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12の奇跡はアニマが導くっ!!     ~拾った猫が美少女に変身する奇跡~  作者: Local
第ニ章~夏休み、それは恐怖の時間ですっ!!~
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Episode-29.序盤の最悪な一ページに、ピリオドを

 




 気が遠くなりそうなほど長く続く階段を、無我夢中でかけ上る。


 アニマが殆ど抜け落ちたすっからかんの状態だというのに、上げる足は鉛のように重い。

 今にも倒れそうなほど覚束無い足取りで、息が切れようが、滴る汗が目に入ろうが、気にも止めずに走り続ける。


 幼馴染み達に迫る危機、それを救えるのは自分、と、駆り立てられる使命感だけが達也を突き動かしていた。



 ーーーーどうして、こうなったーーーー



 走って、走って、走り続け。


 キャパシティの限界を越え、ぐちゃぐちゃになった頭で考えようと、難解でもあり平易でもあるその答えは、たった一つ。



 彼女達に本当の事を、獣神達と生死を賭けて戦っている事をーーーー隠したから。



 包み隠さず素直に伝え、『危ないから絶対に家から出るな』、の一言が言えていれば、こんな最低最悪な事態には至らなかった筈なのに。

『余計な心配をかけたくない』、この言葉が、また大切な人を傷つけた。


 善意だと思っていた、達也の脳内を支配するこの言葉がーーーー





 ーーーー彼女達の悲鳴を、生み出した。


 冷静な麗奈から、温厚な楓から、絶対に聞きたくなかった悲痛な叫びをーーーー





「………まっ、てろ………俺が、俺がぁっ………!!」



 全ては自分の選択が犯した罪の"贖罪"を果たすため。


 命に懸けても、二人を救い出す。


 桜と自分に打ち立てた、あれほど守りたかった『誓い』を、頭の中から、無責任にも簡単に捨て去りーーーー命を捨ててしまっても良い、と。



 純粋に、心から純粋に、思ってしまった。



 それが、如何に矛盾していたのかなんて、達也には分からない。


 その時の彼には、ただーーーー走ることしか頭の中に無かったのだから。





 ーーーーーーーーーーーー





 階段を上り切り、光指す洞窟の入り口へと走り出た、達也の目の前に。


 信じられない、信じたくない光景が慈悲もなく、広がっていた。


 この世の絶望が一緒くたになり、束になって襲いかかってこようが、これに勝るものは、恐らく無いだろう。



「ーーーーーっ、ぁ」



 刃物で刺された、雷に打たれた、何て言い回しでは足りないぐらいの衝撃を一身に、そして、一心にも受けて。


 一切合切の自由を封じ込められた体の中、頭だけが、目の前で起こる理不尽を否定しようと一生懸命働いていた。



 洞穴の入り口の前に聳え立つ、相当数の樹齢を重ねたであろう大木の森。


 その中の、一本の大樹の根本に、達也の守るべき大切な家族がーーーーそこにいた。



「ーーーーかえでっ、麗奈れなぁっ!!」



 だらりと脱力した体を縄のようなもので縛られ、立たされたまま乱雑に樹に括り付けられている楓と麗奈。

 気を失っているのか、達也がそれぞれの名前を叫ぼうとも、俯いた顔を上げようとはしない。


 見る限り、予想に違わず状況は最悪。


 この状況下で、幸いなことと言えば。


 二人に目立った外傷がない事とーーーー二人のこれからの運命は、自分の手に懸かっている事、だけだった。



