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12の奇跡はアニマが導くっ!!     ~拾った猫が美少女に変身する奇跡~  作者: Local
第ニ章~夏休み、それは恐怖の時間ですっ!!~
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Episode-26.誓い、願い、約束

本来、前回話と今回の話は繋げて一緒にする予定でしたが、長すぎたので急遽二話になりました

 





 クロス状に描かれた双方の愛刀の軌跡から、青色の血ーーーー否、アニマが勢い良く噴出される。




 狗太を一刀両断した時とは比べると軽い、肉を抉り、骨を断つ感触が手に伝わる。あまり慣れてしまいたくない感触だが、今だけはこの余韻に浸らせて欲しかった。



「………ぐふっ、ぅぅぅっ!!」



 堪えきれない悲痛な悲鳴が漏れた、この呻き声も。


 苦痛を隠す桜より甚だしい、彼女が得意とする"偽り"でも、彼女が造り出せる"幻想"でも、ない、この歪む顔も。


 全て自分が引き起こした。そう考えるだけでもゾクゾクし、笑みが溢れるーーーー





 怒り、恨み、辛み、それら全てを刀を乗せて、もっと、憎らしいマミの体に、流し込みたい。切られる痛み、"恐怖"を思い切り、叩き込んでやりたい。



 本来の目的、この攻撃の意味を頭から無くした達也は、負の感情に取り込まれ、暴走へのアドレナリン放出を余儀なくされてしまう。





 もっとその歪んだ顔を、その悲痛な声を、見せろ、聞かせろ。




 もっと、もっともっともっと、痛みを知れーーーー苦シメ、苦シメ、苦シンデ見セロォッ!!



「ーーーーー死ネェッァ!!」


「っ!? ご主人っ!!」



 刀をもう一度振り上げて、片膝を付くマミに向かい、何の躊躇もなく振り下ろす。


 自分を失った違和感など、とうに快感の波に飲まれてしまったーーーー筈だったが、思わぬ形で引き摺り出されることとなった。



「横ですっ! 横っ!!」


「ーーーーァッ!? 熱ッ!!」



 追撃を加えようとする右手に突如として迸る、焼けるような鋭い痛み。


 ………よく見れば"焼けるよう"などではなく、本当に右腕自体が焼けてしまっている。


 堪らず逃げるように距離を取った達也は、漸く自身の身に起きた違和感を取り戻した。



「………つぅっ、な、何だったんだ、あの声は………」



 マミを切り、追い打ちを加えようとした時に頭に響いた、声。


 どす黒く渦巻き、相手を殺すことだけを考えたような、あの声は。











 紛れもない、『自分自身』の、声。










 

