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12の奇跡はアニマが導くっ!!     ~拾った猫が美少女に変身する奇跡~  作者: Local
第ニ章~夏休み、それは恐怖の時間ですっ!!~
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Episode-28.甘過ぎる、病

 





「………寝たか?」


「はい、スヤスヤと」



 今しがた、さくらの腕の中で声を上げながら泣き喚いていた獣神、もとい、桜の姉のココ。


 体を細かく揺らしてしゃくり上げ、桜に抱きつくようにしながら寝息を立て始めた姉の頭を、妹は今の今まで優しく撫で続けていた。



「しっかし、黙って見れば本当にちっこいなこいつは。本当にマミより歳上なのかよ」


「えんえん泣いて、疲れちゃってますもんね。もう、この娘ったらっ」


「自分の姉をこの娘とか言うなよ………まぁ、それぐらい幼いってのは分かるけど」


「ココ姉は、私達姉妹の関係においては"長女"なんですけど、皆からは末っ子のように扱われているんですよ。勿論、本当の末っ子である私も例外なく扱っております!」


「胸を張って言うことかよ………? 長女なのに、不憫だな」



 元々、兄弟がいない達也には分かり得ない話だが、狗太こうた美兎みゅう、そして何よりもーーーー桜と、共に暮らすようになり、兄弟、そして、兄妹がいる生活というものを味わい、その素晴らしさを知ってきていた。


 子供のような純粋無垢な獣神達に、振り回されて、馬鹿にされて、悪戯されて、それらをやった桜や狗太を美兎と一緒に叱って、その際に桜への愛が暴走した美兎を宥めて。



「………よく考えたら、ろくなのなくね?」


「………? 何がですか?」



 キョトンと首をかしげ、人差し指を顎に当てる桜。


 あざといほど愛らしいこの動作を無意識にやってのけるのだから、この猫は本当に侮れない。



「………ご主人?」



 常人ならあっという間に骨抜き、共に何ヵ月も過ごした達也でさえも、気を抜けばこの魅力にたちまちノックアウトされてしまうだろう。


 達也を困らせ、喜ばせることが同時に出来る、唯一の者がこの猫娘である。



「………ご主人ったらっ」



 彼女をこうして見詰めていると、胸の辺りが不思議な温かさに満たされて、心臓の鼓動が一段と速度を増す。


 無論、今この時も例外ではなく、不思議がる愛らしい彼女を見詰めていると、何故か数時間前まで受けていた痛みに匹敵する、苦しい胸の閉塞感がーーーー



「………ご主人っ!」


「ーーーーっ!? ………ぁ、あぁ」



 突然冷水をかけられた感覚にも似た、凄まじい意識の覚醒。


 余りの不意打ちに、同時に二つのことに集中出来ない生まれつきの不器用さが恨めしくなる程、体を揺らして驚いてしまった。



「大丈夫………ですか?」



 意識を朦朧とさせたご主人を、心配そうに上目遣いで見上げる桜。


 その愛らしさに心臓がまたしても悲鳴を上げるが、何とか耐えて、彼女の不安解消のために笑顔を無理矢理作り上げてみせた。



「………悪い、ちょっとした考え事だ」


「………本当ですか?」


「ああ、嘘ついてもしょうがないだろ」


「………それが本当だとしたら、ご主人。最近ぼうっとする事、多くなりましたね。悩むご主人も素敵ですけど、同時にそれは似合わなくもあります。何かに引き摺られて、自由に動けないご主人はとてもーーーー不自然です」