『………へぇ、ほんとに姉達、倒したんだ………人間にしては、やる………』



 感情の起伏が全くもって感じられない無機質な"少女の声"が、達也の脳内に直接響くようなーーーーえも言われぬ不思議な感覚を通して、伝わってくる。


 声のする方向が掴めず、辺りを見渡して特殊な声の主を探すが、幼馴染みと自分以外の人影は一向に見つからない。



「どこだ、どこにいやがる………?」


『………違う、上にはいない………もっと、下………そう………で、もう少し右の方………』



 探す達也を見るに見兼ね、ご丁寧に場所をナビゲーションし始めた声の主。


 言われた通りに首を回し、体をその方向に向ける。

 大人しく言うことを聞いた達也の視線が、また、貼り付けられた幼馴染み達の方へ戻ったーーーーその時。



『初め、まして………啓介の忘れ形見………』



 黒く荒む霧のようなアニマに包まれた少女が一人、楓と麗奈の前に立ちはだかるようにして、ふらりと現れた。



 無表情の左目を覆い隠す黒髪アシメショートの頭頂部から、飛び出すように跳ねさせられた少量の髪の束ーーーー所謂、『アホ毛』が特徴的な少女。

 その細身を覆う黒色のアニマと同じ、黒を貴重とした女性向け甚平を、色白い両肩が艶かしく露出するだらしのない形で、めかし込んでいた。



『………会えて、嬉しい………貴方の事は、ずっと、佳祐から聞いてた………』



 嬉しい、と自分で言うだけあり、頬が心なしか紅潮しているものの。

 冷たい氷のような無表情は崩す事なく、そっぽを向いて喋り続ける、獣神きょうだいと思わしき少女。


 気恥ずかしそうに握る裾の丈も短く、太股の中腹までがもろに見えているため、"いつもの達也であるならば"、彼女の姿は非常に目のやり場に困るものだった。



「………今の俺には、そんな関係ない話を聞いてるゆとりはない。その余裕とプライドをズタズタに引き裂かれたくなけりゃ、さっさっとこっちの要求を呑みやがれ」



 沸々と沸き上がる怒りに身を任せ、ゲートから龍聖を取り出し、少女へ向けて刀を構える。


 幼馴染み達の悲惨な姿を目の当たりにして、敵の色仕掛けに嵌まる程の余裕など、有りはしなかった。



『………落ち着いて………お互いに、余計なことはしたくないでしょ………?』


「………っ!!」



 そう言い残し、気絶する二人の頬を撫でる着物少女。余りにも手慣れた行動の早さに出鼻をくじき、慌てて刀を地に落とした。


 幼馴染み達の安否は、文字通り少女の手の中にある。迂闊な行動をとってはいけない。ここは刺激せずに相手が引くのを待つべきだ。



『………懸命な判断、分かってくれたみたいだね………』



 能面のように動かなかった口の端が小さく持ち上げられ、皆無だった感情の波に一つの起伏が現れる。


 その光景を見た達也の頭に一つの"違和感"が生まれ、彼に場を繋ぐ"話題"をもたらしてくれた。



「………『口を動かさないで喋る』とは、随分と便利そうな特技だな。頭に直接話しかけるって、どんなタネがあんだよ?」



 一ミリも動かない唇のまま相手に意思を伝える、腹話術とは言い難い声の鮮明さ。現状では『アニマが絡んでいる』ことしか分からない、不思議な芸当。


 その仕組みを聞くついでに、彼女に変な気を起こさせないために、と、思い切って切り出すーーーーが。



『………佳祐は、自分の声帯をーーーー自分の声を使って喋らない、気味の悪い私を、前にして………顔を、輝かせた………貴方は佳祐とは違うけど、気持ち悪いとは思ってなさそう………な、なんで………?』