 歯を噛み締め、頭に浮かんだ言葉を噛み殺す。


 謎が一個、また一個と増えていくが、正体も分からない自分の声など今はどうでもいい。今はただ、獣神達に集中を向けるべきだ。


 左手を突き出し、如何にも火球を飛ばした後と言える体制を崩さず、鋭く二人を睨み付けるココが、踞るマミの前に立ち塞がる。



「………っ、テメェ、マジでやってくれたな。マミに傷負わせる奴がアイツ以外にいるとはよ」


「………おいおい、俺達以外にもこの化物を追い詰めるがいたのかよ………ったく、嫌になるぜ」


「そうは言ってもたったの二人だけどな……………一人はあたしらのボス、もう一人はーーーーマミ自身が葬った」



 この先に待つ、悲惨な未来を感じ取ったと言わんばかりに。


 いかにも悔しそうに、やるせないように、眉を潜め、その瞳を閉じた。



「そして、今からお前らもーーーーそうなるだろうよ」



 あまりにも迫真とした表情に、二人は思わず背筋を凍らせた。


 達也の右手を燃やした火炎にも負けない位熱く、猛々しい彼女にはそぐわない、落ち着いていて恐ろしく、冷たい表情。



「………ふふふ………実験体の分際に、ここまで派手にやられるとはな………」



 アニマが減らされ覚束ない足元を駆使して立ち上がり、一歩一歩と弱々しく、しかし確実に前に出る、マミ。


 あれだけ水晶を生み出し、操り、その体に双刀を入れられて尚立ち上がる彼女に、またしても戦慄させられた。



 桜の姉達はつくづく、"変態"揃い、である。



「………君達の実験延長は、もうしない。楽しかったけど、そろそろ終わりにしてあげよう」



 睨みだけで生命体丸々一つを崩壊させてしまいそうな位恐ろしく尖る眼光を、惜しみ無く達也と桜に注ぎ。


 ココの耳に顔を寄せ、一言。良からぬ予感がする、"何か"を呟く。



「っ!………っ………」



 達也と桜には聞こえないそれを、ココが聞き取った途端。


 答えなら解っていた、と言わんばかりに唇を噛み締めると、彼女の肩を力強く、そして優しく、取り持った。



「………考え直せ、アイツら相手にそれは要らないって、言い出したのはお前だろうが。それに、今のお前がそれを撃ったら………」


「いいか、私達は何がなんでも勝たなくてはいけない………私達から佳祐けいすけを奪った人類達にーーーー絶望を与えるため………」



 決意と覚悟から生まれる、その真っ直ぐな瞳。


 静かながらも力のある言葉が彼女を手伝い、続くべきココの言葉を奪い去る。



「助けて貰った身で言うことではないけれど、私は私の身がどうなろうとも、人類は滅ぼす。それが"あの人"の願いで、私の願い」


「………っ………本気、なのかよ」



 マミの願いとココの迷い。


 彼女の似つかわしくない表情も、唇を噛み締めた理由も。


 全てはマミの、たった一人の策士の気概が生み出した行き違い。



「当然だろう、何かを捨てることが出来ない輩などに、変革は訪れない………だったら、腕なら腕を、脚なら脚を、命ならーーーー命を。私は迷わず、捨ててやる」



 扇子を再び掲げ、身構える達也と桜の足元ーーーーだけでは飽きたらず、大広間全ての床に、ところ狭しと"赤"術式を展開。


 相手を殺すことに特化した、冷たく鋭利な愛刀、龍聖が、


 マミのアニマに怯えるように、細かく震え出した。



「それは、灰すら残さぬ激しい焔の如くーーーー共鳴、第二之術、『活"火"激発かっかげつはつ』!」



 火山が噴火するように、一斉に術式から飛び出した火柱。


 避け切れず全身に浴びてしまった彼女の炎は"広範囲"に渡ったためか威力が低く、熱さもも先ほど食らったココの火球の方が上だった。


 しかし、どれだけ威力が無かろうと炎は炎、火傷の痛みは着実に二人の自由を奪っていく。



「ぐっ………! おい、おいっ、おいっ! まだこんなもん隠してんのかよ!!」


「まだまだ終わらない………それは、永久に変わらぬ固い"山"の如くーーーー共鳴、第五之術、『礪山帯河れいざんたいが』!」



 自らのアニマの消費など気にも留めず、立て続けに新たな"黄"の術式を組み込んだ。


 活火激発よりも範囲で劣る術式から放たれた"山"が、達也と桜の体を背負い上げながら十数メートルまでに成長する。

 二人を逃すまいと足元に絡まる土の固まりは、感触、土煙、あろうことか臭いまでも、まごう事なき山のそれを完璧に再現していた。

 


「ここまで高度な実体化………し、信じ、られない………」


「ふ、ふふっ、まだっ、まだだ………」



 流れ出る汗も拭わず、纏う巫女服に全てを落とし。


 マミはまたも新たな術式を、未だそびえ立つ山に張り付けるようにして、数十個生み出した。


 二人の回りをぐるりと囲うように現れた術式を前に、桜の顔から更に血の毛が消えていく。



「そ、そんな状態で、異なる"アニマ術式"を同時展開するなんてーーーーし、死ぬ気ですか!?」


「………言った、だろ。こいつはもう、止まらない。『捨てる覚悟』が決まっちまったんだ」



 自身の小さな体を抱き締め、不服に震える、ココ。


 止めてやりたいが、出来ない。


 何かが、何かが彼女を、引き留めているようなーーーーそんな風も見て取れる。



「………それは、清らかで気高く………ぐぅっ………何より優れる、樹の、如くっーーーー共鳴、第三之術、『瑶林瓊樹ようりんけいじゅ』っ!!」



 いつぞやの地雷に似た"緑"色の術式から、鮮やかな緑色の葉を付けた枝を、目一杯広げる大木がその姿を現した。


 年代物特有のどっしりとした威圧感まで再現されたその大木が、ざわざわと大きな腕、もとい、枝を揺らす。すると、ゆっくりと舞い踊るように、数十、数百もの木の葉が一斉に落ち始める。