 心配させまいとした笑顔も空しく、核心を深く抉る彼女の"厄介な所"が、とうとう達也へその矛先を向けてくる。


 姉妹の付き合いで慣れている筈のココでさえも、難色を見せた程の厄介さ。共に親密な関係を築いてきた桜が相手故に、彼女の持つその矛は達也の心を大きく突き動かした。



「……それは、つまり………あれだろ? 頭が悪い、過去を引き摺る神経質、って、遠回しに言ってるんだろ?」


「………ご主人」



 桜のくぐもった呟きを聞かずとも、桜が望んでいることは分かる、分かっている。


 自分が桜に向き合うと、抱き締めながら誓ったあの日は、決して忘れていない。彼女に言った言葉だって、一言一句欠落なく覚えてる。


 むしろ、忘れていないからこそ、この原因不明の胸の異常はーーーー言いたくなかった、隠しておきたかった。



「ったく、まどろっこしい言い方をして。からかうのも程々にしろって、あれほど言ったばかりだろう」


「………っ」


「兄の馬鹿犬に影響されるのも分かるけどな、もう少し自分をーーーー」


「話を、逸らさないで下さい」



 食い気味に彼の言葉を遮る、吐き捨てるように放たれた冷たい言葉。


 静かな声に帯びる、"怒り"の感情に驚きを隠せず、ただただ息を飲んで桜を見詰めることしか出来なかった。



「ご主人の悪いクセです。ばつが悪くなったら、その話をすげ替えようとする………ご主人が何かに悩んでいることなんて、見ればすぐに分かるんですよ」



 淡々と言い放った桜の眉間は、さも居心地悪そうに皺が寄り、怒りと失望に震える瞳が達也を捉えて、離さない。



「ご主人は私に約束してくれましたよね。私とちゃんと向き合い、逃げずに、私の側で、私の希望を、叶えてくれるって。嘘偽り無い真っ直ぐな瞳で、そう言ってくれましたよね」


「………」



 返す言葉も余裕も無くなり、ひたすらに押し黙って桜の言葉を聴く。


 何が達也をそこまで強情にさせるのか、それは達也自身でさえも分からない、謎。





 ただ、達也の立てた"仮定"が関係していることは、分からないことだらけの頭で唯一確率された事実だった。





 その、仮説とはーーーー


 ーーーー『病気』。


 



 以前にもこの現象を不思議に思い、病院での検診を受けようとまでしていたが、桜にうやむやにされてしまい原因解明とまで至ることが出来ず。


 あれから実に二ヶ月半、治るどころか悪化していくこの病気の事を言えば、確実に桜を心配させてしまう。

 今日まで様々な苦しみを受けてきた桜に、これ以上負担をかけたくはない。


 強いて言うなら、これこそが明かしたくない理由となっているのか。



「その言葉に、どれだけ救われたか、どれだけ心の支えになったか、それはきっと、ご主人でさえも………分からないと思います」



 桜の言葉が何度も、何度も突き刺さり。

 その度に打ち明けてしまいそうになる良心を抑えて、達也は口をつぐむ。


 達也を幾度となく救ってきた、『言うな』と叫ぶ自らの"勘"も信じ、固くした意思をさらに固めるーーーーつもりだった、が。


 桜が大人しく黙っている訳もなく。



「あの時、ご主人だけはちゃんと私を見ててくれるって、ご主人だけは私を置いていかないって、そう思って、信じていたのに………」


「ーーーーっ」


「ご主人が桜にくれた言葉は、約束は………嘘だったんですか?」



 彼女の、怒気に、絶望に、悲嘆に満ちる声を聞き、固める筈の意思が音もなく、ボロボロと剥がれ落ちていく。


 言わないと決めてからまだ数分しか経っていないのにも関わらず、既に心は限界寸前。

 常人場馴れした精神力を持つ達也でさえも、この場を耐えられるほどの力量は持ち合わせて、いなかった。



「………ご主人も私をーーーー裏切るんですか?」


「ーーーー分かった!! 俺が悪かった、話すから、もう、勘弁してくれ………っ」



 ーーーー気が付いた時には、震える声が勝手に口から溢れ出し、"降参"の宣言をさせられていた。



 不撓不屈の達也の心を完膚無きまでに叩き壊した、桜の負に塗れた悲痛の叫び。

 桜の為に身を捧げると誓った達也には重すぎる、強烈な一撃だった。



「………お願い、します」



 手段を選ばず"欲しい物"、所謂、"達也の協力"を得た"あの時"のような浮かない顔のまま、頭を下げる、桜。


 これも、隠してしまった自分が引き出した自業自得、と腹を決め、重い口を開いた。



「ーーーー俺は、恐らく、病に犯されてる。それも相当な奇病だと、思う」



 崩れた心の欠片を拾い集め、再び折れないように積み上げて、修復しながら。



「桜と出会ったあの日から、胸の辺りに変な症状が出るようになったんだ。

鼓動が急に早くなったり、胸が刺されたように痛くなったり、詰まるような閉塞感が襲ってきたり………原因は分からんが、どれもこれも、『桜を感じている時』に、一番酷くなる」


「………………ふぇ?」



 散々渋った異常を彼女に向かって申告、案の定、それを聞いた桜は、不思議な悲鳴と共に驚愕にその瞳を震わせる。

 