 唯一の感情表現である彼女特有の会話術に触れられたくなかったのか。

 辿々しい口調で細々と、淡々と、自らを"気持ち悪い"と、言い切った少女。


 そんな彼女を見ていると、どうしようもなく抑えきれない苛立ちが込み上げてくる。




 ーーーーあぁ、全く、気に入らない。


 相変わらず、いつ聞いてもーーーー"弱音"というものは気に入らない。



「………今更お前みたいな奴が出てきたって、気味悪さなんか何も感じねぇよ。むしろ、お前が一番まともな位だ」



 ーーーーそう、一番、まともなのだ。



 とある"兎"は気味が悪くなるくらい、自らの妹を溺愛し、


 とある"犬"は気味が悪くなるくらい、生死を分けた戦いを好み、


 とある"狸"は気味が悪くなるくらい、相手を化かし続けることを望み、


 とある"狐"は気味が悪くなるくらい、自らを化かし続けることを願い、





 ーーーーそして、





 とある"猫"は気味が悪くなるくらいーーーーぶっきらぼうで無愛想な青年を、心から慕い続ける。


 本当に、本当に今更の、まともな相手である。



「だから、自分の事を気味が悪いだなんて、言い切んじゃねぇ。なんせ、お前はお前以外の何者でもない。お前はお前以外の何者にもーーーーなれねぇんだからよ」



 すらすらと流れるように溢れ出す達也の本心を、余す事なく、全て受け止めた様子の、少女。



『………不思議。今、貴方の姿が………佳祐の姿と重なったような気がした………』



 今まで、『無』以外の何物にも形容できなかった表情が、静かに綻びを現し、その顔に、綺麗な笑顔の花を咲かせた。



 儚げで、美しくーーーー夜道に咲き誇る白百合のように、優雅で上品な笑顔。


 女性の獣神特有の、"溢れんばかりの美貌"も手伝って、思わず見とれそうになってしまう………が。



「ーーーーっ、とと、危ない危ない………」



 頭を振って、何とか辛うじて意識を取り戻す。


 ここで見惚れて終わり、というわけにはいかない。まだ、一番重要な事が残っているではないか。


 

「良い笑顔を見せてくれたことに、純粋に礼を言いたい気分だが、それよりも。その後ろにいる馬鹿二人、実は俺の連れなんだ………あとで厳しく説教するつもりだから、解放してやってくれ、頼む」



 今だぐったりと樹に括り付けられている楓と麗奈を指差しながら、頭を下げて懇願する。


 思えば、絶対に生きて帰ると約束したあの時から大分時間が経った筈なのだが、何故この二人は捕まって樹に括り付けられているのだろうか。


 あの独房から抜け出し、大広間へと飛び出し、そこからひたすら迷って、やっとの思いで地上への階段を上り詰めたと思ったら、入り口で待機していたこの娘に捕まったーーーーと、まぁ、流れは大方こんなところなんだろうが。


 後の説教と共に、事情は事細かく訊き出さなくてはならない、か。



「わ、私からも、お願いします、"ウル"、姉………ぜぇっ、はぁっ………」



 凄まじい速度で階段を駆け上った達也を全力で追い、息切れ汗だくの弱った姿で洞窟の入り口から登場したきた末っ子、さくら


 序盤の序盤で名前を聞くタイミングを逃し、"お前"呼ばわりに居心地か悪くなってきた彼にとって、ウル、と少女の名前を呼んだ桜の登場は、予想だにしなかったファインプレー。


 汗で蒸れたニット帽を外し、黒く小さな猫耳を露出しながらふらふらと達也に寄ってくる桜。疲れ切った温かく迎え入れた達也は、彼女の頭をいとおしむように、優しくゆっくりと撫で付けてやった。



「………よし、よくやった桜、そしてありがとう」


「………ふわっ、ご、ご主人、止め………ふ、ふにゅぅ………」


『………わ、私もなでなで、して欲しいっ………』



 幼馴染み達を人質にしているとも言えるこの状況の中。

 さっさと人質達と身に纏っていたアニマを捨て、"なでなで欲しさ"にすり寄ってくるウル。


 余りの変わり身に早さに、頭の中には驚きを通り越して呆れすらも生まれてくる。が、良い傾向、と思考を切り替え、空物欲しそうに上目遣いで見詰めるウルの頭も空いた手で撫で上げた。


 左手には、桜。

 右手には、ウル。


 両手に美少女の小さな頭、これぞまさしく"両手に花"、である。



『んぅ………撫でるの、とっても、上手………気持ち良すぎて、何も考えられなく………ふぁ………』


「………みゅぅ………」


「………まぁ、あれだけ桜を撫でてりゃ上手くなるーーーーのか?」



 そもそも、撫でるのに上手い下手など、あるのだろうか。


 撫で易い、撫で難い、の身長による問題はあるのかもしれないが、撫でるのに特に技術が要るようには思えない。


 それで言うならば、達也と三十センチ程度の身長差の桜は、尚のこと、ウルも桜より背は高いものの、まだまだ達也が撫で易い位置に頭がある。


 この撫で上手には、"両利き"の地味な特技を持つ達也の、左右手のバランスが関係しているーーーーのかも知れないが、そんなこと、"撫で撫でマイスター"ではない達也には良く分からない話だった。