 ひらひらと、風流すら感じさせる降下を見せたそれが、いきなり重力に逆らい急停止。そのまま宙に浮かぶように留まったーーーーーー瞬間。


 葉が意思を持ったように動き出し、立たされた状態のまま動けない達也と桜に向かって猛スピードで襲いかかった。



「ぐあぁあああぁぁぁっ!!」


「にゅぅうぅっ!!」



 高速で動く葉が次々と身を突き抜けるようにして飛び込む度に、身を切られる鋭い痛みが二人を襲った。


 気を持っていかれそうな激痛から逃れようと身を捩ろうとも、無数の葉が被弾範囲を補強し合い、彼らを狙って逃さない。



「不味、いっ………!!」



 意識が、遠退く。


 拷問の分のツケが溜まり、抵抗の余地を奪っていく。動けない時点で抵抗も何もないが、痛みによって何よりも大事な精神が崩壊しかけ、悲鳴を上げるので既に手一杯。


 薄れ行く視界の中、このまま視界が暗転し、ゲームオーバー………………と、なる筈だった、が。




 アニマ切れが近づいてきていたのは二人だけではない。




 葉っぱの嵐が唐突に途切れ、大木事態が実体を無くし煙のように消えていった。


 見れば片ひざを付き、苦しそうに肩で息をするマミの姿。やはり同時展開は無理があったのか、それでも山による拘束を外さないところは敵ながらあっぱれである。



「はぁっ、はぁっ………く、ふふふっ、術を使うのもやっとなこの様………これは、いつ振りだったかな………?」


「マミ、もういい、アレを使わなくなって、あいつらはもう充分疲弊してる………後はあたしがやるから、お前は………」



 駆け寄り今にも倒れそうなマミの肩を持ち、血が乾いた手とは裏腹に、優しく介抱するココ。


 何だかんだで姉は姉、幾らトチ狂った妹であろうと、妹であることは変わらない。


 そんな姉の手をマミ自身も優しく握り返す。


 そして、ゆっくりと、首を振った。



 しかし、マミは姉の希に見るであろう"優しさ"に触れておきながら、あろうことかその首を縦ではなくーーーー『横』に、振っていた。



「………っ、何でだよ、何故そこまでして命を捨てることに執着するんだよ!! あたしがそこまで信じられないか!? お前以上にボロボロなあいつらを、あたしが葬れないとでも言うつもりかよっ!?」



 激昂自体が珍しくない彼女だが、今回の怒りに関しては"珍しい"と言っても、これといった支障はない筈だ。


 侮辱、敵意に対して敏感に反応し、相手が燃え尽きるまで怒りをぶつける。


 そんなココが、自分でない"誰か"の、命の軽視を叱責している。


 彼女の事をよく知らない達也でさえも、それが稀有であることは簡単に推し測れることができた。



「………さっきの彼らの切り下ろしがーーーーとても、痛かった」



 切られた軌跡を指でなぞり、苦痛にその顔を歪ませる。



「初めて味わった、体が引き裂かれる感触と激痛が、今でも変わらず、残ってる………まさか、私達"獣神きょうだい"の末っ子と、アニマを持っただけの"人間"にこんな痛みを与えられるなんて………思ってもみなかった」