 突如として告げられた病気、その発症源が"自分"などと言われたらーーーーそう考えれば、桜のこの反応も、無理はないだろう。


 しかし、この現実を知りたいと望んだのは、他でもない桜自身。

 隠し通せなかった手前、今更彼女の願いを中途半端に止めるわけにはいかなかった。



「………それを不思議に思って、桜の事を思い浮かべただけでも、今言った症状が酷くなって………何も手に付かなくなった、眠れなくなる夜もあった位だ」


「………え、え? え、えぇ!?」


「だから、これを言えば、桜に精神的負担をかけると思ってーーーー言えなかったんだ」


「そ、そそそ、それって、それって………ぁ、あわ………あわわわ………っ」



 ーーーー何故だろう。


 結構真面目な話をしていると、個人的には思っているのだが。


 当の桜はというと、先程の重苦しい雰囲気を全て捨て去り、真っ赤になった頬を押さえながら、一人で身悶えていた。


 一体彼女にどんな心変わりがあったのか、それは彼女のみぞ知るーーーー



「………どうした、桜。何か可笑しいところでもあったのか?」



 ーーーーなんて語りで収めるつもりは、更々無く。


 桜しか知らないのならば、桜に聞くより他はない。単純明快、簡単な話である。



「………い、いや、可笑しいところだらけ………だったん、ですがっ………」



 相変わらず紅潮したまま、ぎくしゃくとぎこちなく体を震わせ、縮こまる猫娘。


 何らかの感情を昂らせていることは、辛うじて理解できるがーーーーそれ以外はいまいち伝わってこない。


 何事か、と困惑する達也の視線に、とうとう居たたまれなくなったのか。



「ーーーーっ、つぅっ!」



 決死の覚悟を固めるように自らの頬を叩き、以前よりも真っ赤な顔で彼に向き直った。



「………ご、ご主人が言うその病に、こ、心当たりが、あって」


「本当か!? なら、教えてくれ! この病気、一体どんな病気なんだ!?」


「ち、ちち、近いですっ、ご主人! 教えます、教えますからぁっ!!」



 思いがけず取り乱し、桜の肩を鷲掴んで期待に輝く顔を急接近させた達也へ向かって。

 ブンブンと大きく首を振り、それによって乱れた長く艶やかな"髪の毛"を打ち当てて対抗する桜。


 鞭のようにしなり、血の臭いに混じってシャンプーの良い香りがする髪の毛を、達也は全てその顔面で受け止める。


 その必死な勢いと痛みに堪らず距離を置いた。




「………ふ、ふぅ、きゅ、急に掴みかからないで下さいよぉっ! びっくりするじゃないですかぁ!」


「………俺も取り乱して悪かったけど、その撃退法はどうなんだ………?」


「だ、だって、襲われるかと、思ったから………」


「………そんな獣じみてはない筈なんだけどな」



 髪の毛攻撃のお陰か、程よい距離感が二人の間に生まれ、お互いに落ち着きをもたらす。


 高ぶった興奮が覚めてきたのは良いものの、頬の紅潮は抜け切らず、熟れたリンゴのように赤みを帯びていた。



「さて………本題に入るぞ。桜、俺の病気の正体ってーーーーなんなんだ?」



 痺れを切らし強引に話を切り出した達也を、とうとう来た、と言わんばかりに唾を飲んで見詰める桜。


 期待と緊張が入り交じる、なんとも言えない表情を浮かべる彼女は、



「は、はぃ、では………単刀直入に言わせて頂きます………」



 単刀直入、この前置きが変に緊張を煽り、達也の心を掻き回す。


 一体、この病の名前とは何なのか、何が原因で胸が痛めつけられるのか。

 もしかしたら、治らないのかもしれないし、案外大したことない病気なのかもしれない。


 何も分からない、"無知"による恐怖は、勿体ぶる桜の沈黙と共に膨れ上がっていった。



「ご主人の、病はーーーー」



 彼女の唇が真実を告げる為に、動く。



「ーーーーっ!!」



 ーーーー聴こえた。


 はっきりと、確かに聴き取った。


 聴き慣れた声色から作り出された、"二つ"の悲痛なーーーー『叫び声』。


 この声が、放たれた場所はーーーー



「ーーーー"上"だっ!!」


「………っ!? ご主人!? 何処へ行くんですかっ!?」



 顔色を変え、答えも聞かずに出口へ向かって走り出したご主人を、桜は慌てて追いかける。


 その様は危機迫るものがあり、いつも余分に携えている筈の"余裕"を、全て無くしてしまったようなーーーー


 らしくない、否、別人の姿がそこにあった。



「………帰ったんじゃ、なかったのかよ!」



 達也が微かに感じ取った、声。


 それは、彼が過ごした時間を、『もっとも長く共有する者達』の、声。





「ーーーーかえで麗奈れなっ!!」





 地獄のような夏の惨劇に巻き込まれた、守るべき大切な幼馴染み達の名前を叫び。


 地上の光が微かに見える、それでも果てしない長さの階段を、なんの躊躇いもなく三段とばしでかけ上る。





 遠い道のりを行く達也の頭に過るのは、緊張、不安、恐怖だけーーーー





次回予告

達也が聴き取った、幼馴染み達の、悲鳴。


彼女達は安否や、如何にーーーー



次回も閲覧宜しくお願い致します

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