「………もう、良いだろ、そろそろ話を戻すぞ」


「………あぅ」


『………むぅ………』



 撫でる両手が離れ、二人は不満げに頬を膨らませた。


 全く同じ加減で膨らませているところを見ると、桜のこの癖はウル譲りであることが、分かる。


 きょうだいに影響されやすい、末っ子魂。彼女の情緒の不安定さも、きょうだい達の影響なのか。



「………えっと、ウル、だっけか。撫でてやった礼、って言ったら感じ悪いかもだけどよ………もし良かったら、これで手打ちにしてくれねぇか?」


『………うん、いいよ………』


「やっぱ駄目か………ていうか、何でお前はそこまであいつらに固執す………………え?」



 思わずベタな三文芝居を打たされてしまうほど、予想外すぎる答えが彼女から返ってきて。


 瞼をぱちくりと動かしながら見詰めても、首をかしげるウルの思考はさっぱり掴めなかった。



「い、良い………のか?」


『うん………元々、少し話して解放するつもりだったから………』


「………縛って括り付けた割には、随分とあっさり手放すんだな」


『………あ、やっぱり………解放には一つだけ………条件を付けたい………』



 ウルはピンと立てた人差し指を、変わらず動かない口の前へ持っていき、条件の提示を求める。


 あわよくば、このまま面倒ごとなく押しきれると思っていたのだが。

 どうやら、そんなお人好しはこの世に存在しない、ということらしい。



「………やっぱり、か………」



 予想外の連続に、肩を落としながら弱々しくこめかみを揉んだ達也。


 アニマが切れつつあるこの体には、どんな些細なストレスであっても毒。早く条件とやらを飲み込み、ゆっくりと帰路に着いてしまいたい。



 良く言えば、早く幼馴染み達を助けてやりたい、焦り。

 悪く言えば、ただ、面倒臭い。



「………い、幾らウル姉の要望とあっても、ご主人は渡しませんからね………っ」


『………まだ何一つ言ってないし、何一つ合ってすらないよ………桜………』



 対談を始めて数十分。


 ポーカーフェイスを崩す事のなかったウルの内言に、心なしの"困りと呆れ"が光を見せる。


 達也が桜に名付けた『ムード・クラッシャー』の異名は、どんな時でも、どんな相手へも、その力を発揮し続けていた。



『………それよりも………私の条件、言うね………』


「あ、あぁ、何が望みだ?」


『………マミ姉、ココ姉、そして………私を貴方の家で引き取って欲しい………』



 直接頭に響かせる、抑揚の無い静かな声で。


 器用に真面目なトーンを作り出し、獣神をすでに三人も引き取っている達也に向かって、とんでもない条件を口にする、ウル。

 本人は至って真面目に提示しているため、笑うにも笑えず、呆れるにも呆れられず。


 誰がなんと彼を批判しようとも、今の達也には、精神的にも、財産的にも、気にしてられる余裕は無かった。



 ーーーーだから。


 笑えないのならば、


 呆れられないのならば、


 達也はーーーー"怒り"を、叫ぶ。





「ーーーー何となく、分かってはいたよ、畜生ぉっ!!」








 獣神の長女、次女との命とプライドを懸けた戦いは、長女の涙によってその幕を閉じ。


 獣神の三女との、精神と財産を懸けた戦いには、達也の財産を犠牲にすることによって、強制的に幕を閉じさせた。


 騙されたり、拷問されたり、と、散々ではあったが、ようやく、ようやく終わることが、出来た。




 しかし、出来ることならば、ここでもっとじっくりと、良く思い返してもらいたい。


 ここで起きた、最低最悪の一ページはーーーー




 ーーーー地獄の夏休みが始まって、まだ『一週間しか経っていない』、序盤の序盤の出来事でしかなかった事を。


 地獄の夏にピリオドを付けるには、まだまだ時間をもて余しすぎている、事を。




次回からこの『じゅうあにっ!!』も、三章突入!!


次回も閲覧、宜しくお願い致します

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