 ウルの口から何とも小難しい哲学が飛び出し、それと同時に達也以外の二人がうんうんと首を縦に振る。


 きっと獣神にしか分からない哲学なのだろう。その証拠に、人間の達也が全く理解出来ずにいた。



 また分からない事が増えた、と落とした両肩に突然、弱くもなく強くもない、曖昧な衝撃が走る。



「それよりも………達也。君、分かってるんだろうな?」



 見れば、神妙な面持ちを作りながら達也の肩を鷲掴むマミの姿。


 じっ、と見詰めるその瞳に入り交じる不安を見つめ返していると、何だかとても嫌な予感がしてくる。


 マミが"神妙"な顔付きをする時点で不吉であるのに、一体これから何が起こると言うのか。



「………何かあんのか?」


「っ、ちょっ、ホントに気付いてなかったんスか!? これから先の立ち振舞い方っスよ! 下手したらまた口聞いてくれなくなるかもしれないんスよ!?」


「ぐっ………それは、こま………る、けど………」


『………危機感、覚えないと………』


「………ど、どうしたら良いんだ?」


「そこを私達に頼ったら、もう進歩は無いと言っても良い。自分が思ったこと事を素直にぶつけてくれば良いんだ、そうすればあの子も分かってくれる筈だよ」


「でも、だからと言って言葉は選ばないとダメっスよ!」


『………女の子は、繊細、だから………』


「わ、分かった、肝に命じておく」



 まるで自分の事のように必死な形相(一人だけポーカーフェイスの例外はいるが)で真剣に考えてくれている獣神達。


 それに関してはとても有り難いのだが、期待が重すぎて早くも胃が悲鳴を上げ始めてしまった。



「………ぐぅっ、い、胃が………くそっ」



 浮かんだ緊張と不安を押さえ付け、脱ぎかけたスニーカーの紐を再び結び直す。





 これから始まるのはただの散歩などではない。桜との不仲解消と達也の精神崩壊防止を賭けた、大事な"一戦"。


 愛刀、龍聖りゅうせいを使った死戦たたかいではなく、自身の拙い語彙力を持って挑む散歩たたかい


 一見共通点の無い勝負見えて、どちらにも共通して当てはまる、"真剣勝負"の四文字。





 ひょっとしたら、これまでの戦いの中で、一番苦戦するかもしれない。


 そんな散歩が今、始まろうとしていたーーーー








「………何でこんな大袈裟になってるんスかねぇ………」


「そんなことどうでも良いから早く狗太も準備するんだ、尾けるぞ!」


『………こんなおもしろ………こほん、大勝負を見逃すわけには、いかない………』


「………ほどほどにして下さい、とだけ言っとくっス」


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