 だからこそ、と念を押し。


 弱々しくも静かに突き刺さる、鋭い睨みを二人に利かせた。



「………私は、私をここまで苦しめた彼らに敬意を払いながら、私自身で手で殺す。私のプライドが奪われたまま、生きていこうとなんて思わない」


「………その為にお前は死ぬのか………?」


「あぁ、言っただろう? 私はーーーー」





 ーーーー欲しい"モノ"は、力ずくでも手に入れる。


 例え、それで命を落としてもーーーー





 相手を化かす策士ーーーーもとい、"詐欺師"にして、意地とも取れるその高いプライド。


 相手を化かせば化かす程、彼女のプライドは一段一段と栄達する。


 マミにとって化かすことは、彼女を取り巻く"意地"でもあり、彼女を取り持つ"プライド"でもある………ということ、なのかも分からない。


 達也はただ、マミのどうしようもなく不自由で、不器用でーーーー『格好良い』生き方に、自然と目を奪われていた。



「ご、ご主人、何をぼうっとしてるんですか!? このままじゃ、私達は………」


「………もうどれだけ足掻いても、逃げられはしない。心配しなくても良い、どうせ痛みを感じるのは一瞬だから」



 刹那、両手を大きく広げたマミの体が宙に浮き、凄まじい地鳴りと突風と共に術式が、また新たに展開される。


 あおみどりあか琥珀に、四色四分割で均等に分かれた円状の術式が、光を帯びて美しく輝き出した。



「………山が、震えてやがる………」


「だ、駄目ですマミ姉ぇっ!! 今のアニマ残量で、そんな高度な術を使ったらっ!!」


「………吹き抜く"風"、切り裂く"林"、燃えゆく"火"、聳える"山"」



 桜の叫びも空しく、恐らく最後の術のものであろう詠唱を、命が懸かっているとは思えぬほど、静かに、丁寧に詠む。


 姉は歯の根を噛み締め、観念したようにその光景を見届けていた。



「ーーーーーっ、本当に、死んでしまいますっ!!」


「………それは、全てを無に化す爆裂の如くーーーー共鳴、"第一之術"『風林火山』っ!!」



 術式が放つ光が最高潮に達し、振動も陣風また一段と勢いを増していく。


 膨れ上がる光と比例してまとわり付く死の恐怖。無意識の内に本能が働き、逃げ出そうと必死に蜿くも、脚を飲み込む土の塊がそれを許さない。



 完全に策と命運が尽き、八方塞がり、万事休すの状態。


 ここから何をしようとも、この定めが覆るとはないのだろう。



「………私も、君達も、ここでゲームオーバー。後は運命の巡り合わせに、全てを任せるとしようか………」



 瞳を閉じたマミにならって、不服ながら瞼を下ろす。瞼を介してでも分かる術の眩しい光を、残された余生を謳歌するつもりでぼんやりと眺めながら、先程のマミの生き様を思い返していた。


 憎むべき敵ながら、今は閉じたこの目を奪われ、"格好良い"とまで思わされた彼女の姿が、死を覚悟した今でも頭に刻まれている。


 自分にも、命を捨ててでも守り切りたいものがあるというのにーーーーこうして自分の人生を諦めかけている。





 その、守りたい、"者"は、"者達"は今、どうしているのだろうかーーーー



「ーーーーッ!!」



 今だ起こる地鳴りにも匹敵する、雷に打たれたような凄まじい衝撃が、達也の全身を駆け巡る。


 そうだ、今もまだ、こうしている間に。


 達也と桜の帰りを待ち望み、一心不乱に心配してくれている者がいて、


 達也の隣で同じように死の恐怖を感じ、同じように自らの命を諦めようとする者がいる。





 もし、そのまま本当に、自分が死んでしまったら。





『生きて帰ってくる』幼馴染み達との約束をーーーー


 この命を『桜に捧げる』自分自身の誓いをーーーー




 それだけは、絶対に破ってはいけない。破るという選択肢を、選んではいけない。


 叔父が残した奇跡は、必ず起きるし、起こさせる。それが達也の約束で、誓いで、願い。










 全てを捨てる覚悟を今一度固め、達也はその目をゆっくりとーーーー開いた。




次回予告

自らの約束、誓い、願いを守るため、目を開けた達也の目に写ったのものは、


全くもって救いようのない、全くもって待ちに待った素晴らしき『奇跡』だったーーーー

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